乳を捧げよなんだが?
加賀が提示した条件。それは、加賀が個々に指定した回数分、胸を揉ませること。加賀の情報次第では怪奇現象は終わる。が、ただの的外れ。もしくはただのハッタリという可能性だってある。
「もちろん、全員だよ、全員。さあ、私に乳を捧げよっ……!! さすれば、真実は開かれん!!」
両手を大きく広げ、狂気に満ちた笑みを浮かべる加賀。
これは、たとえこの中の一人が揉ませたとしても、他の全員が揉ませない限り、無意味になる。
「私は嫌よっ! 今日あんたに何回されたと思ってるのよっ! しかも、あんたの手つき……」
「そう。私が揉んだ場所は触るとしばらくは敏感になる。さあ、どうする?」
「あーしはいいぜ。そうすりゃ、もう怪奇現象は起きないんだろ?」
昇龍は特に躊躇いなどはなく、了承。このまま怪奇現象が続けば、頭を使うこととなる。ならばその前に加賀の助けを借りた方が早いと思い、胸をささげることにした。
「おっしゃあ! まあ、かもねってだけだけどね」
「私もいいぞ。私には風紀委員として皆を守る使命がある」
さらにはあの天空城も了承。天空城は風紀委員として守らなければいけない。そう思い、胸をささげることにした。
「風紀委員は関係ないと思うけど、おっけえいっ!」
「隆さんたちは向こうへ行くんですよね?」
「うん、大丈夫! 来たら私の怪力で顔面ぶち抜いて息の根止めるから!」
(こええよ……)
相変わらず怖い発言をする加賀。そのことにいちいちビビる隆だが、上条は無反応。いつもみたいに冗談も言わず、ただ俯いている。
「じゃあ、私もやります」
「なら、まあ……」
美沙もみんながやるならみたいな感じに了承。シャルロットも二人が入ってこれないことを再度確認し、やることを決意した。
「あはっ……あーっはっはっはっはっ……!! こんなにも簡単に、少女たちの胸を合法的に揉むことができるなんて、なんって私はついてるんだっ……!!」
加賀は高笑いをし、もう間も無く全員の胸が揉めることを喜んでいた。自らの頭脳だけで七人の胸が合法的に揉める。
普通の人間には、立場や頭脳などで敵わない願い。
しかし、加賀ならばできる!もう気分はウハウハだった!
「あとは赤城だけど、まあ聞かずもだね」
「は、はい……」
少し照れくさそうに了承する赤城。赤城は加賀と両思い。断る理由なんてない。そうなればもう、後一人。
「で、あとは可憐だけど……どうする?」
「いやいやいや! 私は絶対にいや! だってついさっき……いや、なんでもない……」
途中で何かを言いかけたが、やめた。
先ほどすでに加賀の手により、胸を揉まれている。だから今、胸がとても敏感になっている。これでさらに揉まれるなんてことがあれば、可憐の体は一体どうなってしまうのだろうか。
「私は別にいいんだよ〜。私は。でもね、このままだと怪奇現象起きちゃうよ〜。お化け出ちゃうかもよ〜。それは嫌だよねえ〜。じゃあ、私に揉まれた方が手っ取り早いと思うんだけど〜」
「ぐっ……!!」
煽るように言い、怯んでしまう可憐。
「待て! 可憐さんが嫌なら私も大丈夫だ!」
可憐に負担をかけさせまいと間に入る天空城。もし嫌な人が一人でもいれば、強制はさせたくない。
それが天空城の本心だった。
「あーしもだ。そこまでしてまで情報は手に入れたくねえ。なあ、みんな」
「はい!」
「うん!」
「ええ」
先ほど了承した四人もまた、同じよう言いう。彼女たちもまた、天空城と同じ気持ち。赤城は別の意味で少し怪しいが。
そんな時、ある人物が立ち上がる。
「ん?」
加賀は疑問に思いながらも、上条を見る。上条は膝を突き、両手を地につける。そして、頭を下げた。
土下座だった。
「なんの真似?」
「頼むっ!! 教えてくれっ……!! 僕にできる範囲ならなんだって君に力を貸すっ……!! 可能ならば、彼女たちの負担は全て僕だけに背負わせてくれっ……!! 頼む……!!」
「……」
「上条……」
必死だった。なぜ上条がこんなにも必死になるのか。それは、隆の命がかかっているから。怪奇現象を全て突き止めなければ、隆の腕のバングルは爆破、つまりは隆の死亡。
上条は隆のことを守ると決めていた。
上条の男の土下座。
隆もそれを察する。
そんな上条を上から腕を組み、見下ろす加賀。
顔は、いつしか冷たい表情へと変わる。
「待って! もういいわ、上条くん! 私が――」
可憐は自分一人でみんなの足を引っ張るわけにはいかない。ましてや一番の年長。だからもう、覚悟を決めた。
しかし、可憐が一歩踏み出す途端、今度は隆が前に出て上条と同じことをする。
「頼むっ……!!」
隆の土下座。プライドの高いあの隆もした。
これには加賀を含めた周囲全員が驚く。
「ッ……!? へえ〜、隆。それは誰のための土下座?」
だからこそ、加賀も気になった。あのプライドの高い隆がこんな真似をするなんて。
「当然、みんなのためだ。それは加賀、お前も例外じゃない。だが、可憐だけは嫌がっている! そんな中、させるわけにはいかないだろっ!」
「……ッ!?」
隆は命がかかっている。でもそれ以上に、可憐が嫌がっている。そう思った隆は真っ先に動いた。
上条が土下座をしているのだから、口なんかで言ったら最高にダサい。それなら、自分だってやってやる。そう決意した隆もまた、男の土下座だった。
そして、隆はまたも自分を守ってくれたと感じた可憐。
胸に手を当て、速くなる鼓動を感じ取る。
(あなた、年下のくせにカッコつけすぎなのよ……ばか……)
内心は嬉しかった。自分の名前を呼んで助けてくれた。隆は年下で自分よりは強くもないし、社会経験だってない。
それでも、彼には意志がある。何かを守るためならどんな時だって動く。そんな隆をかっこいいと一瞬思ってしまった。
「ふっ。男の土下座ね。はあ……まあいいよ。いいものを見せてもら――」
「だからさっきこいつらに言った回数分、僕の胸を揉んでくれっ……!! 僕がこいつら全員の代わりになるっ……!!」
「いや、隆だけに負担はかけさせられないよっ……!! その回数分の半分は僕が引き受けたっ……!!」
ボコッ……!!ボコッ……!!
次の瞬間、二人とも加賀に頭を殴られ、二人して情けなく倒れた。最後の二言が完全に余計だった。
「こっちがちょっと折れかけてんのに、余計なこと言ってんじゃねえぞ、男どもっ!! てめえらの胸なんて揉んだところで、得るものがない上、私の百合百合ピンク色で染まった手のひらが汚れるわあっ……!!」
完全にブチギレた加賀。
だが、先程の土下座を見て、加賀心も変わった――というより、匹敵はしないが、男の土下座を見て少し満足していた。
「根本から考えて」
「え?」
「私たちの考えは根本から間違っていた。根本から考え直すことで沢村さんの正体を掴めると思う。私からの最低限のヒント。まあせいぜい頑張って」
加賀は黙ってその場を後にしようと、部屋を出て行こうと扉の先へと向かった。
「ありがとう、加賀」
隆の声で右手を軽く上げ、後ろを振り返らずに黙って挨拶をした。
ヒントを与えたのも、多少なりとも加賀なりの配慮だったのだろう。もし本当に高みの見物だけがしたいなら、まず初めから黙っていた。それでも盛り上がりそうな話題を出し、場を盛り上げ、悪役ぶる。
でも上条は何か隆のために動いてることが何となくわかっていた。だから少しは力になりたかった。
「って、どこに行くんですか。トイレならこの部屋にあるでしょう」
「ちょっと外の空気を吸いに、ねっ……」
イケボで答える加賀。
そう言い、扉を押して開けた瞬間――
「どうもお〜」
「ぎゃああああああっ……!!」
発狂し、加賀は唐突すぎて腰を抜かして倒れた。
完全に自分に酔っていた後での登場。
「どうしたの!?」
全員が声のした方向を確認。
加賀は驚きすぎて震えながら座ってその人物を見る。
「皆さま、お風呂の準備が整いましたよ〜。さあさあ、遠慮せずに入ってください。ほほほほほっ……」
背中に手を回し、ニコニコした笑顔でこの場にいる全員に伝えにきたのはこの旅館の女将だった。




