女将の話なんだが?
ブーブー!
「うわあっ!!」
その瞬間、隆のポケットからバイブ音が。
予備のアダプタを繋げておいたおかげで、前のような爆発を招くこともなかった。
隆は取り出し、確認する。
【【旅館沢村屋のソレの話を聞き、八月四日を迎えるまでに真実を全て暴く:10000円 達成】
達成のお知らせ。何とか生き延びれたみたいだ。
「はあ〜……」
大きくため息を吐く。
時刻は八月三日。二十三時五十八分。八月四日にはなっていない。後二分遅く、八月四日を迎えていれば、隆は死亡していた。
これは、こいつら全員に感謝だな。
「勝ちってことは、明日ご褒美が!?」
(僕は命が掛かってたがな)
「そうだね。ねえ、女将?」
「……」
女将は目を瞑り、うっつらうっつらと頭を下げたり上げたりを繰り返していた。
「寝てい……る?」
「……」
「寝てんじゃん」
「……」
「これは寝てるね。女将! 終わりましたよ! 私たちの負けです!」
「んっ!? んああああっ!! 終わったか!? 寝ていた……」
大きく目を開き、目覚める。
それもそのはず、時刻は二十四時。この中で一番ご年配の女将が眠ってしまうのも無理はない。
「ほお……私らの負けか……では、明日の朝八時に土間に全員集まってくれぬか? そこでご褒美を渡す。あとは、この老いぼれの話を少し聞いてほしい」
「わかったよ」
「ではみなさん、今日はもう遅いので、お部屋でゆっくりとお休みください」
「そうしようか。もうヘトヘトだよ、僕は」
「私もよ。あとは各自、ゆっくり休みましょう」
「みんな、ありがとな。僕一人じゃここまで辿り着くことができなかった。本当に、ありがとう」
隆のその声に、全員はにっこりと微笑む。
加賀はウインクをし、親指を立てた。
――翌日――
無事、怪奇現象を人間のトリックで証明することができた一向。女将の言った約束通り、土間に九人は集まった。
そこには女将と新月、満月も。
「あれ? お二方、そのイヤリングは……」
新月の両耳には、三日月のイヤリングが。
満月の両耳には、満月のイヤリングが。
キラキラと輝き、綺麗だった。
「ああ、これ? 昨日はトリックのために外してたけど、いつもはしてるんだよ」
「見分けがつくようにですね」
「はえ〜」
二人は外見が瓜二つのため、間違われないようにイヤリングで分けていた。
実際、昨日これをつけていたらすぐに満月の存在はバレていただろう。だから昨日は丸一日外していた。
「で、ご褒美は!?」
「ほっほっほっ……これですよ」
紙袋から取り出された九つの洋菓子のようなものと紙のスプーン。
大きさも特別大きいと言うわけではなく、市販に売ってそうなゼリーの大きさほど。色は全て同じ、オレンジ色。
それを新月と満月が全員の机の前に置く。
「ゼリーですか?」
「ええ、マンゴーゼリー」
「なんか釣り合わなくない!? 昨日あれだけ頑張ったのにい!?」
実際、昨日あれだけ必死に推理した。そのご褒美がまさかのマンゴーゼリー一つ。これには、夕方からずっと楽しみにしていた美沙の肩が落ちるのも無理はない。
「そのゼリー、一つ千五百円でございます」
「たっかっ!?」
「まあまあ、食べたら飛びますよ……ほっほっほっ……」
一同は封を切り、スプーンの袋を破る。木のスプーンでゼリーを掬い、口に運ぶ。
「うっまーーーーーーーいっ!!」
美沙は目をキラキラさせて、美味しく味わった。よほど美味しかったのだろう。
結局、一番喜んでいるのは美沙だった。
「お前なあ」
「いや、これは本当に美味ですよ! 初めて食べる味です!」
「ここら辺で取れる、旨味が抜群に詰まったマンゴーゼリーでございます。みなさんに味わってもらえて、私どもは何よりです」
「それで、私たちに話ってなんですか?」
「ここの旅館の歴史について、みなさんに聞いてもらいたい話があります。私の苗字はみなさんご存知ですか?」
「……」
誰も答えなかった。
そんな中、昇龍は突然スマホを触り出し、何かを調べ出す。それは、旅館沢村屋のホームページ。
「沢村美恵子……あああああっ……!!」
「沢村って……! あんた……!!」
そこに載っていたのは、女将自身のプロフィール。沢村美恵子。これが彼女の本名。彼女はこの旅館に九人が来た時、沢村と名乗らず、美恵子とだけ名乗っていた。
あえて下の名を名乗ったのは、初めからこのためだった。
「ええ、沢村美恵子が私の本名でございます」
「じゃあ、沢村さんのモデルは、あなた自身?」
「……」
その言葉に、しばしの沈黙。
新月と満月の二人は、その言葉に互いに目を逸らす。
「いえ、それは違います。私ではないのです」
「どういうことだ?」
「私には双子の姉がいます。あれは、かれこれ五十年ほど前のことだったでしょうか。私と姉……美代子ちゃんはこの場所で生まれ、たくさんの思い出をここで作ってきました」
美恵子は昔の話を語り出す。
今から語られるのは、美恵子と姉……美代子との大切な思い出。
「当時おとなしい性格の私と違い、姉はとても活発な性格でして。いたずらっ子でしたよ。女性を見つけたら体を触るのが大好きな子で、服を脱がせるのが得意な子でした」
「女将」
新月の声で我に戻る美恵子。かなり思い出に浸っていて、若い子相手によくわからないことまで話してしまっていた。
「ああ、失礼。今でこそ隣はビーチですが、昔はそこで素潜りなんかもしましたねえ。小さい時から、あの時までは……」
隆たちが昼間遊んでいたビーチ。当時は漁業の一環として使われるものだった。
美恵子と美代子は、幼い時からそこで遊んでいた。たくさんの魚介類を摂り、海から見える景色を二人で見てきた。
「子供の頃、私と美代子ちゃんはここで夢を語り合った。二人の名前である沢村の苗字を付けて、旅館を建てたい、と」
「ねえ、美恵子。二人でここにおっきな旅館を建てない?」
「旅館?」
「うん! たくさん繁盛させて、たくさんお客さんを呼ぼうよ! 日本一有名な旅館にしてさ!」
「楽しそうだね。賛成!」
「よし! そうと決まれば、まずは二人でたくさんお金を稼がないとだね!」
「こうして私と美代子ちゃんの二人でお金を稼いで、念願だった旅館の建築が始まった。多少のローンだって組んだ」
二人は当時、汗水垂らしてお金を稼いだ。どれだけ辛くても、どれだけ大変でも、夢である旅館を建てるために必死に働いた。
そして、稼いだお金を合わせて旅館を建てることができた。
「あれはちょうど、新月さんたちと同じ歳の頃……」
「もう時期だね」
「うん」
「もし営業が始まったら、たくさんの女性が来るんだよね! 触り放題! 脱がせ放題!」
「美代子ちゃん、お客さんにそんなことしないでね」
「わかってるわかってる! 冗談だってば! でももし、私がいなくなることがあれば、私を幽霊として扱って、この旅館の伝説として受け継いで」
「何訳のわからないこと言ってるの? 変な冗談やめてよ」
「そうだね、ごめんごめーん! 営業が始まったら、二人で頑張ろう!!」
「……うんっ!」
「その会話の数週間後、美代子ちゃんは崖から足を踏み外して転落しました。その話が何か暗示させるものだったものなのかは、私にもわかりません。そこにあったのは、美代子ちゃんはこの世にはもういないという、事実だけ」
この旅館の崖からは断崖絶壁。そこに運悪く足を踏み外してしまった美代子は崖から転落。
早朝、海の上で遺体として発見された。
九人は息を呑んだ。話の流れからしてそんな気はしていたが、美恵子の姉である美代子はこの世にはもういなかったのだ。




