沢村さんなんだが?
場は静寂に包まれる。
この旅館にいる客は隆たち九名。従業員は女将曰く、二名。この場には十一名いる。つまり、旅館の人間全員が集まっているということになる。
そして、女将は口を開いた。
「この旅館には、昔から幽霊がいるんですよ。それは、旅館の創立者でもある沢村さんという女性」
「創立者なのに幽霊?」
「ええ、彼女は旅館を開いたその数日後、不慮の事故で亡くなりました。それ以降、私共がこの話をお客様方にするたびに、夜な夜な化けて出てくるとか……」
ガタガタガタガタッ……!!
可憐は加賀に思いっきりしがみつき、震えながら泣いていた。加賀はあははと苦笑いをとる。
他の面々は女将の話を真剣に聞く。
「化けて出てくるというのは、その沢村さんという方が人の形をして現れると?」
「いえ、そういうわけではありません。いたずらをするのです。勝手にテレビが付いたり、密室を作り上げたり……」
女将はまたしても不気味に笑う。
「テレビが付いたり、密室を作ったりねえ……」
美沙が顎に手を当て、考える。
勝手にテレビがつくのは、明らかに不自然。よほどテレビが古く、回線がおかしければ可能性としてはあり得るが、ここのテレビは最新型のテレビを揃えている。だからそんなことは起きるはずがない。
密室を作り上げるのもほぼ不可能に近い。そもそも密室とは、部屋が完全に封鎖されていること。中に人がいたり、隠し扉があったりなどで解決することが多いが、今回の場合、本当にそれらはあるのだろうか。
「その怪奇現象が起きてることは置いておいてさ、それが沢村さんと関係ある証拠は?」
鋭く指摘する加賀。加賀が何が言いたいかというと、怪奇現象と沢村さんとは別のことなのではないかということ。
仮に怪奇現象が起きていたとしても、それが沢村さんのやったこととは限らない。ここにきた客たちが怪奇現象を見た後に「沢村さんの仕業だ」と言っている可能性だってある。
「確かに、これら二つは沢村さんとの関係を示す証拠にはなりません。ですが、あるんですよ、沢村さんと怪奇現象を結びつける、怪奇現象が」
新月も至って冷静。本来、この旅館の従業員でこういう噂を知っている身なら恐怖するはず。しかし、彼女は冷静を保つ。それがまた、不気味であった。
「ひぃ……!!」
可憐が小さく声を上げ、加賀の右腕に力強くしがみつく。一番ビビっているのは可憐ではあるが、この時点でこの中の数人が息を呑んでいた。
これがこの二人の作り話などならまだいいが、もしこれが本当ならば、これからその怪奇現象が起きることとなる。
「それでソレの真実っていうのは具体的に何をすれば良い?」
隆が尋ねる。そう、ソレの真実を隆は暴かなければ副業は失敗する。だからこそ、まずはソレの真実というもの自体がなんなのかを知らなければならない。
「言わずともわかるかもしれませんが、ソレとは沢村さんのことです。つまりは沢村さんの真実。今から二十四時までにおそらく怪奇現象が立て続けに起きていきます。それを幽霊以外ができるトリックを用いて日付が変わるまでに暴いてください」
新月が説明を始める。可憐以外の八人は静かに聞く。
「もし幽霊以外ができるトリックがわかった方がいれば、私か女将さんにトリックの宣言をしてください。トリックの宣言は何度でも可能。それが幽霊以外ができるものと証明でき、筋が通っていれば全て正解です。内容はその時点で起きており、皆様方が把握している全ての怪奇現象。ただし、時間が経つにつれ、怪奇現象が増えていくため、早めの回答をお勧めします。ただし、もし沢村さんを見つけても、彼女に対して暴力行為だけは絶対にしてはいけません」
「「それでは当旅館にて、ごゆっくりお過ごし下さい」」
女将と新月は不気味に微笑み、九人にその一言を放った。
【沢村さんの真実、ルール確認】
・八月三日の二十四時まで怪奇現象が立て続けでおきる。
・怪奇現象の正体がわかった者は、女将、または新月に幽霊以外ができるトリックの宣言をする。
・トリックの宣言は何度でも可能。
・それが幽霊以外にでき、筋が通っていれば全て正解とする。
・トリックの宣言は、その時点で旅館内で起きている全ての怪奇現象。
・全ての怪奇現象とは、九人のいずれか一人でも確認できるものを指す。
・沢村さんは害のある幽霊ではない。
・沢村さんに対しての暴力行為は禁止。
・もし全てのトリックを暴いたものが一人でもいた場合、翌朝素敵なプレゼントが九名全員に贈られる。
・なお、隆は副業として、【旅館沢村屋のソレの話を聞き、八月四日を迎えるまでに真実を全て暴く:10000円】というものが課せられているため、日付が変わるまでに真実を暴かなければいけない。
一同は列になり、部屋に戻るための廊下を歩いていく。先頭に女将、最後尾に新月。その間に女性陣が前、その後ろに隆と上条が歩いている。
隆たちと女性陣たちの部屋は途中までは同じのため、こうして一緒に行動することにした。
「ねえ、ぶっちゃけさっきの話どう思った?」
上条が後ろから小さな声で声をかけてくる。
理由はその後ろ。上条の後ろには二歩ほど離れて新月が最後尾にいる。だから聞くのはやましいと思ったのだろう。
「どうって?」
「沢村さんの正体だよ。本当は沢村さんなんて最初からいなくて、実は女将さんと新月さんがグルで犯人なんじゃないの?」
「かもな。そもそも、あの女将が話し始めたから沢村さんがくるっていうのも、タイミングが良すぎる」
「やっぱりそう思うよね!? よし、僕に任せろ!」
「任せろって……って、おい!」
隆は背後から上条の気配が少し遠のいた気がして足を止め、後ろを振り向く。すると、同じく後ろを向いて立ち止まった上条と、上条の目を見る新月の姿が。
「新月さん!」
「なんでしょう」
新月は冷静な瞳で小さく唇を動かし、上条の問いに応える。
「犯人は女将さんと新月さんで決まりだ!!」
上条は新月さんを指差し、大きな声で宣言する。
その声で他全員も後ろを振り向き、上条と新月の方向を向く。
しばらくの沈黙の後、新月は答えた。
「トリックは?」
「ト、トリック……? えっと……そう、色々知っているから!!」
アホか、こいつ。
「それはトリックではありません。怪奇現象を用いたトリックを宣言し、トリックの宣言をしてください」
上条はやれやれという顔でまたこっちを向く。
「あちゃー、ダメかー」
「ダメに決まってるだろ。なんだ、色々知ってるからって。証拠にすらなってないぞ」
トリックの宣言でしか、沢村さんを証明することはできない。今の上条のようなあんぽんたん宣言では、何一つ暴くことができない。
そもそもトリックの宣言自体をするには、怪奇現象とやらが起きないことにはまず始まらない。
「何にしても、怪奇現象が始まらないことには推理することもできないってことか〜。あーあ。レディたちの前で格好つけれたと思ったんだけどなあー」
肩をすくめ、目を瞑る上条。
とはいえ、おそらく僕と上条を除いた他の奴らもこの二人を疑っていることに間違いはない。
「ほっほっほっほっほ。そうですね、怪奇現象が起きないことにはまだ何もできませんねえ。しかし、」
女将が先頭の列から奥にいる上条に声をかける。僕らは女将の方を向く。いや、上条だけではない。僕らにも。
「もうすでに沢村さんは参られております……」
「……っ!?」
「ほっほっほっほっほっ……!!」
そう言って一人また、廊下を歩き始める女将。
寒気がした。ゾッとした。
その言葉もそうだが、さっきのあの女将の顔。
ここにきてから女将は悍ましい顔のようなものを何度も見せてきたが、今のは見たことがない。
まるで、本当に沢村さんがこの旅館に姿を現したと宣言するかのような。
全員が息を呑む。そうだ、もう始まっているんだ。
沢村さんの真実を証明できなければ、僕は死ぬ……!!
必ず、必ず……証明して見せる……!!




