他にいないんだが?
ここまでは至って順調。ここにいる八人で正解を導き出してきた。上条も隆を生かすたまに必死に頭をフル回転させている。他の面々や、隆も同様。
しかし、新月のその表情は……
「ふっ……」
余裕そうに小さく苦笑いをしていた。解かれた謎は半分超えている。それでもこの余裕。
一体、なんなのだろうか?
「では、こちらから提示します。東條隆様は私に似たような人物を見かけたと言っていましたね?」
「ああ」
隆と上条が温泉に入る前に旅館内を調べていた頃、二階で新月らしき人物を見た。その人物は廊下の死角となる場所に消えたが、そのすぐ直後に隆の背後から新月が現れた。
新月の立っていた場所は、一階から登る折り返し階段。
そしてもう一人の新月らしき人物がいた距離は、約十三メートル。
それが一瞬にして、隆と上条の後ろに姿を現した。
「あれは沢村さんがこの私に化けて現れたのです。それはどう証明されますか? あの場には上条様もいらっしゃいましたね。先に宣言しておきますが、集団錯覚というのはなしですよ」
「くっ……!」
先制で釘を打たれた隆。その場にいたのが隆だけの場合、それも通じたのかもしれない。
隆はビーチでの疲労がある。実際、過度な疲労で幻覚を起こす場合もある。
しかし、その場には上条もいた。
その場、二人揃って幻覚を見ていたということになる。そのことを先に気づいた新月は釘を打ったのだ。
「上条、どうだ?」
「僕もそこだけがわからない。瞬間移動したなんてあり得ないし、分身した……なんてのもないよね。もちろん、沢村さんが化けたなんてこともあり得な――」
「いいえ、沢村さんが化けたんです」
強く出る新月。
「あの距離を一瞬で移動するには、この旅館の設計的にも私の脚の速さでも不可能。つまり、沢村さんしかあり得ないのですよ」
(……なんだ? さっきの上条の言葉に違和感が……)
何かに気がつく隆。
「上条、さっきなんて言った?」
「え? 沢村さんが化けたなんてあり得ないってやつ? そりゃそうだよ。僕も冗談半分で――」
「そこじゃない! その前だ!」
「分身したなんて――」
「それだ!! 分身なんだよ!!」
「「「「「「「「「……っ!?」」」」」」」」」」
その場にいた九人全員が驚きを隠さずにいた。
隆は決して冗談なんかで言っているのではない。核心のある、強い声で。
「ふふっ……ふふふふふっ……何を言い出すかと思えば。言ったでしょう、人間のできるトリックでと。それはもうほとんど、沢村さんがいると言っているようなものです」
「ああ、わかってる。だが、なぜかこれが何か一番しっくりする気がするんだ。何か違和感のようなものが……」
「まーたお兄ちゃんは適当なことばっか言って」
「……」
分身とは、もう一人の人物を出現させること。
そんなことが可能なのは、現代の一般人には存在しない。かつては忍などの存在がそれを可能としたかもしれないが、それは一般論からは外れている。
しかし、その違和感がどうしても頭から離れない。
「違和感といえば隆さん、天空城さんのメモの時にもそんなようなことを言っていましたね。引っかかるとか。あれはなんだったのですか?」
「……っ!? 天空城! さっきのメモ、もう一回見せてくれ!」
シャルロットのその言葉を聞いた瞬間、何かが頭の中で閃き出した。隆はそれを掴み取り、その時の状況を整理。
「メモ? これのことか?」
天空城からポケットからメモを取り出し、隆に渡す。
【メモの内容】
17時30分:旅館に到着(以降は部屋で美沙、加賀、シャルロットはテレビを見る。昇龍、赤城が話す。天空城、可憐が話す)
17時55分:加賀のみが部屋に少しの間残る(扉の施錠は可憐)
18時00分:土間に東條隆、上条、女将さん、新月さんを含めた十一名が集まる
18時30分:全員が部屋に戻る(可憐が鍵を使って部屋の扉を開ける)、天空城が退出
18時55分:天空城が戻る
19時00分:料理が運ばれる(この時、加賀が料理の説明を受ける)
19時20分:全員が食べ終わる、シャルロットが退出
19時25分:テレビがついていたことに加賀が気づく
メモの内容は、旅館に着いてからテレビがついていたところまでのもの。テレビについては既に正解を出している。
だからもちろん、注目すべきはそこではない。
「おかしい」
「?」
「この時間は間違いなく、全て正確なものなのか?」
「私が覚えている限りでは間違いなく正確よ」
これを書いたのは天空城だが、天空城は可憐な指示通りに書いただけ。内容自体は可憐の発言の元。
「私が保証します。可憐は仕事の関係上、暗記能力も優れています。つまり、そこに書いてある内容は信憑性の高いものです」
赤城も可憐の発言は信憑性の高いものだと指摘する。
一番近くで可憐を見てきた赤城が言うのだ。間違いはない。
「じゃあ、尚更おかしいんだよ」
「何がおかしいんですか?」
新月はそのメモがどう書かれているかはわからないが、隆が違和感を強く感じていることは察しがつく。
「『19時00分:料理が運ばれる(この時、加賀が料理の説明を受ける)』。この説明をした相手は誰だ?」
「新月さんよ。あと、料理を持ってきたのも」
「つまり、その時そっちにいたのはあんたただ一人。じゃあ、僕と上条がに料理を運んできたのは誰なんだ? あの時、僕らも十九時ほぼジャストだった」
「どういうことだ?」
「女性陣側の部屋と、彼らの部屋。この二つの部屋は、新月さんの手によって同じ時間で運ばれている。不可能なのよ、二つの部屋に新月さんが同時に現れるなんて」
十九時ちょうど、両部屋ともに新月が現れ、料理を運んでいた。片方が本当に新月ではなく、女将の場合なら話はわかる。
隆は最初にメモを見た時から、女将が料理を運んだとは思ってはいなかった。なぜなら、料理を運ぶキッチンワゴンで計九つの料理を運ぶ場合、同じグループであり、七つプラス二つを一気に九つ持ってくる可能性が高いため。
だから新月と女将で、わざわざ分けて各部屋に運んだとは考えず、新月一人で運んだと考えていた。
しかし、二つの部屋に現れたのはどちらも、新月の姿をした人物。こうなれば新月一人という話もまた変わってくる。
「ふっふふふふふっ……では、紫様が言った言葉が本当だとしましょう。では、東條隆様の発言は本当なのでしょうか? そちらの部屋に行ったのは、本当に十九時ちょうどだったのでしょうか?」
例え女性陣の部屋に本当に十九時に着いたとしても、その後に新月が隆たちの部屋に来た可能性だってある。
可憐がどれほど優れているかは新月にとっては未知数だが、どちらかの発言を嘘としてみれば簡単なこと。
その標的を隆に定めた。
「そんなものは関係ない。大事なのはここからだ。そのあと、加賀は新月から話を聞いたっていうことだよな?」
「ええ、聞いていたわ」
「上条、お前も似たようなことしていただろ?」
「そういえばしてたね。料理の話」
「……っ!?」
新月はようやく、ことの重大さに気がついた。これは明らかなミス。しくじり。ほぼイレギュラーな自体。
「その間はざっと五分はあった。もちろん、時間を見誤ったといえば僕の負けだ。だが、それほどまでの時間をこっちが覚えていないと思ったか?」
「くっ……!!」
歯を食いしばり、敗北を滲ませる。
「え、何? 僕知らない間に役に立ったってこと?」
「ああ、そういうことだよ。こりゃ、加賀にも感謝だな」
そのまま運ぶだけなら、隆が時間を見誤ったという、誤差の範囲内でこの場は流されたが、二つの部屋で偶然にも料理の説明が行われていた。
女性陣側の部屋でどれだけの時間説明があったかはわからないが、隆たちの部屋だけ見ても、それだけの誤差はどうあがいても修正できるものではない。
「そしてこのことから一番重要なことがわかる。三人目のスタッフの正体、それは――」
全員が隆の発言に集中していた。
もはや、隆には答えが見えている。
「あんたの双子なんじゃないのか?」
「……っ!?」
反論する余地を失い、黙り込んでしまった。
まさか、あっちでも同じことが起きていたなんて。そして、それを機にここまで……
「どうした? 黙ってるってことは、合ってるってことでい――」
「その通りでえええええすっ!!」
「「「「「「「「……っ!?」」」」」」」」
バン!と凄まじい音が部屋中、いや、廊下にまで鳴り響く。その瞬間、スタッフルームの扉が勢いよく開かれ、新月と瓜二つの人物が笑顔で入ってきた。
「姉さんっ!?」




