最後の証明なんだが?
水色のショートボブの少女。息を切らし、今にも倒れそうな体を、壁に手を当てて支えている。
「加……賀……」
「東條隆! あんたがそれらしき発言をしてそれを知ったことは間違いない! それはあんたも同じだよ、上条樹! あんたらはここに着いてからずっと二人一緒にいた! 二人でしか共有できない内容をあの人は知ってるってこと!!」
息を切らしながらも、盛大なヒントを伝える加賀。
「二人でしか共有できない……内容……」
「待ちなさい! 何で途中から来たあんたが色々と知ってるの!? タイミング良すぎだし、かなりそれっぽいしっ!?」
確かにそうだ。
この部屋にたった今来た加賀は、何を話しているかなんて検討もつかないはず。その内容をまるで初めからこの場にいたかのように回答し、その上、的確な意見を言っているようにも聞こえる。
「私くらいになればわかるのだよ……それと隆。さっきは悪かったね。借りは返したよ……ぐう……!」
ガバッ
息を切らし、倒れる体を赤城が駆け寄って支えた。
鼻血の出し過ぎかつ、頭に血が登りっぱなしの貧血気味でここまで来た。部屋で休むよう言われたが、それでも頑張って来た。
それほどまでに大事なことだと、加賀自身感じていたのかもしれない。
「部屋で休んでと言ったのに」
「いやあ……」
赤城の言葉に、苦笑いをする加賀。
隆は先程加賀が言った言葉を噛み締め、過去の記憶を辿る。
(考えろ……! どこかで発言したはずだ……! 思い出せ……!)
満月が知っていたのは確かだが、満月は『沢村さんから教えてもらった』と言っていた。
それはもしかすれば、満月は自分以外の誰かから聞いていた可能性が高い。
実際、満月がいること自体、さっき分かったくらい。
じゃあ誰から? 加賀を含めたもどきたちは、反応からして違う。もちろん、ずっと一緒にいた上条もだ。
そうなれば、可能性のある人物は二人。新月、女将。
この二人と僕が遭遇したのがいつなのかを考えるんだ……!
新月よりも女将の方が話した回数としては少ない。
であれば、まずはそこから。
女将と会ったのは、最初に土間に来た時から部屋の前までの時。温泉に入るように部屋の前に現れた時。温泉から出た時。そして今。
この中で僕がいつ、『もどき』の内容を出したのか?
いいや、そもそも出してなんかいない。
女将が現れた時、この場の全員が揃っている状態で現れていた。であれば、他のメンバーが気づかないはずがない。
じゃあ可能性として一番高いのは新月しかいない。
新月と会ったのは、最初に土間に来た時から部屋の前までの時。夕食を運ぶ時。二階で遭遇した時。温泉から出た時。そして今。
新月も女将同様、この場の全員が揃っている状態で現れていたことが多い。しかし、二つだけそうでないものが含まれている。
夕食を運ぶ時と二階で遭遇した時。
この時はどちらも、僕と上条だけが新月の前にいた。
だからこのどちらかの可能性でそれを知った可能性が高い。
しかし、どれだけ考えても『もどき』のことを口に出した覚えが全くない。何だ、何かが違う……後少しなのに……!
隆は必死に思考を巡らせていた。
加賀の意見は、確実に核心をついている。あとは隆が思い出すだけ。
さっきまで危機的状況が迫っているせいで、頭の回っていなかった隆だったが、今は違う。
もう少しで何かを掴める。その希望を胸に、また頭が回り出した。
違う。『もどき』で考えるんじゃない。
『シャルロット』……それすなわち、シャルロットたんで考えることがこの問題の肝となる部分でござったのか!?
ふっ……拙者はいつからもどきがシャルロットたんと同一人物だということを錯覚していたでござったのかねえ……
――研ぎ澄ませ……!!
思考が『シャルロット』たんを基盤として考えるようになり、普段の何倍もの回転速度で頭が回る。
普段はただのオタク思考が、ここに来て役に立つなんて誰が思うだろうか。
「お〜!」
「上条、お前な――」
「いや、多分忙しいし、いいって――」
次々の自らの発言がビデオテープのように再生されていく。
「ムヒヒヒヒヒヒッ……! ムヒヒヒッ……!!」
それはまるで、答えまでの道標を案内されているかのように。
――これが、推しへの愛がなせる技。
「ムヒヒヒヒッ……!! シャル……シャルロット……たあんっ……! ムヒヒヒヒッ……!! ムヒヒヒッ……!! ムッヒッ……!!」
「そういうことでござったか……ムヒヒヒヒ……ムヒヒヒヒッ……謎は解けたでござるよ……」
「隆さん?」
「……」
目を瞑り、いつも通りの気持ちの悪い笑みを浮かべる隆。その姿を初めて見る満月は少し警戒する。
他の面々はいつものことかと慣れていた。それと同時に、隆は何かを掴んだと考えていた。
「満月は新月により、拙者の想い人の名を聞いた! それは、夕食を運ぶ時! 拙者は彼女の名をそこで発したからなあっ!」
目を大きく開き、新月を指差す。
しかし、新月も黙ってはいない。
「私は聞いていません。仮に発言をしていたとしても、私はその時、部屋をすでに退出済みです」
隆のその言葉を発した時には、すでに新月は部屋を退出していた。部屋には隆本人と上条しかいない。
「無駄でござる! 部屋を出たと言っても、襖を閉めただけ! 襖越しから拙者のシャルロットたんへの想いを聞けば、それは聞いたも同然!」
しかし、新月の言う部屋の解釈は『部屋の扉』ではなく、襖の扉のことだとすぐさま隆は気づく。
襖は紙の扉。防音なんてものは一切ない。
「これが、拙者とシャルロットたんのなせる、愛の証明だあああああああっ……!!」
「ぐうっ……!!」
「よく言った、隆! 僕も思い出したよ。旅館を探索している時、隆は僕言った。『おい、元秘書っ!!』とねえ!」
「なあ上条よ……二人で走って探すなんて、だいぶ効率悪くないか……分断した方が早いって……」
「いや、その場合またどちらかが協力者なんて話になったらややこしくなるからね……だから二人の方がいいんだよ……」
「あとさ……スタッフルームとか厨房に隠れてる場合とかはどうなるの……あそこは入れなかったじゃん……」
「おい、上条……?」
「それは盲点だった!」
「おい、元秘書っ!!」
探索の時に、隆は上条にこのように発していた。
「その証拠にその後、僕らの背後に新月さんが現れた。僕らの会話を聞いていたっていうことだよね」
隆たちの背後には、階段越しに新月がいた。そこで新月がこの会話を聞いていても不思議ではない。
その後、これらの情報を沢村さん役の満月に伝え、満月がテレビ通話でこのことを伝えればこれらのトリックは人間でやったと証明できる。
「先に釘、打たせてもらったよ」
「くっ……! わ、私は――」
「せいかーいっ!!」
悔しそうに反論をしようとした新月に覆いかぶさるように満月は前に出て、手をパチパチと叩く。
新月のその姿はどこか必死に見えた。
「ね、姉さんっ!? いいのですか!?」
「ここまで言われちゃ、反論できないよ。君たちの言う通り、私は新月から聞いた。それをテレビ通話で伝えた」
「……」
新月は目を瞑り、観念したようだ。
「私たちの負けみたいだね。おめで――」
「待ってください!!」
満月の言葉を今度は新月が遮る。
すでに全ての怪奇現象はこの場にいる九人が力を合わせて証明した。だからすでに彼らの勝利は確実のもの。
それでも、新月は聞かなくてはならないことが一つあった。
――想いを受け継ぐためにも。
「この旅館に沢村さんは、何人いると思いますか?」
「……」
目線の先は隆。隆は最後に新月と大きくぶつかった。
だからこの質問の回答者を隆にした。
「四人、だろ?」
その答えに新月は大きく笑い、小さく涙をこぼした。
「はい……ありがとう……ございます……!」
その質問の意図。そして、隆の解答。これらが何を意味するのか。
互いの思うことは違えど、間違ってはいない。
それが、スタッフ三人が沢村さんとなり、トリックを仕掛けた意味なのだから。




