投資業界なんだが?
「投……資……?」
その言葉に馴染みのある上条ですら、しばらくは隆の言っている意味がよくわからなかった。
でも、自分の中である程度予想は付き始めてきていた。
「上条がいなくなった後も、僕の方でも色々あった。結婚式で新郎を演じたり、命懸けのデートをしたり」
「ほんとに何があったんだよ、それ」
「それらやそれ以前で得た副業のお金を使って投資をしたんだ。最初は僕も驚いたが、さっきの言葉を聞いて確信を得られたよ……って、おい……」
上条の目は潤んでいた。そしてだんだんとその涙が溢れ始める。
「ありがとう、隆……シャルロットちゃん……ったく、そんなにも僕のことが好きかよ……」
鼻を啜り、泣きながら答える上条。
嬉しかった。
自分は二人に酷いことをした気でいた。それでも二人は必死で僕を助けようとしてくれていた。
それが嬉しかった。どうしようもく、嬉しかった。
「ま、まあな。友達として、だがな……」
隆も照れ臭そうに笑った。
それを見て、シャルロットも微笑んだ。
この数ヶ月、いろんなことがあった。
副業という敵に共闘することもあったし、敵対しかけたこともあった。それでも今はこうして三人で笑っていられている。
果たしてこれからどうなるのか。
「それで僕からも聞きたいことがある。僕は軌賀との戦闘時、一時的に筋力を上げることのできる注射を体に打ち込んだ。でもその副作用として、数日後に幻覚が映る効果がある。それも数ヶ月間は延々とね」
「それであんなことに……」
「あああああああッ……!! ぐあああああああッ……!! お前らだけは絶対に許さねええええええッ……!! 許さねえぞおおおおおおおッ……!! それがお前らのやり方かよッ……!! あああああああッ……!!」
チート級の薬を使用したため、その分の代償は計り知れないもの。
この時、上条は苦痛の叫びを上げ続けていた。
鎖で手足を縛られていた状態。時には吐血もし、体も限界に近い状態の時もあった。
この世界に上条の血のつながっているものはいないため、見舞いには隆の母や父、そしてシャルロットがたびたび姿を表した。
しかし、どうすることもできない上。上条の場合は下手に声を掛けてはいけないと医者から言われていた。
「本当に死ぬかと思ったよ。もしかしてコレをあの時に返してくれたのって、シャルロットちゃんだよね?」
そう言い、手に軽く力を込め、丸い機械をどこからか取り出す。
「はい」
「やっぱりね。僕からのメッセージが届いたようで何より。これは回復、情報通達、いろんな場面で役立つ装置、ユニット。これもまあ、僕の能力なんだけどね」
ユニット。
上条が今持っている丸い機械の名称。
この機械は人一人の体力を完全に回復させられたり、映像の録画などもでき、これまで隆たちを助けてきた。
言わば、上条の相棒のような存在でもある。
「お前をあそこまで追い込んだ軌賀。いや、軌賀だけじゃない。投資業界トップ。そしてインベスト。あいつらは一体、なんなんだ?」
現在上条にとって、いや、上条だけでなく、僕にとっての敵でもある投資業界トップ。対立しているのならば、奴らを知る必要がある。
そう判断した僕は覚悟を決め、上条に尋ねた。
「インベストはここより別次元にある世界。ここよりも遥かに経済が回っている。それゆえに、貧困の差が激しかったりもすれば、金に飢えた荒くれ者たちが多く、野蛮な事件なども少なくはない」
「そんな世界だったのか」
隆もインベストのことは知っていたが、そんな世界であることは知らなかった。
しかし、金の力は人の人格や環境をも変えてしまう。それは隆たちが暮らす世界でも何ら変わりないこと。
決して他人事ではない。身近な出来事でもある。
「そこでその世界を統一するために集められたのがトップと呼ばれる六名。と、その秘書である僕。僕を含めた七名はそれぞれ、何らかの能力を有していて、その力でインベストの平和を維持し続けていた」
「じゃあ、あいつらは……」
「そう、本当はいい奴らなんだよ。でも時として手段を選ばない奴も何人かいたりはする」
手段を選ばない奴。代表的なのは、玄無を炙り出すために容赦なく隆の体にセンサーを仕組んだ龕您。隆を探すために学校を火の海にした鉦蓄。
捉え方次第では、軌賀や蘭壽もその一人。
「投資業界トップ6、極兒。能力は一様不明」
極兒とは七不思議怪異の時に面識がある。隆がこれまで会った五人の中ではまだいい印象があるが、本当のところは何を考えているのかがわからない。
「投資業界トップ5、鉦蓄。能力は火炎操作。何もないところから炎を生み出したり、炎の全てを自在に操れる能力」
鉦蓄は隆が一番初めに出会ったトップ。地中深くにあるマグマを湧出させたりもでき、隆たちを苦しめた。自らも炎を生み出すこともでき、幻の炎を出現させることも可能。
「投資業界トップ4、軌賀。能力は惨殺手品。使う技は手品師が使うようなものばかりだけど、どれも殺傷能力の高いものばかり」
軌賀は上条との対決の際、その力を発揮した。人間の筋肉すらも切り裂く、トランプ銃。炎の体を纏う、火炎虎。全長八メートルはある、鳩のような生命体。そして、全長二十メートルはあるジョーカー。
「投資業界トップ3、蘭壽。能力は選択正嘘。相手の起こす行動や発言を嘘か誠かを判断する能力。奴に限っては、その能力を戦闘にうまくいかせないからか、自らの筋肉をも武器にしている」
蘭壽は隆と一度対決している。隆の鉄パイプの攻撃を能力で防ぎ、自らの筋肉を使って隆を一時的に戦闘不能にさせた。攻撃を当てたとしても、分厚い筋肉で常人の肉弾戦での攻撃は無効化される。
「投資業界トップ2、龕您。能力は不明。司令塔の役割も持っているため、トップを中心に動かしているのは大体こいつと考えていい」
龕您は部下である鉦蓄を庇ったり、隆のスマホから電話を掛けてきたりしている。自分の治めている世界であるインベストのためならば、手段は選ばないのが彼。
「投資業界トップ1、篆。能力は不明。それどころか、素性すらも一切わからない。トップ1の癖に、司令塔は龕您に任せっきりだ」
篆は隆が唯一面識がない投資業界トップ。上条の言う通り、何もかもが不明で顔は仮面、体は鎧で固められているため、感情を読み取ることもできない。
「そして秘書……いや、元秘書であるこの僕、玄無。能力は未来兵器。近未来の武器を駆使して戦闘や補助ができる」
上条の能力からは銃火器やシールドなどを展開できる。弾丸やシールドは青色のエネルギーでできており、その威力は実弾と変わらないほど。また、先ほどのようなユニットの召喚や一時的に速度を上げることも可能。
「僕の知ってる範囲だけならこんなところかな。さっきもチラッと言ったけど、トップとして上位にいるやつほど、能力のスキルも高い」
「その肝心な龕您と篆って奴の能力がわからんがな」
未だに龕您と篆は能力が明らかになっていない。今後この二人がどう動き出すのかがわからないため、二人は対策の立てようがない。
もし、上条や隆ですら勝てないような能力だった場合のことを考えると、寒気がする隆であった。
「あと実はもう一人投資業界トップにはいるんだよね」
「もう一人いるのか!? そんなの初耳だぞ!?」
投資業界トップは全員で六人しかいない。秘書を含めても七人。そのことを全く知らなかった隆は驚きを隠しきれなかった。
「厳密には彼は引退したけどね。戒耀。元投資業界トップ4。彼も何かしらの能力者だと思うけど、もう引退した身だし、こちらの世界にはこれない。まあ、あまり気にしなくても彼は大丈夫さ」
こちらの世界に来れる人間は現在の投資業界トップと秘書である玄無のみ。戒耀がくることはないため、無理に警戒する必要はない。それに、もうすでに彼は引退し、投資業界トップとしての役割を終えている。隆たちに害はない。
「そうか。じゃあ、今警戒すべきはさっきの六人ってことになるな」
「そうだね」
上条は頷いた。
投資業界トップに関してはこれ以上の情報はないと踏んだ隆は、次の質問へと移る。
これもまた、避けては通れない。全ての元の発端となり得る可能性のあること。
「それと上条。お前、リインタワーのサーバーを全て破壊したっていうのは本当なのか?」
「……っ!?」




