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旅館に着いたんだが?

「もうすぐ着くわよ」


 一同は窓から見える景色を見る。水面のような青い空。白い雲。そこから靡かれる、一筋の飛行機雲。そして、その下にあるのは広大な海!


「おおお〜!!」


「すげえ!!」


 あれがビーチというやつか! 海に行くのは何気に初めてだ。水着自体、去年のものは持っていたが海で使っていたわけではなく、学校で使っていたもの。

 というか、そもそも履けないし。


「今から旅館に荷物を置きに行くから泳ぐのはもう少しあとね」


 まずは旅館に行き、荷物を置いてから遊びに行くというのが可憐たちの考えたプランだった。

 旅館沢村屋。海の近くに建てられており、砂浜と道路を仕切る堤防の近くにあることから、泊まりと泳ぎが両方できるため、評判もいい。評判の良さはそれだけではなく、新鮮な海の幸を使った食事に、肌が若返ると言われている温泉などなど、旅館自体の評判もよく、この旅館のために遠方から来る人も多いとか。



 しばらくして一向は旅館沢村屋に着く。

 西側はビーチ。北側は木々が生い茂る森。何か足りないものなどがあれば、道路の先にある毎度お馴染み、ブラザーマートがある。ここからなら横断歩道を渡るだけで距離は一分もかからないだろう。


「女性陣は私がお荷物全てお持ちしま〜す」


「え!? いいんですか!?」


「お姉さんに任せなさいってば!」


 加賀はそう言いながら女性陣の荷物を全て手で受ける。一人一人の荷物が重い中、それを七人分。両手に荷物が積み上がる。何故か崩れず、それでもまだ余裕そうに見える。


「あ、男どもは自分で持ってってね。この百合の鞄たちに男は混ざれないから」


「ええ……」


 なぜかわからないが、加賀の口調は少し強め。隆と上条は重い荷物を持ち、渋々外へ出た。加賀は百合属性。しかし、そこは介入する男を断じて許さないのが加賀。それは、鞄も同じようだ。

 上条は大丈夫だが、少し息を切らしていたのは隆だった。そもそも隆の荷物は最初、シャルロットが運んでいた。準備の時も隆の荷物を玄関の前に置いたのはシャルロット。そのため、今初めて荷物を持つため、引きこもりには限界があった。


 小さな川の上に建てられた橋をしばらく進むと、入り口が見える。可憐は来客用のインターフォンを押した。


「はいはい」


 ガラガラガラ。中から姿を表したのは八十代くらいの灰色の髪色をした老婆。エプロンを着ており、髪は大きな団子で結ばれていてる。


「ようこそお越しいただきました、旅館沢村屋の女将です。ここじゃああれなので、一旦くつろげる場所にご案内させていただきますね。おっほっほっほっほ」


 老婆の愉快な笑い混じりの案内になり、九人は中は入る。中からは木々の香りが漂い、どこか歴史を感じさせる空間。絨毯の踏み心地も良く、おしゃれな雰囲気が漂っていた。

 九人と老婆は席に着くと、老婆が全体を見て話しかける。


「えー、確認ですが、九名様でお待ちの東條様でお間違いありませんか?」


 東條様?


「おい、可憐。なんで僕名義なんだよ」


「え? 私、予約なんてしてないけど。公式ホームページにチケットがあれば予約等の電話メールは不要って書いてあったし」


 可憐たちは今日、いろんなプランを考えてきていた。しかし、意外にもここ旅館沢村屋とは一切の連絡を取っていない。可憐ともあろうしっかり者が連絡を取らなかったのは、先程可憐が述べたとおり、連絡は不要とホームページに記載してあったから。

 もちろん、可憐以外の八人の誰かが連絡したということもない。


「僕は名義を名乗った覚えはない。もどきは?」


「私も違います」


 何より、おかみは予約した人物の代表を「東條」と言った。東條と名前がつくのはこの中では隆とシャルロット。それ以外の人物が「東條」の名義を使ったとしても、それは明らかに不自然。


「なあ、あんた。誰が東條って名乗っていた?」


「五十代くらいの男性でしたね。えっと……声は低くて、しっかりとしたおじ様でしたよ、ええ」


「まさか……」


 上条はその瞬間察し、眉を(ひそ)める。これは投資業界トップ二、龕您。そもそも、このチケット九枚を渡したのは彼らだ。そこで、上条を除いた一番関わりの深い隆の苗字を使ったのだろう。


「えー……部屋は二部屋とのことですが、振り分けはどのようにさせていただきましょう? お食事を運ぶ際などで運ぶ数が変わってきてしまいますので」


「二部屋? じゃあ、僕と上条。あとはお前らでいいだろ。なあ、上条」


「うん、そうしてくれると助かるよ。いやあ〜、レディがいるとなかなか話すことができない(しも)いネタトークが山積みでね」


 何を言い出すかと思えば、僕の名誉を一気に崩す上条。下ネタ好きなのはお前だけだろ。でもこれはこいつのカモフラージュ。言う必要があるかどうかは置いておいて。


「ったく、ほんと男ってそういう話題好きだよな」


「風紀委員としては見過ごすわけにはいかん。不潔だぞ、君たち」


「まあ、私たちに害が出なければ下ネタでもなんでもするといいわ」


「なんでもだって!! 聞いた、隆!! なんでもだよ!! 何する!? 何する!? ナニ――」


「うるせえ、上条。――ん?」


 顔面を近づけてくる上条を右手の手のひらで押さえつけていると、襖の扉が開き、一人のリアル女が現れる。年齢は二十代前半くらい。黒髪の長髪に黄色の浴衣姿。見た感じ、ここの従業員っぽいが。


「九名でご予約の東條様ですね。私はこの旅館の従業員、新月です。それでは、ご案内させていただきます」


 丁寧な口調で語る、新月という人物。見た感じ、愛想がよく、いい人そうだが、こういう人ほど何か裏があると聞く。まあ、そんなことはどうでもいいか。僕らは従業員の後ろに並んだ。


「では皆様方をお願いしますね、新月さん。それと、色々と手続きとかもございますので、どなたか一名残っていただけると」


「それなら私が残るわ。加賀、みんなの荷物お願いね」


「へいへーい」


 土間に可憐と女将が残る。可憐はこの中では最年長かつ、管理局では局長という立場にいるから、任せて大丈夫だろう。

 そのまま僕らは土間を出て、しばらく進んだ先の部屋に上条と入り、荷物を置いた。残りのメンバーはもう一つの部屋に荷物を置いた。

 可憐の手続きもすぐに終わったようで、旅館を出てワゴンカーに乗り、来た道を戻り、海へと移動した。九枚分のチケットは全て可憐が預かっていたため、その場で女将に渡したそうだ。

 ワゴンカーの中はとても賑やか。楽しげな雰囲気。ここにいるほとんどは、大人数でどこか行くという経験がないため、テンションが上がっていた。

 僕もその一人。


 今日という日を盛大に楽しもう……!!




 ――今回、邪魔はたしかに入ることはない


 だから隆たちも安心して夏休みを満喫できることだろう


 その邪魔とは投資業界の誰かしらが隆たちの目の前に現れ、介入することを指している



 もう一度言おう


 邪魔が入ることはない


 それがどういう意味か、わかるだろうか




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