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沢村さんの真実開始なんだが?

 涙目で老婆の姿を見続ける。急いで体制を立て直し、慌ててその場から逃げる。高速で来た道を戻り、階段を駆け降りる。一階に着くと、階段付近にすでに五人が待機してくれていた。可憐が戻る頃には、浴室から鳴る不気味なノックの音は消えていたのだ。


「今っ! 今白い顔をした幽霊がいたのおおおおおおおっ!!」


 座って泣き崩れる可憐。どうしたものか。


「可憐、さすがに疲れているのでは……」


「本当なんだってば!」


「では、みんなで行くか」


「嫌! 私は嫌よ!」


 可憐は見ているが、他の五人は見ていない。可憐が嘘を言っているとも思えないが、どんな姿なのかが全く想像がつかなかった。これも怪奇現象に入れるならば、可憐しかその情報を知らないことになる。

 ならば真実に辿(たど)り着くため、確認する他ない。


「大丈夫です。私が可憐さんの右手を握ります」


 天空城は左手を差し出した。


「……っ!」


 黙って天空城の左手をぎゅっと握る可憐。可憐は起き上がり、天空城は微笑んだ。


 六人は階段を登る。


「可憐さん、どのあたりですか?」


「確かここから少し先のところだけど……」


「いねえぞ」


 可憐の指差す方向には、真っ白な顔の老婆は姿を消していた。

 誰もいない。

 暗闇がただそこにあるだけ。


「い、いたもんっ!」


「どうする?」


「流石に戻ろう。あの二人を待たせてしまうし、何よりこれ以上可憐さんに負担をかけさせるわけにはいかない」


「ううっ……」


 怯える可憐や、既に到着しているであろう隆たちのことを考え、ここは降りることにした。


 それはともかく、可憐の見たものはなんだったのか?




 その頃、隆たちは――


「ついたね」


「何もなかったな」


 既にスタッフルームの扉の前まで着いていた。ここまで隆たちは、特に怪奇現象などには遭遇せず、不気味なほどに何事もなくたどり着いた。

 扉をノックすれば、入ることはできるだろう。


 コンコンッ


 ノックをすると、しばらくしたら扉が開いた。

 出てきたのは――


「お待ちしておりました」


 新月。

 彼女は目を(つむ)りながら一礼し、小さく微笑んだ。


「あんたらの言っていた通りに、真実を暴きにきたぜ」


「そのようですね。お二人ですか?」


「いや、多分全員来る」


「そうですか。では、こちらへ」


 新月は隆と上条をスタッフルームの中へと案内する。

 そこの一角にある、少し大きめの部屋。

 そこに隆と上条は新月に向かい合うように立つ。


 そしてしばらくすると――


 コンコンッ


 またしても外でノック。


 新月が開けると、他の六人も入ってきた。


「あれ? 加賀は?」


「加賀なら疲れてぶっ倒れています」


「大丈夫なのか!?」


「ただの疲労みたいです。それより、東條隆。なぜそんなにも加賀のことを気にするんですか?」


 赤城にはわからなかった。まだ出会ってまもなく、可憐よりも話していない加賀をなぜそこまで気遣うのかが。

 赤城もまた、男子というのがよくわかっていない。

 何より、あれだけ加賀に隆は殴られたのに。


 彼が加賀のことが好き? いや、そんなそぶりは一度も見せていなかったはず……


「なぜって……友達だからだよ」


「……っ!? そうですか」


 赤城は少し安心したかのように微笑んだ。


「?」


 当の隆はよく分かっていないようだが。




「それとお前ら三人。まあ、なんていうかだな……前までは色々あったが、これからはその……友達としてよろしく……な……?」




 ここに来る前、隆はこんなことを管理局の三人に言っていた。


 この三人というのは、自分たちも入っていたんだった。

 可憐だけでなく、私と加賀も。

 この人は、少し変わった人です。


 赤城は隆のことを変わった人だと認知していた。それもそのはず、隆はここ数年間友達という言葉を使ってこなかった。そんな彼がぎこちなく使った友達という言葉。

 それが少し、おかしかったのだ。


 ガラッ


 またしても扉が開く音。


「ほっほっほっほっほっ……皆様、お待たせしました。では新月さん、始めますか……ええ……」


 女将だった。女将は腰を曲げて歩きながら、ここにいる隆たち八人と、新月に話しかける。

 新月の横に立つ女将。それに向かい合うのは八人。


「ルールの再度確認をします。皆様方が把握している全ての怪奇現象を、幽霊以外ができるトリックを用いて日付が変わるまでに暴いてください」


 勝手につくテレビ。

 二人目の新月。

 浴室での出来事。

 隆たちの部屋。

 浴室から聞こえた女性の声。

 真っ白の顔の老婆。


 これが今回起きた怪奇現象。謎なことばかりのこれらを、隆たちは全て解き明かさなければいけない。


「もし幽霊以外ができるトリックがわかった方がいれば、我々にトリックの宣言をしてください。トリックの宣言は何度でも可能。それが幽霊以外ができるものと証明でき、筋が通っていれば全て正解です」


 最初に説明した内容が少し簡易的になったものを話した。

 筋が通っていればなんでも良いため、一見簡単なようにも聞こえるが、実際は難解なものが多い。それを全て正解しなければ、隆たちの負けとなる。


「ではこれより、沢村さんの真実を開始します!」


 こうして、沢村さんの真実という名の幕が上がった。

 それを紡ぐのはこの八人。

 いくら優秀な面々が揃っているとはいえ、この難解な問題を解くことはできるのだろうか?


「じゃあまず僕から」


 最初に切り出したのは上条だった。


「さっきの間で、君たち六人は怪奇現象に何かあった?」


 上条にとってこれは重要なことだった。現状把握といえばそうだが、別行動をした意味があったかどうかの確認でもある。


「あったよ。女湯から声がしたり、鍵がかかった後もノックがしたり」


「あと、白い顔をしたお婆さんが……!」


「オーケー。僕からは以上だ」


 満足したかのように言う上条。


「以上って? それだけなのか?」


「うん、僕から言うことはとりあえず終わり。こっちはあれからは何も無かったよ。じゃあ、次の進行頼んだよ」


 すると、冷静な顔つきになり、考え込む。上条にとって……いや、この場の全員、現状把握はとても重大なこと。怪奇現象があれから増えたか増えてないか。

 それは、女湯の時に上条と昇龍たちが交わした時の会話でもそうだった。まずは問題がわかっていなければ、全て正解にはならない。それは、問題から目を背けていたことになる。

 そう思い、情報を女性陣側から受け取ったのち、さらっとこちら側の情報も渡した。


 つまりこれで、この場の全員が全ての怪奇現象を知ったということになる。


「じゃあ、次は僕だ」


 隆も話題を切り出すことにした。


「今回の怪奇現象はマスターキー、もしくは合鍵が使われている。わかりやすいのでいえば、最初のテレビ。あれにはそれらの(たぐい)のものが使われていた! どうだ?」


 それは誰もが思っていたことだった。代用となる鍵を使用することにより、本来配られている鍵とは異なるものを使用しても扉を開くことは可能。これは筋が通っている……が、しかし――


「それは不可能です。土間に皆様と私たち二人が集まった時、この旅館にはその場に全員が集まっていました。十一人」


 この反論は予想ができたものだった。今ここにいない加賀を含めた十一人が土間にいたのにも関わらず、施錠されていたはずの女性陣の部屋の扉は開かれ、テレビがついた。

 しかし、途中退席したものはいない。

 じゃあ誰がつけていたのか、ということにもなる。


 唯一可能な人物がいるとすれば、最後に部屋を出た加賀ということにもなるが、加賀はこれを否定している。

 ならば、ここは加賀を信じてみよう。


「この旅館のスタッフが三人以上いた場合ならどうだ? この旅館には十一人ではなく、十二人以上いる。どうだ?」


「……」


 そもそも人数が十二人以上いるというのは、これまでの推理からのもあったが、加賀のあの発言からくるものがあった。




「根本から考えて。私たちの考えは根本から間違っていた。根本から考え直すことで沢村さんの正体を掴めると思う。私からの最低限のヒント。まあせいぜい頑張って」




 これのあるおかげで、そこには程度確信があるものが考えられた。あの加賀が振り絞って出してくれた最低限のヒント。


 隆のその言葉を聞き、表情一つ変えずに黙り込む新月。女将はというと、相変わらずニコニコと謎の笑みを浮かべている。



 そして――


「お見事です。一つ目の怪奇現象、正解です」


「ええ? こんなあっさり!?」


 思いの外、正解を出してしまい、驚く一同。これなら苦戦することなく、終わるのでは?


「ええ。今の東條様の発言には筋が通っていますからね。筋が……ね……」


 謎の笑みを浮かび続ける新月。

 筋が通っているから正解。


 そう、筋さえ通っていればいい。

 ことの顛末(てんまつ)なんて関係はない。


 筋が通っていれば、ね。

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