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沢村美代子への恩返しなんだが?

「あの時は深く悲しみました。ですが、その数日後に旅館は完成。それ以降は、美代子ちゃんが女将を務めるはずだったこの旅館を私が代わり、スタッフ共々、頑張ってきました」


「……」


 その言葉に一同は何も返すことができなかった。

 幼い頃からずっと一緒にいた美代子。

 当時、その美代子を亡くしたショックでメンタルはボロボロ。それでも、姉と共に夢見て作り上げた旅館。それ以降は姉の思いを受け継ぎ、今日まで頑張ってきた。


 それを察してしまったからこそ、かける言葉もなかった。


「そして、二年前の冬頃。二人のお客様が来たんです。双子の女性客」


「それって」


「私たちです。この旅館には初め、客として来ました。家も近くですし、有名なところでしたからね」


 去年の夏頃に女将が出会ったのは、新月と満月。

 ここが女将の転機となる出会いだった。


「当時、心では隠していましたが、満月さんには全て筒抜けでした。私の何十年も抱えて来た思いが」




 それは、美恵子が二人の部屋に行き、料理を運んで行った時のことだった。

 部屋を出る時、満月に止められた美恵子。


「ねえ、女将。あなたは何かを抱えている。それもここ数十年ずっと」


「へえ?」


「ちょっと、姉さん――」


「それも、私たち双子を見た時から表情が変わった。まるで、自分にも双子がいた……そう言わんばかりの顔」


「あ、あなたは……」


「私は満月。人より色々とすごいってだけのただの双子のお姉ちゃん。私でよければ、話聞くよ。一人で何十年も抱え込んでるんでしょ?」


「……」


 心を読まれたかのような、満月の圧倒的な才能に当時は驚いた美恵子。初めは言うことを躊躇(ためら)った。見ず知らずのお客に言えるはずがない。

 新月と満月を止めた。


 それでも、場は満月に傾き、恵美子は自然と言葉を発していた。新月もそれ以降は口を挟まなかった。


「なるほどね。姉である美代子さんのためにできることはないか、と」


「姉さん、私たちで力になってあげられないかな? ここで働こうよ」


「そ、そんな、結構でございます! まだお若いのに!」


「私と姉さんは今は大学生。来年卒業で就職先を探していたところなんです。もし、私と姉さんを雇ってもらえるならば、何か力になりたいんです。ねえ、姉さん」


 満月よりも、新月の方が力になりたいという思いが強まっていった。美恵子の話を聞いていたら、次第に自分と似ている部分があるとも感じた。


「そうだね。家もここから近いし、給料も悪くない。特に働きたい場所もないし、じゃあ私もお願いしようかな」


 満月もあらゆる才能に特化しているが、それゆえ、働きたい場所などはなかった。何をしても等しく平凡。それなら、少しでも興味の持った場所で働きたいと思っていた。


「……ほ、本当によろしいのですか?」


「うん」


「ええ」




「こうして去年の春から、お二人をスタッフとして招き入れました。二人の働きはとても素晴らしく、接客としての飲み込みもとても早い。そして今日のために、三人で一ヶ月前から計画していました。沢村さんの怪奇現象を」


「それで、今日に繋がるわけか」




 三人で念入りにトリックを考えた。

 双子を使ったトリック。満月の才能。旅館沢村屋の歴史。

 全てを使って沢村さんという人物が引き起こしたかのようなトリックを。


「念入りに考えたトリック。いつもは多いスタッフも、今回は新月さんと満月さんの二人にして……あと今回、あなた方が初めてでして……」


「あれ!? 前のお客様方に、みたいに言ってたのは!?」


 立ち上がる可憐。




「それ以降、私共がこの話をお客様方にするたびに、夜な夜な化けて出てくるとか……」




 初めに女将がこう言っていた。この言い方ならば、毎回毎回、この沢村さんの怪奇現象を起こしていたということになるが……


「あれは女将の可愛らしい嘘でございます」


「嘘かいっ!!」


 嘘だった。

 少しでも沢村さんがいるという信憑性を高めるものだっただろう。


「美代子ちゃんの想いを受け継ぐ方法は、これしかありませんでした。ですが、あなた方全員の頭脳には敵いませんでした。完敗でございます……」


 肩を落とす女将。何日にも渡り考えた、このトリック。

 それを時間ギリギリとはいえ、この九人は力を合わせて解いて見せた。

 女将も少し悔しかったのだ。それは、新月と満月以上に。


 しかし、加賀だけ少し微笑んでいた。


「なーに言っちゃってんだか。あんたら、十分凄かったよ。あと数分遅ければ、時間切れで私たちの負けになってた訳だし。時間切れまで考えさせ、ここまで私を追い詰めたのは久々だったよ」


「……ッ!?」


 その言葉に女将は顔を上げ、加賀の方を見つめる。

 なんだか、少し救われた気がした。

 この子、本当は――


「要するに、今回の一件、ある意味では沢村美代子への恩返しみたいなもので私たちを使ったってことでしょ? ならいっそのこともう、これを企画としてやっちゃえばいいじゃん」


「企画……ですか」


 それは三人も考えてはいなかった。

 この一回だけすれば、沢村美代子への恩返しは完了する。だからもういいと思っていたが、加賀の突拍子もない発言に、三人は少し狼狽えている。


「ねえ、可憐?」


「そこでなんで私に振るのよ。まあ、企画ならアリなんじゃないかしら。ただ、やる場合勝手に部屋に入るのは、初めに誓約書のようなものを書かせてからにしてくださいね」


「そうだねー、流石に幽霊だから問題ないは無理があるかー」


「当たり前です」


 今回はなんだかんだ、幽霊の仕業ということにして可憐は見逃していた。こんなことを言いながら、本当は優しい一面もあるのだろうか。


「どうします、女将?」


 新月のその問いに、しばらく黙り込む女将。


「そうですね、もう少し、やってみようかしら……」


 その答えに、新月と満月は微笑んだ。

 これからは企画としてやってみよう。そう決意した三人だった。三人を見て、他の面々も微笑んだ。


「あれ? そういえば君……」


 満月はふとあることを思い出し、隆の顔を見る。


「ん? なんだ?」


「君の言っていた想い人のシャルロットって、そこにいるシャルロットだけど、そこにいるシャルロットではない気がして……」


 その言葉に一部の女性陣はハッと気がつく。

 昨日は疲れて忘れていたが、隆の想い人は『シャルロット』ということになっていたのだった。


「だから最初から言ってんだろうがあっ!! こいつはシャルロットたんの姿をしているだけのもどきで、拙者が本当に愛しているのはロジカルファンタジーに唯一無二として存在するシャルロットたんのみっ!! この拙者が言うのだから、間違いないでござあああるっ!!」


「……」


 場は一気に静まった。

 切り出したのは満月だったが、感動の空気が一気にぶち壊し。

 しかし、シャルロットはそれでも少し嬉しかった。


 想い人……


 自分のことを言われている気がしたから。

 それが本当は、自分のことだとしても。

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