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もどきの正体なんだが?

 食べた。完食。


「美味しかったね……」


「ああ、美味しかったな……」


 しばらく二人で後ろに両手をつき、空に浮かぶ電球を見上げる。

 食べ終えた食器は、先ほど新月が来て運んでくれた。


「じゃあ、そろそろ本題に入ろうか」


 上条は体制を崩し、あぐらをかいて僕の方を向く。真剣な顔立ち。その鋭い目つき。もうわかる。先ほどのようなのんびりとした空気ではない。ここからはもう、僕も覚悟を決めなければならない。


「ああ、だがその前に一つ聞いていいか?」


「うん。答えられる範囲ならなんでも」


 僕も体制を崩し、楽な姿勢で上条の方を向いて聞き返す。そう、どうしてもこれだけは聞いておかなければいけない。この数ヶ月間、ずっと考えていた。

 昇龍や可憐にも言われ、その疑問は増すばかり。そして今日、ある可能性が消えた。

 それをおそらくこいつは知っている。いや、知っていなくてはいけない。


「もどき……その……シャルロットって何者なんだ? お前ならわかるだろう」


「……」


 その言葉に上条は固まる。

 僕の言うシャルロット。それはもちろん、あのシャルロットたんではない。今、この現実世界にいるシャルロット。僕がもどきと呼んでいる方。

 あいつに関してはいまだに謎が多すぎる。

 この数ヶ月、一緒に暮らしてきたがいまだに正体がわからない。

 突如閉ざされた僕の部屋に画面の光と共に現れたリアル女。


 投資業界トップ側の人間ではないと踏んでいる。

 もしそうなら、あいつも上条同様、僕を助けたりはしないはず。上条が僕を助ける意図はなんとなくわかるが、もしあいつが投資業界トップ側の人間ならば、あいつが僕を助ける意図がわからない。

 上条と投資業界とは対立関係がある。だが、もどきと投資業界にそこまでの対立関係があるとは思えない。


 仮にだが、投資業界とグルだった場合はどうなのか。それもおかしい。七不思議怪異の時。あの状況下において、もどきをあの場に入れるのはおかしな話なんだ。


 でも、こいつならそれを知っている。

 上条樹。又の名を、玄橆。投資業界トップの元秘書である、こいつなら。もどきの正体を。


「シャルロットちゃんは、本来はこの世界に存在する人間ではない。この世界っていうのは、君や江南ちゃん、昇龍ちゃん、天空城ちゃん、あとはあの、管理局の三人のことだよ。その中に、僕は含まれていない」


「……っ!?」


 これで完全に可能性が一つ消えた。ストーカーやシャルロットたんの真似事をしていたという可能性。

 安心と困惑が混じり合い、なんともいえないような気持ち悪い感覚。なんとなく予想はしていた。だけど、それを受け入れないようにしていた。そんな自分がいるような気もする。


「じゃ、じゃあ、やっぱり、もどきとお前はインベストの人間……?」


「それも違う。僕はそうだが、厳密に言えばシャルロットちゃんはインベスト側の人間ではないんだ」


「じゃあ、一体、あいつはどこの人間だって言――」


「ロジカルファンタジー」


「……っ!?」


 その瞬間、体からは変な汗が止まらなかった。冷え切ったような汗。

 それが頭からも背中から。


「君が一番好きなゲームだよ。彼女は、そこの世界の人間」


「そ、そんなわけあるかっ……! 大体、画面から人間が出てくるなんてありえない……!」


「……」


 上条は何故か目を逸らし、少し暗い表情をして固まった。


「上条?」


「あ、ああ。ごめん。シャルロットちゃんの強さは知ってるよね。あのパワーに瞬発力。陣地を超えた超人なのはさ」


 たしかにあいつの力は凄まじい。前回遭遇した七不思議怪異の二宮金次郎像の銅を拳で打ち砕いたり、可憐のガトリングガンの弾丸を、僕を背負ったまま、ひとつも当たらずに数メートルある病院から飛び降りたこと。その他にも色々とある。


「あれは隆がロジカルファンタジーの中でシャルロットという存在を育成したから。それを具現化させたのが今この世界にいるシャルロットだよ」


 隆は黙り込み、等々俯いてしまった。理由はまだわからない。ショックを受けたのか、なんなのか。だが明らかなのは、隆も隆で思うことがあったのだろう。

 それでも上条は伝える。


「ロジカルファンタジーでシャルロットのアバターがないのはこっちの世界にシャルロットがいるから。隆のことをよく知っているのは、いつも隆をそばで見ていたから。そして、容姿や性格、超人的な力があるのは、君が彼女をロジカルファンタジーの中で育成したから。これが、君の求める答えの全てだよ」


 何故上条が隆にここまで伝えたのか。それは、隆がそれを望んだから。隆のあの目。あれは本物だった。知りたい。知らなくてはいけない。そんな目をしていた。だからこそ、その気持ちに上条は答えなければいけない。それを今伝えられるのは彼しかいないから。


「……」


 それでもなお、俯いている。やがて上条の目は寂しさが灯りだす。全てを伝えた時、多少の後悔をしていた。だから必死でかける言葉を探す。


「ごめんよ。こんなこと急に言われても理解が追いつかないよね」


「……」


 まだ俯いている。これは本当に取り返しのつかないことをしてしまったかもしれない。

 やはり、世の中には知らない方がいいこともある。その一つは隆にとってはこのことだったのだろうか。


「隆……」


「なるほどな」


「……っ!」


 隆は俯きながらも静かに口を開いた。


「通りであいつが強いわけだ。性格もシャルロットたんみたいだし、容姿なんかもうそのまんまだ」


「……」


 上条は一瞬驚いたが、すぐに落ち着きを取り戻し、状況を整理する。あの隆ですら今は冷静なんだから、上条1人が取り乱していても仕方がない。

 そうさ、隆。それを知っても君は前を向いて歩いていかなければならない。この全ての事実を受け入れてでも立ち上がらなくてはいけない。それは僕の望みでもあり、シャルロットちゃんの望みなんだから。


「だが上条。お前は僕に嘘をついている」


「え? う、嘘? 嘘なんてついてな――」


「たしかに今ここにいるシャルロットはここの世界の住人ではないかもしれない。それはお前のいう通りだ」


「……」


「誰かから作り出された存在かもしれないし、そうでないかもしれない。それでも――」


「あのシャルロットたんともどきが同一人物だっていうのは、断じて認めぬでござるよおおおおおおおっ……!!」


「あっ……あっ……ああっ……」


 驚きのあまり、上条は声にならない叫びを出す。流石の隆でも理解してくれたのかと思っていた。

 しかし、彼は立ち上がり、足を広げ、拳を握り、顔にものすごい(しわ)を寄せながら叫び出した。

 そして、スイッチが入る。


「もどきはロジカルファンタジーの住人? 笑わせるでないでござるっ! ロジカルファンタジーの隅という隅まで知り尽くした拙者にはわかる!! ロジカルファンタジーとこの現世を繋ぐ扉はゲーム内のマップどこを探しても存在しないでござる!! そんな扉をシャルロットたんが潜ってきたというでござるか!?」


(く、狂ってる……!! こ、これが……!!――)


 隆はなおも熱中して話し続ける。もう誰にも止められない。もう止まることはできない。このスイッチが入った隆はもう重症。誰の手にも負えない、いわば末期。


「だとしたら拙者はなんと滑稽(こっけい)!! ああ、恥ずかしき恥ずかしきっ!! そんな扉があれば、この現世を捨て、拙者の方からロジカルファンタジーにダイブしたいでござるよっ……!! お、今現世とシャルロットたんを天秤にかけ、シャルロットたんを選んだ拙者はまたしても、いい男、として成長してしまったでござるなあっ……!! ムヒヒヒッ……!! ムヒヒヒヒヒヒヒヒヒッ……!!」


(東條隆という、男なのか……!?)


 上条はもちろん隆がオタクだということは知っていた。それもかなり重度な。だが、ここまで現実と二次元、いわばロジカルファンタジーとの区別がつかないほどのヤバすぎるオタクだということは知らなかった。


 上条の言っていることに嘘はない。だがそれは、この世の常識で考えればの話。しかし隆にはこの世の常識の半分は通じない。そのもう半分はロジカルファンタジーの中にあるのだから。

 仮にロジカルファンタジーにそんなものがなければ現世にもない。しかし逆に、ロジカルファンタジーにぷらねっと神がいると隆が思えば、この現世にもぷらねっと神がいることになる。


 ――常識とロジカルファンタジーにのみ通じる常識の融合。これが隆の常識なのだから。

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