やる時はやるんだが?
――女湯――
女湯では可憐、天空城がそれぞれ調査をしていた。
可憐は脱衣所を、天空城は温泉付近を調査している。この二人は九人の中でもかなり分析力に優れている。
そのため、上条は二人を女湯に移動させた――が。
「天空城さん、いる〜? いるよね〜? ねえ〜?」
「大丈夫です。ちゃんと私はここにいます」
可憐はいるかいないかもわからない幽霊に怯えて、普段の力を発揮できていない。
二人の間には一枚の扉があるが、それを開けて会話している。
二人の間には死角になっている部分があるため、時よりお互いの姿が確認できなくなる。
「……」
「……」
「さっきの話、本当だと思う?」
「さっきの話、とは?」
しばらくの沈黙のはあと、可憐は天空城に何かを聞いた。
「ほら、その……上条くんが、東條隆に、キ、キ、キ、キスをした……とかの!」
天空城は二人の呼び方に少し疑問を覚えた。
上条くん? 東條隆?
なぜ上条はくん付けで呼び、東條はフルネームで呼ぶのだろうか? あまり深くは考えないようにし、質問に答える。
「本当だと思います。彼は普段の行いからして、ああいう場では嘘をつきません」
「ふ、ふーん! そ、そう……なんだ……」
可憐はどこか安心したような声を出した。なぜ安心しているのか一瞬戸惑ったが、おそらく自分と同じ考えだろう。
「可憐さんもああいうのは良くないと思いますよね! 公共の場でなんて破廉恥なっ! でも、実際していないのならば、お咎めはなしということですよね!」
「そ、そ、そ、そーなのよー! あはっ、あははははーっ……」
天空城は可憐が二人はキスをしていないということを知って安心していたと思っていたが、実際は違う。
隆の唇が男に奪われなかったことを安心していた。しかし、なぜそんなことで安心しているのかは可憐自身、未だよくわかっていない。
彼女は男性と接することなく、局長としてこれまで生きてきた。そういう感情に気づけても、そこまででなぜそうなったのかまではよくわからない。
天空城に関しては、そういうことに少々無知な部分があるため、隆と上条がキスをしようとしても別の方向に持っていってしまう節がある。
風紀委員で勉強熱心な彼女らしい思考をしている。
天空城も格闘家としてなら男性と話すことは多少はあるが、恋愛感情には疎い方。格闘家としてなら、歳の近い男性すらも圧倒する天と地の差があるほどの実力なため、対等に話せる仲の男性はいなかった。
そんな中、二人は隆と出会った。元々は引きこもりでとんでもなくオタクなイメージがあった隆。でもほんとうは強く、優しい。
男性とよく話したことのない二人でも、とても魅力的な人物に写っている。
そういった部分もこの二人は似ているのかもしれない。
「ところで、天空城さんの方は何か見つかった?」
「何もないですね。可憐さんの方は?」
「私も。脱衣所に関しては女将さんと新月さんが整理したし……」
脱衣所には、全員分の服や下着が何者かによって隠されていた。その手がかりを探そうとしていたが、何も見つからない。それどころか、女将と新月は二人で脱衣所の隠されたものを探していたため、余計な手がかりらしきものがあれば、間違えて処分している可能性もある。
「赤城さんは女湯で何を見つけたのでしょうか」
「何かしらね。でも、あの子はやる時はやる子よ」
目を大きく上げて、少し口角を上げる可憐。可憐は赤城のことをよく知っている。いざという時にいつも頼りになる。だから彼女は、重要な何かを掴んでいることは間違いない。
おそらく、今の自分でも見つからない何かを――
ガラッ
「お二人様」
「ぎゃあああああああっ……!! お化けえええええええっ……!!」
廊下に通じる扉がバッと開き、何者かの声がしたため、悲鳴をあげる。
可憐は驚きのあまり尻もちをついて涙目で扉の方を見る。
その姿は、老婆の姿をした――
「って、女将さん……はっ! 失礼しましたっ!」
女将だった。
立ち上がり、一礼。二礼。
「おほほほほっ。愉快なお嬢さんですこと。一旦お二人様も浴室前までお集まりいただけますか?」
女将は二人を浴室前に呼ぶ。
――女性陣部屋――
「うっ……」
女性陣部屋にいるのは二人。赤城と加賀。赤城は倒れた加賀を一人で部屋まで運んで看病をしていた。
赤城の膝に加賀が十数分寝ていたが、たった今目を開けた。
「加賀っ……!」
自分の顔を覗き込む赤城。心配してくれたのだろうか?
「おお、赤城じゃん……ここは……」
「部屋です。みんなは沢村さんの調査をしています」
「そう……運んでくれたんだ……ありがとう……」
「あ、あなたは私のバディです! こんなところで倒れてもらっては困ります……!」
少しツンデレが入った赤城。照れ隠しなのだろう。
それを察した加賀は、つい笑いがこぼれる。
「……へっ」
二人は互いを信頼し合っている。だからお互いが何を考えているかなんてすぐにわかる。二人が紡いできた絆。それはとても深いもの。数々の戦いを共にし、互いを一番に思い合う仲。
――それは、これからも紡がれるだろう。
「私さ、思い出したんだよ……」
「思い出した? 何を?」
「私がくしゃみした理由……」
「くしゃみ、ですか?」
一瞬戸惑ったが、加賀がくしゃみしたところはこの旅館では一度しかない。温泉に入った時。
ちょうど、天空城が可憐の体で勉強していたところで加賀は――
「へ、へ、へっぷしょいっ……!!」
その瞬間、加賀がものすごいでかい声でくしゃみをした。
「きゃあっ……!!」
あのくしゃみ。かなりデカかったため、赤城の脳裏にもすぐによぎる。
「あの時、急に脱衣所の方から風が入ってきて……あと、鼻に何かむずむずするものが当たってさ……」
「それでくしゃみを」
「うん、あとは頑張って……」
それだけ言い残し、寝息を立ててまた寝始めた。加賀は風呂で大量の鼻血も出している上、今日の疲労や頭に血が昇りすぎたこともあってかなり疲れている。
無理もない。
でも、これだけはどうしても赤城に伝えたかった。
赤城はもう、何か掴んでいる。あとは任せたよ……
「繋がりました。一連の女湯の犯人」
キリッとした目つき。加賀のこの一言により、全てが繋がった。浴室前、脱衣所、温泉。これらの謎が赤城にはおおよそわかっていた。そして、一連の女湯で起きたことの犯人像が。
あとは、女性陣たちの情報を照らし合わせれば自ずと答えは見えてくる。
――これが、加賀をも超えた管理局ナンバーツーの実力。




