迷いはないんだが?
もどきと美沙の顔は一瞬にして青ざめる。
だが、僕はまだ受け止めきれなかった。
どこかでその言葉を疑っていたからだ。
いや、僕のこの感情は嘘だ。
僕は――
「じょ、冗談を……言うなよ……」
「嘘じゃない。2ヶ月前にお医者さんに言われたの。足に悪性の腫瘍ができてて、転移もしてて、余命は持ってあと2ヶ月って。その2ヶ月が今月。もう、この体も長くは持たないから」
黒崎のその言葉に誰も口を開かなかった。
どう言葉をかけていいかもわからない。
もう嘘じゃないということはこいつの喋り方でわかった。
「おい!!じゃあ、なんでこんな時にお前の親はなんで海外にいるんだよ!!そんなときぐらい、娘の近くにいてやれよ!!――」
「やめて!!お母さんとお父さんを悪く言わないで!!私のために一生懸命治療費を稼いでくれたの!今いないのは飛行機の便が取れなかっただけで、来週にはきっと逢えるから!!」
僕も黒崎もお互いが感情的になる。
そうだったのか。
てっきり、そういう親なのかと思ってしまった。
こんな時に便が取れなかったなんて……あんまりだ。
「ごめん……」
僕は俯き、黒崎に謝る。
酷いことを言ってしまったな。
勝手に決めつけるなんて僕は本当に最低な人間だ。
「ううん。お兄さんは私のことを思って言ってくれたんでしょ。むしろ、嬉しかったよ」
「そうか……」
黒崎が病気なのはわかった。
余命もあとわずかなのもわかった。
だけど、なぜ黒崎は涙一つ流していない?
「こんなことは聞くのはあれだが……死ぬのは怖くないのか?」
「隆さん!それは――」
「別に死ぬのなんて怖くない。だって、人間なんていつかは死ぬじゃん。それが他の人よりも少しだけ早いってだけでしょ」
死ぬのなんて怖くない。
本当にそうなのか?
僕が同じ立場で同じ考え方だとしても、恐怖心はある。
それが11歳の少女の真意なのか?
「お医者さんは部屋で安静にしてろって言ってたけど、どうしても空に近い場所で流星群が見たいの!!お願い!!私を屋上まで連れてって!!」
黒崎の願いは流星群を見ること。
そして、それをできるのは僕らしかいない。
「わかった。僕が流星群を見せてやる」
「え!?いいの!?」
僕に迷いはなかった。
これがおそらく、黒崎の生涯最後の願いになるだろう。
叶えてやるさ、その願い。
「ちょっと、お兄ちゃん!お医者さんがダメって言ってるんだよ!」
「じゃあ聞くが、お前はやり残したことがあるまま最後を迎えることができるのか?」
「それは……」
美沙は僕の言葉で考え始める。
自分の立場に置き換えればわかることだ。
手の届くところにある願いを捨てることなんて誰もできない。
「僕だったらそれが大なり小なりできない。だから僕は黒崎に流星群を見せる。それと、その医者は嘘をついている」
「どういうことですか?」
僕は黒崎の方を向いて語りかける。
医者は嘘をついている。
それは昨日のこいつと出会ったときのことを考えればわかることだ。
「お前、この病院内を車椅子で移動することは自由なんだよな」
「うん、そうだけど」
「屋上は小さい子が行くには危なすぎる。おそらくその医者はそう思って止めたんだろうな。だったらそこに僕らがいれば問題はなくなるって話だ」
僕らは高二だ。
それに3人もいれば11歳の黒崎を守ることはできる。
って言っても、まだ僕しか行くなんて言ってないんだがな。
「もどき、美沙。僕に力を貸してくれ。なんとなくだが、僕一人じゃ無理な気がする」
僕は立ち上がり、もどきと美沙に頭を下げた。
「協力させてもらいますよ!」
「任せてよ!」
二人も僕同様、迷いはなく了承してくれた。
その言葉にホッと一息つく。
それに、人数が多い方が黒崎も喜ぶだろう。
「決まりだ。日付は明日の6月14日。場所は屋上でいいんだな?」
僕は頭を上げ、黒崎の方を向く。
「うん!時間は夜の9時ごろ!一緒にみようね、お兄さん!!」
黒崎は笑顔で微笑んだ。
その笑顔を見て、僕らもつられてふと笑顔になる。
「ああ!!」
僕は大きく返事をした。
さあーて、母さんにはなんて言い訳しようかな。
もどきと美沙を無理やり連れ回してゲーセンにでも行っていたとか適当な理由をつけて言っておけばいいか。
そのあとは4人で日が暮れるまでくだらないことを話した。
黒崎もあいつらも僕もみんなが笑顔になれた。
本当に時間が過ぎるのが早く感じてしまうほどに楽しかった。
こんな時間がいつまでも続けばいいのにと思ってしまうほどに……
とにかく明日だ。
黒崎と一緒に最高の思い出を作るんだ。
何がなんでもやってやる。
彼女の笑顔のために。




