ダークネス隆とはなんだが?
少し鋭い目つきで尋ねる隆。
少し動揺した。隆もまさか知っていたなんて。
しかし、これだけ時間が空いていれば知っていてもおかしくはない。
「そうだよ。そのことは誰から?」
「私です」
しばらく黙っていたシャルロットが隆の代わりに答える。実際、このことはシャルロットから聞いているから間違いはない。
「なるほどね。その記憶はあるのか」
「?」
上条は小声で何か独り言を呟いた。そのことに首を傾げるシャルロット。
「どうしてそんなことをしたんだ?」
「……」
沈黙の上条。
リインタワーにあるサーバーはインベスト内全ての情報が詰まってある装置。それが上条の手により、破壊された。
隆はどうしてもその理由が知りたかった。上条は本当はそんなことをするような奴じゃない。だから信じたかった。
「私からもお願いします」
「……」
真剣な眼差しでシャルロットも言った。それでも渋い顔をし、沈黙を貫く。
「おい、答え――」
「ごめん、それだけは答えられない」
「え?」
返ってきたのは答えられないという答えだった。目を思いっきり瞑り、何かを隠すような様子で。
「理由は?」
「それも答えられない」
「「……」」
二人は困惑していた。何かやましいことでもあるのだろうか。後ろめたいことでもあるのだろうか。そんな考えが隆の脳裏をよぎった。
「オーケー、わかった。質問を変える。僕はお前を信頼してもいいんだよな?」
「……」
「上条さん?」
またしても沈黙。今度は目を逸らした。上条が何かを隠していることは明白だった。
「それも答えられない」
「はあ……言うと思ったよ。でもな、僕はお前がなんと言おうが、お前を信じる。お前は一度でも僕やみんなを裏切ったことなんてないだろ。だから僕はお前を信じる」
「私もですよ! 上条さんは隆さんの大切な親友です! 隆さんが言うなら間違いありません!」
その言葉を聞き、上条は軽く微笑み再び前を向いた。ここまでいろんなことがあり、そのたびに困難を乗り越えてきた。隆とシャルロットの二人には、上条が裏切るなんて考えられなかった。
「ふっ。わかったよ。でも隆。これだけは言わせて」
「なんだ?」
「隆のことは僕が必ず守るから。どんな手を使ってでも」
「……おう! 頼んだぜ!」
上条は満面の笑みで答えた。
隆はその言葉に少し戸惑ったが、いつもの洒落たセリフをまた吐いたのだと思い、隆も勢いよく答えた。
ほんと、上条ってやつは。こうやって笑い合える仲間がいる。僕もいい仲間を持ったものだ。
それを見て、シャルロットも微笑んだ。
「あれ? そういえばお前、もどきに何か聞きたいことがあったんじゃないのか?」
「どうする、隆。僕は構わないよ。なんなら僕も聞きたいことがいくつかあるわけだし」
もどきがこの部屋に来た際、こんなことを言っていた。いろいろ話していてすっかり忘れていたが、なんだったんだ?
「ああ、あれのことならもういいよ。もう解決したからね」
「そう……ですか」
何を聞きたかったのかよくわからないが、こいつの中で解決したらしい。何を聞こうとしていたんだろうか。
もどきも少し首を傾げていたが、納得したようだった。
「じゃあ、私から隆さんに一ついいですか!?」
「僕に?」
もどきは目を輝かせながら僕に尋ねてくる。
「お! シャルロットちゃんから隆にとは……これは気になるね〜」
「だーくねす隆って、なんですか? ――って、あれ?」
「うをあああああああッ……!! やめろおおおおおおおッ……!! どうおあああああああッ……!!」
床を使ってゴロゴロと回転をする隆。
「うわあ……でも確かに、僕も気になってた。あの力なんなの?」
ビーチで見せた隆のあの能力。自らをダークネス隆と名乗り、闇の力を発揮し、チーム管理局を圧倒していた。
側から見たらただの痛い奴だが、実際に紫色のエネルギーのようなものをビーチボールは纏っていた。
「って、聞いてる、隆?」
「やめてくれえええええええッ……!! それは僕の黒歴史なんだよおおおおおおおッ……!! こっちはそれを墓まで持ってくつもりだったのにいいいいいいいッ……!!」
隆はひたすら転がることで忙しいようだった。
「なんで僕もあんなことしたのかよくわからんのだ。でも、記憶だけはある。まるでさっき起きていたかのように」
「そりゃ、さっき起きてたからね」
隆は落ち着き、再び喋りだした。隆によると、自分で行動を起こしたのはわかっているが、なぜあそこまで黒歴史に自ら乗っているかのような口調や態度になっていたのかが自分でもわからなかった。
「あ! そういえば……!」
何かを思い出したかのようにポケットからスマホを取り出し、メールの画面を開く隆。
「あれ!? ない!? ない!? ここにダークネス隆になりますか、みたいな文章が送られてきたんだよ! それがないんだよ!」
しかし、開いた頃にはそのメッセージは綺麗さっぱり消えていた。どこをスクロールしても見当たらない。
まるで最初からそんなメッセージなんて届いていなかったかのように……
「また一段階、隆が狂ってしまったようだ……」
呆れて手の先を額に当てる上条。
「わ、私はどんな隆さんでも、き、嫌ったりしませんから、だ、大丈夫ですよ……!」
愛想笑い気味に笑うシャルロット。
「違うんだって! まじなんだよ! それも投資業界からきてたみたいで……! まさか、沢村さんの仕業っ……!?」
ハッと思い出したかのように言う隆。
「投資業界? って、いや、沢村さんは害はないって言ってたし、それはないよ」
「ちなみに、そのダークネス隆にはまたなれたりしますか?」
「いやわからん。発動条件は気まぐれみたいに書いてあったし」
「じゃあちょっといろいろやってみてよ。変身! みたいな!」
上条は左手で目を覆い、ニヤリと笑う。
「ええ、嫌だよ」
隆は横目で答える。それもそうだ。隆にとってはそれそのものが黒歴史そのもの。叶うならもう、二度と起きてほしくないくらいなもの。
「でも、その力の発動がわかればいざという時、役に立つかもしれませんよ!」
「そうだそうだ!」
もどきの言っていることも一理ある。
確かにそうだ。この力の発動条件さえわかれば、黒歴史そのものとはいえ、羞恥心と引き換えに莫大な力を得ることができる。
それをコントロールできたら……? 強いのでは……?
も、もしや、拙者、最強キャラとして君臨してしまうのでは……!? そんな拙者を、今もどこかで見守ってくれているシャルロットたんのためにも……!!
そして、いつかシャルロットたんとデートした時などに、街のチンピラどもに襲われるなどの場面に出くわすとするでござる。
そしてそいつらをスタイリッシュに倒す拙者……!
ふっ! 拙者ながら、大変カッコ良いでござるではないか……!
シャルロットたんとの愛を深めるための道のりとして、こんな近道があったとは……!!
まあ、拙者とシャルロットたんとの愛はすでにカンストしているでござるがなっ……!!
ムヒヒヒヒヒヒッ……!!
「よし! やるでござるよ!」
隆は勢いよく立ち上がり、湧き出た妄想で調子に乗り始めた。
「変身……!!」
先程上条がやったポーズを真似し、大きな声かつ、イケボで叫んだ。足は八の字。腰を左に少し傾けたその姿は、まさに美学。
……
何も起きなかった。
「今こそ、一千年の封印から覚める時……!」
今度は顔を少し上げ、人差し指と中指を額に当てて叫んだ。右膝に重心を掛ける体制はこれまた少しきつい。
……
何も起きなかった。
「闇よ纏へっ……!! 全てを焼き尽くせ、ダークネス隆……!!」
鋭い目つきで正面に手をかざす。小指と薬指をしまい、残りの指を正面に突き出す。
……
「ダメじゃんかっ……!! っていうかそもそも、発動条件は気まぐれなんだし、僕が何やっても意味ない気がしてならないんだが!?」
「だとしても、もしかしたら自分で発動できたりするかもしれないじゃん!」
「そうですよ、隆さん! シャルロットさんもどこかできっと応援していますって!」
もどきも気合の入った声で言う。こいつはまたシャルロットたんのことをお……――いや、違う。全くもってその通りだ。僕は何を弱音を吐いている……!
これは僕のためでもあるが、どこかで見守ってくれているシャルロットたんのためでもあっただろうが……!!
「そうだ……ありがとう、上条。そしてもどき。僕は大切なことを忘れていたよ」
隆の顔は真剣そのもの。その顔を見て、上条やシャルロットもいける……!と熱い眼差しで隆に応援を送った。
――そして。
「我こそはダークネス隆……!! 一千年の封印から復活せし、魔王……! さあ集え、闇の力よっ……!! うをおおおおあああ――」
ガチャッ
「お兄ちゃん、大変っ!! 向こうの部屋で怪奇現象が……」
「ん?」
「あ、美沙さんっ!」
上条とシャルロットは後ろを振り返り、声の主を確認した。そこに立っていたのは、勢いよく扉を開けた美沙。
ガチャッ……
勢いよく現れたかと思ったら、ジト目で静かに扉を閉め、扉の奥へと消えていった。
「ま、待て美沙っ……!! 今のはその……!! ち、違うんだあああああああッ……!!」




