三人目のスタッフなんだが?
――旅館一階 廊下――
隆と上条は歩き出し、旅館内を探索していた。
「女将が言っていたあの言葉ってどういう意味なんだ?」
隆と上条は女性陣たちが移動した後、女将と少し話をしていた。そこで聞いた言葉が――
「では、探してみてはいかがでしょうか。この旅館は二階建て。しかしまあ、私から言えることとすれば……」
「……」
「沢村さんは誰も泊まっていない部屋には姿を現さない。ほっほっほっほっほっ……! ほっほっほっほっほっ……!!」
このように言っていた。注目すべきは、「沢村さんは誰も泊まっていない部屋には姿を現さない。」というこの一言。
絶対に何か重要なことを言っていると隆は踏み、上条に尋ねた。
すると、顎に手を当て考える上条。彼にはある程度察しはついていた。
「多分、こういうことなんだろう」
ガチャ……
「……?」
上条はたまたま近くにあった空きの部屋の扉を開けようとする。当然この旅館には現在、隆たち男性陣と女性陣しかいない。だから空いているはずはない。
だが、隆はよくわかっていない。もちろん、誰もいないことは確か。問題はこの上条の行動が何を意味しているか。
「仮にこの部屋に三人目のスタッフが隠れていたら、それは僕らからすれば詰みだ」
「なるほどな。要はなんでもありってことになるわけだ」
空きの部屋に他のスタッフが隠れていれば、それは隆たちからすれば予測不能なこと。何人以上も隠れていることになり、つまらなくなってしまう。
「そう。そして女将は、それを遠回しで僕らにヒントとして伝えることにした」
「じゃあ、部屋の鍵はどうなる? あの土間には十一人全員が揃っていた。仮に三人目のスタッフがいたとして、その人物はどうやって入ったんだ?」
鍵は可憐が施錠し、以降は可憐が管理し続けている。
可憐が誰かに渡した様子もないため、開けるのは不自然と隆は考える。
「それも簡単。マスターキーだよ」
「マスターキー?」
「三人目はスタッフだから、マスターキーを持っていてもおかしくはない。もしくは合鍵とか。その鍵を使って扉を開ける。あとはテレビをつけて、再び施錠。これで密室の完成さ」
マスターキーとは、すべての部屋の扉を開けることができる鍵。それを使用し、女性陣の部屋に入り込み、テレビをつけた。もし本当に人間がやったのであれば、この説が一番濃厚だった。
「上条、お前……頭いいな」
「これでも投資業界の元秘書。頭の回転には自信があるよ。とりあえずは一階を隈無く調べよう」
それから隆と上条はひたすら一階を調べることにした。
ひたすら走った。
ひたすら歩いた。
ひたすら疲れた……
「はあ……はあ……いないじゃんか……」
「流石にそんなすぐには見つからないか……よし、二階に行くぞ!」
一階を隈無く探した後は、二階に移動し、またしても探す。
むちゃくちゃ走った。
むちゃくちゃ歩いた。
むちゃくちゃ疲れた……
そして、二人して大の字になって階段付近で寝転がる。
「なあ上条よ……二人で走って探すなんて、だいぶ効率悪くないか……分断した方が早いって……」
「いや、その場合またどちらかが協力者なんて話になったらややこしくなるからね……だから二人の方がいいんだよ……」
隆と上条はずっと二人で走り回っている。それなら一人一人違う場所を分断して探した方が三人目のスタッフを見つけやすいと考えたが、これにもやはり意味があった。
話を聞く限りでは、可憐が協力者なのでは? という話も出ていたそうだ。
もし単独で動けば、相手陣地の沢村さんとして声をかけられる可能性もある。
自らが沢村さんとなり、動き出すなんてことになれば……
そうなればまた、余計にややこしくなる。
仮にそれで相手に協力させられるようなことがあれば、スタッフが三人いるかどうかの騒ぎではない。
「あとさ……スタッフルームとか厨房に隠れてる場合とかはどうなるの……あそこは入れなかったじゃん……」
スタッフルームや厨房は、突然スタッフ以外は立ち入り禁止。そのため、調べることはできなかった。
「おい、上条……?」
「それは盲点だった!」
「おい、元秘書っ!!」
スタッフ以外が立ち入り禁止の場所に三人目のスタッフが入れば、それは隆たちが調べ上げることはできない。
「もう疲れた……温泉入りにいこう……」
「そうだね……」
隆と上条は立ち上がり、温泉のある一階に戻ろうとした、その時――
「ん? あれって、新月?」
「あ、ほんとだ」
二階の奥の廊下に新月らしき人物が現れたが、その人物はすぐに死角となる壁の奥に消えていった。
おそらく、その近くのエレベーターから登ってきたのだろう。
「あら、こんばんは。こんなところでどうかなされましたか?」
「「……ッ!?」」
その瞬間、更なる衝撃的なことが起こる。
隆たちは恐る恐る振り返る。
――階段の下に立っていたのは、新月だった。
「え?」
「あれ?」
「?」
困惑した顔を見せる新月。しかし、さらに困惑しているのは隆と上条。なぜなら、先程まで新月と思わしき人物は奥にいたはず。
距離は約十三メートル。
それがこの一瞬で隆と上条の後ろに姿を現した。
それも、一階から登る折り返し階段という、限られた狭い場所に。
「おかしいだろ……だってさっき……あんたあっちに……」
震える声で隆は新月に問いかけるが、彼女はまだ不思議そうな顔をしている。
「……ッ!!」
上条は先程、新月らしき人物がいた場所まで駆け抜けていった。上条は隆よりも体力こそあるが、ビーチの疲れや、こうして探し回っているせいで疲労は半端ない。
それでも走らなければいけない。沢村さんを探し出すため。そして、隆の命を守り抜くために――
「……ッ!? いない……」
約十三メートルまで走り切り、新月らしき人物が通った場所にとどまり、あたりを探す。しかし結果は空振り。誰もいなかった。
「僕らは確かにさっき、あの奥であんたを見た……あんた、一体どうやってここまで……」
「私は普通に階段でここまで来ました。もし私を見たというのでしたらそれはきっと――」
その瞬間、隆の体に旋律が走る――
「沢村さんですよ」
「……ッ!?」
「沢村さんが私の姿に化けて現れたんです。これも怪奇現象、でしょうか……ふふふっ……」
右手の掌を口元に持っていき、不気味な笑みを浮かべる新月。こうして起きてしまった、二つ目の怪奇現象。一つ目の怪奇現象に続き、こちらもまた、解決しなければいけなくなった。




