形勢逆転なんだが?
しばらく上条は考えていた。浴室前の男湯の掛け軸がダンボールの後ろに置かれていた理由を。
確かにバレない位置関係にあるダンボールの後ろに置けば、バレることはない。昇龍の言った通り、男湯の掛け軸をそこに置けばスタッフにすぐに見つかることはない。
そもそも、なぜ男湯の掛け軸でなければならなかったのか。女湯の掛け軸ではいけない理由があるのではないだろうか。
その方が僕と隆を女湯に誘導させやすいから?
いや、違う気がする。まだ何か……
「おい、上条! 聞いてんのか!?」
「ああ、悪い。別の視点で考えてみようよ」
新たな提案をすることにした上条。そこにはちゃんとした理由があった。
「別の視点だと? ダンボールの後ろにあった理由は?」
「それは僕にはわからない。ここで答えられなくても、別の視点からならば、僕らが意図的に覗こうとしていないことが証明できるかもって思ったんだけど」
昇龍の質問に答えられないからといって、意図的に覗こうとしたということにはならない。ここで考えていても答えは出てこない。
そう考えた上条は一旦引き、別の視点から考えることに決めた。
「……まあいい。じゃあ、お前からはなんかねえのか?」
「そうだね……」
これまでは相手側からの質問を上条が返すような形だったが、逆に上条からの言い分があると思い、昇龍は上条に問いかけた。それを聞き、上条は顎に手を当てて考える。
「そもそも覗いたのは隆だけでしょ。僕はその間、男湯に入っていた。僕と隆がもし協力関係にあるとすれば、僕も覗かないのは不自然なんじゃない?」
「確かに」
もし隆が掛け軸を入れ替えたとすれば、ずっと一緒にいた上条は当然知っているはず。そして、女好きの上条ともあれば、覗きをしないのもまた不自然。
だからこそ、自分からこの問いをぶつける。
「いーや、お前の性格的に東條を先に女湯に行かせ、安全かどうか確認したあとに覗こうとしていたんじゃねえのか? 結果東條はボコられ、諦めて二人仲良く温泉に入ったとかな」
「え!? 僕ってそんな酷いことするやつに見える!? そんな隆を囮に使うかのような!?」
「「「「見える」」」」
シャルロットを覗いた四人は全員首を縦に頷いた。
「えー、ひでー」
確かに上条の普段のアホみたいに隆を揶揄う性格からして、そう見えるかもしれない。
隆を先に行かせ、安全かどうかを確認した後に上条が乗り込む。そこから二人で脱衣所からこっそり覗くなんてことも可能。いわば隆は囮かつ、偵察要員かつ、安全装置。
「いやいやいや! いくらなんでもそんなこと僕はしないって! ねえ、シャルロットちゃん!?」
シャルロットはこの二人とよく話すことが多い。だからここはシャルロットに助けを求める。
五人の中で唯一頷かなかった。
「……」
「……」
「……」
「……」
「……はい!!」
「まさか今、めっちゃ気を遣った……なんてことはないよね」
約四秒の沈黙の後、眉を寄せて答えるシャルロット。
彼女の目にもそう見えているようだ。
「そういうことだ上条。諦めろ」
「待て待て待てっ!! いくら隆でよく遊んでいるからって、そこまではしないよ!! 僕と隆の友情に誓うさっ……!!」
「「「「……」」」」
四人の目線が突き刺さる。これはもう、相当なのだろう。
「み、みんなあっ……!! なんでそんな冷たい目線を僕に送るわけえっ……!? シャルロットちゃん、助けてえ〜」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……そうですね!!」
満面の笑みで答えるシャルロット。もはや、上条もこれまでか。
「何があ!? 反応遅いよ!! ったく……仕方ない。これだけは使いたくなかったけど。切り札、使わせてもらうよ!」
上条は腕からカードのようなものを引くような動作を見せ、人差し指と中指で五人の中心を指差す。
「君たち五人、隆のことが好きでしょ!?」
「「「「「……ッ!?」」」」」」
さっきとは打って変わり、五人は一斉に顔を赤くして動揺した。形勢逆転。そしてこっから挽回。
上条はこれだけは使わないようにしていた、切り札を切った。
だが、こんなものはまだまだ序の口。
「ま、まあ……」
「お、お、お、幼馴染だしっ!?」
「そ、そ、そ、そんなわけないだろうっ!!」
「ほ、ほ、ほ、本当に結婚してえとか思ってねえしっ!!」
「べ、べ、べ、別に年下のくせにちょっと生意気……でもそんなところがまたいいだなんて、思ってないんだからーっ!!」
(おーおー、全員動揺している。思った通りだ)
上条の狙い通り、全員が全員動揺し始める。この感情の波は上条からしてみれば計算通りの展開。そうなれば、判断力も緩み、こちらが有利な状況に傾くことは間違いない。
五対一なんて関係ないね。僕はあの投資業界の秘書に選ばれるほどの実績と頭脳を兼ね揃えている男さっ!
「いいよいいよ、隠さなくても。でも隆を好きなのはここの五人だけじゃないのは流石にもう知ってるよね?」
煽るように上条は言う。
「誰ですか!?」
「誰!?」
「誰なんだ!?」
「誰だ!?」
「誰よ!?」
「なんだ、誰も知らないんだー。じゃあ、ここで僕が教えてあげるよ」
一斉に沈黙の状態を作り出す上条。
「僕だよ」
「「「「「‥‥…ッ!?」」」」」
またしても、全員が動揺する。あとはシナリオ通りに上条が動けばもう完璧。
「だから僕が隆を一人女湯に行かせるなんてことはあり得ない! もしそれが愛故の行動だと言うならば、それはいき過ぎた愛ということに他ならない! 僕は隆を本当の意味で愛しているのだからねえ!!」
真偽はわからないが、威勢のいい声。
上条の言い分としては、本当の愛ならば隆を一人で女湯に行かせず、自分も行くという。
……これまたよくわからない言い分だった。
「ふ、ふ、ふざけんじゃねえよ! どうせハッタリだ!」
「……あ〜あ。そんなこと言っちゃうんだ〜。僕の隆への純粋な恋心をそんな一言で蹴散らしちゃうんだ〜」
虚の瞳を見せる上条。
何か様子がおかしい。そう考えた五人はもう手遅れだった。
「見せてあげるよ、これが僕が隆を愛している証拠さっ……!」
次の瞬間、上条は加速。
向かった先は隅で寝ている隆。
君たちは何もわかっていない。本当の別の視点というのは、こういうことなのさ……!!
上条は隆を抱えて顔を寄せた。
――そして。
「……んっ……」
キスを――
「ふう……」
五人からは死角になっていてわからないが、おそらく上条と隆は口を重ねたであろう。
満足したかのように微笑む上条。
「死いねええええええッ……!!」
ボコボコボコッ……!!
昇龍にボコボコに殴られ、上条は倒れた。
「上条くん、なんてことするの!?」
「最っ低」
「あわわわわ……」
「いやーーーーーーー!!」
女性陣から一気にドン引きと批難の嵐を受け、昇龍にボコボコにされながらも震える足で立ち上がる。
「ど、どうだい……これで証明できただろ……これで僕と隆は覗いていない……」
「はあ……もういい。疲れた。お前の勝ちだ……」
昇龍はもう疲れ切っていて、ギブアップを選んだ。もう考えるのもアホらしく思えてくる。
「やった……」
こうして上条と隆の覗きの容疑は晴れたと思われた。
――が、しかし。
「待って。まだ私は納得いってないんだけど?」
「ええー。まだあるのー」
昇龍が折れようとも、まだ後ろにはもう一人控えていた。美沙。
美沙に関しては上条が隆に口づけをしたということもあってか、火がついて更なる怒りが湧く。
まだ一つ疑問が残っていることがある。
それが解決するまでは、上条を逃すわけにはいかない。
――次回、上条VS美沙。




