RISEの交換会なんだが?
旅館沢村屋を出た一向。
今車は、ビーチ横を通っている。
「いやあ。にしても楽しかったな〜」
「そうだな。たまにはこういうのもいいものだ」
「私もよ」
「まさか、休日までこんなに動くとは」
「まさか、休日までこんなに百合に恵まれるとは」
各々、楽しい思い出を語る車内。
こういうのが初めてな人たちがほとんどだったため、その思いはより一層深まるものだろう。
「僕はもう眠い。ということで、先に寝させてもらう」
隆は顔にロジカルファンタジーのロゴのついたタオルをかける。
「シャルロットちゃん。それ、とっていいよ」
「はい!」
美沙は位置的に手が届かないため、シャルロットに頼んだ。
シャルロットは隆の顔にかけてあったタオルを取る。
「おい! 何するんだよ!」
「寝るのが早いんだってば! 今は思い出を語る時間でしょ!」
「そうですよ、隆さん!」
「知るかあ!!」
今の時刻は、九時三十四分。ついさっき、旅館沢村屋を出たというのに、もう睡眠を取る気でいた。
昨日あれだけ疲れたのだ。たった一日の睡眠だけでは足りるはずもない。特に隆の場合は。
だから黙って寝ようとしていたのに、起こされる。
はあ……もう、起きておくか。
そんな中、黙っている二人。
可憐と上条。可憐は運転しているからわかるが、上条は顔に手を当てて、外をずっと見ていた。
それも、上条の席の位置は左端。
だから、右側にあるビーチではなく、ただ林を眺めていた。
「さっきみんなで撮った写真、共有したいからみんなRISE教えてよ!」
「あ、そういえばそうじゃん」
先程、沢村屋の前で全員で写真を撮った。そのデータは美沙しか持っていない。
その上、美沙がこの中でRISEを持っているのは、隆とシャルロットの二人だけ。渡すためには、他のメンバーのRISEを知る必要があった。
「わかりました! ではこの際、RISEの交換会もしましょう!」
「RISEの交換会?」
「スマホを回しあったりして、全員友達になるんです! どうでしょうか!?」
珍しくノリノリなシャルロット。
この旅行がよほど楽しかったのだろう。
「そうだな。これも何かの縁だ」
「賛成!!」
こうして、RISEの交換会が始まった。
車が動いて、下手に立つことができないことを踏まえ、スマホを端から端に渡したりして連絡先を交換していく。
しかし、まだ外を見ている上条。
「おい、上条。お前もスマホ出せ。みんな交換したがってるぞ」
隆の方をゆっくりと見て、寂しそうな顔をする上条。
「僕はいいよ。僕はみんなと違うからさ」
上条はこの中で唯一、インベストの人間。そして、そんな仲良しごっこなんて、自分には似合わないとばかり思っていた。
それでも――
「みんなが友達になりたいのは、玄橆とじゃない。芳月学園一年C組の上条樹だ。わかったか?」
その言葉を聞き、最初は驚いた上条だったが、自然と笑顔になる。
「ふっ。隆には敵わないな。いいよ。みんなと交換しようか」
「ふふっ」
そして、上条もRISEの交換会に参加した。
これで全員――
と思ったが、まだ一人残っている。
「……」
黙々と運転する可憐。話は聞いているが、彼女は運転手。席を立つわけにはいかない。
「かれーん?」
「何」
「可憐は交換しないの?」
「私は別に、年長者だし、局長だし、いいのよ」
「みんなが友達になりたいのは、正義執行管理局局長とじゃない。今日、私たちと一緒に楽しんだ紫可憐だ。わかったか?」
さっき隆の言った言葉をもじり、可憐流に変換する加賀。
可憐も上条同様、少し遠慮していたのだ。
とはいえ、可憐も年頃の少女。加賀の言うことにすぐに観念する。
「はいはい。じゃあ、私のスマホ貸すから、あなたが回しといて」
「はーい! 鞄、失礼しまーす!」
可憐の鞄のチャックを開け、スマホを探して取り出す。
ピンク色のスマホ。
「言っておくけど、変なことしたら承知しないわよ」
「ええ!? どれだけ私、信頼されてないのお!?」
「当たり前です」
こうして加賀は可憐のスマホを受け取り、信号待ちの時に立ち上がって一人一人回させた。
これで全員が全員分、RISEを知り合えた。
何かあった時も、すぐに連絡が取れるし、友達同士、他愛もない会話をすることだってあるだろう。
それからしばらく時が過ぎ、時刻は十三時半。
その間に美沙は、全員に写真を渡したり、サービスエリアで休憩して食事を取ったりした。
その頃には、寝ているメンバーもしばしば。
そして見えてきた、隆たちの街。
ここからは、順番に家に送っていくこととなる。
まず初めに着いたのは、天空城の家の前。
家の前と言っても、家なのかがぱっと見ではよくわからない武道場のような場所。
でかい門に、ザ、和風建築の家。
「みんなと過ごせて、とても楽しかった。なにぶん、私はこういう経験がないからな。可憐さんも、運転ありがとうございました!」
そう言って、天空城は車を降りた。
次に向かったのが、昇龍の家。
しかし、昇龍を下ろしたのは、家の前ではなく、数十メートル先の路地裏。
「ほら、降りて。この距離でも、帰れるでしょ?」
可憐はほんの少し、微笑んだ。
「!! 帰れるよ。……ありがとな」
昇龍の頬が染まる。
路地裏に停めたのには理由がある。
昇龍組と正義執行管理局は対立組織。もし、二人が会っていることを今知られれば、たちまち銃撃戦となる。
そのため、行きもこの場所で昇龍は待機していたのだ。
だからこそ、バレるわけにはいけない。
「お前らもまたな。楽しかったぜ。赤城ちゃん、加賀ちゃん……は、寝てるか。ふっ。じゃあな」
昇龍は右手を上げ、車を降りた。
そして次。
次は上条。
「あなた、本当にここでいいの?」
「うん、僕の家はこの学校だからね」
上条はこの次元では住所不定。住む場所がないため、学校で過ごしている。
インベストに過ごすところがなく、いつも一人。
一人で食事して、一人で寝る。こんな毎日をひたすら繰り返していた。それを隆は察する。
「そういうことなら仕方ないが、なんかあれば連絡しろよ。うちくらい泊めてやるから」
「オッケー! 隆ママの食事、楽しみにしとくよ! みんなと過ごした思い出は、一生忘れないから!!」
そう言って、上条もまた、降りていった。
彼もまた、思うところがあったのだろう。色々あったが、本心は楽しかったに尽きるということだ。
「ったく、大袈裟なんだよ」
そうしてまた車を走らせる。
送迎もラスト。残ったのは、美沙、シャルロット、隆。
美沙と隆の家は隣同士のため、そこまでの距離はない。
美沙の家の前で車が止まった。
「美沙さん、着きましたよ」
「もう……マンゴーゼリー食べれなーい……」
シャルロットが美沙の体を揺さぶるが、寝言で返された。
よほど今朝食べたマンゴーゼリーが美味しかったのだろう。
美沙も、昨日は小さな体で頑張っていた。
ここまで眠くなるのも無理はない。
この時間、家にはシゲ爺がいる。帰って思い出話でも聞かせることだろう。
「美沙さーん」
「シャルロットちゃん、くれるのおー……」
(だめだ、こいつ……)
「もどき。悪いが、背負って送っていってやってくれ。インターフォンでも押せば、シゲ爺か誰かが出てくるだろう」
「構いませんが、隆さんは?」
「ふっ。拙者は、帰ったらロジカルファンタジーで忙しいでござるからな」
イケボ隆。
こういう時だけ、一瞬声が低くなる。
「うんしょっと!」
シャルロットは美沙を背負い、車の扉の前に立つ。
「可憐さん、この二日間、本当にありがとうございました! とても楽しかったです! また、お会いできる日を楽しみにしています!」
「可憐ちゃん、またね〜……」
「ええ、またね」
そう言って二人は車を降りた。
シャルロットは美沙を背負いながら、頑張って家の前まで進んでいった。




