扉が開かないんだが?
浴室前には先程までいた四人と、目を覚ました隆、女湯から戻ってきた二人が集められた。
そこに女将も合わせた八人が。
今回の旅行始まって以来、少しキリの悪い数字だと感じるかもしれないが、それは赤城と加賀が不在のため。
それにプラスして女将がいる。
「皆様、もう間も無く二十一時、消灯の時間でございます。どうぞあとは、お部屋に戻って明日までゆっくりしていてください」
女将から告げられたのは、消灯のお知らせだった。
この旅館の消灯時間は二十一時。トイレなども各部屋に用意されているため、廊下に出ることは余程のことがない限りない。
「あと、沢村さんはまだいます……では……」
不気味な笑みを見せ、女将は廊下の奥に消えていった。
「ひいっ……!!」
またしてもガタガタして天空城の後ろに隠れる可憐。
「とりあえずは部屋に戻るか。何かあったらRISEで連絡してくれ」
「いや、おめえのRISEねえよ」
「あ……」
圧倒的に友達が少なかった隆は、RISEをこの中の全員とは交換していない。
RISEの友達を見ても、数えるだけでたったの五人。母、父、もどき、美沙。あとどうでもいい半ば強引にかつ、いつの間にか交換された伊集院のものが。クラスのグループなどには一様入ってはいるが、一言も発したことがない。
浮かれて陽キャ気分になっていた自分がいた……
「もどきっ! 美沙っ! あとは頼んだぞっ!」
「あはははは……」
「ったく……」
シャルロットと美沙とは交換してある。
今はとりあえず、この二人からの連絡を待つことにした。
七人は部屋に戻る。
隆たちの部屋の奥に女性陣の部屋があるため、隆たちの部屋は通りになる。
「じゃあ」
隆と上条は女性陣たちと別れ、部屋に戻ろうと部屋の扉の鍵を開け、中に入ろうとする――が。
ガチャンッ
「ん? なんだ、これ?」
部屋の扉が開かない。
鍵の部分は開けることができたが、何かが引っかかるような音がして扉を弾くことができない。ものすごい力の何か。
「どうしたの?」
「部屋が開かないんだ。これか」
「ドアロックだね」
引っ掛かっていたのは、扉を二重で施錠するためのU字型の金のドアロック。
こんなもの、隆たちは出る時にしていない。いや、それどころかドアロックは内側からしか閉めることができないはず。
「これって、外側からは開けられない……よな?」
「どうだろう」
「ドアロックは外からは開けられないよ」
その時、廊下の奥から聞き覚えのある声が聞こえる。美沙の声。美沙の家は何でも屋のため、この手のことは大体わかる。
「美沙! お前、戻ったんじゃないのか!」
「まだなにかあると思って、一様戻ってきた。これはどういうこと?」
「わからん。部屋に戻ったらこの有様だ」
ドアロックは一見外から見たら開けられるように見えるが、素手で開けることは不可能。下手に触れば怪我をする可能性も出てくる。
「どうする? スタッフ呼ぶ?」
「はあ……しょうがないねー、お兄ちゃんは」
ポケットに手を入れ、銀の棒状のものを指巻きつけ、くるくると回転させた。
「美沙よ。聞かずともわかっているが、それは……」
「ピッキング」
「わざわざピッキングなんてしなくていいだろ! スタッフ呼べば!」
「お兄ちゃん、頭悪いでしょ。ここでスタッフを呼べば、どさくさに紛れて何か仕掛けてくるかもしれないでしょ。あっちがもし鍵を開けたなんてことがあれば、こっちだって開けてあげる……!」
これまでの怪奇現象にはなんらかの形でスタッフが関わっていることは明白。もしかすれば、呼ぶことを想定してドアロックをした可能性だってある。
そして美沙は、スタッフはすでに女性陣の部屋を一度開けている可能性がある。だからこちらも開けてやろうという理論。
「目には目を……! 部屋の開錠には部屋の開錠を……!」
「お前の場合、ピッキングだがな」
そう言って美沙は勢いよく作業に取り掛かる。
――それからしばらくして。
「はい、開いた」
数分掛かったが、部屋の開錠に成功した。
自信満々な顔をする美沙。
「おー!」
「はあ……まあ、一様ありがとな」
感心する上条と、少し呆れる隆。とはいえ、開けてくれたことに変わりはない。というか、普通こういうのは開けられるものなのだろうか?
よく、切断するイメージがあるが……
「じゃあ、帰るね〜」
「おい、何で帰るんだよ!」
「え!? もしかしてお兄ちゃん、私にまだいて欲しいの〜!? お兄ちゃんのくせに、だいた〜ん!」
ニコニコしながら元気に首を振る美沙。
「違うわ! あっさりすぎるだろ!」
「これも多分、スタッフの誰かの仕業。これが四つ目の怪奇現象。だからもう怪奇現象は終わり。んじゃ」
ピッキングの機材をしまいながら冷静に答える。
女性陣の部屋へと戻っていった。
隆と上条はその背中を見ていた。
ただ部屋を開けて戻っただけという。
部屋の扉を開け、隆と上条は入った。
なぜ部屋のドアロックが閉まっていたのか。またしてもさらなる謎が出てきた。
これ以上まだ何か考えろというのだろうか。
――しかし、部屋の中にはそこにはさらなるものが。
「紙?」
テーブルの上に置かれていたのは一枚の長方形の紙切れ。テーブルの中心に置かれている。
紙には初め、何かが薄く書かれていると思ったが、裏に何か書かれている。
隆は紙を裏返し、その文字を見た。
「テレビの電源をつけてください。沢村さんより……今度は何なんだよ」
『テレビの電源をつけてください。沢村さんより』と、マジックの油性で力強く書かれていた。
明らかにまだ何か起きる予感がする。『沢村さんより』と最後に少し小さく書かれているのが何よりの証拠だった。
しかし、隆は至って冷静。テレビのリモコンを取り、電源をつける。――そこには。
「何も映らないぞ」
画面は真っ黒。一見すれば、テレビがついたのかどうかも怪しい。
「いや、ついてる。かすかに今、画面が動いた」
上条の目には何かが動いて見えていた。画面のブレのような。
「東條隆様、上条樹様」
その時、画面の向こう側から女性の声が聞こえた。しかし、聞き覚えのない声。女性陣の誰かでもなければ、女将と新月の声でもない。高く、透き通った声をわざと低くしたような声。
「うわっ! 喋った!」
「どうして僕と上条の名前を……」
隆と上条の名前を、画面の奥の人物は知っていた。
「私が沢村さんです。この度は旅館、沢村屋をご利用いただき、ありがとうございます。満喫していただけているでしょうか?」
「あんたのせいで恐怖に怯えっぱなしだぜ……」
「それは失礼しました。こちらもあなた方を楽しませるために招いたことでして……」
隆の問いにも答える沢村さん。こちらの声もあちらに聞こえている。
隆たちからは真っ黒の画面しか映っていないが、もしかすれば、相手側からは姿も見えているかも知らない。
「わざわざ僕らと話してるってことは、ほかに何かあるんじゃない?」
鋭く答える上条。わざわざ挨拶だけのためならば、このような手間はしないと考えていた。
「ええ。沢村さんという存在が本当にいることを今から証明して差し上げます」
「証明だと?」
相手はあくまで、沢村さんという幽霊の存在を認めさせようとしている。それを幽霊以外のトリックで証明するのが、僕たちのするべきこと。
僕と上条は聞く覚悟を決めた。




