女湯の犯人なんだが?
怪奇現象は一つ正解だった。
テレビがついたのは、十二人目であるスタッフがマスターキー、もしくは合鍵の類のものを使用し、入室。その後はテレビをつけ、部屋から出る。そして部屋の扉を下の状態に戻すため、施錠した。
つまり、今回のことに関して言えば、加賀は無関係。彼女は何もしていなかったのだ。
しかし、筋が通っていれば正解というだけ。
実際はその過程自体が間違っている可能性だってまだある。
「じゃあ次はあーしだ」
昇龍が声を上げる。
「女湯での一件、あんたらスタッフはあれを見てどう思った?」
女湯での一件とは、入れ替えられた暖簾、衣服の消失、謎の生命体のことを指す。
昇龍がこんなことを聞く理由があった。
謎の生命体は置いておいたとしても、暖簾の入れ替えや衣服の消失は新月と女将の二人さえいれば余裕で行えるため。
しかし、スタッフがそんなことをわざわざするわけもない。仮に三人目のスタッフがいても、同様。
だからとりあえず、意見だけを聞きたかった。
「正直、私も最初は驚きました。これは本当です。でも、沢村さんの仕業だなと次第に思えてきたんです」
「ええ……私どもはお客様に対して決して、そんなことは致しません!」
二人の顔を見る限り、嘘は言っていないように見えた。じゃあ、新月の言う驚きとは、何に対しての驚きなのか。
そこが何か、重要な何かを握っている気がする。
「おい、上条。お前、外部から侵入した人物Xとか言ってなかったか? あれどうなったんだよ」
もう暖簾を入れ替えたと思わしき人物は全員やってないと見ていい。スタッフはアリバイこそないが、彼女たちも違う。そうなれば、外部から侵入した人物Xしかいないとなる。
この旅館には、このスタッフルームを除けば、それらしき人物はいないことは、隆と上条が既に証明済。
しかし、その後に女湯での一件が起きた。
もしかすれば、この旅館にその人物がまだいる可能性だって十分にあり得る。
「うん、人物Xは窓から侵入したのに間違いはない。そして、女湯の暖簾を入れ替えたのは好意ではないはず……」
「どういうことだよ? 大体、窓から侵入したら足跡とかつくはずじゃ……」
「人物Xは窓から侵入した後に、床につかずにすぐ隣にある女湯の暖簾に捕まったんだよ。そして、暖簾にしがみついてターザンように滑って降りたんだ」
次々と冷静に推理を語る上条。上条はあれからもあらゆる可能性を考えていたが、思いついたのはこれだった。
「待て待て待て! さっきから何言ってんだ!? 暖簾なんかに人が捕まってもそんな耐えれるほどの耐久力ねえだろ!」
それもそのはず、暖簾は布製。人一人が地面に足をつかずに体重を全てかければ、破れるのは間違いない。
この中で一番軽い美沙ですらそうなるだろう。
それに加え、ターザンのようにと言った。
地に足をつかず、それだけ動かせられるのは、かなりのスピードがあり、なおかつ超軽量の人物ということになる。
「そうだね。それが人間なら、ね」
「……っ!?」
「人間以外ならそれが可能なんだよ!」
「「「「「ええっ……!?」」」」」
「……ふっ……」
「ほおっ……」
上条の言葉に、一人を除いた全員が驚く。
それに加えて、スタッフの二人はどこか関心していた。
「話を戻すよ、人物X……いや、生命体Xは窓からものすごいスピードで入ってきて、女湯をターザンのロープ代わりに使用! その反動で、男湯についてあった男湯の暖簾は軽く吹き飛び、ダンボールの後ろへ。そして男湯の前には女湯の暖簾が置いてあった、という寸法さ!」
バシッと人差し指を新月と女将に突きつける。
ダンボールの後ろにあったのは、隠すためではなく、偶然吹き飛んだだけだった。
――が、しかし。
「その後、その謎の生命体Xは女湯の扉を自ら開け、レディたちの服を全て隠した! そして女湯にも入って――」
「おいおいおい、待て待て待て!」
「何、隆?」
「さっきの話は百歩譲って納得いった! けど、わざわざスライド式の扉を開けて、さらには服を隠しただあ? そんな知能の高い生命体、いるわけないだろ!」
一様さっきの窓から侵入して、女湯の暖簾が移動したまでは渋々納得した隆であったが、そこからのことは納得がいかないようだった。
そもそも、その生命体Xの身長がどれくらいかはわからないが、暖簾をロープ代わりにできるということは、相当軽いと思われる。
その身長差で扉の戸まで届くとも思えない上、開ければ自動的に閉まるようにもなっている。その隙に脱衣所に入った?
そして極め付けは、その生命体Xが服を隠したとも言っている。実際に隠されたその様子は見てはいないが、相当苦戦して見つけたと美沙から聞いている。
そんな見つからずに隠すことができるのか?
「そんなの知らないよお〜。考えたけど、これしか浮かばないんだもーん」
「はあ……あのなあ、上条。そんなことができたら何でもあ――」
「上条樹の言っていることは間違いありません」
その時、ずっと黙っていた赤城が。
「赤城ちゃん!?」
「そういえば赤城さん、情報を掴んだ、みたいに言ってましたね」
「ええ、現場の状態は既にお聞きしました。これで、私が掴んだ情報を見せることができます」
赤城はポケットからポリ袋のようなものを取り出した。それを前に突き出す。そこには、細い茶色の毛がいくつか入っていた。
束になっているからわかるが、一本一本はかなり細い。
全員の注目がそこに集まる。
「これは、温泉内で見つかった証拠です。あそこで出会した謎の生命体は暴れ回っていたので、幾つも毛を落としていたのでしょう」
「でも、私が温泉内を探した時は一本もそんなもの見つからなかったぞ」
女湯を調査した時、天空城は温泉内を担当していたが、証拠らしきものは一つも見つからなかった。
「私が全て回収しましたから」
「流石ね、赤城」
「管理局ナンバーツーならば、このくらい造作もないです」
なんと、赤城は落ちていた隈無く、一本も残さずに毛を全て回収していた。可憐は「流石」と評価する。
こう言う時の赤城はかなり役に立つ。それは可憐や加賀が一番よく知っている。これが、管理局ナンバーツーの力。
「では私が続きを。その後、生命体Xは女湯に扉を開けて入り、私たちのタオルを剥ぎ取るなどの行為をして逃げていきました」
生命体Xと、女湯で暴れた謎の生命体は同じ個体。なぜタオルを剥ぎ取ったのかは不明だが、これで辻褄が合う。
「シャルロットさん」
「はい」
「謎の生命体から逃げる際、あなたが一番最初に脱衣所に着いていたはずです。その時、脱衣所の扉は開いていましたか? 記憶力のいいあなたなら覚えているはずです」
シャルロットは以前、階段の段数を暗記していたと加賀から
シャルロットは目を瞑って思い出そうとする。
だからもしかすれば、覚えていると赤城は考えていた。
「あ! 開いていました!」
シャルロットは思い出したかのように目を開いて言った。
開いていたのだ。あの時、扉が。
「やはり。これで加賀の言っていたこととも辻褄が合うものです」
「みんな、すごい……」
「では、これでトリックの宣言がいけるのでは?」
ここまでの過程は、上条と赤城、シャルロットが繋げてくれた。ここまでくれば、トリックが通るはず。
そう思った矢先――
「不正解です」
「「「……ッ!?」」」




