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謎の生命体なんだが?

 白色のタオルを(まと)い、飛び跳ねる謎の生命体。大きさは約五十センチ。全員の注目が一斉にその生命体に集まる。


「私の身体をずっと触っていたのって、可憐さんじゃなかったんですか!?」


「私そんなことしないわよ!」


 シャルロットの身体をずっと触っていたのはこの謎の生命体。てっきり近くにいた可憐が百合属性を持っていて触っていたと思っていたが、全くの的外れ。

 誤解は解けたが、問題はここから。


 その生命体は着地。それと同時に、目にまとまらない速さで温泉内を駆け回る。足場に水中、時には空を蹴り、縦横無尽に駆け巡る。


「はあっ!」


 天空城は合気道の構えを見せる。その生命体を撃破しようと思っていたーーが。


「待て、天空城! そいつ、沢村さんかもしれねえっ!」


 寸前で全裸の昇龍が叫んだ。


「ひいっ!」


「沢村さんへの暴力行為は禁止のはず。そうなればあーしらはどうなるかわからねえっ!」


 沢村さんへの暴力行為は禁止。女将からはそう言われていた。もし沢村さんに暴力を振るった場合、呪いが降りかかるなんてことだってあり得る。

 そうなれば下手に手出しはできない。


 天空城は構えを解くことにした。


「……そうだな。取り乱してすまな――ひゃんっ!!」



ビュンッ……!!



 謎の生命体は狙いを天空城に定め、警戒を置いた瞬間に突進を開始。見事にタオルだけを剥ぎ取る。

 天空城のタオルを体に巻きつけ、温泉内を縦横無尽に駆け巡る謎の生命体。


「みなさん、脱衣所まで逃げましょう! このままだと全員、タオルを剥ぎ取られてしまいます!」


 シャルロットが指示を出し、全員が脱衣所まで早足で走り抜ける。


「加賀、しっかり捕まっててください!」


 赤城は大量の鼻血を出して倒れた加賀を小さな体で背負い、看病していた美沙と共に走り出す。

 ――しかし。



 ビュンッ……!!



「きゃあっ……!!」



 ビュンッ……!!



「うわっ……!!」


 一瞬にして脱衣所の近くにいたシャルロットと、一番遠い場所にいる美沙のタオルまでを剥ぎ取る。それをさらに体に巻きつけ、またしても暴走をする。

 そんな中、一人縮こまる可憐。


「こ、こわいよお〜……!! 助けてえ〜……!!」


 そこを狙いを定める謎の生命体。



 ビュンッ……!!



 バシッ……!!


「可憐さん、逃げてっ……!!」


 合気道で鍛えた反射神経で可憐を守る天空城。暴力行為は禁止だが、攻撃を防ぐことは許されている。

 右足で謎の生命体の攻撃を受け身を取り、可憐への剥ぎ取りを防いだ。


「天空城さん……ううっ……!! ありがと……!!」


 その隙に可憐は脱衣所に向けて走り出す。

 ――が、またしても謎の生命体の剥ぎ取り攻撃。


「きゃあっ……!!」


 バシッ……!!


 走り出す可憐な背後に素早く天空城が立ち、再び剥ぎ取り攻撃を防ぐ。


「貴様の相手は私だ。私はお前にタオルを剥ぎ取られている。だから失うものなどないっ……!!」


 その瞬間、またしても温泉内を縦横無尽に駆け回る謎の生命体。

 しばらくの隙ができ、シャルロット、昇龍、美沙は無事脱衣所に駆け込むことができた。あとは加賀と加賀を背負っている赤城。逃げ込む可憐とそれを防ごうと必死の天空城の四人。

 すると可憐への狙いは一旦諦め、標的を変更。


「私か。いいだろう。さあ、こいっ……!!」


 狙いは天空城。天空城はすでにバスタオルを剥ぎ取られているが、それでももう一度彼女を狙うのには意味があった。



 ビュンッ……!!



「……ッ!? しまっ……ひゃ、ひゃあんっ……!! き、貴様、どこ触って……!! ふ、ふざけるなあっ……!!」


 天空城は戦闘体制を取っていたが、謎の生命体の目的は天空城と戦うことではない。天空城の体を触ること。

 まさか体を狙ってくるなんて思わず、隙をつかれ、体のあちこちを高速で触られる。腰から脇を舐めるように撫で、胸を揉む。足先から太ももの手つきも凄まじく、天空城はその場で膝をついて涙目でノックアウト。


 そして再度可憐に狙いを定める。

 可憐を守るものはもういないと知った謎の生命体はあっさり――


「きゃああああああああっ……!!」


 バスタオルを一瞬で剥ぎ取り、可憐のナイスバディな体を高速でもあちこち触りまくる。鎖骨から胸に手を伸ばし、胸を揉む。さらにはお尻に顔を押し付け、腹部に頭を擦り付ける。当然、足や腕も(くま)なく触り、可憐も涙目でノックアウト。


「な、なんなのよお〜……」


 可憐のバスタオルも謎の生命体の体に纏われた。

 そして残ったのは赤城。加賀を背負って必死に走る。


「赤城、ありがとう。あとは逃げて」


「え、でも……」


 そのまま加賀は赤城の背中からゆっくりと降り、フラフラな状態ながらも立った。


「おいコラ、どこのどいつか知らねえがよお……百合の間に介入したってことは、私からの裁きを受けることは承知でやってるんだよなあ……」


 低い声でフラフラしながら前に出る加賀。百合の間に介入する男は許さない。それは加賀のポリシー。しかし、今は相手が男かどうかなんて関係ない。百合の間に介入したことに変わりはない。それは加賀からすれば、殲滅対象。


「あんなに怒った加賀、初めて見ました……」


「私が相手だ……さあ、その自慢のスピードで来な……こっちには自慢のパワーが――ひゃあんっ!!」


 あっけなく加賀のバスタオルは剥ぎ取られた。そのバスタオルを体に纏う。


「加賀、あっけないです。あと声ちょっとかわいかったです」


 ビュンッ……!!


 最後はじっと加賀を見つめている赤城に狙いを定め――


「そして私も剥ぎ取られました」


 赤城のバスタオルを剥ぎ取られていった。そして案の定、バスタオルを纏う。

 その瞬間、満足したのか謎の生命体は温泉の柵を越え、七つのバスタオルを体に身につけてどこかへと消えていった。


「な、何だったんだ……」


「も、もうお嫁にいけない〜」


 その場で膝をついて驚く天空城に、ずっと泣いている可憐。



 ――その直後。


「みなさん来てください! 私たちの服が一着もありません!」


「なに!?」


 シャルロットの声で脱衣所に全裸の美少女が七人集まる。

 そこには服という服が一着も無くなっていた。


「さっきまで着てた服も下着も、浴衣もどこにもないんだよ」


「何ですって!?」


 服がない。来る前に全員、個々のカゴに服を入れた。そこには下着と服。さらに着替えの浴衣もあった。それが全員分消えていた。一体、どうなっているのか。


「とりあえず、非常用のボタンもあるみたいだし、スタッフの方を呼びましょう」


 可憐は非常用のボタンを押してしばらく待つことにした。


「あの謎の生命体みたいなものは大丈夫なんですか?」


「しばらくしたらどこかへ消えていった。何だったんだ……」


 謎の生命体に、消えた服。どんどんおかしなことが起きていくこの旅館。沢村さんとは一体、何者なのか。そして、彼女たちはこの後一体、どうなってしまうのだろうか。

 ――それは、沢村さんのみぞ知る。

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