ビーチバレーのフィナーレなんだが?
そのままボールはダークネス隆めがけて直進。もう彼には魔力は残っていないため、シールドを貼ることはできない。今ならこの場から逃げれば彼は助かるが、あまりの力に圧倒され、口を開けたまま動くことができずにいた。
そんな中、一人の走る音。隆の背後から。
その人物はチームメイトである隆を飛び越え、ボールに向かっていく。
彼女は何も言わず、無言で横に左足の踵で蹴りを入れた。
ドオオオオオオオンッ……!!
凄まじい音とほぼ同時に、チーム管理局のコートには大量の砂埃が舞い上がる。
気がつくとボールはチーム管理局のコートのセンターは付近のところにあり、三人は身体中が砂まみれになっていた。
「あ、あれ?」
「私たちってさっきまでめちゃくちゃいい感じ……だったよね、なのにこれって……」
「はい、私たちの負けみたいですね」
三人は目をパチクリさせる。あまりに瞬間的なことで何が起こったのか全く把握できていない。
目で見ていたとしても、頭の中の情報が追いつかない。
それと同時に、ダークネス隆の目の前に立っていた人物。それは、シャルロットだった。
ダークネス隆は彼女を見つめる。
しかし、その顔はどこか悲しげ。
「タ、タイムアップ! チーム隆六点! チーム管理局五点! よって勝者、チーム隆!」
天空城も困惑しながらも右腕を上げ、タイムアップを宣言。
これにより、勝者はチーム隆。副業は達成された。
上条は胸を撫で下ろし、大きく安堵の息を吐いた。
それでも彼女は喜ばなかった。
「くっくっくっくっくっくっ……!! み、見たか……!! これが、我らの力ぞっ……!! 女子よ、よくぞやった……!! 我々の勝利っ……!! 褒めてつかわそ――」
「隆さんっ……!! もうやめてください……!! 戻ってきてください……!! どうしてしまったのですか………!! あなたはそんな人じゃないでしょう……!!」
シャルロットは振り返り、彼と目を合わせる。シャルロットの目からは滝のように溢れる涙が。
しかし、彼にはそれが分からない。
「何をいうか、女子! 我は我だ! 千年の時を経て復活を果たし、再びこの地を制しようと現れた漆黒の魔王、ダークネスたか――」
「違います! あなたは東條隆! 誰よりもシャルロットを愛し、友達のために頑張ることができる素敵な人! それが東條隆! 女子じゃありません……! いつもみたいに……また、……もどきって呼んでくださいよ……!! ううっ……!! うううっ……!!」
シャルロットは彼に自ら抱きつき、背中腕を回す。
彼女はただ、隆に戻ってきて欲しかった。彼女にはもう二度と隆は戻ってこない。そんな気がしてしまった。
それはこの場にいる全員が思っていることかもしれないが、ゲームの中だけだとしても、ロジカルファンタジーのシャルロットとして一番愛されていた人物。それがたとえ、違う人物として扱われていたとしても、シャルロットに対する愛は本物。
そんな彼女が戻ってきて欲しい。
そう言ったのだ。
その瞬間、彼の目からは闇が消えた。
「あ、あれ……って、もどきっ……!? なんで抱きついて……!!」
「隆……さん……? 本当に隆さんなんですか……!?」
「んん? 当たり前だろう。お前、何言って――」
「よかった……!! 本当によかった……!! もう、戻ってこないかと心配で……!! 心配で……!! うううっ……!! うううっ……!!」
シャルロットは強く隆を抱きしめ、顔を隆の体に押し当てて、離さなかった。
「よくわからないが、心配かけさせて悪かった。みんなもごめん。あれ、なんでお前らそんな顔して……」
外野の三人は目を丸くしていた。
情報がまだ追い付いていない。チーム隆が勝ったこと。突然シャルロットが隆に抱きついたこと。そして、急激に隆のあの厨二病が治ったこと。
上条はというと、安心していた。
ただ、シャルロットが隆に抱きついたのは予想外だったが。
「それで、試合はどうなって……え?」
相手コートを見ると、全身砂まみれで戸惑いまくっている三人。コートには大きなクレーターが。ボールはそこに落ちている。
「というか、僕は今まで何をして――……っ!?」
その瞬間、隆の脳裏に凄まじくやばいやつが記憶として蘇る。それは先程までのほんの三分ほどの記憶。しかし、あたりを見渡してもやばいやつは誰もいない。
だってそのやばいやつとは、自分のことだから。
「シャルロットちゃん、離れて……!!」
「へ?」
上条が大声で叫ぶ。
シャルロットはよくわからないまま、隆から腕を離した。
「ぐうおおおおおおおおっ……!! やめろおおおおおおおっ……!! あの黒歴史は僕の中で封印したはず……!! なのに、なのになんでまた……!! うおおおおおおおっ……!! こんな僕を見ないでくれ、お前らあああああああっ……!!」
頭を押さえ、砂場を満遍なく転がる隆。黒歴史が蘇ったどころか、それを使ってさっきまで自分は恥を晒しまくっていた。
「なんだよ、ダークネス隆って……!! 何が千年の時を経て復活しただ……!! 魔王じゃねえよ、お前はただの引きこもりだろうが、東條隆……!! うおおおおおおおっ……!!」
「え?」
あまりの予想外の行動に口と目を大きく開かせる上条。またなんかやばいのが来るかと思ったら、隆が叫びながら転がり始めた。
いや、ある意味やばいか。
「あいつ何やってんの?」
「さあ。自分のしたことが急に恥ずかしくなったんじゃない?」
「自業自得だな」
ダークネス。
それは、莫大な力を得る代わりに代償として払わなければいけないものがある。そう、それすなわち、黒歴史! それも、誰かから言われるなどではなく、自らがついさっきまで行動していたという記憶が残る!
それは、夢や幻想などではない。その場にいた数人の人間が観測しているからだ。
隆はこの黒歴史を中学二年生で封印することにしたが、それをまたダークネスにより呼び起こされ、凄まじい羞恥心で燃え尽きていた。
「死ねっ……!! 死ね……!! 死ね……!! 三分前までの僕頼むから死んでくれえええええっ……!! うおおおおおおおっ……!!」
座りながら手を砂につけ、何度も何度も頭を砂にぶつける。もう、誰に土下座しているんだか。
「ふふっ……よかったです!」
シャルロットは小さく独り言を呟き、笑顔を作った。
ケースにしまってある隆のスマホが鳴り響く。
これにて白熱のビーチバレーは終了。副業は達成され、隆は今回も無事、生きることができた。
時刻はもうまもなく五時。ビーチは静けさが増し、波が小さく揺れる。
たくさん遊んだ九人。さぞかしいい思い出ができたことでしょう。なんせ、この中のほとんどがこんな大人数で出かけることなんてなかったから。
九人はその後、泊まり先である旅館沢村屋へと戻ることにした。
――しかし、本当に恐ろしいのはここからだった。




