謎の生命体Xの正体なんだが?
新月は不正解と言った。
先程隆が言った問いに関しては正解と言ったのにも関わらず、今回は不正解と。一体、何がダメだったのか。
「まあ、そうだよね」
「え?」
「だって、過程が一つ足りてないんだもん」
上条は既に気づいていた。さっきのは半分ダメ元のようなもので言っただけ。とはいえ、さっきの意見も間違ってはいない。というか、全て合っている。が、何かが足りない。
だから不正解と出た。そう上条は考えていた。
「その生命体Xは、一度も足を床に付いていないはずがありません。外の地面はジメジメしていて、簡単に土が足に付いてしまいます。ですが、どこも綺麗だった。さあ、どうしてでしょう?」
笑いながら言う新月。
「「……」」
これも上条の間では最初に疑問に出ていた。
外は土と木で覆われている。
もし、暖簾をロープがわりに使ったとしても、脱衣所までは絶対に足をどこかでつけるはず。ならなぜ、土がどこにもつかなかったのか。
上条と赤城は考えた。しかし、何も思い浮かばない。
これしかないはずなのに、一つだけ欠けているせいで正解にならない。
一体、どうやって……
「外の木を使って窓まで飛び跳ねた! なんつってな!」
「それだ!」
「それです!」
「え? 今あーし、冗談で言ったんだけど」
昇龍は本当に冗談で言っただけ。
「木に登ってそこから飛び跳ねれば、窓から侵入できます! さすがは昇龍さん!」
「あはは……て、照れるぜえ……」
顔を赤らめる昇龍。
地面が床なら、そこに生えているいくつかの木を使って飛び跳ねた。それなら地面に土がつくことがなく、窓から侵入することができる。
あとは上条たちが言った通りの動きをすれば、完璧だった。
「では、その生命体Xの正体はなんでしょう? そんなことができる生命体は、限られてきますよ」
そもそも、生命体Xと呼んでいたこの正体は一体なんなのか?
木に登ることができ、体重も軽く、身長もそこまでない。
人間や鳥類ではないことは確か。
――だが、上条には見当が既についていた。
「猿だよ」
「猿?」
「旅館の北には山があって、猿がいる。これは、新月さんが教えてくれたことですよね?」
「そうそう、たけのこといえば、自然。この旅館の西はビーチですが、北には山があるんです! なんでも、お猿さんがいるとか!」
「お猿さんだって!? お猿さんって、あのバナナをあげたら喜ぶと噂の、あのお猿さんっ!?」
「そうです! あのお猿さんです!」
「な、なんだってー!」
土間に集まったあと、上条は新月を止めて説明を受けていた。その時に、「お猿がいる」と新月の口から聞いている。
上条はこれを覚えていた。
猿ならば、木も登れる上、体重も身長も、子猿ならば満たすことができる。条件に全て合致するのだ。
「ふっふっふっふっふっ……」
不気味な笑みを浮かべる新月。
その瞳で上条を見つめる。
「……」
「正解です。これで二つ」
新月は一瞬にして満面の笑みになった。
「ふう……」
「よし! やるじゃん、お前ら!」
「まあね……なんとか……」
「相当神経使いましたよ」
大きく息を吐く上条と赤城。この二人を中心に、なんとか女湯の一件は正解した。しかし、まだ残っているのもある。
タイムリミットも刻々と刻まれていく。休んでいる暇はない。
「じゃあ次は、僕らの部屋だ。僕と上条は長い間、部屋を出ていた。そのため、かなり時間がある。その隙にスタッフの誰かが鍵を開けて侵入し、三枚の紙を貼った」
鍵を開けら方法は、テレビの時と同じ。その隙にスタッフが紙をそれぞれの場所に配置した。これは、ある程度予測できていたこと。
「テレビに関しては、その時に別の場所に設置してあるカメラと連動させて、中継のような形にした。現に、テレビ通話になってたしな。あとはそのカメラに黒い布か何かを被せたんだ」
隆と上条のテレビに映し出されていた沢村さん。
正体は見えずとも、声は聞こえていたため、カメラのレンズに黒い布を被せた。何か揺れているように見えていたのは、このせいだろう。
「僕がわかるのはこれだけだ。でも、これだけじゃどうせ不正解なんだろ?」
「ええ、不正解です」
「だよなあ」
わかっていたことだが、不正解だった。
「なんで不正解なの?」
「ドアロックだ。あれは内側からしか掛けられない」
問題はドアロック。内側からしか掛けられないため、その人物は中に取り残されることになってしまう。加えて、窓から出た形跡もない。
「扉をすり抜けた!」
「不正解」
「ワープした!」
「不正解」
「勝手にしまった!」
「不正解」
「ロジカルファンタジーに消えた!」
「よくわかりませんが、不正解」
「隆それもう、沢村さんがいるって言ってるようなものだよ」
これらが可能なのは、今回で言えば幽霊である沢村さんしかいない。それを否定するためにやっているのに、やけになって認めていた隆。最後のに限っては、もはや関係ない。
隆の意見はともかく、どうやって侵入したのか。
新月は自身ありげにニヤリと笑った。
「ねえ、新月さん? 世の中にはこういうのもあるよね?」
「……っ!?」
美沙は言葉を発しながら、ポケットに手を入れ、銀の棒状のものを指巻きつけ、くるくると回転させた。
「そ、それは……!!」
「ピッキング機材。もしかして、これ使って部屋にドアロックを掛けたんじゃないのお〜? ま、そのあと部屋開けたのは私だし」
ドヤる美沙。
「くっ……せ、正解……です……」
……
……
「……」
意外とあっけなかった。
ドアロックを閉めたのはスタッフによるピッキング。本来は内側からしか掛けられないドアロックだが、ピッキングならば外側からでも掛けられる。
これならば隆たちでも解けないと自信を持って思っていたが、便利屋の美沙がいて全てが崩れた。
便利屋、恐るべし。
しかし、新月にはまだ切り札が残っている。
――とっておきの。
「待って!! じゃあ、さっき私が見た白い顔をしたお婆さんは!? あれは間違いなく幽霊よ!! 沢村さんはいるのよ!!」
女性陣たちで移動した際、ここに来るまでに可憐が老婆と出会っていた。それは可憐しか見ていないが、確かにいた。
「それの正体も既に証明済。この旅館にはスタッフは三人いることは間違いない。女将さん、新月さん。そしてまだ見ぬ三人目のスタッフ。隆ならわかるよね、そのお婆さんの正体が」
ニヤリと笑い、隆の目を見る。
「ああ、あんたなんだろ、女将」
「……」
鋭い目つきで女将を見る隆。女将は黙って真剣な顔つきでいた。
「僕と上条のところに掛かってきたビデオ通話。あれはあんたら二人の声じゃない。そして、僕と上条がここに着いた時には既に新月がいた。その後、何食わぬ顔でこの部屋に一番最後に入室。つまり、その老婆の正体は女将だ」
「……」
消去法にはなるが、この可能性が一番高い。もちろん、四人目、五人目のスタッフが、隆たちの入らない部屋のどこかに隠れていたという可能性も万が一にはあるが、筋が通っているので問題はない。
「じゃ、じゃあ、女湯から声がしたのは!?」
「それは、その三人目のスタッフなんじゃないでしょうか? 鍵を内側から掛けて、我々が向かうまで女湯に潜んでいたのでしょう」
内側から扉を施錠すれば、開けることは不可能。
しかしそれは、自分もまた女湯に閉じ込められることを意味する。そのため、女性陣たちがどこかに行くまで女湯で待機している必要がある。
「さあ、どうだ!?」
「……ほっほっほっほっほっ……ここまで言われれば否定はできませんねえ……」
「……」
「正解です」
「はあ……」
ここまでは何とかなってきた。八人の知恵を振り絞って正解を導き出せた。だが、まだ終わりではない。
まだ残っている謎がある。
時刻はまもなく二十三時を迎えるところ。制限時間も残り、一時間を切った。二十四時を過ぎれば、爆発。
――隆はその運命を変えることができるのか!?




