11. お風呂上がり
絶対に決して何事もなく無事に姪とのお風呂を乗り越えた僕は、心身ともに疲弊してはいたが今にも膝から崩れ落ちそうなのをなんとか気合いで耐えていた。何故こんなにも疲れたのかは聞かないでほしい。僕としても今あったことは記憶の奥底に封印したいので。
とはいえ僕は乗り切った。明日もまた一緒にお風呂に入ることになるとは思うが、少なくとも今日は乗り越えた。僕えらい。えろいじゃなくてえらい。えろいけど。
そんなことを考えながら、僕は今ドライヤーで姪の髪を乾かしているところだ。長くて綺麗な艶のある黒髪がシャンプーの良い香りを漂わせながら温風でサラサラと仕上がっていくのは相変わらず至高の一時である。堪らねぇぜ。
「よし、終わったよるぅちゃん」
「ありがとー! じゃあ次はあたしがやったげるね!」
「お願い。耳のところは熱くしすぎないよう、温度に気を付けてね」
「おっけー!」
正直まだちょっと膝がガクガクいってるので、気を抜いたら一気に崩れ落ちるだろう。
そうなってしまえば交互にドライヤーなんていう至福の時間どころではないので、なんとか必死に耐えている。
なお、もはや気力だけでなんとか出来るレベルではないので妖力で身体を支えてカバーしているのは言うまでもない。
以前にカナメとの戦いで習得した、胸や髪を揺れないよう制御する技術……アレの応用としてやってみたら出来たのだ。身体の一部を妖力で掴むように留めて、動かないよう固定するやつ。
≪剛体≫を妖力による身体強化とするならば、こちらは妖力による身体操作とでも言ったところだろうか。まぁ操作と言っても現状はただ支えているだけなので、今やっているのはそれほど難しいことではないのだが。
「こんな感じ?」
「そうそう、それぐらいの温度なら熱っつゥ!?」
「あんちゃーん!?」
その辺の妖力操作による能力は≪剛体≫も含めてリアルで使ったことは無かったが、意外と使うことはできた。
どうしてそんなことが出来たかと言えば、単に愛する姪とのふれあいの幸せな時間に水を差したくなかった一心から来る火事場の馬鹿力である。気合いと根性でなんとか再現しようとしたわけである。結果、なんとかなった。きっと愛の力だな。
「ごめんね、これぐらいなら大丈夫?」
「うん、耳の辺りはそんな感じで……ちょっと乾くの遅いかもしれないけど、熱くなりすぎないようにお願い」
そんなことを考えながら、姪にドライヤーで狐耳の辺りも含めて髪を乾かされていく。これまでは僕が姪にしてあげるばかりであったが、今では僕も長い金髪を持っているのだ。しっかり丁寧に乾かされる幸せな時間もまた結構な長さである。
「髪の毛はこんな感じかな? じゃあ次は尻尾!」
そして更に、ロリ巨乳狐娘である僕には大きな尻尾もある。今は濡れていて萎んでいるが、こちらも毛量が多い上に色々な角度から温風を当てなければならない都合上なかなか手間がかかるのだ。
「るぅちゃん、尻尾は乾かすの大変だけど大丈夫? 疲れたら自分でやるから遠慮なく言ってね?」
「ん、大丈夫! やりたいしやらせて!」
そう言いながら、楽しそうにドライヤーの温風で尻尾を乾かしていく姪。
僕としても普段から尻尾を乾かすのは結構無理のある体勢だったので、誰かにやってもらえるというのは正直かなりありがたい。というか今は尚更、疲労困憊すぎて可能なら動きたくないレベルなのでメチャクチャ助かる。
「あ、そうだ。毛に包まれてる分、耳よりは熱いの平気だから頭にやる時ぐらいの温度で問題ないよ」
「なるほど? じゃあちょっと上げよ」
「うんうん、それぐらいの温度なら熱っつゥ!?」
「あんちゃーん!?」
なるほど、ドライヤーだって自分でやるのと他人にやるのとでは勝手が違うから仕方ない話だな。熱いと感じたから動かすとか出来ないし。決して姪は悪くない、注意しなかったこちらの落ち度である。
というわけで一点に集中して温風を当てないように注意してから、改めてドライヤーを再開してもらう。
普段自分では出来ないような角度も含めて様々な方向から当てられる温風、この心地よさに思わず目を細める。
ましてやそれが愛しの姪の手によるものなのだ。精神的にも非常に満ち足りた、幸せな気持ちになっていくのを感じる。
「わぁ、ふわふわになってきた!」
そうして次第に乾いて仕上がっていく尻尾の毛並み、それに伴って上がっていく姪のテンション。
姪の嬉しそうな様子につられて僕も尻尾を振ってしまいそうになるが、ここで動かしてしまうわけにはいかない。今は僕の尻尾を乾かしているのだ、動かしたら乾かしにくいに決まってる。
だから動くな尻尾ッ……! やめろ動くな、このっ……!
「わっ、なんかすごい尻尾ビクビクしてるけど大丈夫? 熱かった?」
「いや、問題ないよ。ちょっと動きそうになっちゃってるだけだから」
分かっていたことだが、それでも本人の意思に関係なく動き出すのが尻尾というものである。
とりあえず妖力で固定したので大きく動き回るのは抑えたが、依然として少しでも気を抜けば暴れてしまいそうな状態だ。ていうか今も若干抑えきれてない。
「結構震えてるけど、乾かせないほどじゃないし別にいっか」
「うん、気にしないでもらえると助かるよ」
無理矢理に抑えた反動で大きく震えるように動いてこそいたが、一応乾かしやすいように伸ばした姿勢はキープしている。
その甲斐あってか、なんとか乾かし終えることができたようだ。試しに左右へゆっくりと尻尾を動かしてみれば、ふわりと毛先までが軽く揺れる。完璧な仕上がりだ。
「ん~いい感じ! もふもふ~!」
「ふぁわぁ……! ありがとうるぅちゃん、もう最高だよ」
「よかったぁ!」
まるで手触りを確かめるように、仕上がりたての尻尾を抱き締めてみる姪。当然ながらお風呂上がりのそのまま髪を乾かしていたので、一糸纏わぬ裸である。そんな姿で抱き着かれたものだから、思わず姪の肌の感触がダイレクトに伝わって……来るはずも無く。だって毛皮に包まれた尻尾だし。
とはいえドライヤーで仕上げた直後の尻尾に裸で抱き着くあの感触、僕も覚えがあるので気持ちはよく分かる。アレ本当に肌触りが良くて、メチャクチャ幸せな気分になるんだよな。
もっとも、その幸せそうな姪を見ている今の僕の方が幸せだということは確実なのだが。
「まぁ尻尾はあとで触っていいから、今はさっさとパジャマ着てお風呂空けよっか。母さんが順番待ってるだろうし」
「ん、それもそっか」
もふもふの尻尾と戯れる裸の美少女、そんな絵画にでもなりそうな光景ではあるがいつまでもこうしているわけにもいかない。いくら今が夏場とはいえ、湯冷めしても大変だ。
それに湯船で遊んでいたことや、僕の身体……その中でも主に狐の部分を洗うのに時間がかかりすぎたこともあり、若干時間が押しているのだ。僕の落ち度のせいで姪を急かしてしまうのは心苦しいが、あとで風呂が長すぎると母から小言を言われるのも避けたいのである。
「そういえばあんちゃん、パジャマあるの?」
「ん? 大丈夫だよ、だっていつも帰ってきた時にはここに着替えが……あっ」
途中で思い出したように聞いてきた姪にそう答えた僕だったが、しかし脱衣所の着替え入れの棚に入っていたのは男物のパジャマであった。当然、僕がロリ巨乳狐娘になる以前に使っていたものである。
「あー……そっか、そりゃそうだよね。完全に忘れてた」
「これだとおっきすぎるよね。あたしの予備のやつ貸そっか?」
「ああ、そういう意味では大丈夫だよ。脱衣所に持ってくるのを忘れただけで、キャリーバッグには入ってるから」
「おぉー! さすがあんちゃん! ちゃんと忘れずに持ってきてて偉いねー」
「ん……うん、まぁね」
そう言って褒めてきた姪に当然のように頭を撫でられる、若干複雑な心境の僕。中身が30歳男性なので相変わらずこの扱いには慣れないものである。
今は頭に伸ばされた手を避けられるだけの余力が無かったというのもあるが、万全の状態であってもこれを避けるというのは無駄な労力でしかないだろう。というか撫でようとした手を避けたりしたら、姪が悲しむかもしれないのでそもそも選択肢に無い。そういうわけで渋々撫でられているわけだ。あっそこ、耳の付け根のとこ気持ちいい。
「こゃぁん……はっ!? そ、そういうわけだから! 僕ちょっと部屋からパジャマ取ってくるね!」
「ん、わかった」
おっと危ない、姪の撫でる手つきが上手すぎて堕とされるところだった。危うくもう少しで心までペットにされるところである。
僕は手早くバスタオルを身体に巻いて、逃げるように脱衣所をあとにした。もちろん下着類もカバンの中なので、タオルの下は全裸である。でもまぁ家族だし問題ないはず。
その歩みは少しぎこちないが、妖力による身体操作という慣れない能力で無理矢理動かしているにしては上手くやっている方だろう。
いっちに、いっちに。これ昔遊んだVRのフリーゲームと操作感似てるな。このクソみたいな操作性、少し懐かしさを感じる。
「ふっ、ふっ……ん、司あがったんやね。って、どうしたん? そんな無駄にセクシーな格好で。パパでも誘惑するん?」
「しないが。いや、部屋の荷物から着替え出すの忘れてて」
「ああ、そういえばそうやったね」
そうして僕が脱衣所から出ていくと、まず遭遇したのはキッチン横の空きスペースで日課のエアロバイクを漕いでいる母であった。本人曰くこれは健康を維持するための適度な運動らしいが、僕なら3日と続かない自信がある。
ちなみに大きすぎる胸と小さな体躯のアンバランスさのせいであまり隠せていない胸元に若干殺意の籠った視線が刺さっている気がするが、そこは徹底してスルーである。こんなの絶対触れたら触れたで藪蛇だ。
「どうやった? 久しぶりの瑠奈とのお風呂は」
「うん、まぁ……疲れたけど良かったよ」
「やろうね。楽しそうな声、ここまで聞こえて来てたわ」
「……聞こえてた?」
おっと、事情が変わったな。
果たして聞こえてたとは、どの辺りのタイミングでの声のことだろうか。姪のはしゃぐ声なら余裕でセーフだが……それが聞こえるぐらいなら確実に、僕が耳や尻尾などを洗われた際に出た喘ぎ声も聞こえているはずである。
そんな如何にもエロいことが起こってそうな声を聞かれていたとなると、いよいよ詰んだか? これ僕もう姪にイタズラをした犯罪者として言い逃れできない証拠を押さえられて……待てよイタズラされたのは僕の方では?
「まぁお風呂やからってあんまり大きい声出してたら、その内リビングにいるパパにも聞こえるかもしれへんからね? 気ぃつけなアカンよ」
「ッ……!? や、やっぱり聞こえてたの……? いや、あれには事情が……」
「言い訳はせんでもええよ。何があったかは聞こえてきた声で大体察してるけど、問題は無さそうやらからね」
「あっそこまでハッキリ聞こえてた!?」
「ふふっ、どうやろね? さーて、わたしもお風呂行く準備しよーっと」
「ちょっ母さん!?」
それだけ言うと母は、幼げな外見に似合う悪戯な笑みを浮かべながら居間の方へと去って行った。
嘘だろ? 僕が思ってた以上に結構聞こえていたのか……? いや、ブラフか? どっちだ? くそっ、母さんは結構そういうとこあるから分からないぞ……!
でも問題ないと言ってくれてるということは、問題ないということなのだろうか。実際一方的に僕が喘がされていただけだし、そこを察してくれていたなら……それはそれで嫌だな。状況的にそうなんだろうけど。
ともあれお風呂での出来事が断片的に母にバレていたという不安はあるものの。その上で許されたという安心感、それ信じていいのかという懐疑心、母親にあんな声を聞かれてしまったのだという微妙な心境などを引きずりつつ。
僕はパジャマを取りに行くため、心なしか更に重くなった足を再び動かしたのであった。




