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なんでも知っているんだが?

「では、上条樹様」


「何?」


 テレビの奥にいる沢村さんは上条を指名した。冷静に返事をする上条。動揺を見せれば、相手に隙を与えてしまうことになる。それは上条自身が投資業界たちとの戦闘で、身をもってよく知ったことでもある。


「今からあなたの職業を当てます」


「僕の……職業……」


「テレビの裏を見てみてください。そこに紙が貼ってあるはずです」


 上条は指示通りに動き、ゆっくりとテレビに向かって歩き出す。上からテレビの裏を覗き込むと、そこには確かに一枚の紙が貼ってある。


「なんだ、これ」


 手を伸ばし、セロハンテープで繋がれた髪を剥がす。紙は先程テーブルに置いてあったやつと同じ紙切れ。

 またしても裏に書いてある。


「……っ!? なんで……これを知ってるんだ……!」


 表を向けると、そこにはこう書かれていた。

『秘書』と。


「……っ!? どういうことだ……!?」


 上条が秘書……厳密には元秘書ということを知っている人物は、上条本人と隆、シャルロット、そしてあの投資業界。

 それ以外は知っている人物はいないはず。他の女性陣ですら、シャルロットを除けば誰も。


「……ふふふふふっ。沢村さんはあなたたちのことをなんでも知っている……」


「おい、答えろ! 場合によってはお前は――」


 感情的になるが、沢村さんは待ってはくれない。


「では次は、東條隆様」


「……」


 次は隆を指名。沢村さんは隆のことも知っている。

 何を言われても動揺してはならない。隆も上条のそれを察し、冷静になろうとするが、頭ではなぜ上条が秘書ということを知っていたのかでいっぱいだった。


「あなたには今回の旅行で想いを(はせ)せている女性が一人、いるはずです」


「……ふっ。残念だったな。僕はリアル女なんて眼中にない。ましてや僕にはすでに、妻であり、相棒であり、分身であり、恋人であるいとしのいとしの――」


「冷蔵庫の横を見てみてください」


「聞けよっ!」


 いつものシャルロット愛を披露しようと思ったが、途中で(さえぎ)る沢村さん。

 相手が幽霊の可能性だってあるというのに、こんな時でもマイペースな隆。


 ――しかし、この後すぐ起こる衝撃を、まだ隆は知らない。


「冷蔵庫の横? ……」


 またしても紙が貼ってある。三枚目の紙切れ。セロハンテープで冷蔵庫にくっついており、それを剥がす。そして、表を向けるとそこには――


『シャルロット』。


「……っ!? どういう……ことだ……」


 シャルロットと書かれていた。


「このシャルロットって誰のことだ!? おいっ!? なんだよ、想いを馳せている女性ってっ!!」


「それはもう、一人しかいないじゃないですか……ふふふふっ……」


「ふざけんじゃねえよっ!! 僕がリアル女なんざ好きになるわけないだろうがっ!! ていうか、なんでお前にそんなことが言い切れるんだよっ!!」


「ふふふふっ……」


「答えやがれえええええええっ……!!」


「ふっふっふっふっ……沢村さんは、なんでも知っている……」


 フォン


 テレビから短い電子音が聞こえ、沢村さんは姿を消した。


「おいっ!!」


 声を出すが、応答はない。

 当然だ。そこにもう、沢村さんはいないのだから。


「テレビ通話……」


 画面には『通話を終了しました』の表記。


「くっそおおおおおおおっ……!!」


 こうしてまた一つ、謎が増えていく。


 隆はどんどん不利になっていく……

 死へのカウントダウンが近づいていく……

 謎は解かれず……解くことは叶わず……

 最後の理解不能な『シャルロット』。と書かれた紙の謎がわからない……


 隆は足を突き、絶望した。



「やるしかない……」


「ええ?」


 しかし、上条は違った。上条も、もしかすれば相手は投資業界の一人ということが頭から離れてはいなかったが、こんなところで諦めるわけにはいかない。

 なんとしてでも隆を生かす。そう決めた上条には、強い信念があった。


「大丈夫。困った時の僕だろ、任せとけ!」


「上……条……」


「って言っても、さすがに僕一人じゃ無理だからみんなの力を借りるけどね。っていうことでスマホ貸して。僕がシャルロットちゃんに電話を掛けよう!」


 上条は隆に手を伸ばした。


「電話くらい、自分でできるって……」


 隆はポケットからゆっくりスマホを取り出し、スリーブ状態を解除する。電話のボタンを押そうとしたが、


「あっ……」


 上条が隆の手からスマホを取る。


「だから僕に任せろって! レディの前で涙なんて見せたらカッコ悪いだろ」


「……」


 にっこりと笑う上条。確かに隆の目からは涙が溢れていた。


 死への恐怖が。


 だから上条は、あえて隆から掛けさせず、自分から隆のスマホを使って掛けることにした。

 女子たちに隆のカッコ悪いところを見せさせないために。恥をかかさせないために。上条なりの配慮だった。


「何があっても守るって言ったろ。な」


「……ありがとう……」


 涙を流しながら下を向いて礼を言った。

 でも今の涙は死への恐怖などではない。親友が自分のために配慮してくれたことへの涙。こんな僕を救おうとしてくれた、感謝の涙。


「もしもーし」


「あ、隆さ――ではなく、上条さん?」


「正解! 隆今トイレで、僕が勝手にスマホ触ってるんだよ」


「それは大変です! 大丈夫なんですか!?」


「大丈夫大丈夫。確認だけど、君たち五人はあの後どうしたか教えてほしいな」



 その後、上条はシャルロットから女子五人行動を聞き、電話を切った。


「ほい、借りてたスマホ」


「おお……」


 スマホを渡され、それを受け取る。その頃には隆の涙も止まっていた。


「じゃあ、今からシャルロットちゃんに状況の説明をRISEで頼むよ。軽く話はつけてある。僕はその間に頭の中を整理するから」


「それってさっきの電話じゃダメなのか?」


「まあ、さっきはどうしても女の子たちのアリバイを確認しておきたかっただけだしさ。ということで、後は頼んだよ」


「わかった」


 上条は三枚の紙を机に並べ、胡座(あぐら)をかき、顎に手を当てて、時より長く目を(つむ)りながら思考を(めぐ)らせる。

 隆もRISEを開き、シャルロットに状況を伝えるためにメッセージを送る。

 上条が隆に電話ではなく、RISEと言ったのは、自らの集中力を()()ませるため。そして、RISEなら落ち着いて隆も状況を説明できると思ったため。


 二人はそれぞれの役割を真っ当し、真実へと近づこうと励んでいる。


 沢村さんは幽霊なのか。

 それとも人間なのか。


 ――それは、沢村さんのみぞ知る。



 しかし、それを(あば)く権利が隆にはある。

 なんとしてでも真実を掴み取る。

 この旅館の中に、今も沢村さんはいるはずだから……!

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