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それぞれの楽しみ方なんだが?

 海の中にいるシャルロット。手で目から溢れてくる涙を拭っていた。そこへ、後ろで手を組んで話しかける一人の人物。美沙だ。


「シャ〜ルロットちゃん! どうしたの? なんかあった?」


「へえ? あ! 美沙さん。いえ、大したことではないです。ただ、」


「ただ?」


 そこで一つ間を置く。おそらく、シャルロットにとってはそれだけのことだったのだろう。


「嬉しかったんです……一瞬でもわかってくれた気がして……」


「?」


 それはとても一瞬の出来事。隆がシャルロットと出会ってから約三ヶ月半。隆自身、シャルロットのことは嫌ってはいない。しかし、未だに本物のシャルロットだと気が付かず、未だにシャルロットのことは「もどき」。そう呼んでいる。


 もどきとは、似せて作ったものという意味。隆にとってのシャルロットはロジカルファンタジーの中に存在するたった一人の人物としか思っていない。シャルロットはこの世界に来る直前まで、ずっと相思相愛である隆と一緒に夫婦のような日常生活を送り、副業のサポートをできたらいいと思っていた。


 しかし、隆とシャルロットには壁がある。隆はシャルロットをシャルロットとして見ず、また別の「もどき」として見ている。それが、シャルロットにとってどれだけ辛いことか。この約三ヶ月半、どれだけの思いで過ごしていたのか。


 それでも家族として。ピンチの時には駆けつけてきてくれたり。優しく抱きしめてくれたり。決して隆はシャルロットを見捨ててなんていなかった。

 いつかは気づいてくれると信じて……



 そして、その信念がついに報われた。




「似合ってるよ、すごい可愛い」




 隆のあの発言。あれはたしかに本物のシャルロットに言った。そうでなければ、あんな発言はこの世の人間の誰一人に対して言わない。それを言ってもらえたのは、一瞬でも隆がシャルロットのことを認めた証拠だった。


 言わずともわかるが、シャルロットのこの涙は嬉し涙。喜びが元素の流れる涙は、一雫、海へと流れ落ちるのだった。


「さあ美沙さん、思いっきり遊びましょう! えいっ!」


 シャルロットは両手で水を(すく)い上げ、砂浜の上にいる美沙にかける。


「おっ! やったなあ〜! えいえいっ!!」


 水をかけられた美沙は小走りで海の方へ。美沙も両手で水を掬い、シャルロットにぶつけた。

 シャルロットがこの世界で出会ったのは隆や家族だけではない。友達という大切な存在。その中でも美沙とはとても仲がいい。同じ女子同士で、家が近所ということもあって話しやすい相手であった。

 美沙は昔、かなり口が悪かったが、隆のおかげで良くなった。シャルロットも隆がいなければ生まれなかった存在。二人が今こうして仲良くできているのは、隆がいるからこそなのだ。




 一方その頃、天空城と昇龍。この二人の近くには丸く大きなスイカが二つ。スイカ割りのようにも見えるが、スイカ割りに必要な木の棒がない。

 本来のスイカ割りというのは、目隠しをして木の棒を持ち、他の人が方向を指示して狙いを定めてスイカを割るというもの。

 木の棒がないということは、スイカ割りではない?


 一つのスイカが天空城の手によって運ばれ、砂の上にぽつんと置かれる。


「よし、この辺でいいだろう」


 置く場所を少し悩んでいたが、ようやく決まり、一息。スイカ割りは木の棒を振るため、周りに人がいないかどうかを確認して、遠く近くない的確な位置に置かなければいけない。

 とはいえ、木の棒がないならそんな悩む必要もないのでは?


「昇龍さん。準備はいいか?」


「ああ、バッチリだぜ」


 昇龍はバンダナのようなもので後ろに手を回し、目隠しをした。木の棒がなくても、目隠しはする。そうでなくては、もはやスイカ割りとは何なのかと哲学レベルで考えてしまう。


「では、始めるぞ」


 天空城の声で静かに歩き出す昇龍。しばらく歩き出すと、そこで止まった。そこで天空城の出番。


「まだ進めるぞ。あと二歩。いや、三歩といったところか」


 指示を出すのが天空城の役目。それに従い、昇龍をスイカの方へと誘導していく。じっくり……じっくり……


「右。ああ、行き過ぎだ。もう少し左。そこだ」


 そこで昇龍は止まる。何度も言うが、スイカ割りには木の棒が必要。それがないのならば、何でスイカを割るかなんて明白だろう。

 昇龍は拳を固め、右手をスイカ目掛けて突き落とした。


「ふんっ……!!」


 スイカの汁や種があたりを飛び散る。スイカは見事に四等分に分かれた。大きさは一つだけ大きいが、拳でスイカを割るのはさすがと言える。


「おお。やるではないか」


 天空城は感心し、驚いた様子で昇龍を見た。

 そう、彼女たちのやっているのはスイカ割り。己の肉体でスイカを割る、本格スイカ割り。

 二人は競い合っていた。どちらが多く、スイカを分けることができるか。先行は昇龍。分けた数は四つ。

 まずもって、スイカを拳で割ること自体すごい気がするが、その先にある数で競い合っているのはもはや、次元が違うと言える。


「まあな。じゃあ次は合気道七段の持ち主、天空城様の破壊っぷりを解くと見ようじゃねえか!」


「破壊っぷりとはなんだ。なんか、可愛くない。几帳面に割ると言ってくれ」


「スイカ割りに可愛いも何もないだろ」


 そい言いながら、後ろに手を回し、ハチマキで目を隠す天空城。この場にいるのは二人だけだが、スイカ割りにも可愛さを求める天空城であった。

 後ろで巻き終わり、目を隠しながら昇龍の顔の方を向いた。


「指示はなしでいい。人間がどこにいるかは気配で大体わかる。スイカも同じだ。いくぞ」


 一歩二歩三歩。スイカとの距離を縮め、歩き出す。一矢乱れず、ただスイカに一直線。まるで、第三の目がついているかのように、止まることなく進む。


「いや、いくらあんたでもスイカの気配なんて……」


 天空城は記憶が特別いいわけではない。


「なんて……」


 だから、暗記をしたなんてことはない。


「なん……て……」


 ただそこに、スイカがいるのが気配でわかるだけ。

 そしてなんの迷いもなく、その場で止まった。


「はあっ!!」


 拳を固め、ものすごい速度で突き落とす。その拳はスイカの中心部に直撃。スイカには中心部から下まで八つのヒビが入り、ミシミシとどんどん大きくなる。


「いっ……!?」


 さらには地面の砂からもミシミシという音とヒビ。それがどんどんと大きくなり、スイカに隠れていた八つのヒビが生えてくる。そのヒビはまだ広がる。

 あまりのことに昇龍は固まっていた。昇龍と天空城は学校では正反対の存在。ギャルと風紀委員。学校で関わることもあまりなかったが、噂には聞いていた。武道が非常に優れており、合気道七段を持っていると。

 そして今日のバスでは席が隣同士。今日話したばかりだが、すぐに打ち解けることができた。

 話している限りではしっかりとした女子高生。合気道を習っていても、ただそれだけの普通の子だと思っていた。

 だが、この瞬間わかった。


(こいつ……! 強い……!!)


 パカ!ドン! 二つの音がほぼ同時に鳴る。一つはスイカが八等分、ほぼ均等に割れた音。そしてもう一つは、八個のヒビが約二メートルのところでようやく止まり、周囲に響いた謎の音。


「ふう……」


「あ……あ……あ……」


 右腕で汗を拭い、一息。

 何度も言うが、これはスイカ割り。


「この勝負、私の勝ちだな!」


 目隠しを取り、笑顔で振り向いた。


 昇龍が分けたのは四個。天空城が分けたのは八個。綺麗に分けられたということでプラス加点。



 よって、天空城空の勝利!

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