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三人目のスタッフの正体なんだが?

 スタッフルームの扉が開かれ、現れた新月と同じ容姿の女性。顔、身長、服装。どこを見ても新月と瓜二つ。


「君たち全員、頭いいね! そうだよ、私が新月の姉の満月。君たちの言っていた三人目のスタッフだよ」


 やはりいた、三人目のスタッフ。

 その正体は、新月の双子の姉、満月。

 しかし、まだ状況が飲み込めていない人も数名いた。


「え? あ、姉……?」


「じゃ、じゃあ、これまでの推理は本当に……」


「うん、全部正解。筋が通ってるどころか、全て君たちの推理通り。テレビをつけたのも私。二階に現れたのも私。ドアロックも、紙を配置したのも、テレビの中継に現れたのも、ぜーんぶ私! 女湯のノックもね」


 左手に手を腰に手を当てて、自信満々に答える満月。

 筋が通っているどころか、全て正解を導き出していた。


「うーわ。普通に不法侵入じゃん。あと私が言うのもあれなんだけど、ピッキングを本当に使ってたなんて」


「いやいや、不法侵入じゃないよ。私自身が沢村さんという幽霊。幽霊が部屋に勝手に入っても、犯罪じゃないでしょ?」


 ポケットに手を入れ、銀の棒状のものを指巻きつけ、くるくると回転させる。

 美沙も似たようなできるこのくるくる。満月も明らかピッキングに慣れているように見える。


 当たり前だが、幽霊が部屋に勝手に入っても犯罪にはならない。その幽霊というポジションに着くことにした満月。


「ヤバすぎでしょ、この人。可憐ちゃん、いいのー? これ明らかな不法侵入だよー?」


「い、いいんじゃない……幽霊なら……」


 ほぼ投げやりな可憐。幽霊のことになるとうまく思考が働かないようだ。

 それを見て呆れる赤城。可憐の言うことならば、従うかという目を可憐に送っている。


「えー!? いいのおー!?」


「というかそもそも、君たち全員が了承したから部屋に入ったんだよ。あらかじめ、密室が起こることは説明したでしょ」


「ま、まあ」


「待て。私は今でもこの状況を信じれていない。あなたは明らかに新月さんのように見えました。料理を運んだのもあなたなら、声で気がつくはず」


「あーしもだ。ピッキングに関しちゃ、便利屋の美沙ができるのは納得できるが、何であんたまで……」


 二人の言っていることも納得できる。

 もし本当に女性陣の部屋に夕食を届けたのが満月ならば、その時に声で気がつくはず。実際、彼女の地声は新月よりも少し高い。

 気が抜けていたというのもあるが、天才ばかりがいる女性陣が誰一人として気が付かなかった。


 ピッキングに関しても同様。普通の人間ができる技などではない。実際、九人の中でもそれが可能なのは便利屋である美沙のみ。


「満月姉さんは、あらゆる分野において天才的な頭脳を持っています。そのことを少し真似するだけで才能と呼べるほどの実力を身につけることができる人間です」


 少しの間黙っていた新月が口を開く。


「え!? ガチな天才!?」


「まあね〜。自信あったんだけどなあ〜。やっぱ、若い子には勝てないや」


「結局、沢村さんは初めからいなくて、全部あんたの仕業ってわけか。これで全て正解したってこ――」


「いるよ」


「ふぁあ!?」


「だからいるんだって、沢村さん」


 その瞬間、何かがおかしいことに気がつく。

 副業達成の通知が来ない。満月が全て行った時点で真実に辿り着いたのではないのか?

 まだ何か、重要なでかいもの隠している。


 隆の額から、変な汗が流れ落ちる。


「な、何言ってんだよ……」


「確かに君たちが言った一連のことは私の仕業。でもさ、どうやってあのことを知ったの?」


「あのことって……なんだよ……」


「東條隆、上条樹。この二人の情報」


 ニヤリと微笑む満月。


「……っ!?」


「そうだった……まだそれが解決していない……」


 紙が配置された方法はすでに正解している。しかし、紙の内容についてはまだ解決されていない。


 隆には『想いを馳はせている女性』、上条には『職業』とテレビ通話の時に満月が言っていた。

 そして、隆に向けた紙には、『シャルロット』と。上条に向けた紙には、『秘書』と書かれていた。

 この二つのことを宣言できる人物なんて限られている。ましてや、美沙や可憐たちですら知らないこと。


「じゃあ、どうしてあんたはあれを宣言できた?」


「実は、沢村さんから教えてもらったの」


「何だよ……それ……」


「沢村さんは全てを知っているからね。君たちのことも、全部。ぜーんぶ……ふっふふふふふふふふ……」


 テレビ通話の相手は満月であることに変わりはない。それは本人も言っている。しかし、なぜそれを満月が知っていたのか。

 満月はそれを、『沢村さんから教えてもらった』と言い、沢村さんの存在を主張。

 ここを突破できなければ、真実に辿(たど)り着いたことにはならない。


「あの、満月さん」


「何かな?」


「隆さんの『想いを馳せている女性』っていうのは誰のことなんですか? 知ってるんですよね?」


 真偽はどうあれ、満月はそのことを知っている。しかし、隆はこのことを女性陣には誰一人教えていない。

 そもそも、事実とは異なるから教える必要もない。

 だからこそ、シャルロットは気になっていた。


「うん、知ってるよ」


「「「「「「誰ですか!?」」」」」」


 一同は満月に問う。

 満月は隆の方を向いた。


「教えていい?」


「言うなよ!! ていうか、根本的にそんな奴などおらん!!」


「またまた〜! 強がっちゃってえ〜! 可愛いねえ〜! これを機に、私が背中を押してあげるぞお〜?」


 ニヤニヤ笑う満月。

 隆からしたら、完全なるとばっちりで余計なことでしかない。


「いねえっつってんだろうがあ!!」


「隆、時間」


 冷静な声で上条は(つぶ)いた。

 時計を見ると……


「……っ!?」


 時刻は二十三時、二十六分。

 二十四時のタイムリミットまで、残り三十四分。


 ……


 ……


 ……


 やばいやばいやばいやばい……!!

 死ぬ死ぬ死ぬ死ぬう……!!


「人間のできるトリックだって……宣言すりゃあ、いいんだろ……!!」


 鋭い目つきで覚悟を決めた隆。


「そうだね。それが可能ならば、だけど」


「みんなも頼む!! ここが最後の関門なんだ……!!」


 七人に顔を向ける。隆はここまでこれたのは、ここにいる全員のおかげだと言うことを噛み締め、言葉を発した。

 それを見て、全員が微笑む。


「もちろんだ」


「まあ、ここまできたしな!」


「やれやれ」


「これを正解したらご褒美が貰えるんだよね!?」


「仕方ないから力を貸してあげるわ」


「やりましょう!」


「僕も最後まで諦めないよ」


「お前らあ……!!」


 隆の目からは涙が今にも(こぼ)れ落ちそうだった。

 ここまでの頭脳派がいて知恵を振り絞れば、真実に辿(たど)り着くことができるはず……!


「よし、やろう!!」


 こうして一同は考える。

 どうやってその情報を得たのか?なぜそれを知ったいるのか?何か重要なことを見落としていないだろうか?


 ――しかし。時刻は二十三時四十七分。


「ダメだ……わかんねえ……」


「ご褒美い……」


「くっ……何だ……何かを見落として……」


 必死に考えたが、誰一人わからない。あの上条ですら行き詰まっている。他の面々も溜まりに溜まった疲労でうまく思考が働かない。

 何より、一番の関係者である隆自身はあと十数分でバングルが爆発するという恐怖もあり、冷や汗が止まらない。


「皆様、お疲れ様でした。我々の謎をここまで解けたこと、賞賛(しょうさん)いたします」


「そうだね、ニアピン賞あげちゃう? 飴ちゃんだけど!」


 スタッフの二人は悠長なことを言っているが、隆にとっては言葉通り命懸け。

 だからこそ、隆は誰よりも必死で考えたのに、もう何も思い浮かばない。

 もしかすれば、沢村さんが本当にやったのではないのか? 初めから満月がやったことも、全て沢村さんの仕業なのではないのか?

 余計な方ばかりが頭をよぎり、さらなる思考の邪魔をする。


 上条も隆のその様子を見ていた。

 いつもなら強く手助けしていた上条も、ここまでくればもう力になることができない。

 何か言ったところで、気休めにしかならない。

 もしかすれば、気休めにもならない。


 あと数分で隆は死ぬのだから――


(くっ……! 僕はまた……!)



 バンッ……!!



 その瞬間、凄まじい音が扉から聞こえる。満月が扉を開けた時よりも、さらに大きい音。


 誰かがまた入ってきた。

 しかし、そんなのもう、誰だっていい。

 ここにいる八人よりもこの状況を打破できる可能性の高いやつなんてこの旅館にはもう――


「思い出せ、東條隆っ……!! あんたが全ての鍵を握ってんだよっ……!!」


「……っ!!??」


 声のする方を見上げる。そこには、ふらふらの状態でここまできた彼女がいた――

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