怪奇現象が起きたんだが?
ガチャッ……
静かに閉まった扉が向こう側から開く。そこから小さく顔を覗かせる美沙。目はジト目。
「お兄ちゃんさ、また厨二病に戻ったの?」
……
……
「ノーコメントだ」
「あっそう」
完全に美沙はドン引きしていた。いい感じの反論も思い浮かばなかったため、ノーコメントとして反論させてもらった。
もう呆れを通り越して、哀れだと思われてそうなんだが。
「それよりも美沙さん! 怪奇現象が起きたって本当なんですか!?」
「あ、そうそう! 起きたの! テレビが勝手についてさ!」
美沙は閉めていた扉を勢いよく開け、ズカズカと入ってくる。
「どういう状態か具体的に教えて」
「そうだね、三人とも部屋に来て」
真剣な眼差しで僕ら三人を見る美沙。なんだ? 一体、あっちの部屋で何が起きているというんだ?
僕ら四人は部屋を出て、美沙の案内のもと、美沙たちが寝ることになっていたもう一つの部屋に向かった。
部屋に入ると、昇龍、天空城、可憐、加賀、赤城がいた。そこに僕、上条、もどき、美沙が加わった九人。特に誰かが減っているということはなく、この場にはビーチに来た時点での全員集まっている。
部屋の間取りや家具の配置は多少違うものの、ほとんど同じ。おそらく、僕と上条は二人。対してこの部屋は七人。だからこちらの方が多少広いように見える。
そして肝心な問題は――
「私から説明しよう。あれは確か、夕食前ぐらいの頃だ――」
それから天空城がその時起きた出来事を僕らに伝えた。
――一時間ほど前――
隆たちが食事している時、シャルロットも含めた女性陣七人も同じくして食事をしていた。
「美味しかったですね。ではちょっと私、隆さん達の部屋に用事があるので! それではまた後で〜」
シャルロットは立ち上がり、一礼して部屋を出た。
「なんの用事だろう?」
その時、シャルロットの行動に少し疑問に思っていたいたのは美沙。少し急足で部屋を出たシャルロットは何か隠しているように見えた。
しかし、あまり気にするようなことでもないと思い、すぐにその疑問はすぐに晴れた。
問題が起きたのはその直後――
「ねえみんな、この部屋で起きている異変に気づいた人って、もしかして私だけ?」
加賀だった。珍しく鋭く、低い声で言う。
「ちょっとそんな怖いことが起きたみたいに言うのやめてよ」
「ふっ。だってもうすでに起きているからね!」
パチンッ!
右手でパチンと指を鳴らし、人差し指でテレビを指を差した。
「テレビ?」
見るからに普通のテレビ。大きさは家庭用と比べると少し大きめ。電源は入っており、バラエティ番組が放送されている。そんなテレビを彼女は指し、キメ顔をしていた。
「あのテレビ、初めからついてた?」
「そういえばそうだ。夕食前にこの部屋に来た時からずっとついていたな」
大広間に九人が集まり、その後女性陣七人は部屋に戻った。
そしてこの部屋に来ると、テレビがついていた。
部屋から出る際、年長である可憐が部屋を女将から貰った鍵で施錠していた。
「消し忘れなんじゃねえの? 最後に見てたのって、確か加賀ちゃんだったよな」
「いーや、私はちゃんと消した。電気代勿体無いし。ということでここは実は頭のいいこの私、シャーロック加賀の出番だっ!!」
加賀はどこからか紺色のコートを取り出し、勢いよくそれを着こなす。帽子を被り、五段に積まれた座布団にドスンと座る。
「あんたそれ、どこから持ってきたのよ」
加賀はここへ来るまでにこんなコートを持ってきていなかった。それは同じ管理局である、可憐と赤城がちゃんと把握している。
「この部屋にあったのさ。多分、前の客の忘れ物だろう」
何故かイケボ口調で話す加賀。勝手に前の人のコートを着ている。
「ちゃんと後で女将さんに返しなさいよ」
すると、下に履いている短パンの左ポケットに手を突っ込み、小さな白色の棒状の何かを取り出し、口に咥える。
「ふう〜」
それを口から話すと、今度は空に息を飛ばす。そして目を瞑った。
「あんたそれ、タバコじゃない!! あんた未成年――」
「大丈夫、可憐。これはおやつに食べようと持ってきた、シガレットチョコだから」
シガレットチョコとは、タバコのような見た目のお菓子。当然お菓子のため、未成年が食べても問題ない。
見た目は確かに探偵っぽいように見えるが、咥えているのは探偵がよく使うパイプなどではなく、ただのシガレットチョコ。
しかも加賀が握って手にしていたシガレットチョコのパッケージはなんと、期間限定いちご味!
見た目はチョコ味のと変わらないが、味はいちご味!
期間限定が気になったのだろうか。
「もう、びっくりしたじゃない……」
「何がしたいんですか、加賀」
安堵する可憐と呆れる赤城。
「じゃあ話を戻そうか。ぶっちゃけ犯人は沢村さん。でももし、沢村さんという、別の名義を持つ人物がいるとしたら?」
「それってつまり……」
「犯人は、この中にいるっ……!!」
目をカッと開き、誰と言うわけでもなく、正面を指差した。
現在この部屋にはシャルロットを除いき、加賀を含めた六人がいる。
美沙、昇龍、天空城、可憐、赤城。そして加賀。
果たして、この中にテレビをつけた人物がいると言うのだろうか?
「まず第一に怪しいのは、天空城」
「わ、私なのか!?」
何故か天空城をビシッと指差し、鋭い目つきで言葉を放つ。
「天空城はここに私たち七人で戻った際、シャルロットを除いて唯一この部屋を直ぐに出た人物! おそらく、テレビをつけた罪悪感から部屋を出ていたのだろう!」
むちゃくちゃだった。
天空城は確かに部屋を出ている。女性陣全員で部屋に戻ったあとすぐに、天空城は一人外へ出て行った。なお、夕食前には戻ってきている。
「いや、私はこの旅館の文化が素晴らしいと思い、旅館を見て回っていた。ここの旅館、歴史上の有名な人物が残した掛け軸や、何百年も前から保存されている日本刀などもあって、とても見応えがあったんだ」
天空城はとにかく落ち着いたいた。
彼女は風紀委員でもあり、とても勉強熱心で真面目な性格。そんな彼女ならば、この旅館を見て回りたいと言ってもなんら不自然なことではないだろう。
「……」
加賀は渋い顔をして黙り込んでしまった。
「何その、テレビをつけた罪悪感って。そもそも、天空城さんはずっと私たちと一緒に行動していたでしょう。いつそんなことをする時間があるって言うのよ」
「……」
可憐の圧倒的正論でまた黙ってしまう加賀。
「また黙ってしまいました」
「わかった! タイマー! タイマーをセットし、時限的にテレビを付け――」
「タイマーないよ〜」
美沙はリモコンに仕掛けがある可能性を考え、すでにリモコンのところに行き、調べていた。
結果、タイマーなし。そもそも、タイマーで自動でつくテレビなんてあるのだろうか。
「……」
「また黙ってしまいました」
「まあ今のはほんのお遊びさ。風紀委員でもあり、まじめな天空城が犯人なわけなかろう。こんなことで私の手のひらで踊るなんて可愛いね〜、君たちは」
ニヤニヤと一人笑う加賀。
「誰一人踊ってませんし、あなた一人が踊っていた気がします」
さっきの加賀の問い方は明らかに本気のように見えた。赤城の言う通り、ただ一人で踊っていただけである。
「ここまではあくまで、真犯人を誘き寄せるための罠、言わばトラップ。真犯人も今頃、動揺しているんでしょうねえ!」
「まだ続ける気? もう疲れたし、そろそろ休みた――」
「紫可憐っ!! あなたが真犯人ですっ!!」
突然大声を上げ、可憐の声をかき消し、彼女目掛けて思いっきり指差す。
だが何故かそこには、はっきりとした意思のようなものが感じられた。
これより、加賀による可憐犯人説の解説が始まる!




