3. 対抗心を燃やすロリ巨乳狐娘
≪狐火≫の検証とそれに対する母からのお説教も終えて、僕は自室へと戻ってきた。とはいえ基本的に昼はリビングで過ごして夜には姪の部屋で寝るから、戻ってきたと言えるほど自分の部屋には滞在してないんだけど。
しかしまぁ今回は庭で火遊びなんかして火事になったらどうするんだと結構ガチめに怒られたのだが、こればっかりは普通に正論なのでしっかり反省させられたわけである。女の子としての心掛けを持てとか、理不尽な要求の類ではないので反抗の余地などありはしない。次はもっと安全な場所でやらねば。
それにしても外で検証を行うなら、ちょっと順番を間違えたかもしれないな。折角ジョギングのあとにシャワーを浴びたのに、また少し汗ばんでしまったか。特に下乳の辺りが若干じっとりしていて、慣れない感覚が微妙に気持ち悪い。
「まぁいっか、とりあえずゲームだゲーム」
とはいえクーラーはつけたし、何よりゲームのプレイ中は多少の現実の不快感なんて気にならないのだ。
そういうわけで僕は、今日も今日とてゲームの世界にログインしたのであった。
そうしてやってきたのは、昨日に引き続き海エリア。
ただし昨日と違うのは、ここが海エリアとされている島の内陸側ということである。砂浜ゾーンを抜けて少し行けば、そこにはまあまあ広い森が広がっているのだ。ここを抜けた先にあるのが、今回の目的地『海辺の街チェバー・シー』である。
「海辺の街ってどんなとこなんだろ? 楽しみー!」
「きっと海鮮料理の店があるのにゃ!」
ちなみに偶然遭遇した猫耳少女のミィと、その飼い主であるケントさんも一緒である。きらりんは家事や用事があるので、僕と姪とで4人PTだ。
なお、いくら森の中とは言ってもここはあくまで海エリア。当然ながら全員(装備としての性能が高いという理由から)水着姿であり、姪のオシャレな花柄の水着は特に背景とのギャップがよく映える。これが海と森の相反する調和というやつか。たまんねぇな。
一応言うとこの中で姪の次に森が似合う水着は僕の黒いフリフリのやつだろうけど、これは僕自身が着ているために客観的に見れないのが残念である。
森でゆっさゆっさと胸を揺らしながら歩く水着姿のロリ巨乳狐娘、言葉だけなら好きなのだが……自分のこととなると、うん。
「それにしても、平日の午前からゲームとかいいご身分ですね」
「アン、お前ワシに喧嘩売っとるのか? 大体今は、お前さんらも夏休みだろうが」
「それは……」
あまり詮索するつもりは無いけど、こんな時間にいるってことはケントさんやっぱり学生なのかな。いいなぁ学生の夏休み、社会人の僕には1ヶ月越えの休みとかそうそう取れないし……などという思いがつい口に出てしまったのだが。
僕に対して返されたその言葉は、小学校も夏休みだろうという意味合い。うん、僕の場合は違うんだけどね。思いっきり会社休んでゲームしてる。1人だけ休みが合法じゃない。身体は合法ロリだけど。
「しっかしアレだな。こうしてお前さんらと4人で森を歩いとると、初めて会った日を思い出すな」
「ケントさんとご一緒するのは3回目なんで、懐かしむほどでもないんですけどね」
「ガハハッ、ちげぇねぇ」
そんな感じで冗談などを言い合っていた時、ケントさんを除く僕たち3人のケモ耳が一斉に動いた。
それと同時に戦闘態勢に入るのを見て、唯一の人間種族であるケントさんもなんとなく察する。
「ほう、おいでなすったか」
「あっちから小型モンスターが6体! 全員戦闘準備!」
「もうできてるにゃ!」
前方の草むらから飛び出してきたのは、まるで人間の脚が生えたような巨大ピラニアである『水陸両用ピラニア』の群れだった。巨大と言ってもせいぜい大型犬ぐらいの大きさではあるが、それでも魚としては充分なサイズである。リアルを基準にするならば、その鋭い牙で余裕で人を殺せるだろう。
しかしまさか、森でも魚が出て来るとは。やはり島の内陸部とはいえ、ここも海エリアということか……ってあれ? ピラニアって淡水魚じゃね? 海は関係ないのでは?
「数が多いならまずはワシの出番だな! ≪ヒートウェイブ≫!」
僕がそんな無駄なことを考えている間に、ケントさんが火属性魔法で先制攻撃を仕掛けた。昨日のレイドバトルでも使っていた、広範囲を熱波で飲み込む魔法である。
「ピラーッ!?」
「ラァァァイ!?」
「ピァァァッ!?」
「ピャアウ!?」
その範囲攻撃の炎に呑まれた水陸両用ピラニアたちが、討伐エフェクトの光となってまとめて消滅した。ピラニアらしい断末魔を上げながら、逃れる術もなくあっという間に全滅である。
「つよっ」
「え? 終わり?」
「ケント! ミィたちの分も残すのにゃあ!」
「おっと、悪ぃ悪ぃ。倒すつもりは無かったんだがなあ」
どうやらケントさんは最初にまとめて範囲攻撃で削って有利を取ろうとしたようなのだが、勢い余ってそのまま倒してしまったらしい。いやまぁ倒せるんなら、わざわざ手加減して残す意味も無いからそれでいいっちゃいいんだけど。
「さっきの魔法……≪ヒートウェイブ≫でしたっけ? あれ強くないですか?」
「範囲攻撃な分、威力は抑えられとるはずなんだがな」
「じゃあ敵が弱すぎるのにゃ?」
「あー、まぁ海エリアはイベントマップだし、ありえなくはないかな」
「どういうこと?」
僕は状況から読み取って勝手に納得したのだが、それに対して姪が解説を求めた。
姪に頼られたということでゲーマーの僕は、敵が弱いとはどういうことなのかを得意気に解説し始める。
「海エリアには初心者から上級者まで、全てのプレイヤーが遊びに来るからね。期間限定で解放されてるマップなら、初心者でも最後まで遊べるように、敵が弱めに設定されてるのはよくあることだよ。それなりにレベル上げてる僕たちにちょうどいいぐらいで合わせちゃうと、折角の海辺の街に辿り着けない人たちも出てくるからね」
「なるほど?」
まぁ一番いいのは、プレイヤーに合わせて自動的に敵モンスターのレベルを変えることなのだが。
ただしそういうのは不特定多数のプレイヤーが同じマップで戦闘を行うMMO形式のゲームでは難しいし、次善の策として低レベルに合わせるというのは仕方ないことだろう。
「そういうわけでケントさんのレベルなら一撃で片付けられると思うんですが、そうすると近距離職が暇なので。威力を落として削る程度に調節するなり、範囲を絞って数を減らす程度に敵の被害を抑える方向性でお願いします」
「いや難しすぎるわ。言っとくがアン、魔法系スキルってそんな簡単に微調整できねえからな? 基本的には狙った方向に決まった現象を再現するだけだぞ。お前の≪狐火≫だったか、アレが特殊なだけだからな」
「えっ……マジ?」
「おう、でねーと同じ属性の中でスキルを分ける意味が無くなっちまう」
「確かに……!」
言われてみれば確かにそうである。
ゲームのスキルって要は特定の型でないといけないわけだし、僕の≪狐火≫はある意味異常なのだ。
例えばケントさんがよく使う≪ファイアボム≫は炎の球を飛ばす魔法だが、≪ヒートウェイブ≫は炎の波を起こす魔法である。そこにあるのは、炎をどういう形で使うかの違いでしかない。
それを仮に自由にカスタマイズできてしまったら、初期習得スキルである≪ファイアボム≫を変形させたり出力を上げたりすることで≪ヒートウェイブ≫を再現したりも出来てしまうだろう。
僕的にはそういうのも裏技的なテクニックとしてアリだと思うが、このゲームではそれはナシだというだけの話である。レベルを上げて新しいスキルを覚えるというコンセプトの否定にもなりかねない話だし。なんとも難しいところだ。
「あっ敵」
「次が来たにゃ」
そんな難しい話をしている間にも僕たちは足を進めていたため、こちらに向かってくる新たな敵を発見した。
敵が強くはないと判明したのでそれなりに余裕のある緩い気分だが、獣人が3人もいるPTの索敵能力はガチである。よほどの隠密特化な敵でもない限り、多少の油断で先手を取られることは無いだろう。
「ていうか今更ですけど、アレですよね。ケントさんって≪ファイアボム≫以外の魔法も使えたんですね」
「アンお前……ワシのレベルいくらだと思っとるんだ。使える魔法だって1つや2つなわけねえからな?」
「ん、1つや2つじゃないってことは他にもあるの?」
「おう! 例えばこれだな。≪ファイアウォール≫!」
「ピラァァイッ!?」
と、雑談混じりに敵を迎撃する途中。なんとなくケントさんに話を振ってみたところ、まだ僕たちに見せていない他の魔法も見せてくれた。
ケントさんが手をかざした先、突撃してくる水陸両用ピラニアとの間に出現したのは炎の壁。今まさに僕たちに飛び掛かろうとしていたピラニアたちは勢いを殺しきれずに壁に衝突し、炎に焼かれながら弾き返された。
どうやらこの魔法は、炎によるカウンターダメージと物理的な障壁としての両方の役割を果たすらしい。とはいっても、ぶつかったピラニアのHPがまだ残っているところを見るに、攻撃魔法ほどの威力は出ていないようだが。すかさずミィがトドメを刺しに行ったので問題ないだろう。
「おぉーすごい! 魔法ってこんなのもできるんだ!」
「おうよ。ワシはあんまり使ってねえが、防御系の魔法だな。流石のアンも、こういう炎を実体化させるような真似はできねえんじゃねぇか?」
「は? できるが?」
……いや、つい売り言葉に買い言葉で出来ると言ってしまったが。
普通に考えたら無理だな。あれはあくまでゲームの魔法だから壁として機能しているだけであり、炎に実体などありはしない。良くも悪くも現実準拠である僕の≪狐火≫では、ああいう挙動は出来ないだろう。
そういうわけで、一瞬置いて冷静になった僕は前言撤回しようとしたのだが。
そんな僕より早く出てきたのは、目を輝かせた姪の言葉であった。
「すごい! あんちゃんもあんな感じのことできるの!?」
「えっ……ああ、うん……たぶんね」
「お、おいアン。無理なことは言わん方が……」
「見てみたい! やってやってー!」
「……ま、任せて」
「やったー!」
そう答える僕の雰囲気からケントさんは出来そうにないことを察している感じだったが、興奮から冷静さを失った姪には全く気付かれていないようであった。
普段なら僕が嘘をついても容赦なく見破ってくるのだが、テンションが上がりすぎた時の詰めが甘いところはやはり歳相応といったところか。こういうところがかわいいんだよな。
さて、出来ると言ってしまった以上はどうにかして成し遂げなければ。変に対抗心を燃やして適当なことを言ったことはもう仕方ないので、あとはこれが嘘にならないよう実現させるしかない。
今の戦闘はもう消化試合だし、タイムリミットは次の戦闘が始まるまでと言ったところか。それまでに何か良いアイデアが浮かぶと良いのだが。
「1匹そっち行ったにゃ!」
「あんちゃん、さっそく出番だよ!」
「えっ!? あ、うん!」
そう思っていた僕だが、その機会は予想より早くやって来てしまった。ミィがトドメを刺し損ねた水陸両用ピラニアが、こちらに突っ込んできたのだ。
マズイ、まだ何も思いついてないぞ! このまま形だけ真似た炎の壁を作っても、ダメージを与えるだけで通り抜けられてしまうが……くそっ時間が無い! ええい、やるしかない!
「≪ファイア……≫いや≪狐……≫えーと、≪狐火ウォール≫!」
「ピラァッ!?」
「すごい! 止めた!」
「うーむ……止めたのか?」
「微妙なとこだにゃ」
結果から言えば、敵の攻撃を防御することには成功した。適当に付けた名前を叫びながら作り出した炎の壁は、飛び掛かってきた水陸両用ピラニアをこちら側に通すことはなかった。
とはいえそれはあくまでも、結果だけを見た場合の話である。これをどうやって実現したかといえば、壁の形に展開した≪狐火≫の火力を極限まで高めることで通過される前に倒したにすぎない。脳筋ここに極まれり。ケントさんとミィの微妙な反応もやむなしといったところだ。
「やったねあんちゃん、できること増えたよ!」
「うっ……うん、そうだね」
僕が出した炎の壁が全く敵に物理的な干渉などしてなかったことに気付いていない姪は喜んでくれているが、果たしてこれは出来ることが増えたと言えるのだろうか。結局いつも通りの炎でしかないのだが。なんというか騙してるようで罪悪感が……
「あっでもぶつかった瞬間倒しちゃったから、ちゃんと壁として使えたかどうかはまだわかんないのかな?」
「そ、それはそうだね! たぶん出来たと思うけど、もしかしたら出来てなかったかも! 最初は出来ると思ってたけど、実際やってみたらもしかしたら出来てなかったかもしれない!!」
そんな時、ようやく姪がキチンと確かめられていないことに気付いたようだ。
僕としては姪に良いところを見せたいので少しぐらいは誇張もするが、だからといってここまで嘘をつくのは忍びない。そんなわけで、僕の勘違いだったかもしれないということでそれとなく誤解が解けるよう仕向けてみた。
「じゃあもっかい確かめてみよっか。あの敵とかちょうどいいんじゃない?」
「おっ、ちょうどいい敵いた? よーし、じゃあ早速……」
というわけで、姪が見つけた近場の敵でもう一度試してみることとなった。
まぁこの辺にいる敵は水陸両用ピラニアとかだし、次はちょっと火力を落としてやってみるかな。どうせ倒しきれずに通り抜けられたところで、今の防具なら大した痛手は受けないだろう。
……と、思って油断していたのだが。
姪が指さした方向、そこに居た敵を確認した僕は思わず表情が引きつった。
「……ねぇ、るぅちゃん。何アレ?」
「ん? あたしも初めて見たから知らないけど、敵っぽいよ? 名前は……『全耐性バッファロー』だって」
いや待って、なんでこんな島の中の森に野生のバッファローが? ていうか全耐性ってそれ、絶対炎も効かないじゃん。僕の見た目だけ寄せた偽障壁なんて易々と素通りされる未来しか見えないんだが?
それにここって初心者に合わせた弱い敵が出るって話だったはずでは? いや、勝手に僕がそう予想しただけではあるけど。敵の頭上に表示されてる名前が赤色なんだけど、あれって確か自分のレベルより格上なことを表すカラーじゃなかったっけ? あんなのと戦ったら、僕死ぬのでは?
「るぅちゃん、1つ提案なんだけどここはせめてもうちょっと弱い敵で安全に検証を」
「じゃああんちゃん、がんばってね! ≪ウォークライ≫!」
「るぅちゃん!?」
幸い敵はまだこちらに気が付いていなかったので、今なら逃げることも可能……と思った矢先、姪が昨日のレイド戦でレベルアップした際に覚えた新スキルを発動した。
その名も≪ウォークライ≫、戦士系の自己強化スキルである。ただし最大の特徴としては、副次的効果として近くの敵の注意を自身に引きつけてしまうこと。これはスキル名の語源に、気合いを入れるための掛け声といったような意味があることに由来するのだろう。敵を目の前にして叫べば当然目立つし、狙われるということだ。
さて、そんなわけで姪のスキルにより、未発見状態であった全耐性バッファローがこちらに気付いてしまったわけで。
スキルによってヘイトを稼いだ姪は僕の後ろでワクワクしながら見学しているので、見るからに突進しようと狙いを定めているバッファローを炎の壁で受け止めろということなのだろう。本当は凄く回避したいが、そうすると姪に攻撃が行くのは間違いない。ここはもう覚悟を決めてやるしかない。
「おいおいマジかよ……アン、るな。悪いことは言わんから、ソイツと戦うのはやめとけ。な? ほれ、ミィも何か言ってやれ」
「この強敵の気配……腕が鳴るのにゃ!」
「あ、ダメだなこりゃ」
そんな強敵と対峙する僕たちに気付いたケントさんが止めようとするも、時既に遅し。僕たちは既に敵として認識されているし、それにミィは強い敵と戦いたい派なのだ。この機会を逃すわけがないだろう。
「ブモオオオオオオ!!」
「くっ……≪狐火ウォール≫!!」
せめてもの抵抗とばかりに、物理的な防御力を持つよう念じながら≪狐火≫の壁を作る。
僕なら出来るはず、これまでだって見様見真似や思いつきで新技を習得してきたのだ。ここでやらずにいつやるんだ! 魂の炎よ、愛しい姪を守る強固な壁となれ! うおおおおお!!
かくして、僕の全身全霊を込めた炎の壁とバッファローの突進がぶつかり合い――パリンと軽い音を立てて、何の抵抗も感じさせずに全耐性バッファローが壁を突き破ってきた。うん、まぁ知ってた。
「ぐふぉぁあっ!?」
「あんちゃーん!?」
結果的に炎の壁の後ろに居た僕はそのまま突進の餌食となり、鋭く大きな角で突き上げられて弾き飛ばされた。
僕の後ろから見てた姪? 僕が撥ね飛ばされてる間にちゃんと避けてたよ。こういうところはなかなかに強かである。かしこい。
そんな僕の断末魔(ギリギリ死んでないけど)をゴングに、僕たちと全耐性バッファローとの死闘が幕を開けたのだった。
なお、開幕から既に瀕死な僕と魔法が効かないケントさんが役立たずなのは言うまでもないことである。




