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同じ土俵に立つんだが?

 加賀の暴走が止まり、静かになる場。

 女湯から出てきた赤城のチョップのおかげでなんとか場は収まった……が、隆は白目を剥いて撃沈。そして当の本人である加賀も疲れ果てて倒れた。


「これは、なんの騒ぎですか? 説明をお願いします、可憐」


 赤城は一番の年長である可憐に説明を申し出る……が。


「東條隆が……覗きを……あたっ……!」


 赤城は可憐な頭も軽くチョップし、目を覚まさせる。七不思議怪異の時も加賀をこれで落ち着かせた。一体、赤城のこのチョップは何なのだろうか。


「可憐まで何してるんですか! はあ…‥おおかた予想は着きます。東條隆が意図的に覗きをしていたと思い込んだ加賀が暴走したんでしょう」


「すごい、よくわかったね」


「まあ、加賀との付き合いは長いですから。ですが、そこにいる東條隆は犯人ではありません」


 なんと、赤城はすでに犯人を突き止めることに成功していた。その言葉にその場の全員の注目が集まる。


「そうなのか!?」


「じゃあ、誰なんだ!?」


「私もまだ確証が持てないので、確証が持てるまでは状況を撹乱(かくらん)させないよう、黙っておきます」


 赤城はあえて言わなかった。加賀のように状況を楽しむためなどではなく、この場を撹乱させないため。

 もしかすれば自分の情報一つで場が乱れる可能性を考慮した上での発言だった。


「私は加賀を背負って部屋に戻ります」


 赤城はそう言い、沈黙する場の中で加賀を背負って部屋の方向へと歩いて向かおうとする。

 しかし、上条はそういうわけにはいかない。


「待ってくれ! 何か知ってるんだろ! ヒントでもいい! 教えてくれて!」


 沢村さんの正体がわからなければ、隆は死亡する。このことは上条とシャルロット以外知らない事実。だから赤城にも当然言うわけにはいかない。しかし、少しでも情報を持っている赤城からはなんとしてでも、ヒントでも聞き出さなければいけない。


 すると、赤城は足を止め、少しだけ後ろを向く。


「では、この浴室前の間取りや家具の配置を調べておいてください。それをどなたか私に報告をお願いします。そうすればいずれ、私が掴んだ情報を渡すことができます」


「……わかったよ」


 少し戸惑いを見せたが、いずれ教えてくれるのであれば、ここは一旦引くことにしよう。


「あと上条樹」


「僕?」


 赤城はここにきて初めて上条の名前を呼んだ。


「東條隆が覗こうとしていないことを証明できるのはあなただけです。健闘を祈ります」


「……ああ!」


 上条に希望を託して歩き出し、加賀を背負って部屋へと戻っていった。


 そう、隆が意図的に覗こうとしていないということはずっと一緒にいた上条しか証明できない。

 この状況は全て上条に掛かっている。

 親友として、隆の冤罪(えんざい)を晴らすことはできるのだろうか?


「隆、ゆっくり休んでて。あとは僕に任せて」


 隆を壁の(すみ)に移動させ、上条は立ち上がる。


「じゃあ、始めようか!」


 上条はその掛け声と共に、ニヤリと笑顔を作り、場を震撼させた。



「まず、未だに隆、もしくは僕が怪しいと思う人はどれだけいる? 遠慮なく手をあげて」


 上条の言葉で小さく四つ手が上がる。美沙、昇龍、天空城、可憐。

 シャルロットはこれまでが副業だったことは知っているとはいえ、隆が自ら除くことがないことはわかっていた。


「オーケー。まあ無理もないよね。だって過去に隆が覗きをしたのも事実。さらに言えば、僕もそれに加担した一人だからね」


「「「ええっ……!?」」」


 このことはシャルロットと昇龍以外、他の女性陣は知らなかった。覗きを疑われていたのは隆だけだったが、上条はあえてそれを口にした。

 ――この状況をひっくり返すための手段の一つとして。


「……へっ。自分から認めるなんてお前、どういうつもりだ?」


 昇龍は上条のこの態度が少し疑問に思えた。上条からすれば、黙っておいた方が得。自らに矛先が向くことなどはなくなるから。


「フェアでいきたいんだよ。これで僕はやっと隆と同じ土俵(どひょう)に立つことができた」


 自ら認めたのは、フェアプレイの精神だった。こうすることで疑いの目を隆だけではなく、自分にも向けさせる。隆が向けられるなら、自分もそれを背負う覚悟を今踏んだ。


「誰からでもいい。僕が全員を納得させるまで全て反論する」


 ポケットに親指を突っ込み、かっこよく立ち塞がる。

 なんとしてでも隆がやっていないことを証明させる。そして、隆を生かす。それが上条の今すべきこと。赤城から託されたこと。


「じゃあ私からだ」


「オーケー」


 前に出たのは天空城。上条は笑顔頷き、天空城の意見を聞くことにした。


「私は君たち二人がどのように動いていたのかがよくわからない。私からは君たちのアリバイだけ聞ければそれで構わない」


「わかった。まず僕と隆は君たち七人と別れたあと、旅館の一階と二階を捜索していた」


「それを証明できる人はいるか?」


「ああ、そこにねえ!」


 上条は後ろを振り返り、ある人物を指差そうとした。

 新月。上条と隆が二人で行動していた際、遭遇した人物が新月だった。

 その人物はその時、上条たちと話をしている。

 だからこそ、上条たちの行動を裏付ける証明ができる!


「って、あれ!? いないし!? 新月さ〜ん……」


 新月はいなかった。


「新月さんならとっくにどこかに行ったけど。あと、女将さんも」


 いつのまにか二人は姿を消していた。いつから消えていたのかはわからないが、加賀の暴走を止めなかった時点で、その時からすでにいなかったのかもしれない。


「……」


「新月さんが証明できるんだろ。それなら私から言うことはもうない。別に私は根本から君たち二人が怪しいと思っているわけではないからな」


 天空城は根本から二人が怪しいとは思ってはいなかった。

 もちろん、犯人が分かったわけではないが、天空城も風紀委員として、他生徒に対してはそれなりの分析力や判断力がある。どうにも二人が怪しいとは思えなかったのだ。


「あ、そうなの? よし、まずは一人。楽勝じゃん!」


 喜ぶのも束の間、


「おい、上条! まだあーしら残ったんだよ! 納得させるなら早く納得させてくれ!」


「はあ……オーケーオーケー」


「あんたら二人には掛け軸を入れ替える時間があった。そこに新月さんは関係ねえ。違うか?」


「……あちゃー、バレちゃったか〜」


 観念したかのように頭をわしゃわしゃと()く。

 探索していた時、新月と遭遇していようが浴室の前の掛け軸を入れ替えたという証明にはならない。

 そこはうまく誤魔化せたらラッキーだと思ったが、やはり四対一。誰かしらは普通に気づくこともまた、想定内。

 そうなった場合のことも考え、さらなる考察を瞬時に構築。


「確かに時間はある。でもそもそもなぜ掛け軸を変える必要が僕らにはあるんだい?」


「それは偽装のためだろ。覗くための口実だ。沢村さんの仕業に見せかけるためのな! 掛け軸の入れ替えは沢村さんのせいにすれば、覗くことへの言い訳をすることも可能だろ?」


 隆がもし掛け軸を入れ替えた場合、それを都合よく沢村さんのせいにすれば覗くための言い訳として使える。

「幽霊がやった」。と言えば、全て無かったことにできるから。


「男湯の掛け軸は時間の関係上、段ボールの後ろに置いた。他の場所に隠すとスタッフに見つかる恐れがあるからな。どうだ?」


「……」


 確かに全て筋が通る。掛け軸を移動させる場合、この旅館には女将と新月がいる。この二人が今回関わっていないことはわかっているため、掛け軸をどこかに隠す場合、他の部屋だと二人に見つかるリスクが大きい。

 ならばせめて死角になる段ボールの後ろに置き、バレないように見せる。なかなかな発想力だった。

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