13. 姪の交渉術
「素材の買い取りならもちろんやってるよ。何があるんだい?」
「これと、これ。あんちゃんも持ってるの出して」
「あっはい」
店員のお姉さんに言われるがまま、僕たちは主に姪が余らせていたファラビットの毛皮、それに狼の毛皮と牙をカウンターに置いて見せた。
「ほう、ファラビットの毛皮に『プレーンウルフ』の毛皮と牙かい。これなら買い取り金額は……全部で49ゴルになるね」
「それでお願いします」
「まいどあり」
カウンターに置かれた素材が消え、チャリンという音がして取り引きが完了する。素材は一緒に置いて一緒に査定したが、ゴルは元々の持ち主のところにキチンと支払われたようだ。
「えーっと、あんちゃんお金いくらになった? あたしは172ゴルだけど」
「73ゴルだね」
「じゃあはいこれ」
僕の答えを聞くや否や、姪はトレード機能で87ゴルを渡してきた。
「えっ……でもそれじゃあるぅちゃんの分が」
「あとはあたしの革防具を、布製のこれとこれとこれに変えて、帽子は要らない。これで全部布の4部位になったから80ゴル」
「ああ、それなら足りるね。ここで装備していくかい?」
「はい」
「まいどあり」
僕が困惑している間に姪は買い物を済ませてしまった。
……僕も買えと言うのか? 姪から貰ったお金で……
「ほら、あとはあんちゃんだよ」
「でもこのお金、るぅちゃんが稼いだやつだし……」
「いいのいいの、そんなの気にしなくて。どうせリアルじゃいっつもあたしの方が服買って貰ってるし。こんな時ぐらい、ね?」
「うーんまぁそういうことなら……すみません、お勘定お願いします」
年長者として情けない気持ちが無いわけではないが、姪が心の優しい女の子に育ってくれたことに感動しながら店員のお姉さんに声をかける。
が、僕は完全に忘れていた。今の所持金は160ゴルでしかないことを。
「えーとこれじゃあ足りないけどどうするんだい? スパッツ抜きでちょうどだから、スパッツ以外かい?」
「あっ」
そう、なにせスパッツは200ゴル。2人の所持金を合わせて他を全て投げ捨てれば買えたのだが、残念ながら姪は既に自分の分の装備を買ってしまったのでその策は使えない。いや、姪の所持金をほとんど徴収しないといけない時点で使えないのは同じなのだが……
「あんちゃん、いいよね? どうせ買うのは無理だし、スパッツいらないよね?」
「うっ……そ、それならズボンに……」
「キュロットもほとんどズボンみたいなもんだし、大丈夫でしょ? スカートみたいなのは見た目だけだって」
「うぅ……ぐぬぬ」
姪の言い分はもっともだ。キュロットならばスパッツを外してもズボンと同じ履き心地だったので問題は無かった。だが何故だろう、スカートを何種類も穿かされているときからずっと守ってきてくれていたからなのかスパッツ無しでは安心感が足りない気がするのだ。
「……やっぱりなんか不安だし、ズボンに」
「それならお金返して」
「えっ」
「87ゴル。あたしはそのコーディネートを着てもらうために渡したの。その場合当然お金が足りなくてレザーベストが買えないから、おっぱい揺れるけどそれはそれであたしは困らないし?」
「くっ……この悪女め……!」
どういうことだ、急に姪が悪どい脅迫じみた取り引きを持ちかけてきたぞ。今まではこんなことなかったはずだ、素直で良い子だったはずだ。これが女の子の成長というものなのか? いつもはむしろ若干アホっぽいところがかわいいのに……これはこれでアリだが。
「うぅ~……しょうがない、スパッツ抜きで! 今試着してるやつお願いします!」
「それなら足りるね。ここで装備していくかい?」
「はい!」
「まいどあり」
僕は半ばヤケになりながらも新たな装備を購入した。折角色々と代償を支払って購入した装備なので、試しに軽く何度かジャンプしてみるが、革のほどよい固さが支えるので胸もほとんど揺れない。相変わらず存在感は圧巻だが揺れにくくなっただけ目立たなくなったはずだ。そう信じたい。信じないとやってられない。
「またお越しくださーい」
やる気の無い店員お姉さんにカウンター越しに見送られ、店を後にする。
なんだか一気に疲れが来た気がする。それほどまでにこの買い物で精神を消耗した。
「お買い物楽しかったね、あんちゃん!」
「ハハハ……」
それでも姪は結果的には楽しかったようで、満面のグッドスマイルである。疲れた心が癒される。
それにしても服の買い物でこれほどまでに疲れ切った僕と、充実した時間を過ごしたかのような姪の違いは果たして、女の子だからなのか若さなのか。きっと両方なのだろう。
「それにしても防具っぽい防具が結構な割合を占めてたから、あんまりかわいい系のはなかったね」
「僕としてはそれでいいんだけど」
「あっそうだ、今度リアルの方でウィンドウショッピングいこうよ! それならかわいい服しか置いてないはずだし、そもそも種類も多いし! あんちゃんのファッションショーの続きできるよっ!」
「ゲームでもこんなに疲れるのに、リアルでなんて無理だよ。それにリアルだとゲームと違って尻尾が邪魔で――」
僕は余程気疲れしていたのだろうか。自らの失言に気付くまで少しの時間を要した。
慌てて口を噤むが、上手く誤魔化すための言葉が出てこない。沈黙は一番マズイ、姪が気付く前にどうにか……
「そっかぁ、残念。それならまたゲームの方でお店いこうね」
だがどうやら僕の心配は杞憂に終わったようだ。特に何かに気付いた様子は無いし、もしかしたら僕がリアルでもこの姿だと素で思い込んでいたのかもしれない。というか、そうでなければ僕のファッションショーなんて提案してこないだろう。姪はたまに若干天然気味なところがあるので、普通にそういうことだと思う。
一瞬変に焦ったが、特に何事も無かったようなので安堵する。というかさっきから気が休まらない。このままではまたボロが出てしまいそうだ。
「じゃ、防具は新しくなったけどお金は無くなっちゃったし! またクエストで稼ぎにいこっか!」
「ああ、うん……そうだね」
そうだ、こんな精神的に疲れた時はゲームで気分転換するに限る。
そんなことを考えた直後、これもゲームのせいで疲れたのだと気付いて複雑な心境になりながらも、クエストボードの方面へと路地裏を進んでいったのだった。




