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泣いてるんだが?

 その後、可憐は詳しいルールを説明した。

 フィールドにいる全員は納得をしたが、上条は……


「くそっ……! 僕はまた、隆を……!!」


 右手で拳を作り、寝そべりながら地面に叩きつける。昇龍にやられているため、力が出ない。

 左腕で目を隠し、涙を流していた。泣かれている姿は誰にも見られたくない。彼には彼なりのプライドがあった。


 隆を助けるつもりでやっていた。

 ただゴールを防げればいいと思っていた。

 そんな中、入れることができた一点。

 でも、実際はそんな点数は入っておらず、むしろ相手チームに得点が入ってしまった。

 それは結果的に隆を苦しめることとなってしまった。

 そんな自分が情けなく、悔しかった。


 昇龍は立ち上がり、上条を見る。

 涙を隠しているつもりだが、悔しそうにしているのは明らかだった。

 もちろん昇龍は上条が隆の命を守るための行動だということを知らない。だから、シュートが入らなかった、または得点が相手チームに入った悔し涙だと思っていた。でも、何かが違う。

 上条は果たしてそんなやつなのか。


「それでこれからどうするの? 一様、残り時間は三分を切ってるけど」


 現在の残り時間、二分四十六秒。


「チーム隆は二人とも倒れている。チーム芳月ガールズは昇龍さんと美沙さんが立っている。そのうち、昇龍さんはもうプレイができる身体じゃない。点数は同点。結論から言えば、今動けるのは美沙さんしかいない。そうなってくるとチーム芳月ガールズの不戦勝になるけどいいかしら?」


 隆と上条は倒れているため、プレイができない状態にある。上条に関してはもうボロボロ。関節を動かすのもしばらくは難しいような状態。

 昇龍も上条と同じような状態。何とか今は立てているが、とてもじゃないほどの疲労感。小石一つぶつかっても倒れるくらい、身体は弱っていた。

 そしてこの中で唯一動けると可憐が宣言した美沙はまだやれる。特に、上条と昇龍がほぼ一対一で対決した際に体力を回復していた。そのため、美沙だけが立っているだけで不戦勝を得ることができる。


 そうなってくれば、もちろん勝者はチーム芳月ガールズ。チーム隆の敗北は確定となる。


「でも可憐ちゃうの言う通りだよ。この状況で私と戦える相手がいれば話は別だけど。じゃあ、チーム芳月ガールズ、不戦勝ということで――」


「おいおい、僕を忘れてもらっちゃ困るな」


「「……っ!?」」


 地面を手の内側で強く押し込み、立ち上がった。フラフラする中、頭や体についた砂を右手で払い除ける。

 全員の注目が彼の方向へ向く。


 彼は先程、昇龍のボールを四度、まともに腹部に受け、ずっと倒れていた。ものすごい目眩と吐き気に襲われ、視界に入る何もかもが反転に見えていた。

 彼の行動がなければ、得点を一点入れることができず、昇龍をあそこまで追い込むことはできなかった。


 彼の名前は東條隆。運動神経最悪、前回のスポーツテスト、クラス男子最下位の男。

 その男が今、立ち上がろうとしていた……!!


「待たせたな。地獄の底から這い上がってきて戻ってきたぜ。美沙、お前の相手はこの僕だ……!!」


「隆……」


 しかし、まだフラフラな状態なことに変わりはない。動ける分だけ最大限動く。そうしなければ勝てる試合も勝てず、チーム芳月ガールズに不戦勝を渡してしまうことになる。

 それなら、可能性をかけて隆自らが戦う。


「上条、何泣いてんだよ」


「うるせえよ。言うなよ。女の子の前では涙を見せたくないんだよ……」


 珍しく弱々しい声で返す上条。そんな上条を見て、隆は応えた。


「お前が頑張ってくれたから点数が入ったんだろ。お前がいたからこそ、昇龍をあそこまで追い込めた」


「……っ!?」


「僕一人なら今頃、十点くらい差がついているぜ。ありがとな、上条。チームのために戦ってくれて」


「ううっ……!! うううっ……!!」


 上条の目からは大粒の涙が。それでも目を隠す。よほど泣き顔が見られたくないのだろう。


「ほら。背負ってやるから向こうで休んどけ。いくぞ」


 隆は唸る上条を背負い、近くの木の木陰へと運んだ。観客兼審判の五人の位置とは少し離れるが、木陰の場所はあそこしかない。

 意外と上条はそういうところを気にするから、木陰に運ぶのがちょうどいい。


「じゃあ、あーしも休んどくわ……ああ、大丈夫。あーしはまだ歩けるから……江南、あとは頼んだぞ……」


「うん、お疲れ様。かっこよかったよ! あとは任せて!」


 美沙は昇龍を隆たちのように運ぼうとして駆け寄るが、昇龍は遠慮した。この後を全力で頑張って欲しいから。だから美沙もその期待に今から応える。



 そしてフィールドには、隆と美沙だけが残る。


「へっ。お兄ちゃん、大丈夫なの〜? 身体フラフラじゃ〜ん。まあせいぜい頑張って〜」


「ふんっ。やってみなきゃわからないだろ。僕はスポーツテスト最下位! お前は一位! だからなんだって話だっ!」


 隆は美沙を人差し指を指して言った。


「「……」」


 その場は一気に静まり返る。

 この事実を隆は隠し続けていた。誰にも言わなかった。しかし、ここは格好つけて言いたかった。

 それを理解した上で言った。


 しかし、その場にいる一同は驚愕のする。


(さ、最下位……?)


 格好付けて言ったが、それが逆に一同の口角が上がりそうになる。最下位ということに笑っているのではない。あの堂々とした隆の態度に笑いを隠しきれなかった。

 しかし、ここは空気を読んで一同は頑張って(こら)える。


「え? まさかお兄ちゃん、本当に最下位なの? そこはいいとして、何でそんな堂々としているの? 何、「だからなんだって話だっ!」 って」


「そうだ。今まで隠していたが、とうとう僕の順位を教える時が来たようだからな。そしてここでこの発言をすることにより、僕にはフラグが立つ。勝利へのなっ!」


「いや、立たない立たない。漫画やラノベじゃあるまいし」


 美沙は目を細め、手でないないとポーズをする。


「ほら、みんな今にも笑いそうじゃん。どうすんの、この空気」


 美沙が指を差した先。観客兼審判の五人全員が笑いを堪えていた。


「え? あ、ええっ!?」


「みんな、そんな堪えなくていいよ。そんなことで笑ってもこの人怒んないし、幼馴染の私が保証する。力抜いて〜。はい、一、二、三」


 その瞬間、その場にいた五人は一斉に表情を緩めた。


「あっはははははははっ!! え!? 何、あれ!! ほ、本気でかっこいいと思って……!!」


「めちゃくちゃ自信満々に言ってますね! あんな人、見たことありません!」


「あ、あなたたち、そ、そんなに笑ったら失礼じゃ……! ふふっ……!」


「可憐さんも笑ってるじゃないですか! ま、まあ、頑張ってくれ……! ふふふふふっ……!!」


「や、やばすぎだろ、マジで……!! あんたどっからそんな自信が出てくるわけえっ……!! あっはははははっ……!!」


「そ、それでこそ隆さんです! だ、大丈夫です! 私は笑いません! そ、それも隆さんの魅力の一つなんですから! そ、そんな魅力を笑ったりなんて……! 笑ったりなんて……! ふふっ……!」


 六人はそれぞれ体制を崩し、笑い始めた。

 加賀は寝転がってあちこちに移動し、赤城も珍しくニコニコと笑っている。可憐は笑うのを笑いと最後まで自分に抵抗したが、結局俯いて口を手で押さえた。

 天空城に関してはキャラに似合わず、爆笑。

 昇龍は相変わらずの口調で、隆をさらに笑いものに持ち上げる。

 大抵のことは理解してくれるシャルロットも後ろを少し向き、隠れて笑っていた。


「ふっ……」


 上条も一人、木の木陰から笑っていた。


「やめろよ、お前らっ! なんかめちゃくちゃ恥ずかしくなってきたじゃねえかっ! おい、美沙! お前のせいでまた僕は黒歴史を――」


「あっはははははははっ……! ああ、やばい……! お腹痛い……!!」


「うおいっ!!」


 一番笑っていたのは美沙だった。お腹を抑え、ケラケラと笑い続ける。


「大丈夫大丈夫っ……!! その黒歴史、私が勝ってさらに黒く塗りつぶしてあげるからっ……!! 消えないくらいにねっ……!! じゃあ、始めようかっ……!!」


「ふんっ! どうかな! でも、これだけは言える! それは、この僕に勝てたらの話だけどねえっ! さあ、やろう――」


「「あっはははははははっ……!!」」


「お前らなあっ……!!」


 何かを言えば笑われてしまう隆。もう何を格好付けても笑われる未来しか見えなかった。


 こうして、隆対美沙の幼馴染同士の対決の火蓋が切られる……!

 スポーツテスト男子最下位の隆VSスポーツテスト女子一位の美沙……!!

 勝つのは一体、どっちだ……!!

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