サービスしちゃうんだが?
シロナガスクジラを倒してから数十分後。僕らは全員、パラソルの場所に戻った。可憐と赤城の二人はシャワーを浴びに行き、加賀はなぜか美沙に輸血をされていた。
どうやら、シロナガスクジラが現れた時と同時刻、詳しくは知らないが、こちらもこちらで一悶着あったらしい。
美沙ともどきが事情を知っているようだったが、話を聞こうとするたびに目を逸らしたため、それ以上は聞かなかった。
僕はというと、手首の激痛の治療をしていた。見たところ、深いあざができていた。バングルの締め付けがよほどなものだったのだろう。まあ、包帯を巻いただけなんだが。
「治療なら私がやるのに」
輸血をして加賀の看病をしている美沙に声をかけられる。
「ああ、大丈夫だ。たいした怪我じゃないから」
「ふーん。困った時は頼ってよね」
「ああ」
手腕を隠しながら言う。本当なら僕だってそうしたい。僕がやるよりも医療知識のある美沙がやった方が適切に処置できるはず。
だが、副業のペナルティがまたどこで発動するかわからない。
例えば、美沙が「これどこで怪我したの?」なんで質問をする。しかし、それだけでも副業のペナルティが発動する可能性がある。
だから頼ろうにも頼れないのだ。
そんな様子を横目で見続ける上条。その顔はどこか悲しそうだった。
「やめろ、その顔。むしろ、僕はお前のおかげで助かったんだ。お前が気にすることではないだろ」
「……隆は優しいんだね。ありがとう」
「礼を言うのは僕の方だ。ありがとな」
「……」
なんだ、こいつ。らしくない。
あの時、上条がいなければ「僕が副業を見た」ということはできなかった。上条は一様、投資業界トップの連中とは関わりはあるが、敵対している。
今回の副業を出したのはこいつではない。
それでもなお、責任を感じ、僕を救ってくれた。
そんなやつを責める理由なんてないんだよな。
そんな時、足音が二つ。
「はあ〜! さっぱりした〜!」
「……」
前に伸びをする可憐とあいかわらずむすっとした顔の赤城。二人の身体には水滴がいくつか付いていた。
どうやらシャワーから帰ってきたようだ。
「あなたたち、昼食にするわよ!」
「「……!?」」
可憐のその言葉で過剰に反応する僕、上条、もどき、美沙。なぜ反応したかというと、僕らはこの昼食ということについて色々討論をしていた。
その答えが今、明かされるのか……!!
「ダイビングするのか!?」
「サメ討伐アンドサメ解体ショーするの!?」
「この海で魚釣りですか!?」
「まさかまさかの、ヤドカリ乱獲してヤドカリパーティ!?」
「あなたたち、私をなんだと思ってるのよ!」
「「違うのおおお!?」」
「違うわよ! どこをどうやったらそんな発想が出てくるわけ!? ほら、あそこに出店がたくさんあるでしょ。そこで各自好きなものを買って食べる」
可憐が指さした方向を一同が向くと、沢山の出店が並んでいた。焼きそば屋、かき氷屋、たこ焼き屋、イカ焼き屋。パッと見ただけでも色んな出店がある。
「……」
「え? なにその意外だったみたいな顔」
もしかして、おかしいのは僕らだったのか。普通の出店という可能性も一様は出ていたが、正直なところ、一番可能性の低いものだと思っていた。
「お金は全員分、私が払うから――」
「おお! お姉さんたちいたいた!」
「ん?」
声のする方向を向くと、日焼けしたワイルドな男性や、お好み焼きをひっくり返すやつを持ったリアル女おばちゃんが立っていた。ちなみに、この名称は、関西はコテで広島はヘラというらしい。
そのほかにも数人いる大人たち。なんだ? 何事だ?
「俺たちの海を守ってくれてありがとう!!」
「クジラが来た時は、一時はどうなるかと思ったけど、この海は守られた! あなたたちのおかげよ!」
一同は互いに顔を見合わせる。
シロナガスクジラを撃退したからお礼を言いに来たというわけか。
「それでお姉さんたち、昼食はもう済ませたかい?」
「今から食べるところです」
「おお! ならちょうどよかった! ここにいるのは九人だね。君たち全員分、食事はタダ! サービスしちゃうよ!」
「「ええっ……!?」」
サービスだと!? 大人たちの顔は全員笑顔。気前が良すぎるだろ……!
「い、いや、そんな、悪いですよ」
「いいっていいって! 海を守ってくれた九人の英雄になにもなしってんじゃ、俺たちの顔が立たねえ! ドーンと好きなだけ買って食べちゃってくれい!」
「「ありがとうございますっ!!」
一同は目を輝かせ、心を込めてお礼を言う。
マジか!? いいのか!? タダなのか!? どれだけ食べても!?
まあ、海を守ったのは主に四人だがな。
上条なんかビーチチェアに座ってシロナガスクジラ眺めてたし。
とはいえ、僕の胸の高鳴りは止まらなかった。それはここにいる九人全員が同じ気持ちだった。
「みんな! ここは皆さんの気持ちに大いに甘えて好きなもの貰ってきなさい!」
「「おー!」」
こうして隆たちはそれぞれ食べたいものを取りに散っていった。
「ほら。あんたなにが欲しいの。好きなものとってきてあげるから」
一人パラソルの下、撃沈している加賀に声をかける。加賀は鼻血を出しすぎて貧血で立ち上がることもできない。輸血もまだ途中とはいえ、食べなければこの後動くこともできない。
「ううっ……ありがと、可憐〜。じゃ〜あ〜、唐揚げとフランクフルトとお好み焼きとイカ焼きとカレーライスと冷やしうどん……あ、あと締めのかき氷もお願い〜」
「はいはい。どれだけ食べるのよ、あんた。とりあえずはしばらく休んでなさい。困ったことがあったら手伝ってあげるから」
そう言って可憐と赤城はその場を後にした。
「可憐って優しいですよね」
「へ!? あ、そ、そう!?」
「もしタダで貰えなかったら全員分払う気だったんでしょう」
「ま、まあ……! 年長だし……!? と、当然よ、当然……!!」
照れ臭そうに言う可憐。
実際、可憐は自分を含めた九人分全員を払うつもりでいた。
可憐の給料自体、政府から困るほど貰ってはいるから可憐にとってはたいしたことではない。
でも、まだ出会ったばかりの人たちもいる。そんな人たちにも払うのは、きっと可憐が優しいから。
そう赤城は考えていた。
そんな可憐を横目で見ながら赤城は答えた。
「私、可憐のそういうところ大好きです」
「か、からかわないでちょうだい……! も、もう……!」
「ふふっ」
顔を赤らめる可憐と小さく微笑む赤城であった。




