ダークネスなんだが?
その後、僕らは食べ終わり、レジャーシートに座りながら僕はただ空を見上げる。
ビーチに来たはいいものの、さっきからこんなのばっかりだな。
強いて言えば、上条とリアル女どもの群れから逃げたときに走ったことくらい。もちろん、それが楽しかったとかそういう話ではない。
どちらかと言えば、命の危機を感じたレベルだったな、あれは。
いくら引きこもりの僕とはいえ、遊びに来たなら何かアクションをしたい。
とにかく、せっかくビーチに来たんだ。何かアクションを――
ブーブー。スマホが鳴る。上条があのとき出してからは手元に置いていた。
(ビーチバレーをして二回連続勝利する。ルールはオリジナルでも可。2500円)
「おいおい、ふざけるなよ、まじで……」
唖然。その言葉しか出なかった。この際、百歩譲って副業が来たこと自体は受け入れよう。そこはいい。そこはいいんだが……
(手首が使えないのにどうやってやれって言うんだよ、まじでさあああああっ……!!)
ビーチボールはサッカーなどとは違い、手を使う競技。その上、ビーチボールとは、部位的には手首を一番使う競技。手首を痛めていればもう最悪。
今度こそ終わったか、僕の人生。
今まで拙者をここまで導いてくださってありがとうございました、ぷらねっと神。そして、愛しのラブスイートマイハーツ、シャルロットた――
ブーブー。またスマホのバイブ音。二つ目の副業? 勘弁してくれって。
そう思いつつも、ロック画面を解除。
(投資家隆様、こんにちは。投資業界です。このメッセージは私と貴方様意外、知らない内容となっております。本日よりダークネスを使用することができます)
なんだ、このメッセージ? 投資業界から直接メッセージが届くなんてことは今まで一度もなかった。
しかも、私? 投資業界一括りを私と言っているなら納得のいく話だが、私ってなんだ?
まるで、特定の一人を限定しているかのような。
そして、この頭の痛くなるような単語、「ダークネス」。もう見たくはないが、まだ続きの文章が十四行ほどある。このまま閉じるわけにはいかない。
僕は嫌々続きを読むことにした。
(今回のような緊急時に備え、ダークネスを発動することが可能となりました。使用するかどうかは投資家隆様自身にお任せします。しかし、一度了承すれば金輪際、半永久的に発動します。発動の条件は私の気まぐれとなりますので、ご了承ください)
一度了承すれば? いやいや、いくら命がかかっているとはいえ、こんなの了承できるわけない。
一見救済処置のように見えるが、あのいかれた投資業界のことだ。こんなの罠に違いない。
手首が痛いからなんだって話だ。こんなもの無視すればいい。そもそも、ダークネスとその副業になんの関係があるんだよ。
(前回は誠に勝手ながら試作させていただきました。前回は投資家隆様の記憶に残られると負担になると思い、記憶に残らないようにしております。しかし、以降のダークネス発動時の際には記憶に残るようになっております)
「……」
なんか今、嫌な思い出がフラッシュバックしたような。
(ではここからはダークネスの説明です。投資家隆様の中学二年生の頃の――)
「うおあああああああっ……!!」
中学二年生。その言葉を見ただけで頭のてっぺんから足の爪先まで、身体中を駆け巡り、虫唾が走った。
なんなんだ、この身体中が痒くなるような感覚は……!
黒歴史を舐め回されるようなこの感覚は……!!
「どうしたんですか、隆さん!?」
もどきがくる。もどきにならこのメッセージを見せても構わない。その先を読むことを自分ですら躊躇うレベル……!
でも、だめだ……! 人としてこんな文章は見せられない……!
「あ、ああっ……! 何にもだ! 砂に埋もれたヤドカリに指を挟まれただけ! ほんとにそれだけだから! 全く、可愛いやつめ〜! い〜よしよし! い〜よしよし! いよっこらせ〜! はいはいはいっ!!」
背中を丸め、全員に背後を見せる。なにもいない砂を左手で撫でた。右手にはスマホ。こんな文章を誰にも見せるわけにはいかない。
「……」
一同は沈黙した。食べ終えたばかりでのんびり雑談していたものもいれば、砂に似顔絵を描いて楽しんでいる人もいた。しかし、僕のこの行動で一気に話をやめ、手を止める。
だが、これでスマホは守られた。見られることもなければ、僕自身が焦る必要もない。
あとはこの南極のように冷え切った場の空気をなんとかすれば――
「ヤドカリ見せてえええ!! 隆いいいっ!!」
(しまった! ここには馬鹿が一人いたんだった……!!)
背後から迫ってくる上条。今から立ち上がってももう間に合わない。
どうする……! どうする……!
「う、うわあっ……!」
「いってえ……!!」
上条の足が正座している僕の足にぶつかり、上条の体は転倒した。そのまま僕の背中に被さるように上条は倒れる。暑さで熱った上条の体が思いっきりぶつかり、めちゃくちゃ気持ち悪い。
さっきまでこいつはトイレに行っていた。そしていつのまにか帰ってきてこれだ。
「あっははは! ごめんごめん〜!」
上条は頭をわざとらしく掻き、舌を出す。
「ったく。ごめんじゃねえ……――っ!?」
上条の方を振り向こうとしたが、何か今視界には映ってはいけないものが映った。その瞬間、体から発生した寒気。なんなんだ、これ……
視界に映ったもの。それは先程のスマホ画面。スマホの画面中心に白黒の太陽のようなものがぐるぐると回るアイコンが写りだす。
こんなの、さっきまでなかった。
何か間違えて押したのか? 先ほどから送られた文章の中で他のメッセージにはない機能の中で考えられるものとすれば、最後から二行目のところにある青色のURL。あれ? URLってこんなに濃い色してたか?
青色といえばそうなのだが、厳密には濃い青色になっていた。例えるならば、目の前にある海のような色。
そして、その一行前の文章。
そこに書いてあったものは――
(もし、ダークネスを今後発動させる場合、こちらのURLをタップをお願いします)
そこから続く文章は、濃い青色になったリンク先だった。
……
……
……
「上条、てめえどう責任取ってくれるんだよ、このアホ!!」
おそらくこいつが背中を押したせいで僕の指が誤ってリンク先をタップしてしまったのだろう。
「ええ!? もしかしてヤドカリ逃げちゃった!? それは申し訳ない!!」
「そんなことよりもっとやべえことだよ!!」
「まさか、ヤドカリを潰してしまっ――」
(投資業界と投資家隆様との契約を受理しました。これから不定期でダークネスを発動します。それでは引き続き、投資ライフをお楽しみくださいませ)
「だああああああっ……!!」
画面が切り替わり、その表示を見て発狂した。なんか、訳のわからん発動を契約してしまった。
もう嫌な予感しかしない……
僕はショックでその場で倒れ込んだ。
「どうしよう! 隆の大切にしていたヤドカリを潰してしまって隆がおかしくなっちゃったよ!」
とはいえ、落ち込んではいられない。副業がきているんだ。これをやらなければ確実に僕は死ぬ。
ダークネスがなんだ。実はめちゃくちゃ無害のやつなのかもしれないじゃないか!
「隆、ごめんよ。謝って済むことじゃないことはわかってる。その代償はなにをしてでも払うよ、僕!」
「おい、上条。ヤドカリなんて最初からいないぞ」
「上条さんのあれはふざけているのか?」
昇龍は上条に声をかけるが、全く聞いていない。天空城もヤドカリが最初からいないことは気づいているため、上条のあの驚きっぷりはふざけてオーバーリアクションをとっているとしか思えない。
もしくは、究極のバカか。
「だから、そんなに肩を落とさないで。とにかく僕は、隆が元気でいてくれればそれで――」
「お前らあ……!! ビーーーチバレー……やるぞおおおおおおおっ……!!」
「えええええええっ……!?」
一同の衝撃は隠しきれないものとなる。なぜかわからないが、隆は突然元気を無くした。それは側からみればわかる。もちろん、上条を除けばヤドカリだと思っていたのは誰もいない。
それが突然、元気を出して立ち上がった。
この場にいる全員が隆のことを変わり者と認知していたが、ここにきてそれがさらに深まったのであった。




