説明が長すぎるんだが?
僕と上条は部屋に戻る。残りの面々はここから数メートル離れた部屋にいる。
それともう一人。僕ら二人の他に、ここの従業員、新月が部屋の前までついてくる。
と言っても扉の前まで。
「それでは、お夕食の方は今からお届けにあがりますので、少々お待ちください」
僕らに目を瞑りながら軽く会釈をし、部屋から離れていった。
僕と上条はしばらく沈黙。
この沈黙に特に意味はないが。
「とりあえず、部屋を見渡して怪奇現象が起きてないか確認をしよう。物が減ったりとか、物が動いたりとか。覚えてる範囲でいい」
「そうだね。どうやら今回の副業はそれ関連みたいだし。僕もできることは協力する」
上条は左手を胸の前にかざす。すると、水色のパネルのような物が出現し、よくわからない文字が並んでいた。日本語ではないが、その文字はどこかで見たことがある。インベスト語。インベストの共通文字のようなものだろう。
というか、このパネルみたいなやつ。これも上条の能力か?
「それは?」
「これかい? これは今隆に起きている副業を確認するためのものだよ。まあ、これも含めて詳しいことは食後に、ね」
それだけ言い残すと、上条は部屋の中の探索を始めた。僕もあたりを見回しながら壺の中を覗いたり、掛け軸をまじまじと見つめたり。
僕らはそれからしばらくそんなようなことをしていた。
僕らは疲れ、二人で大の字になって天井を見上げながら寝転がる。
「ないな」
「そうだね、でももしかしたら女の子たちの方は起きてるかもね、怪奇現象」
「本当に起きるのかよ、怪奇現象」
「いや起きるでしょ」
「なんで」
「だって、前に来た客も沢村さんがーとかって言ってたんでしょ」
「いや、それすらも嘘かもしれんぞ」
「……」
「……」
「「はあ……」」
二人揃って大きくため息を吐いた。
これぞまさに息ぴったり。
これが副業ではなく、ただこの旅館が提供しているエンターテイメントならいいが、僕に限り、真実を暴かないと命に関わってくる。
ただ単純に楽しめばいいというわけではない。命懸けのエンターテイメントに参加しているのだ。
副業は日常にふとした時に現れ、それを絶対にこなさなければ死ぬ。一見単純に聞こえるが、毎回毎回難易度が高いものばかり。
あるときはリアル女の下着の匂いを嗅げと命令されたかと思えば、あるときは能力者の異世界人を倒せと命令が下される。またあるときは女子風呂を覗けと命令され、またあるときには学校に閉じ込められ、七不思議怪異だのなんだのを……
一体、投資業界トップどもは何がしたいんだ?
コンコン
ノックの音が聞こえる。誰だ?
「開いてるよー。どうぞー」
上条は目を瞑り、天井を見上げながらノックに応える。
扉は開き、一人の見覚えのある顔が。
「失礼します。お夕飯をお待ちいたしました」
新月だった。銀色の四段ほどにたくさん積まれたワゴンカーを引き、現れる。
僕と上条はその場から少し離れ、向かい合うように座る。料理が置かれるスペースを作ると、新月は僕と上条の前に一つ一つ丁寧に料理を並べていった。
「「お〜!」」
並べられたのは多くの海鮮料理たち。フグの刺身に、海老の天ぷら。蟹の肉がたくさん詰まった脚が三本ほど。他にも、プルプルの茶碗蒸しや、ほかほかのご飯。まだまだ色々ある!
これが、あの評判高い旅館と言われた、沢村屋の料理……!!
ここまで色々あったが、来てよかったあああああ!!
「では、ごゆっくり」
「ああ、ちょっと待って!」
料理を並べてから立ち上がろうとした新月を止める上条。新月はまさか止められるとは思わなかったと言わんばかりに、驚いた顔をしていた。
「せっかくだからさ、料理の説明とかできたらお願い!」
両手を合わせ、頼み込む上条。新月は驚いた顔をし、目を丸くしていた。
「料理の……ですか」
「上条、お前な――」
「だって、せっかく来たんだし、雰囲気とか味わいたいじゃんっ! お願いします!!」
土下座までして頼み込む馬鹿。
「いや、多分忙しいし、いいって――」
「ふふっ。構いませんよ。では、一品ずつ説明いたしますね」
新月は右手で口を押さえながら微笑んだ。
「しゃおらあっ!!」
上条はまるで球技のスポーツ観戦で応援しているチームが、ゴールを決めてそれを喜ぶかのように両手を挙げ、立ち上がった。どんだけ嬉しいんだよ、こいつ。
そう言って、新月は上条の料理を手のひらで説明しながら、僕らに一つ一つ丁寧に料理の解説をしていった。
上条は「うんうん!」と嬉しそうに説明を聞いている。
僕はというと、一様話を聞いているが、長い。これだけのご馳走が目の前に並んでいるんだ。早く食べたい。さっきからお腹の虫が鳴りっぱなしで、目の前の机に肘をついて聞いていた。
かれこれもう数分はもう経っている。
「こちらがフグの刺身。大分県からお取り寄せした高級なフグとなっております」
「でもフグを捌く乗って免許いるんだよね!? ここで作ってるってことは、もしかして〜」
(聞き返すなよ、上条っ! 話が余計に長くなるだろうがあああっ!)
ぐ〜
お腹がまた鳴る。上条はテンション上がりながら質問をさっきから繰り返し、新月も嫌な顔一つせずに答えている。もう限界だ……!早く食べたい……!
「はい! ここの女将が自ら捌いてフグの刺身を作られました! ちなみに、私も免許持ってるんです!」
「へえ〜、すっげえっ……!! お姉さん、綺麗なだけじゃなく、フグまで捌けるとは……!! よ、完璧美少女……!!」
(うっぜえ〜……!! ナンパすんな、お前はあ……!)
「そんな、美少女だなんて〜。ふふっ。ちなみに実年齢、二十二歳です!」
「若い! あれ!? もしやもしや、女性っていうのは、いくつになっても美少女というのをご存知でないっ!?」
「ええっ!? そうなんですか!? 初耳です!!」
(そんなわけないだろうが!! ていうかもう、話の趣旨変わってるぞ!! 料理の解説どこいった!!)
あえて会話には割り込まない。割り込んだら割り込んだで上条が長く持ち越してきそうだから。とにかく、早く終わってくれ。
「あ、ちなみに、ここも昔は漁業が盛んだったみたいです! 今はビーチになりましたが、海の幸を取るために、昔はこの辺りの人はよく海深くを泳いでいたとか……」
「それって何年前くらい?」
「確か、五十年ほど前だったかと。私も女将から話を聞いただけなので、詳しくは分かりませんが。それと、女将もこの街出身だったらしく、よく海に潜っていたそうです」
「はえ〜。子供の頃はさぞや元気なお嬢さんだったんだね、あの女将さんも。今はお淑やかな美少女に!」
「ふふっ。あとで女将に言っておきますね」
上条の言い回しはお世辞なのだろうが、日常会話でよく使うため、お世辞に聞こえなくなってきた自分がいる。お前にとっての美少女の定義、明らかにおかしいだろ。
ちなみに、拙者にとっての美少女の定義とは、シャルロットたんそのものっ! 他の二次元女子たちも美少女とも言えるが、やはり拙者にとって唯一無二とも言える美少女は、シャルロットたんしかいないでござるっ! かつてあれほどの美少女がこの世にいたでござろうか!?
いいや、いない! 世の中の女優? 超人気アイドル? 高身長モデル? スタイル抜群なグラビア?
ふんっ! 眼中にないでござるねっ!
リアル女なんぞ、女にして女にあらず! 名だけの女どもよ!!
しかああし、シャルロットたんは違う……!! あの麗しい容姿! 声! 性格! 拙者を思う忠実心!
どれを見ても完・璧・美・少・女っ……!!
ドンッ……!!
ムヒヒッ……!! ムッヒッ……!!
「ムヒヒヒヒヒヒッ……! ムヒヒヒッ……!!」
「そうそう、たけのこといえば、自然。この旅館の西はビーチですが、北には森があるんです! なんでも、お猿さんがいるとか!」
「お猿さんだって!? お猿さんって、あのバナナをあげたら喜ぶと噂の、あのお猿さんっ!?」
「そうです! あのお猿さんです!」
「な、なんだってー!」
それからも新月と上条のやりとりは続き、ようやく……
「それでは、ごゆっくり」
そう言って新月は部屋を後にした。
「いやあ、お猿さんがいるとはねえ……! さあ隆、食べよう……!」
「ムヒヒヒヒッ……!! シャル……シャルロット……たあんっ……! ムヒヒヒヒッ……!! ムヒヒヒッ……!! ムッヒッ……!!」
隆の顔は溶けかけており、ずっと妄想の世界を泳いでいた。話を聞くくらいたら、妄想に時間を割いた方が有意義と感じたのだろう。
それを見て驚く上条。
「うわあ、隆が溶けちゃったよ。隆〜、食べるよ〜!」
「んん? ああ、終わったか。よし、食べるかっ!」
二人は同時に綺麗な音をたてて箸を割り、料理を食べ始めた。料理の味はまさに本物。絶品ものしかない。うまいうまいと言いながら二人の箸は進んでいった。
満面の笑顔でほっぺたが落ちそうなほど美味しそうに食べている二人。
しかし、二人はまだ気がついてはいなかった。
――この時点で既に怪奇現象が起きていることに。




