9. 姪と一緒にお風呂に入るだけの健全イベント(中編)
湯舟の中で遊んでいい感じに身体も温まってきたので、僕と姪はそろそろ身体などを洗うためにお湯から出ることにした。
まずは姪の綺麗な黒髪からである。僕の腰まで届きそうな金髪ほどではないが、それでも結構長いのでしっかり丁寧に手入れする必要がある。手始めにシャンプーをするべく姪を椅子に座らせ、その頭を優しく洗い始めた。
「かゆいところはございませんか~?」
「んー、背中」
「ごめん頭限定でお願い」
わしゃわしゃと泡立たせながら僕は、手指が小さくなったことにより可能になった繊細な動作を駆使して頭皮をマッサージしていく。
こういうところはこの小さな女の子の身体になった利点というか、こうやって少しは姪のために活用していくぐらいでないととやってられない。失ったモノがモノなだけに、僕が完全に立ち直るにはまだしばらく時間がかかるだろう。
「流すよー」
「ん」
そんなことを頭の片隅で考えつつも、意識はしっかりと姪の頭を洗うことに向けて的確に手を進める。気持ちよさそうに目を細めて頭を洗われる姪を見ていると、こっちまでつい頬が緩んでしまう。
シャワーで泡を流したあとは、長い髪に塗り込むようにリンスをつけていく。毛先まで艶を維持するにはこの手のケアが必須らしいし、あまりリンスの意味は理解していない僕だが姪のためならば手を抜くつもりはない。
姪とのお風呂には約1年のブランクがあるとはいえ、この辺は最近自分の髪で練習してきたこともあってなかなか上手く出来ているのではないだろうか。自分の髪と他人の髪では勝手が違うとはいえ、共通する部分は多いのだ。
「よし終わりっと」
リンスも流したので髪の手入れを完了し、水気を軽く拭き取ってから再び頭にタオルを巻いていく。
姪の頭には邪魔な狐耳がついていないので、この長いタオルもネットで調べた普通の手順で巻きつけられて非常に楽である。僕の場合は試行錯誤の末になんとか形にはなったが、安定感に欠けるというのは否めない。よく考えたらこれ≪人化≫しといたらよかったのかな、今更だけど。
「次どうしよっか、るぅちゃんの身体洗う?それとも僕の頭にする?」
「んー、じゃあ先にあんちゃんの髪の毛洗ったげる!」
「おっけー、それじゃあよろしくね。ただし耳は敏感だから気を付けて」
「まっかせて!」
次は姪が僕の髪を洗ってくれることになったので、座る位置を前後で交代した。
僕は狐耳に泡やお湯が入らないよう、少しだけ俯き加減でスタンバイする。
万全を期すなら≪人化≫してしまって狐耳を無くすのが良いのだろうが、それだとどこかに消えた耳の毛が洗えないような気がするのでこのままだ。
あと本当にそれをやってしまうと、耳と尻尾を洗うのを楽しみにしてる姪がしょんぼりしそうな気がするし。姪の悲しむ顔を見るぐらいなら、シャンプーぐらいいくらでも耳に入れる覚悟である。
「おぉー、あんちゃんの髪の毛やっぱりすごい手触り。濡れてても柔らかい」
「そのぶん細くて多いような気がするから、洗うの大変かも。ごめんね」
「別にいいよ、楽しいし!」
そう言って上機嫌にシャンプーをする姪の手つきは、以前にやってもらった時よりもいくらか丁寧になっている気がする。
それは姪の女子力が上がって髪の洗い方にも気を配るようになったのか、それとも僕が小さな女の子だから優しくしてくれているだけなのか。できれば前者であってほしいところなのだが。
「これ耳もやっちゃっていいの?」
「うん、狐耳にも毛は生えてるからね。敏感な場所だから優しくしてほしいのと、なるべく耳の穴に泡が入らないよう気を付けてもらえると嬉しいかな」
「わかった!」
元気よく自信満々に返事をしてくれた姪だが、その手はあまり器用な方ではないので若干心配は残る。
だがしかし、ここは叔父として姪を信じるべきだろう。狐耳が生えたこの特殊な構造の頭を洗うという大役を任されてくれた姪の覚悟、僕が踏みにじるわけにはいかないのだ。
なので僕は弱点である耳を無防備に晒して、絶対の信頼を寄せる姪に身を委ね……ッ!?
「ひぇあっ、ちょっ、待っ、んひぃっ!?」
「ん? あんちゃん大丈夫?」
「だ、だいじょうぶじゃない……ちょっとタイム、休ませて」
「わかった、もうちょっとだからゆっくり休めるようにさっさと終わらせちゃうね!」
「えっいやそこは止まっ、にょわああああああっ!?」
やっぱりダメだったよ……
ただでさえ敏感な耳という部位、ましてや1週間ほど前に生えてきたばかりの新しい耳。そのまだ刺激に不慣れな存在を他人の手で触られるというのは、想像以上にくすぐったいものだったのだ。
そんな全身が痺れるような感覚に思わず脚と尻尾もピンと伸び、もう限界というところでようやく終わって解放される。シャワーのお湯で泡を洗い流したあとには、びしょ濡れで息も絶え絶えなロリ巨乳狐娘だけが残っていた。
「ハァ……ハァ……ふぅ……」
「落ち着いた?」
そうして僕が息を整えている間にも、姪の手によって毛先から順にリンスを塗りたくられていく。その手つきには思いのほか迷いがない。
姪は不器用な方ではあるが、普段から自分で髪の手入れをやっているだけのことはあった。なんなら僕なんかよりもよっぽど慣れた手つきである。そういうところは女の子歴の長さの差を実感せざるを得ない。
やがてリンスをつける手は狐耳の部分にまで至ったが、リンスはシャンプーとは違って毛につけるものである。頭皮の洗浄が目的でない以上、必要以上に擦られたり耳を刺激されることもないのでなんとかギリギリ大丈夫だ。
「るぅちゃんには、大変申し訳ないんだけど。耳は……ダメだね、人に洗ってもらう場所じゃなさすぎる」
「んー残念。泡まみれな耳も触ってて楽しかったんだけど」
そしてリンスも流したところでやっと絞り出した僕の感想を聞いて姪は残念そうであったが、こればかりは本当に申し訳ないがこれっきりにしてほしい。
もし一緒にお風呂に入る度にこんな目に遭っていたら、気力体力ともに消費が激しすぎて身体がもたないだろう。冗談抜きでマジで死ぬ。
「頭おわったけど、あんちゃんどうする? なんかぐったりしてるし、このまま身体も洗ったげよっか?」
「うーん……そうだね、お願い」
本来の順番で言えばこのあとは姪の身体を僕が洗ってあげる番なのだが、残念ながら今の僕はとてもじゃないが動けるコンディションではない。ましてや姪の身体を洗うという集中力を要するような高度な作業、出来る道理がなかった。
そういうわけで、ここはひとまず先に僕が姪に身体を洗ってもらうことになった。
とはいえこの惨状も頭を洗ってもらったことによるものなので、若干の不安は残るが……まぁそんな滅多なことなんてそうそう起こらないだろう。最悪の事態ばかりを考えても仕方ない。というかこれ以上酷いことにはならないと思いたい。
「あ、ていうか尻尾も毛だしシャンプーなのかな? それなら髪の毛の続きでやっちゃおっか」
おっ、そこに気付くとは。気付いてしまうとは。流石は僕の自慢の姪だ、目の付け所が違う。
そう、尻尾を洗うのに使うのはシャンプーなのだ。これが妖狐界隈では正しいのかどうかは知らないが、少なくとも僕はそうしている。
だが今尻尾など洗って大丈夫なのだろうか。自分で洗っててもかなり気持ちよくなるというのに、誰かの手で、ましてや愛しの姪の手によって洗われるともなれば気持ちよくなりすぎるのではないか。耳で骨抜きにされたあとに続けてやるのは正直不安が大きいのだが。ていうか同じような理由で似たような事態になりそうなんだが。
そう思っていたので黙っていたが、聡明な姪にはお見通しだったらしい。君みたいな勘のいい姪は好きだよ。すごい困るけど大好き。
「おぉー、めっちゃ泡立つ!」
そんな僕の密かな内情などは知る由もなく。
姪は尻尾に直接シャンプーボトルを近付けて5プッシュほど中身の白い液体をぶっかけると、両手でわしゃわしゃと泡立て始めた。ちょっと多すぎじゃないですかね。
大量のシャンプーをコストにしたのと、僕の尻尾の毛が元々泡立ちやすいだけのこともあって。お湯に濡れてすっかり萎んでいた尻尾も、あっという間にふわふわ感を取り戻していた。
まぁ泡まみれになった結果なので、元の乾いている時の質感とは全く方向性が違うのだが。
「すごいよあんちゃん、泡が無限に出てくるよ!」
「あふぁあ……んんっ♡ そ、そうだね」
もはや質量保存の法則を無視しているのではないかというほどに、大量の泡を生み出し続ける尻尾。そんな尻尾に思わず抱きついて泡だらけになりながら、はしゃぐように楽しそうに毛を掻き分けて皮膚を指先で擦って洗っていく姪。
そんな様子を見てほっこりしつつも、僕は尻尾の神経から送られてくる感覚に必死に耐えていた。
なにしろ誰かの手でシャンプーをしてもらうというのはそれだけでも気持ちいいことなのに、今回は耳と同様に未だ感覚が慣れていない尻尾でやられているのである。
それはあまりに強く強烈な心地よさであり、しかし刺激としては強くないので痛いわけでもなく、ただひたすらに気持ちいい。それでいてくすぐったさも混ざっており、思わず変な声が出そうになる。ていうかちょっと出た。
だがまぁあくまで心地よさだ、我慢できないことはない。この快感に身を任せてしまいたいという感情が無いわけではないが、今の僕には楽しそうな姪を静かに鑑賞するだけで充分というもの。
なんならむしろこの思考がふわふわする感じ、姪成分を楽しむ分には邪魔な要素ですらある。
「どう? あんちゃん、気持ちいい?」
「んぁぁ……♡ しゅごいきもちいい……♡」
だがせっかく姪が気持ちよくしようとしてくれているのならばッ! 気持ちよくならなくて何が叔父かっ♡ らめっ頭とろけりゅっ♡
僕は誰かにシャンプーをしてもらう気持ちよさ、それを尻尾という普段毛皮に包まれているお陰で未だ刺激に全然慣れない部位の肌で存分に味わった。しかもそれがかわいい姪の手によって齎されているのだと思えば、感じる多幸感もより一層のものである。
つまり肉体的にも精神的にも最高の気持ちよさ。恐らくこれ以上の快楽を得ようとすれば、合法な手段では難しいだろう。なお女子小学生に尻尾を触らせるのが合法なのかどうかはこの際考えないものとする。
「じゃあそろそろこの辺も」
「あふぅっ!? そ、そこっ♡ やばっ……!」
「ん? ここが気持ちいいの?」
「こゃあああああああっ♡」
これまで姪が積極的に洗っていたのは、泡立たせやすい形をしている尻尾の先端の方であった。あるいはその周辺、せいぜいが半分より先の部分である。
しかしその手が尻尾の根本の辺りへと移動してきた時、まさかの事態が起こった。更に気持ちよくなったのである。てっきりアレで頭打ちかと思っていたのだが、まだ上があるとは予想外だった。
その気持ちよさたるや、普通に他人にしてもらう頭のシャンプーを1とするなら……今の僕は頭があまり働いてないのであくまでざっくりとした概算だが、尻尾であれば先端でも100倍ぐらいだと思う。そしてこの尻尾の根本、これは本当にヤバい。たぶん軽く100万倍ぐらいは超えてる。いやゴメン、今ちょっと本当に思考能力がダメになってるから若干計算の桁がおかしいかもしれない。でもまぁ、そんな感じで頭がおかしくなるぐらいにはこれヤバい。
仮に姪以外に洗われてもここまでなるとは思えないが、逆に言えば姪に洗ってもらっている現状は最高のシチュエーションなわけだ。確実に姪補正が入っている。
しかも純粋無垢なかわいい姪に、尻尾などといういかがわしい場所を触らせる背徳感。こんなのもはや実質……待てよ、尻尾って別にいかがわしい場所ではないな? くそっダメだ脳が正常に働かない! 正常に働く必要あるか? 姪に洗われて気持ちよくなってればそれでよくない? いいよね♡
「こんっ♡ そこっ、もっとっ♡」
「わっ!? もーっあんちゃん! いくら嬉しくても、尻尾振ったら泡が飛び散るからダメだよー! あははっ!」
かくして思考を完全に放棄して、ついには見た目相応におねだりまで始めてしまった僕は。
ただただ姪に尻尾を洗われるだけのロリ巨乳狐娘となり、自分が元は何だったかなどの難しいことも今だけは忘れ去って。
姪が楽しそうだし自分も気持ちいいのだからもうこれでいいやと、ひたすら気持ちよくシャンプーされ続けたのであった。
――ただし後で冷静になってから、この時の自分の様子を思い返してどう思ったかはお察しである。




