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全力のぶつかり合いなんだが?

 ボールは赤色の風を(まと)い、中央に接近。上条は走り出し、右拳を突き出した。


「ぐっ……!!」


 ボールは拳に当たり、尋常じゃないほどの回転速度で回り始める。皮膚が剥がれそうなほどの威力。上条は後ろに押され続けるが、なんとか両足で立ち続ける。


「……っ!?」


 昇龍も驚いていた。隆はあれをくらい、隆の体が回転するほどの威力だから上条もそうだと思っていた。しかし、上条は違う。

 彼は投資業界トップの元秘書。能力者でもあり、基礎能力もそれなりに高い。ましてや、この世界の人間以上にはある。だから昇龍の攻撃の一発や二発、下手をすればそれ以上の回数を耐えることができる。


 次の瞬間、上条は右腕にものすごい力を入れ、ボールを吹き飛ばした。

 しかも、方向は先ほどのような遠くではなく、すぐ近く。昇龍の足が届くところに。威力が弱いわけではない。あえてその場所に狙ったのだ。


「おい上条、あーしにパスして……どうすんだよっ!!」


 バンッ!!


 またしても強力な回し蹴り。すぐにネットを(また)ぎ、上条に接近。昇龍もやけになり、上条自身に打ち返した。


「……っ!? ああっ……!!」


 またしても右拳を突き出し、ボールを押さえる。ものすごい回転力と半端じゃない威力。あまりの強さに声を上げる。

 しかし、攻撃を受けている上条自身は理解していた。


(やっぱりだ。さっきより威力が明らかに落ちてる。これは、見えたね。君もこっち側に来てもらうよっ!!)


「うっらあああっ……!!」


 右腕に力を込め、ボールをまたしても吹き飛ばした。方角はまたしても昇龍の元。


「お前、ふざけてんのか!! なんであーしにわざと渡してんだよっ!!」


 ニヤリ。空の黒い雲が上条の上に影を作り、笑みを浮かべる。


「タイムオーバーさ。そして、君の体力が切れるか、僕が倒れるか……その勝負かなっ……!!」


「なっ! 小癪なっ……!!」


 またしても回し蹴りで打ち返す。


 上条はあえて昇龍にパスをするような形で体力を消耗させている。昇龍がいるのは先ほど、天空城がいたセンター付近。他の場所に飛ばせば、さらに昇龍の体を消耗させることができるかもしれないが、もしまた美沙が昇龍にパスをしたり、シュートを打ってきたら?

 その隙をついて昇龍の体力は回復し、あの赤い色の疾風を(まと)ったシュートを打てる回数が増えるかもしれない。

 何より、遠くにあってシュートを決めるにしても、鉄壁の守備である美沙がいる。

 場内であればどこを打っても美沙が高速移動を始め、防ぐだろう。流石の上条でも、美沙も相手をしているほどの余裕はない。ならば、昇龍の体力を消耗させた方が早い。


 実際、あの蹴りは威力こそ強いが、昇龍自身の体の負担も大きい。

 しかし、それを受ける上条もタダじゃ済まない。

 現に先程の二度の攻撃により、右腕はもう使えない。感覚が少し鈍り、麻痺を起こしている。

 それでも上条は立ち上がる。


 右腕が使えなくても、他の部位が使える。


 だからこそこの勝負、昇龍の体力が切れるか、上条が倒れるか。その二つだった。


 そして上条はタイムオーバーを狙うと言ったが、まだ残り時間四分を切っているだけ。

 タイムオーバーは恐らくは難しい。さらには仮に昇龍をダウンさせたところで、美沙がまだ残っている。


(だから耐えれるだけ攻撃を耐えて、後のことはもうわかるだろ……)


 心の中で何かを呟く。それは、誰に対して言った言葉なのだろうか。


 左拳を突き出し、目の前に迫り来るボールにぶつける。


「うっ……!!」


 まだあの天空城の攻撃が響いている。おそらく、左腕はこの一発で右腕と同じ感じになる。

 だが、これで終わりではない……!!


「うっわあああああああっ……!!」


 ドンッ!!


 最後の力を振り絞り、左腕でボールを吹き飛ばした。ただ吹き飛ばすだけではない。昇龍に正確にパスをするしかない。幸いにも、昇龍は上条に感情的になり、その場を動かない。だから要領は変わらない。

 あとは僕の体が負担となって重くなる分、威力を増してあの場所にコントロールすればいいっ……!!


 ボールはネットを超える。

 昇龍もまた、体力を切らしていた。


「はあ……はあ……はああああっ……!!」


 回し蹴りをして吹き飛ばす。方向はもう上条の方向にしか向いていない。彼女もまた、上条にパスをしているように渡す。


 上条は右側を向き、左脚に力を入れる。

 両腕が使えない方はわかっているため、両手を二つのポケットに突っ込む。

 そして、目をボールに向け、右側を向いたまま、それをボールに突き刺すように脚を綺麗に突き飛ばした。


 左脚を約百度上げ、左脚で地面を支える。アンバランスだが、一番昇龍のところに的確に届き、脚を使うとなるとこれしかない。

 今の上条に昇龍のような回し蹴りを使えば、安定感に欠ける。


 足裏に当たり、高速で回転するボールを受け止める。

 そして、左足の裏に力を込め始める。


「ううっ……!! はあっ……!!」


 ドンッ!


 またしても昇龍のところに飛ぶ。しかし、左脚の負担は大きい。だが、まだやれる……!!


「おっらあああああああっ……!!」


 ボールの威力はかなり弱まり、回し蹴りをする。脚を上げることすらも負担になり、蹴りを入れればさらに負担は増す。昇龍も息を切らしながらも必死だった。


 だけど、乗られた勝負なら、買うしかない。

 それが、彼女の生き様でもあるから……!


 外野の五人も上条たちの戦いを見ていた。二人の汗は滝のように流れ、もう倒れそうだった。

 それでも、彼女たちは何も言わない。

 ただ純粋にその勝負を見届けたかった。


 美沙もその隙に体を休ませていた。昇龍の体はもう限界に達しかけているが、それを止めない。それが彼女の意思のように見えたから。


(もし、昇龍さんが倒れるようなことがあれば、あとは私が出ればいい。上条くんもかなりきてるし、敵じゃない。昇龍さんがここまで繋いたなら尚更)


 そんなことを美沙は考えていた。

 何よりこの時間は美沙にとっては回復できる絶好のチャンス。昇龍と変わるのが一番いいが、それでは昇龍が満足しない。上条には申し訳ないが、いざとなれば交代し、シュートを入れる。

 あとシュートを二回入れるだけで勝負はつき、チーム芳月ガールズの勝利は確定となる。


 隆は相変わらず起き上がることが出来なかった。だんだんと世界が戻ってきてはいるが、まだ視界が百度以上傾いている。近くで上条が戦っているのに、自分は何をしているんだ!

 隆もまた、必死で反転された世界から()いあがろうとしていた。

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