あーんしてもらうんだが?
僕が持ってきたもの。それはたこ焼き。
たこ焼きはいいぞ。粉で来ているから満腹感がある上、店によってソースや醤油と味が選べる。
まあ、拙者はいつもソースにするでござるがな! そしてなんと言ってもたこ焼きとは、シェアできる食べ物! つまようじの数だけシェアできる……!
つまりシャルロットたんと、もしたこ焼きを食べるなんてことがあれば、シェアし放題!
熱いのはたこ焼きだけ? ノンノン! それは、拙者とシャルロットたんとの愛も、でござるよ!
ムヒヒッ……! ムヒヒヒヒッ……!!
さらにそこから、つまようじが二つあるはずなのに一つないというハプニングが起きるとする。しかあし! あえて拙者は取りに行かない!
なぜなら、そのつまようじ一つで拙者たちの愛はより一層深まるから。
シャルロットたんにたこ焼きを口に運んでもらったり……なーんてことも……!
ムヒヒッ……! ムヒヒヒヒヒッ……!!
「はい! あーん!」
と、そんなことを考えていると目の前につまようじに刺さったたこ焼きが現れる。
もう、シャルロットたんってば、本当に大胆でござるなっ……! みんなが見てるでござるよ〜!
だが、その期待に応えるのが夫である拙者の務め……!
「あ〜……って、お前かよ……」
興醒めすぎて開けていた口が自然と閉じていく。僕の横からたこ焼きを運んだのは上条だった。
「いや、だって一人で口開けてたし、食べさせて欲しいのかなーって」
「違えよ。食べさせてほしい相手はいるが、お前ではない」
「いることは否定しないんだね。でも、隆の手首じゃ食べられないでしょ。箸持てるの?」
「ああ……そういえば……」
たこ焼きを運んでもらったのも、一緒に取りにいった上条に任せていた。今手首を動かすのはまずい。
ということはつまり、一人で食べることはできないというわけだ。なんという地獄だ。
ブーブー
どこからか聞こえる振動音。一同はその方向を向く。一つの小さな箱だった。確かあれは、加賀が全員分のスマホを一箇所に集めた箱。
でもこのタイミング、もしかすると僕のスマホから鳴っているかもしれない。そしてそれは――
「悪い上条。確認してくれるか?」
「OK」
上条も察したのだろう。仮にこれが僕のだとして、それを僕、もどき、上条以外の他の人物が誤って見てしまえば、その時点で腕のバングルは爆発する。
もどきは他の奴らと楽しそうに話しながら食べてるし、僕自身も手首が使えない。ここは上条に動いてもらうか。
上条は箱の中から僕のスマホを取り出した。しばらくしてまた、僕のベンチの横に座る。
「見てもいい?」
「ああ」
上条はホームボタンを押す。
「……っ!?」
「ん? どうした?」
上条の顔は驚きに満ち溢れたような顔をしていた。そしてなんか輝いている。なんとも言えないこの顔。
スマホは裏返しになり、机の上に置かれる。なんの副業が来たんだ?
「ごめん、隆。はい、あーん!」
すると突然、さっきのたこ焼きにつまようじを刺したやつを再び僕の口に運んで――
「って、ちょっと待てえ、上条っ!? なんで謝った途端、ワクワクしながらまたたこ焼きを僕の口に運ぼうとする!」
「だって、次の副業、隆の口に僕があーんをするっていう副業だから」
上条が僕の耳元で吐息混じりで囁く。周りに聞かれるわけにもいかないから囁いたと。
……
「お前、それ嘘だろ」
こいつ、絶対嘘ついてる。それっぽい副業が来たと見せかけて、実は別の副業、もしくは副業自体来ていなくてこれがしたいがためにそう言っている可能性がある。
「嘘じゃないって! ほらっ!」
すると上条はスマホを表に向け、僕だけに見えるように映した。そこには――
(上条樹にあーんをしてもらう:400円)
「ごめん、本当だったのか」
「だから本当だって言ってるだろ! なんで毎回毎回僕を疑うかなあ、隆は!?」
「……ま、まあ……副業なら……仕方ない……な……」
「う、うん……仕方ないね……あ〜ん……」
「あ、あ〜ん……」
二人は互いに目を逸らし、会話をしていた。
頬を何故か染める上条とよくわからないが目を瞑る隆。二人の間を阻むものはいない。
――こうして上条は隆の口に優しくたこ焼きを運んでいったのだったのであった。
その頃、一メートルくらい離れた場所では寝転がっている加賀に可憐が口に食事を運んでいた。
「はい。口開けなさい」
「ええー。あ〜んって言ってくれないと私食べませーん」
「……はいはい。あーん」
「あ〜ん。う〜ん! でりしゃ〜す!」
加賀は美味しそうにモグモグとお好み焼きを食べる。貧血だが、食欲は一丁前にあるらしい。
しかし、一人で食べることができないため、可憐に食べさせてもらっている。赤城はその様子をトロピカルジュースを飲みながら横からじーっと見つめていた。
「ねえ可憐。昔話していい?」
「昔話? 何? 面白い話聞かせてくれるの?」
すると加賀は目を瞑り出し、世界に入っていく。
「うん。むかーしむかし。とても強くてとても可愛い女の子がいました。ある日、女の子はある目的のために一人の男の子に近づきました」
それはどこかで聞いたような話。それを加賀はまるで、実際に見てそれを語るかのように話している。
「ある目的? その子の目的って?」
「ああ、そこはいいの。二人は最初は敵対していましたが、だんだんと距離が近づくにつれ、女の子は男の子に恋をしました」
「敵対してたのに恋? その子、忙しいわね。というか、おかしな子ね。まあでも、是非ともその子の恋を応援したいわね」
「するとそこへ、別の男の子が現れました。なんとその男の子は、女の子が恋をした男の子にあーんをして、男の子と男の子が結ばれてしまいました!」
加賀が指さしたのは隆と上条の方。二人は側から見たら仲良さそうに、いや、もしかしたら恋人同士かのように食べあっている。
口を開け、仕方ないと思いつつも少し嬉しそうな隆と、喜んでその口にたこ焼きを運ぶ上条が。
「……? ……っ!? ぎゃああああああっ……!!」
「めでたしめでた――ぶほっ……!!」
可憐は何かを察して焦りすぎたあまり、お好み焼きを勢いよく加賀の口に押し込み、急いで起き上がり、隆の元へ走り出した。
「ん? な、なんだ……!? うわあっ……!!」
隆の空いている左側の長椅子目掛けて走り、滑り込むかのように座り込み、右腕を左腕に絡める。左腕を引き寄せ、それを胸に当てる。
また可憐は無意識に隆の身体に胸を押し当てていた。
「あ、あなたたちにまだそういうのは早いわ……! 東條隆! 食べさせて欲しいなら年長の私に言いなさいよ! はい! あーんっ……!!」
「え!? ちょ、まじで何!? どうしたんだよ、おま――ううっ……!」
近くに予備でおいてあった箸を左手で掴み、両手で瞬時に割ってからたこ焼きを掴み、隆の口に運ぶ。隆は状況が追いつかなくて、ツッコミまくっていたが、そんな余裕を可憐が与えるはずもなく、思いっきり押し込まれる。
「はあ……全く、隆は。じゃあ、僕はそこらへんで一人で食べてるよ」
上条は立ち上がり、移動する。レジャーシートの上に座り、呆れた顔で一人、ポテトを食べ始めた。
実際、もうすでに副業は達成されている。
加賀が昔話とやらをしている最中に、すでに上条はあーんと言って隆の口にたこ焼きを運んでいた。
だから上条が必要ということはないのだ。
「え!? ちょ、お前……! お前が食べさせてくれるんじゃ――」
「だからダメだって言ってるでしょっ! 私があーんしてあげるからありがたく食べなさいっ!」
「だからなんでお前はお前で――」
「はい! あんっ!」
「うっ……!」
よくわからないまま、口にまた入れられる。
ふにふに。
左腕にたわわな感触が布越しで伝わり、またあの意識をしないようにする地獄のような精神集中が隆の中では始まっていた。
(勘弁してくれって、マジでえええ……!!)
なにがやばいかというと、本人が無自覚ということ。可憐の性格上、自覚した上でやるということはまずない。これほどまでの巨乳がぶつかり、どうすれば意識せずにいられるものか。
それはもはや、不可能に近いのでは?
「だあああおあああっ……!! 可憐ちゃんが抜け駆けしてるうううううっ……!! 美沙、いっきまあああああああすっ……!!」
美沙は走り出し、隆の横にしがみついて可憐同様、隆の右腕に左腕を絡めた。
胸は当たるが、可憐に比べればかなり貧相なもの。とはいえ、かなり密着している。
「なんで美沙まで来てるんだよ! ていうか、暑苦しいんだよお前ら……!」
「はい! これでプラマイゼロ〜!」
美沙は右手で僕の口に棒アイスを力一杯押し込む。
「ううっ……!」
暑苦しさでプラス、アイスでマイナスということか!
って、いやそうではなくて……! マジでこいつらなんなんだよ……!
「な、なんで美沙さんがいるの!? というか、あなたひっつきすぎよ!」
「ええ〜。それ、可憐ちゃんが言う〜?」
美沙は僕の奥にいる可憐をジト目で見つめる。おい、やめろ美沙。嫌な予感しかしないんだが……
「え? それってどういう……?……っ!? 馬鹿……!! 変態……!!」
バチン……!
「うはあっ……!!」
思いっきり人類最強の平手打ちをくらう。
理不尽は女の子の特権とはよく言ったものだ。可憐はベンチの一番横に座り、一人で棒アイスを口に咥えて唸りながら涙目でもぐもぐちゅぱちゅぱ食べていた。
その頃、隆は美沙から押し込まれた棒アイスを手を使わずに綺麗に食べ、空いた左手で引き抜いて机の上に置いてあるお皿に置いた。
「死ぬわっ!! ……っ!?」
その時、また何かよくわからないものが口の中に入る。ぐにゃぐにゃとしたもの。美沙ではない。それも正面から。じゃあ一体、誰が?
「ふ、風紀委員としてここは私が食べさせてあげなければな……」
天空城だった。正面から手を伸ばし、隆の口に入れる。その手に持っている棒の先にはイカ焼きが刺さっていた。
「それもはや風紀委員関係ないだろ……! というか、なんでイカ焼き!? ……っ!?」
また誰かが口に何かを入れた。天空城と同じ正面からの攻撃。だが天空城ではない。天空城は左手を机に置き、右手でイカ焼きを入れている。
じゃあ一体、誰が……!?
「ま、まあ……? あーしたちって、激戦を繰り広げてきたライバル的な仲だし? ここは未来の妻であるあーしが食べさせてやるかあ〜!」
咥えられたのはフランクフルト。それでも隆は、さっきのイカ焼きとのコンボを食いつつも、頑張ってツッコミを入れる。
「それもあんま関係ない……! というか、未来の妻ってなんだよ……! いいか……!? それだけは否定させてもらうでござるよ……!? 何故ならば、拙者の妻は……!」
そして空いている左手でイカ焼きとフランクフルトの棒を二人の手から奪い取り、上を向いて大きく叫んだ。それに一同は注目する。
「シャルロットたんだからだあああああああっ……!!」
「はい! ありがとうございます!」
口にまた何かを入れられる。これはわかる。ベビーカステラだ。ふわふわの生地でできて、蜂蜜の味がするあの食べ物。しかし、右には美沙。正面には天空城と昇龍。左端には可憐。遠くには赤城、加賀、上条。
じゃあ、誰――
「もどき、おま――!? うはっ……!!」
太陽に照らされながら満面の笑みのもどきだった。その顔を見てまた勘違いしてしまう。
シャルロットたんと。
またシャルロットたんに見えてしまった。その衝撃で僕は後ろに反り返り、後ろの砂浜に倒れた。
「ああ! 大丈夫ですか、隆さんっ!?」
もどきがしゃがみ、僕を上から覗き込む。
最初は心配して近づいていたが、だんだんと笑顔になり、右手で髪を耳にかける。
……!?
胸がなぜか高まる。もしかして僕、ドキドキしてる?
いや、いかんいかん! なにを考えているんだ、僕は……!? 相手はあのもどきだぞ……! ほ、ほんとさ……マジで……
「全く、なにをしているんだ君は」
「もー、しっかりしてよね、お兄ちゃん」
「ほんと鈍臭いなあ、東條」
他の三人も僕を囲うように駆けつけてくる。
そこで改めて思った。
僕ってこんなにも人に囲まれるような人間だったか?
あんなにも人間というものを嫌っていた僕が。あんなにもリアル女を嫌っていた僕が。
こいつら四人だけじゃない。可憐、赤城、加賀。そして上条。僕の周りにはこんなにも……こんなにも大切な友達が……たくさんいる……
「おい東條、なに泣いてんだよ」
「え?」
僕の目からは気がつけば涙が溢れていた。
「もーう。なっさけなーい」
「こけたくらいで泣いていないでさっさと立たないか。らしくもない」
その場にいた全員が僕を見て笑う。たくさんの人。たくさんの笑顔。その中心に……僕がいる……
「はい、隆さん!」
僕の目の前に手を出したもどき。その手はまっすぐと伸び、僕に向けられていた。
僕はその手を掴み、笑顔で立ち上がったのであった。




