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身体を触らせて欲しいんだが?

 天空城はずっと(もぐ)り続け、可憐に接近。そして、口元に指を。


(え? 静かにってこと?)


 そのまま黙っていると、今度は水中で小さく可憐の前方向を指差した。


(前に進んでってこと?)


 可憐もよくわかっていない。あの天空城さんがなぜこんな意味不明な行動をとっているのか。

 しかし、天空城は風紀委員。

 疑問に思いながらも、なんらかの考えがあると思い、お湯の中で一歩進む。


 ぽちゃっ


 その瞬間、静かに音を立てて可憐の後ろから姿を表す天空城。肩まで姿を表す。


「ストップ」


 可憐が一歩進んだところで足を止めさせる。ここでいいということなのだろうか。


「どうしたの?」


 天空城と可憐は仲が良く、可憐のことを心から尊敬している。そんな彼女がこうして内密に姿を表した。彼女はいつも真面目な風紀委員。そんな彼女だから人には言えないようなことの一つや二つあるはず。

 可憐は部下の相談には日頃から乗るいい上司。例え部下でなくとも、悩んでいる子の相談には乗ってあげたい。


(ましてや彼女は、私のことをすごい(した)ってくれているし……)


 今日の一日で可憐とはだいぶ仲良くなれた。可憐にしか言えないような何かがあるのかもしれない。

 もしかすれば、真面目な性格が(ゆえ)、誰にも相談できなかったのかも。


「もしかして、他の子には言えないような相談事とか?」


 そう思い、可憐は慎重に尋ねた。


「可憐さん、身体を触ってもいいですか?」


「……」


「……」


「……」


「……」


「私これでもあなたのことはすごい真面目でいい子なんだなって思ってたのよ!?」


 あまりの衝撃的な言葉に、後ろを振り返りながら大きな声で発してしまう。


「可憐が怖いっ!? 誰と話してるの!? イマジナリーフレンド!?」


「可憐、あなたの友達はここにたくさんいるというのに……」


 なぜか泣き出す赤城。

 それもそのはず、可憐の身体で死角になっており、天空城の姿は見えていない。それも踏まえ、天空城はこっそりと可憐の背後から姿を表した。


 ある意味では可憐の考えもあっている。

 色んな意味で可憐にしか相談できないから。色んな意味で。

 そもそも、真面目な天空城が可憐の身体を触るなんてことがバレれば、大変なことになる。


「ち、違います! すみません! 誤解させるようなことを言ってしまって!」


 しかし、さすがは天空城。そんなやましい心はなく――


「知っての通り、私は風紀委員。そして格闘家。私は人々を守るためにまだまだ強くならなければいけない。そのためにも格闘家として、地上最強と呼ばれている可憐さんの体の筋肉の作りを知っておきたいんです」


「そういうこと……ね?」


 唐突に言われ、なんて返せばいいのかがわからない。


「お願いします」


「わ、わかったわかった……! そのかわり、その……胸だけは触らないでね……」


「わかりました」


 天空城は真面目なはずだが、どうしてもへんな意味に聞こえてしまう。そして、今の可憐には加賀のせいで胸が弱点となってしまっている。

 流石の天空城でも胸は触らないであろうが、念には念を込める。


「では早速」


 右腕を両方の手で優しく包み込み、二の腕を優しく揉む。次第に強くなり、くすぐったさが可憐の全身を駆け巡り、伝わる。


「んんっ……」


 漏れる甘い声。可憐も大きな声を上げるわけにはいかない。これは天空城のためでもあるため。


 そこから前腕まで手を滑らせ、同じように揉み続ける。

 さらにそこから可憐の細い右手まで滑らせ、指を一本一本しっかりと触る。


 ――そして。


「……ッ!?」


 手をギュッと握る。

 それも指の隙間に指を入れて絡ませるような状態。


(ええっ!? 手を握る必要なんて……!? ま、まさか天空城さん、実は加賀と同じそっちの趣味が……!)


 気がつくと今度は左腕を触り出していた。しかし、そんなことがどうでもよくなる程、頭がいっぱいになる。


(この子確か、可憐さんみたいに日本をいい方向に動かしたいって部屋にいるときに言ってくれて、私すごい感動したのに、まさかまさかのそっちの趣味が……!)


 日本をいい方向に動かしたいという方針を聞き、すごい感動していたのに、その会話が別の意味で夢のように思えてくる。


 天空城は自分の胸を無意識のうちに当てて、後ろから先ほど同様、二の腕、前腕、手の指という順番で触っていく。

 力加減も弱から中、強の順番で。


 ――そして。


 ギュッ


 またしても手を握る。

 指の隙間に指を入れて絡ませて。


(ダメ……私にそっちの趣味はないの……普通に……男の子が好きなのに……)


 可憐の恋愛対象はシンプルに男性。いかに職場に何百人と年の近い女性がいようとも、加賀の百合色猛攻撃を受けようとも、それは揺るがない。

 しかし、可憐と信念が似ている天空城が、もし百合の趣味を持っている場合、そのシンパシーに釣られて自分ももしかすれば目覚めてしまうのかもしれない。


「あの……可憐さん……」


「な、なあにい……」


「下も……触りたいです……」


「わ、わかった……」


(し、下……下ってどこのことだろう……もう、頭が……)


「できれば……脚を伸ばしてくれるとありがたいです……」


「う、うん……」


 可憐の頭はボーっとしてしまい、うまく思考が働かない。

 天空城は格闘家で力もそれなりにある。そのため、先ほどのもみほぐしが思いの外、神経まで伝わった。

 そのせいなのかもしれない。

 可憐は正座していた脚を伸ばす。


 天空城は水中へと消えていく。

 股は開いていないため、天空城の右手がむっちりとした太ももで挟まれる。可憐も緊張しているのか、股に力が入り、天空城の手もなかなか動かすことができない。

 このままでは息が持たない。そう思った天空城は、武術で(なぎ)ぎ払うかのように力強く手を滑らせる。


「ひゃ、ひゃあんっ!」


 あまりの強さにまたしても甘い声を出してしまう可憐。


「また可憐がエッチな声出したっ!!」


「可憐ちゃん、大丈夫!?」


「だ、大丈夫よ……」


 可憐の身体は火照り出していく。

 周りからは天空城が見えていない。だから一人で可憐がいかがわしい声を出しているとしか思えない。

 ましてや、誰が可憐の身体を天空城が念入りに触っているなんて思うだろうか。


 両手で右の太ももを掴み、優しく撫でる。さらには何度も揉み続け、左の太ももへと移り、モミモミ…‥モミモミ……


 足の脹脛(ふくらはぎ)も同じように両手で優しく撫でて、モミモミ…‥モミモミ……


 仕上げは足の(かかと)から足先を――


「ら、らめっ……そこは……んんんっ!」


 必死に声を(こら)えるが、神経を押され、くすぐったい足裏を撫で始められ、とうとう強く声が出てしまう。


「なんかさっきから可憐さんの様子おかしくねえか?」


「可憐、まさか……! 一人で……!! そ、そうだよね……彼氏もいなくて十九年……仕事一筋の女が最近男と仲良くなったのに、なかなか前へ踏み出せないんだもんね……だ、大丈夫だよ、可憐……頑張れ……」


 加賀は正座をしながら(うつむ)いて、震える声でぶつぶつと何かを言っている。(おぞ)ましいなにかを見てしまったかのようなぐるぐるとした目。

 可憐の顔はだいぶ気持ちよさそうな顔つき。

 いつもなら可憐が何かしらツッコミを入れるところだが、そんなツッコミすらもできないほど、頭がぼーっとしていて加賀の声が聞こえてこない。

 一体可憐はどうなってしまうのだろうか……!?

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