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ソレなんだが?

 ビーチを満喫し、旅館沢村屋に着いた僕ら。それぞれ各自部屋に戻ることにした。

 僕と上条は同じ部屋ということもあり、今は部屋で一緒にいる。上条と僕は疲れてもう畳の上で寝転がっているが。そりゃそうだ。あんな命懸けとも言えるビーチバレーをした後なのだから。

 だけど、一つ気がかりなことがある。ここの旅館の女将から部屋に来る際、一言だけこう言われた。



「皆様方にこの後少しお話がございますので、今朝お集まりいただいたあの部屋に、またお集まりできますか、ええ……」



 あの時の女将は不気味に笑っていた。なんだ、旅館の説明か?

 とはいえ、旅館の説明は大体のことはもうすでに受けている。夕食の時間や、お風呂の時間など。

 だとしたら一体……


「ねえ、隆。あの女将さんが話すことってなんだろうね」


 仰向けになりながら上条は話す。だから僕も仰向けで答える。お互い、顔を見ず天井を見ながら。


「それを今僕も考えているところだ」


「旅館の説明ならさっき聞いたしー。ん? ああっ! もしかして、この旅館に伝わる怪談話とか!?」


 上条は起き上がり、うるさい声で喋り出した。そして僕の顔を見る。なんだ、こいつ。


「そんなわけないだろ。怪談話だなんて、そんな……この前七不思議怪異の一件があったばかりなのに」


「いや、わからないよ! こういう風情ある旅館の裏に隠された話……んー、王道を行く良さだねえ!」


 目を合わせると、上条は左拳をぎゅっと握りしめ、目を輝かせていた。こいつはそういうの平気そうみたいだな。


「はあ……お前、いっつもワクワクしてるなあ。だとしたらほんと勘弁してくれよ。怪異はもう()り懲りだ……」


 前回の七不思議怪異の件でもかなり疲れたというのに……


 ちなみに僕はというと、どちらかというと平気な方だ。

 なぜ平気か。


 それすなわち、それ式のことで泣き言を(なげ)いていれば、我が愛しのプリンセス、シャルロットを守れぬでござるからな!

 シャルロットたんを守るのが、拙者のお役目!

 拙者のお勤め!

 騎士、隆!たとえこの命が尽きようとも、シャルロットたんを守ってみせるでござるぞよっ……!!


 ムヒヒっ……!! ムヒっ……!! ムヒヒヒヒヒヒッ……!!


「ムヒヒッ……!! ムヒヒヒッ……!!」


「ま、話があるのは十八時だし、あと少しゆっくりしてようか」


「ん? ああ、そうだな」


 現在の時刻、十七時四十一分。まだ少しあるし、このままゆっくりしておくとしよう。


「それと、それが終わったら隆に話せれることは全て打ち明ける。そっちの方の心の準備もしといてくれ」


 声が変わり、鋭い顔つきになる上条。

 そうだ。ここには今、僕と上条しかいない。他のやつらには聞かれる心配はないから今までのことをいろいろと聞くことができる。

 覚悟、か。もしそれが、とんでもない真実を打ち明けられた時、僕は……




 時刻は十八時丁度。

 ここに現在、十一人の人間が揃う。

 十一人、先程の隆たち一行の九人に加え、女将、二十代女性従業員、新月。


 従業員二人と向かい合わせに座る九人。


「では改めまして自己紹介を。私はここの女将の美恵子。こちらがここで唯一の従業員、新月さんです」


 女将がそういうと、新月が一礼をする。


「こんな広い旅館なのに従業員が二人なの!?」


「ええ、それはまあ。新月さんの働きといえばもうすごくて。ええ、若さを感じますねえ」


 女将のその言葉に、新月は微笑む。


 一同は顔を見合わせる。

 ここは可憐たち曰く、かなり人気の高い旅館。今日は偶然僕らだけの貸切のようだからまだいいが、普段は多くの客で賑わうはず。

 その時もこの二人だけで切り盛りしているというのか?


「それで、私たちを呼んだ理由って……」


「ああ、そうでしたそうでした」


 その瞬間、女将の顔はまたしても不気味に微笑んだ。


「皆さんにはこれから、ここに伝わる怪談話を聞く権利がございます」


「怪談……ですか」


「ほら〜、隆言ったでしょ、怪談って!」


「ひいっ……!!」


 可憐だけが声を上げ、左右をキョロキョロする。右には天空城、左には加賀。

 ここは馴染みのある加賀を選び、胸で加賀右腕を挟んで抱きついた。


「うはっ……!!」


 加賀の右腕に可憐のたわわな左胸があたる。加賀は大量の鼻血を出し、白目を剥いて撃沈。机にガン! と大きな音を立てて倒れた。


「今からこの話をすれば、ソレがこの旅館にやってきて、今晩はイタズラをすることでしょう。しかし、悪い存在ではございません」


「ソ、ソレ……?」


 女将はその存在をソレと最初に表した。確認のために念のため、まだ隠している。


「なし! なしなしなし! 絶対ダメ!」


「もしソレの真実にたどり着いたものが一人でもいれば、明日、皆様方全員に素敵なプレゼントを差し上げます」


「真実?」


「はい、要するにソレと皆様方九名との知恵比べです。いかがいたしますか?」


 先ほどまで新月は目を瞑って語っていたが、隆が発言をした途端に目を開かせ、隆の目を見る。

 ソレの真実。こればかりは話を聞かないと何を言っているのかがわからない。

 そもそも、ソレってなんなんだ?

 それも聞いてみないとわからないのか?


「なしなしなあああああし!! あなたたちもそうでしょう!! ね!! ね!!」


 可憐が加賀にしがみついたまま、立ち上がり一同を見る。加賀は鼻血を出しながら可憐にぶら下がっていた。


「面白そうじゃね、聞いてみねえ?」


 昇龍、賛成。


「悪い存在ではないのだろう。伝統文化を学ぶということならありだな」


 天空城、賛成。


「プレゼントが貰えるならやろうよ! 全員分なんでしょ!?」


 美沙、賛成。


「せっかくですので、聞きたいです!」


 シャルロット、賛成。


「私は……まあ、加賀が近くにいればオーケーです」


 赤城、賛成。


「僕はもちろん賛成さ! スリルを求めてこその宿泊だよね、やっぱ!」


 上条、賛成。


「なんっでよ、あなたたち!! 怖くないの!? 絶対幽霊とかそういう(たぐい)のものでしょ、これ!!」


「よし、やろう! 理由は可憐なビビる顔が見てみたいからです!」


 加賀、大賛成!


 顔を正面に向け、ものすごいやる気に満ち溢れる加賀。上司のビビる顔が相当みたいのだ。


「ぶっ飛ばすわよ、あんたあああっ!!」


「痛い痛い痛い!! でも、腕が胸の谷間に挟まれてこの上なく幸せええええええっ……!!」


 可憐が絞め技を繰り出し、腕を思いっきり締め付ける。人類最強の絞め技。しかし、加賀の腕は可憐の胸にさらに埋もれ、鼻血がさらに噴き出る。それを必死でもう片方の右手で抑えていた。


「あ、あなたはどうなのよ、東條隆!! 前に怖くて私に抱きついてきたじゃない!! 怖いでしょ!! ねえ!! 怖いのよね!! 怖いって言いなさい!!」


 まだ唯一答えていない隆に助けを求める。目からは涙が。


「えええ……」


(あの時抱きついたのはお前だろ……)


 流石に一同はわかっていた。あの時抱きついていたのは隆ではなく、可憐の方。


 でもそれを見て隆も悩んでいた。


 正直に言えば、どちらでもいい。周りがやりたいと思うならやればいいし、やらないならやらないでビーチバレーの疲れを取ってゆっくりしようと思っている。

 ただ、可憐がこれではあまりにも不憫。

 こんな顔をされてやりましょうなんて、言えねえよ……


「みんな、話を聞きたいのは山々だが、ここはやはり――」


「東條隆……!!」


 目を輝かせ、キラキラとした目で隆を見つめる。

 やった……! 彼だけはわかってくれた……! やっぱりあなたはそういう人だと信じていたわ……!



 ブーブーッ


 部屋中に鳴り響くブザー音。音は少し篭り気味。一同はそれと同時に静かになる。

 音の発生源は隆のポケットから。隆はポケットに手を入れ、スマホを取り出して中身を確認する。


【旅館沢村屋のソレの話を聞き、八月四日を迎えるまでに真実を全て暴く:10000円】


 副業だった。しばらく目に留めたが、こうなれば仕方ない。スリープモードにし、ポケットにまたしまった。

 大きなため息を着いく。


「はあ……よし! やろう!! ――」


「なんっでそうなるのよっ!!」


「ぶはっ……!!」


 可憐は俊足で隆の近くまで移動し、一発殴り込む。

 その一撃で隆は倒れ込んだ。




 ――この時、隆たちはまさかあんなことになるとは思ってもいなかった。


 八時半頃。女性風呂。


「ひいっ!」


「沢村さんへの暴力行為は禁止のはず。そうなればあーしらはどうなるかわからねえっ!」


 怯える可憐に、力ではどうすることもできないと悟る昇龍。


「私か。いいだろう。さあ、こいっ……!!」


 ソレは天空城に正面から挑み……


「みなさん来てください! 私たちの……」


 ソレは皆の大切なものまでを無くし……


「赤城、ありがとう。あとは逃げて」


「え、でも……」


 ソレは皆をも怯えさせた……



 二十一時過ぎ。隆たちの部屋。


「くっそおおおおおおおっ……!!」


「くっ……!」


 部屋にある二つのものを見て絶望した。



 こんなの、幽霊にしかできない。


 こんなの、僕らには解けない。



 果たして隆たちは、ソレの真実を暴くことができるのか……!?

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