可憐犯人説なんだが?
可憐は一瞬動揺した。まさか自分までもが疑われるなんて。しかし、加賀のことだ。どうせまた変なことを言うだろうと思い、軽く流すことにした。
「はあ……私がそんなことするわけないでしょう。どうせ私が鍵を持ってるからとかで言ってるんでしょ」
「それもある。でもそれだけじゃない。可憐だけには女将さんや新月さんと話す機会があった!」
「……なっ!?」
可憐はまたしても動揺。
「それは、ビーチに行く前のここに荷物を置きに来たころ! 手続きと称し、女将さんと協力関係を結ぶ。それから可憐は協力者となり、沢村さんとして動き始めたのだよ!」
「そんなわけあるかーい!! 大体私……その……お化け、苦手だし……」
最後に手をモジモジさせながら何かを呟いた可憐であるが、周りには聞こえていないようだった。加賀を除いては。
仮に共犯者となる沢村さんがいる場合、その人物はあらかじめ女将さんから何かしらの話を聞いていないとおかしい。
そしてそれが可能なのは、可憐ただ一人。
他の人物はその頃、すでに部屋に戻っている。それも可憐のように一人ではなく、集団で。つまり、可憐一人がアリバイがなく、共犯者の可能性が高いと言うわけだ。
「ま、マジかよ……可憐さんが共犯者……」
昇龍は驚いていた。
「ち、違くてっ!」
「私は信じています! 可憐さんはそんなことしない人だって! したとしても、みんなを盛り上げたかったんですよね!」
天空城は信じている……とは思うが、最後の一言が可憐にとっては少し余計だった。
「だから違うんだってば〜!」
必死で否定する可憐。このままでは自分が沢村さんにされてしまう。そう思った可憐は必死で反論の言葉を考える。
そして、思いついた。
「そうだ! じゃあ、リモコンはどうなるのよ! 私はみんなと一緒にいたし、テレビを付ける間も――」
「ふっ、残念。リモコンはおそらく、もう一台あるんだよ。そしてそれは今、可憐自身が持っている」
「も、もう一台!?」
今この部屋にはテレビのリモコンが見えている限りは一台ある。美沙の近くにある一台。しかし、もう一つあればどうだろうか。
「この部屋に初めて来た時には確かにリモコンは一台しかない。しかし、可憐ならば女将さんから余分に一台を受け取ることが可能。そして土間から戻り、鍵を開ける寸前でテレビをつけた!」
「そんなことできるわけないでしょ! 忍者じゃないんだし!」
「いーや、可憐ならばできる。だって、人類最強の少女と呼ばれた可憐だから! そんな早業、朝飯前……いや、昨日の晩飯前のはずなんだよ……!」
「(そうだったあ〜……!!)」
可憐は人類最強の少女。数々の任務をこなしてきた実績があり、さまざまな技を駆使して敵を倒すことに特化している。
そんな彼女ならば、誰にも気づかれずにリモコンでテレビをつけることが可能かもしれない。
何より、彼女の実力は加賀がよく知っている。それを込しての発言である。
そして自らが人類最強の少女と呼ばれていることを、今日の出来事が楽しすぎて忘れてしまっていた可憐であった。
しかし、こんなところで引いてしまってはただただ自分が犯人にされるだけ。
(なんとかして反論しなければ……!!)
「じゃ、じゃあそのリモコンは一体、どこにあるのかしらねえ。私はこの部屋から一歩も出ていない。じゃあきっと、この部屋にあるはずよねえ」
動揺しすぎて口調までもがおかしくなっている可憐。
しかし、これまたごもっともな意見。
事実可憐はこの部屋からは一歩も外へは出ていない。この部屋には窓もあるが、外へ投げるなんてことは可憐の職業柄しない上、そんなことをしたら誰かが真っ先にに気がつくはず。
「ならそこの鞄かもねえ。いいわよ、好きに探して貰っても。私が許可するわ」
可憐も若干挑発気味に加賀に言う。しかしこれも可憐の中では計算された発言。なぜなら、可憐はこの部屋に戻ってから一度も触っていない。だから例え鞄を探されたとて、当然見つかるはずもない。
しかし、加賀は動こうとせず、俯いていた。右手の人差し指でシガレットチョコを口の中で押し込み、それを噛み砕き、全て飲み込む。
そして立ち上がり、静かに右手の人差し指である方向を指差した。
「な、何よ?」
可憐の胸。
「そのデカ乳に決まってんだろうがあああああああっ……!!」
「何でそうなるのよおおおおおおおっ……!!」
互いに今日一番でかい声でぶつかり合う。
「リモコンでテレビをつけ、それを直ぐに隠せるとしたら、自分の胸の谷間しかない! 今もその胸の谷間にはリモコンが挟まってるんでしょ! なんてエロいやつだ!!」
「そんなわけあるかあああああああっ!!」
しかし、残念なことに加賀の言い分は通ってしまう。もしリモコンでテレビをすぐに可憐がつけた場合、それをまた直ぐに隠さなければいけない。そうなった場合、一番手っ取り早く隠せられ、なおかつバレにくい場所といえば一つしかない!
そう、おっぱい!!
しかもリモコンを胸で隠す場合、加賀、美沙では明らかにバレる。昇龍、天空城、シャルロットならばギリバレない。
だが可憐ならばどうだろうか。楽勝でバレることはない!!
「はあ……はあ……何で私、こんなことで体力使ってるの……美沙さんも加賀になんか言ってあげて……」
可憐はもう、息切れするほど疲れていた。ビーチで遊んで普通に疲れが来ているのにも関わらず、訳の分からない言い合いをしていることに。
そして最後の綱は、リモコンをずっと触っていた美沙に託された。
この子ならいい感じに言い返してくれる。
そう信じてい――
「可憐さんはいいよね。そんな恵まれた立派でたわわな胸を持ってるから、そんなこともできちゃうんだもん……」
(あ、あれ? なんか、思ってたのと違う……?)
美沙は俯き、聞こえる声でぶつぶつと胸の話をしている。
あれ? リモコンは? 私、美沙さんがリモコンに詳しそうだと思って助けを求めたんだけど〜。
「美沙よ! 悔しくはないのか! あの巨乳が羨ましかろう! 自分の胸を見てみ! まな板ではないか……!」
嘘くさく泣きながら感情的になり、加賀は美沙に何かを訴えかける。
「く、悔しいよおっ……!!」
美沙はと言えば、本気で可憐を見ながら泣いていた。その瞳はかなり潤んでいる。
私は一体、これを見てどうしろというのだろうか。
慰める? なんて?
否定する? 何を? 美沙さんを? 自分の胸を?
よくわからない言葉ばかりが可憐の脳裏を過ぎる。
「赤城いっ!!」
「わ、私!?」
赤城は加賀と可憐のいつものやりとりだと思い、仏頂面でぼーっとしていた。
「人ごとじゃないのよ、赤城っ! あなたの胸もまな板! それが見なさいよ、あの胸を! きっと私たちの胸は全部可憐に吸収されたんだよっ!」
またも嘘くさい涙で赤城に訴えかける加賀。
「可憐……どうしてそんな酷いことを……」
本気で可憐を見ながら泣く赤城。その瞳はかなり潤んでいる。
「もう理屈も何もないじゃない!!」
「そしてこの私自身も人ごとじゃない! さっき可憐は「好きに探してもらっても」と言ったよね! チェックメイト! リモコンは可憐の胸の谷間! 全軍、突撃いいいいいいいっ……!!」
「ちょ、そういう意味で言ったんじゃ――って、何であなたたちまでっ!? ――きゃあああああああっ……!!」
加賀の声で美沙と赤城も続き、手をわきわきさせながら可憐の胸目掛けて突撃していった。
それを見て呆れるかのようにため息をつく昇龍。可憐が犯人であってほしくないと手を握り、祈る天空城。
この場に三人を止めるものはもういなく、あっという間に可憐の上着は脱がされたのであった。
――そしてその一分後――
可憐の胸の谷間からは何も出てこなかった。
「だから言ったじゃない! 私じゃないって!」
「え? 何の話?」
何事もなかったかのように言葉を返す加賀。
「リモコンよ、リモコンっ! ていうか、赤城と美沙さんはこういうことしないって信じてたのにいっ!」
乱れた服を直しつつ、涙目で二人に訴えかける可憐。
「本音を言うと、前々から少し触ってみたくて〜」
「私も少し……ほんのすこ〜しだけ……」
二人は自分の両手を広げ、ずっと見つめている。
まだ胸を触った時の感触が残っているのだろうか。
「ということは、可憐さんは無実だったんですね!」
「もうそんなことはどうでもいいです」
可憐が無実だったことに心から喜ぶ天空城であったが、そんなことを忘れるくらい三人にされたようだ。
「じゃあ一体、テレビをつけたのは誰だっていうんだ?」
昇龍の言葉を聞き、服の乱れを完全に治し、可憐は立ち上がった。そして、ここにいる全員に向けて言い放つ。
「ここからは私が考えるわ。私たちは大事な何かを見落としている気がするの」
完全に別方向に走っていった加賀の代わりに立ち上がる可憐。ここから、可憐の推理が始まる……!




