天才だからできたことなんだが?
フィールド仕切り直し。
ダブル戦から一対一のガチンコバトル。
点数は現在、チーム隆二点。芳月ガールズ二点。
チーム隆。隆。
チーム芳月ガールズ。美沙。
前回上条が反則行為をしたことにより、ボールの先行も相手チームに渡る。
「じゃあ、いくよ……!えいっ!」
美沙は右手でサーブを打つ。上空に飛んだボールはすごい速さでチーム隆のコートに飛ばされる。
目でなんとか追っているが、相当早いっ……!
とにかく、動かなては……!!
目で追っていても、速すぎてそれに気を取られるばかり。気づいた時には地面にあるかもしれない。
だから隆はボールが飛ばされる場所まで走り出す。落下地点はライト側。しかし、素手ではもう間に合わない。そもそも隆は手首を痛めているため、腕から手先までが使えない。
「届けえええええっ……!」
左足で地面を踏み込む。そして、右足をボールに向けて出す。足先を出し、ボールを掬い上げ、相手チームに高く飛ばした。
「はあ……はあ……はあ……」
(危なかった……!)
「へえ。少しはやるじゃん。でももう息切らしちゃってるけど、大丈夫〜?」
美沙は挑発気味にニヤニヤと笑い出す。
隆はもうすでに息を切らしている。引きこもりにはさっきの走りが最大限の運動量。あの走りにほとんどの体力を使ってしまった。
しかし、隆にしてみればあのくらい走らなければ確実に負けていた。だから後悔はない。
「さあ、次いくよっ! はいっ!!」
「……っ!?」
隆の打ち返したボールは上空にこそ高くたんだが、落ちた場所は美沙から二歩前に出たすぐそこ。
だから美沙はたった二歩を強く踏み締め、高くジャンプ。そしてスパイクを打ち付ける。
ボールが次に向かう場所は真ん中のセンター。レフトじゃないだけ隆にとっては幸運だったが、それでもキツすぎる。
「うおおおおおおっ……!!」
全力疾走。真ん中まで走っていき、滑り込みのような形で左足でボールを高く蹴る。
隆は左脚とさらに踏み込んでしまった右脚を絡めてしまい、思いっきり転倒。
「がああああっ……!!」
脚と尻に自慢の強烈なダメージを受ける。
「隆さん……!!」
シャルロットが叫ぶ。起き上がるよりも先に痛みが来て起きあがろうとはさせてくれない。
「ねえ、あのボール危なくない?」
「ええ、このままいけば確実に負けるわよ、東條隆」
さらにボールは、相手チームに飛んだのは良かったのだが、隆は飛距離を計算していなかった。
それもそのはず、ボールに追いつくので精一杯。距離なんて計算している暇はなかった。
遠くまで飛ばすのはビーチバレーにおいて有利なことが多い。例えば、相手がこちらに投げるためのボールの手数を増やすことができたり、こちら側の体力を回復できたりすることができる。
それは、投げた先が遠ければ遠いほど、または、人がいない方向であればあるほど有利に働く。
しかし、それと同時にリスクもある。それは以前、上条が打った際もそうだった。
ビーチボールの打つ場所は決められたコート内でなけらばいけない。
そのボールが場外に飛べば意味はなくなる。そして、入れようとしていた得点は相手に渡る。
それは少し遠くから見ていた外野の七人が一番わかっていた。あのボールは確実に自滅へと向かっていっている。あのままいけば確実に場外に行き、このターンは隆の負けになる。
「っ……!? しまった……!!」
隆もそれに気づくが、もう遅い。ボールを一度相手コートに投げてしまえば、こちらからは何もできない。
しかし、ここで隆に助け舟を出したのは今一番意外な人物だった。
「どこ狙ってるの、お兄ちゃん。そこだと負けるよ。さあ立って! もっと遊ぼう……よっ……!!」
美沙だった。距離的には美沙はコート付近に先ほどまでいた。隆はボールの方向を考えない代わりに、それなりに速い球を飛ばした。その隆の蹴りの速球から考えて、普通の人なら追いつけないのが当たり前だが、美沙の身体能力ならそれが可能。
瞬時に足を踏み込み、コートの縁まで追いつく。さらにあろうことか、隆のボールを足で蹴り返した。あのままいけばチーム芳月ガールズに一点入っていたものを、あえて投げ返す。
美沙自身ももちろんわかっていた。あれを逃せば点が入ることくらい。だからわかった上での行動。
完全に隆は遊ばれていた。
「なっ……!?」
「「ええっ……!?」」
美沙以外の全員が声を上げて驚く。
美沙の顔は余裕すら見える。体力もまだ全然有り余り、身体能力は隆より何倍も上。勝ち目が見えすぎているから。
そしてボールはさらなる速球で隆に襲いかかる。狙う先はチーム隆のライト側。
そして、隆はというと、今の走りで全力を使い果たし、体力の全てを使い果たしていた。心臓の鼓動がうるさいほど鳴り響く。
それでも、意地になって右足を踏み込んで、体を投げ、左足でボールを蹴り返した。
「うらあ……!!」
なんとか今回も打ち返せた。しかし、体に重心がかかり、なんとか左足を前に出して転倒せずに済んだ。
ボールが向かう先はチーム芳月ガールズのセンター。美沙は走り出した。
「じゃあ私も、二人の真似をしてみようかな!」
(……っ!? あいつ、何を……!!)
美沙は少し高く飛ぶ。体は軽く、ふわりと浮遊しているかのように見える。一同は注目していた。
「あいつ、まさか……!」
「あの構えは……!」
特に、昇龍と天空城には何か見覚えのあるように見えた。左足を空中で回し、勢いよく横から前に出す。
「回し蹴りっ!!」
ビューーーンッ!!
ボールは緑色の疾風を纏い、強大すぎる速さで吹き飛んでいく。
その蹴りの半分は天空城の強大すぎる速さを纏い、もう半分は昇龍の緑色の疾風を纏っていた。
天空城には日頃から武道の心得があり、昇龍には極道の鬼の血が流れている。
そんな二人の行動を全て美沙は学習した。あの二人の蹴りを同時に、尚且つ一番近くで見ていたのは美沙。それを踏まえても美沙のこの短期間での向上精神は異常とも言える。
美沙はそれだけの天才。相手の行動を少し見ただけでコピーできる。強さ的な面で言えば、天空城や昇龍の方が圧倒的なため、ボールに与える基礎的な強さまでは引き継げないものの、十分すぎるほどの威力。
「おいおい、そんなのアリかよ! 美沙! お前どこのコピー能力者だよ! どれだけ僕をオーバーキルすれば気が済むんだよおおおっ……!! うおおおおおおおっ……!!」
もはや隆に蹴りを与えさせる暇なんてない。隆は無我夢中でこけそうになりながらも、ただひたすら走った。
そして体だけを投げ込む。本当に体だけ。腕はもちろん、足も出さない。いや、出せない……!
「ぐおおおおおおっ……!!」
バンッ……!!
「うはっ……!!」
強烈な一撃を、運良く当たった横腹に当て、相手コートに吹き飛ばした。しかし、ものすごい回転速度と威力を誇るボールは横腹を火傷させるような痛みを与えていた。
(このままだと本当に負けるぞ、僕……!!)
ボールはチーム芳月ガールズの後ろのセンター側に飛んでいったが、美沙に追いつけないはずもなく、またしても簡単に追いつかれる。
「さあ、お兄ちゃんはこのボールにいつまで耐えられるかなっ……!!」
またしても先程と同じ回し蹴り。センターの真ん中に飛んでいく。
「ああああっ……!! ぐはっ……!!」
隆ももう投げやりだった。体をぶつけては一か八かで跳ね返した。使える時こそ脚を使ったが、そんな隙を毎度のように美沙が与えるはずもない。それとともにくる強烈なダメージ。
体内の臓器を揺らされ、血管を押しつぶされるようなこの感覚。
それを何度も繰り返し、制限時間は残り一分を切る。
(何かないのか……! 何か……!!)
打たれながらも必死に頭を使う。
この戦いの打開策……!
人間の弱点? いや、そんなの大きすぎる……!
こいつにしか……! こいつにしかない弱点を編み出せ、隆っ……!!
この中で美沙とは一番付き合いの長いのは隆。その付き合いは十年以上。そんな隆だからこそわかる弱点がそこにあるはず……!
僕にしかわからない弱点……!
なんだ……!
なんなんだ、こいつの弱点は……!!




