百合とS、Mなんだが?
――浴室――
隆と上条が第二の怪奇現象に遭遇している頃、こちらでもまた怪奇現象が起きようとしていた。
温泉のお湯に浸かっているのはシャルロット、昇龍、天空城。そして一人火照っている可憐。一方、地面の上で寝転がって休んでいる加賀。それを看病している美沙、赤城。
一見、おかしなことはまだ起きてはいない。
そう思った矢先――
「……ッ!?」
シャルロットの太ももに何かが触れた。
突然のことすぎて声が出ない。
しかし、シャルロットの近くにて太ももに届く距離だとすれば――
「はあ……はあ……」
隣にいる可憐。可憐はいまだに少し息づかいが荒い。
(ま、まさか、そんなわけありませんよね……気のせいですよね……)
とはいえ、流石に気のせいと感じ、一息つく。
しかし今度は反対方向に座っている昇龍の元に――
「んんッ……!?」
滑らかな手つきでガラ空きのお尻を触る。
昇龍の近くにいてお尻に届く距離だとすれば――
「ん? どうした?」
隣にいる天空城。しかし、天空城に関しては先程可憐な体を触っていたということもあり、お尻を触っていてもおかしくはないかもしれない。
「い、いや、なんにも〜」
愛想笑いで誤魔化す昇龍。しかし、この距離で届くのは天空城しかいないはず。
さらに今度はまた――
「ひゃあッ……!!」
シャルロットのふくらはぎが何度も高速で触られた。
小さく悲鳴をあげ、可憐を見つめるが――
「はあ……はあ……」
特に変わった様子はない。
(しかし、可憐さんは人類最強。私の身体を高速で触ることももしかすれば可能……でも何のためにそんなことを……はっ……!!)
「可憐さんも、加賀さんたちみたいに……」
「加賀? 加賀がどうかしたの?」
シャルロットはかなり言葉を選んで考える。可憐は正義執行管理局に勤めている。局内にはたくさんの少女たち。プライベートでは一切男性と話したことがなく、女性と話す機会が多い彼女。そして加賀と赤城はすでに百合に染まっている。
(それならもしや、可憐さんも――)
「可憐さんも、加賀さんたちみたいにあっちに目覚めていたりするんですか!?」
(やばいです、どうしましょう。だいぶ言葉を選んだつもりでしたが、伝わったでしょうか?)
「そうね。私はとっくに目覚めている。そして数々の人々を救ってきた。でも目覚められたおかげで、それを生かして部下たちに教えることだってしてきた」
真剣に目を瞑りながら答えてくれる可憐。
可憐の目覚めているというのは、己の力。人類最強というだけあって、その力は一般人の領域をはるかに超えている。それはもう、目覚めと言ってもいい。
そしてその力で部下たちに教え、部下たちの育成にも励んできた。
管理局局長の可憐らしい考え――
(可憐さんはとっくに目覚めていたんですか……!? 救ってきたというのは、どういう意味ででしょう!? それどころか、部下の皆さんにもそういった教育を……!? だとすれば、加賀さんや赤城さんを目覚めさせたのも可憐さん……!?)
シャルロットには全く別のことに聞こえていた。可憐はとっくに百合に目覚めており、それを部下にも教育。その末路が加賀と赤城だったという、謎の解釈をしていた。
そして再び魔の手は昇龍に近づき――
「や、やめ……! ああんっ……!!」
またしても何かが足元に触れる。足裏を素早くもねっとりと触る気持ちの悪い触り方に声を上げる。
そしてそれが可能な人物はただ一人――
「どうした、大丈夫か!?」
天空城しかいない。
しかし、触っておいてなぜ心配をするのかがよくわからなかった。
(ま、まさか……!?)
「空、あんたって実は……S?」
誰にも見えないところで触り、自らが心配をかけるふりをして相手の反応を楽しむ。それはもう、Sでしかない。
「はあ……そんなわけないだろ。私はMだ」
(この風紀委員、何言ってんのおおおおお……!?)
あっけらかんとした顔つきでため息をつき、普通に「Mだ」と言った。天空城は真面目な性格のはずだが、なぜこうも普通にその言葉が出てくるのかが不思議で仕方がない。
しかし、これは何か自分を試している。そう感じた昇龍は更なる質問をする。
「そ、そうか……! あーしはあんたがMでも、気にしねえから安心しな……!」
「私はそんな気にしたことはないぞ。体を調べられる時も躊躇ったことなどない。みんなそうだろ?」
(こいつさっきから何言ってるのおおおおお……!? 何でこんなことを普通に言えるんだあああああ……!?)
「?」
驚く顔をする昇龍に首を傾げる天空城。
昇龍からしてみれば、彼女が風紀委員だということを忘れてしまうくらい衝撃的な発言に聞こえる。
(いや、思えば確かにこいつ、少し変わったところがあるように見えた。可憐さんの体を触った時もそうだが、まだ何か特殊性癖を隠している!?)
そう思うと天空城という存在が恐ろしく思い、何かまだ誰にも言えない秘密を隠し続け、いつかその感情が大きくなり、とんでもないエロいことを自分達にするのではないか。昇龍の頭はそんなことでいっぱいになっていく。
そしてシャルロットの方にまたしても魔の手が――
「そ、そんなところを……!?」
シャルロットのお尻を揉みしだくその手。妙な暖かさを感じたが、すぐにその手はどこかへ消えていく。先ほどからそうだ。触ってはどこかに消えるのを繰り返している。
そして可憐は――
「それにしてもシャルロットさんは不思議ね。私が教えてきた子たちと比べても、はるかにその力を得ている。もしかしたら、私よりも。どこでそんなすごい力を得たの?」
(私、可憐さんからして何に見えてるんでしょう!? 神様にでも見えているんですか!?)
可憐はシャルロットの9999の力を称賛しているが、シャルロットには全く違うことに解釈されている。
可憐よりもすごいということは、百合の神様にでも自分は見えているのか。そんな勘違いをさせてしまうようなそぶりを一度でも見せてしまったことがあっただろうか!?
しかし、ここは誤解を解かねば――
「私は全然そんな力なんてありませんよ! 私なんかよりも、管理局の皆さんの方が――ひゃあっ!?」
シャルロットの両手をぎゅっと強く握る。
「そんな謙遜しなくていいのよ! あなたはすごい! この私が言っているのだから間違いないわ! 私の予想では、更なる潜在的な力をあなたは秘めている! その力でこれからもっと――」
「はわわわわっ……」
シャルロットの頭はパンクしそうだった。もしや可憐さんの言う通り、自分にはそういう趣向があったのか。だとしたらいずれ私は可憐さんを越える、とんでもない存在になってしまうのでは……!
そうなれば私の隆さんへの想いはあああああ……!!
更なる魔の手はまた、昇龍の元へ――
「ど、どこ入って……!! はあんっ……!!」
その存在はついに昇龍のタオルの中へと侵入。
天空城はいつの間にか隣に来ていた。
「もしかして、昇龍さんはSなのか? MでもSでも恥ずかしいことなんてないんだ。大丈夫だ」
「て、天空城……やめ……! んあっ……!!」
腹部を何度も触る手つき。その滑るような手つきでの温もりがかなり気持ち悪い。
(天空城、もしかしてあーしのことをMだと思って……!!)
「そんなものは人それぞれ。Lの人もいれば、それ以上の人もいる。もしそのことで悩んでいたら、遠慮なく私に相談してくれ」
その手はさらに暴れ出し、昇龍の下乳を舐め回すようにぬるっと触り続ける。
「ち、違……! あーしはMじゃ……!! って、L……?」
世の中にはSとMと呼ばれるやつがいる。Sは攻め。Mは受け。どちらにも属さねえやつもいる。だが、Lってなんだ?
そんなもの聞いたことがない。
「服の話だろ?」
「ふ、服の話かよっ!?」
天空城は初めから服の話をしていた。服のサイズの表記は英語表記。S、M、L。攻めだの受けだの全くそんな話ではなかった。
――そしてそれに気づいた頃にはもう遅かった。
バシャーーーーーンッ……!!
白いものが昇龍の上空を飛び跳ねた。
「う、うわ……ッ!?」
「何事だ!?」
昇龍の巻いていたタオルを体に巻きつけ、飛び跳ねる謎の存在。先ほどからシャルロットと昇龍を交互に襲っていた全ての魔の手は、この謎の生命体が正体だったのだ。




