夏が始まるんだが?
出発して数分。車内は話題に困ることなく、それなりに盛り上がっている。
「可憐さん、運転免許も持っているなんて……本当になんでもできるんですね」
「運転免許がなくちゃ、任務の時車も出せないからね。なんでもできるかはわからないけど、なんでもできるように努力をしているつもりよ」
天空城の質問で笑顔になる可憐。可憐自身、運転手で助手席にも誰もいない。何より、この中では一番の最年長なため、一人にならないかとか心配していたが、そんな中、二つ後ろの席に座っている天空城が話しかけてくれた。
天空城だけではない。他の人たちも皆、話しかけてくれている。それが普通ではあっても、可憐には嬉しく思えた。こうして見れば、どこかのサークル仲間のようにも見えて実に微笑ましい。
「ちょっと見てよ、妃〜。前ね、赤城と一緒にコスプレしたんだけど、この幼稚園服超イカすんだよね!!」
赤城と加賀の後ろの席に座っているのが昇龍。加賀は後ろを振り向き、スマホを取り出して赤城が幼稚園服を着ている姿を見せる。服の真ん中には「赤城」という文字。あの時加賀はカメラで撮っていたが、そのデータを全てプライベート用のスマホに写していた。
「おおお〜!! めっちゃ可愛いじゃんっ……!!」
「あああ……! ちょっと、加賀……! か、勝手に見せないでください……! は、恥ずかしい……です……」
加賀のスマホの前で目をくの字にしながら手をジタバタさせて隠そうとしている。手が短いため、隠しきれておらず少し届いていない。
「加賀ちゃん、RISEで送っといて!! 撮ったやつ全部!! あ、あーしのRISEこれね!!」
「ほいさ! とりあえず、最大限の二十枚送信してっと……それを二回三回繰り返すから……」
「加賀……!! もう怒りました! 加賀と一緒に撮ったやつをめちゃくちゃ可愛く加工して私も妃さんに送っちゃいます!!」
「え? 加賀ちゃんもコスプレしたの!? 赤城ちゃん、よろしく!!」
親指を立ててグッドポーズを赤城に向ける。赤城もそれに答え、同じポーズ。
「了解です!」
「や、やめるにえ、赤城……!! そんな残酷なことは……!! それは送らないつもりだったのに〜!!」
赤城が全部写ってるやつを送るつもりではあったが、自分の写ってるやつは送らないようにしていた。なんせ、最先端の流行ファッションとかに詳しい加賀ではあるが、コスプレはあまりしないため、加賀もまた見られるのが少し恥ずかしかった。それを赤城はポンポンと送り、ピコピコとスマホから音が鳴る。
赤城も思い出としてスマホに写真のデータを全て移していたのだ。
そして隆たち三人はこれからのことについて話していた。
「次向かうところは学校だよな」
「そうみたいだけど、本当に上条くんってそこにいるの?」
前回上条は学校が家と言い、迎いに来る際、学校に来てほしいと言っていた。もちろん、本当に家ならば話はわかるが、まず学校が家という意味がわからない。言葉通りなら学校を拠点に生活をしているということになるが……
「それも家が学校って……あ、もしかして……」
「ん? どうした?」
「ああ、いえ、何にも……!」
もどきは取り乱した様子で手を大きく振る。何かに気づいたのか? 今ここで話さないのは投資業界のやつらが絡んでいるからか。隣には美沙もいるし、他の人たちもいる。あいつに関してはまだ謎なことが多い。今日、聞き出せることは全て聞き出す。
それを言ったらもどきもそうだがな。
そんなこんなで芳月学園正門前に到着。
でもおかしい。七不思議怪異が現れた際、学校に大きな損傷が出たはず。例えば、僕が一階から屋上までぶち抜いた女子トイレの天井。あれも見たところ、穴は開いておらず、それどころかあの時の傷一つついていない。
七不思議怪異の一件からまだ三日しか経っていないのに。
まあともかく、夏休みでお盆も近いため、部活も今は休み。教員たちも必要最低限の人数しか来ないだろう。だから門が閉まっているのは当たり前ではあるが、ここに夏休みの間住んでるのかよ、上条。上条は壁にもたれかかっていた。
服装は今時の男子高校生のようなイケてる服。色は白と黒を合わせ、ジャケットを着て夏らしく涼しげなキレイめファッション。手には重そうな鞄をぶら下げている。
ワゴンカーの扉が開き、上条が入ってくる。
「おはよう、みんな。可憐さん、わざわざ学校までありがとう」
一同を見渡し、挨拶をしたあと、運転席にいる可憐の方を向いて軽く一礼。
「どういたしまして。適当に空いてる席座ってちょうだい」
「はーい。って、あと一席というね。じゃあ、失礼させてもらって……ふう〜」
上条は僕の隣に座り、座った途端、大きく息を吐いていきなりリラックス。一日中働いて帰ってきたサラリーマン並みにずっしりと深く腰掛ける。
とはいえ、この暑さ。今は八月。こいつがこうなるのも無理はない。
「さて、色々聞きたいことは山積みだろうけど、それは追々ってことで」
「だな。あとはあいつらが来ないことを祈るばかりだ」
あいつら。投資業界トップの連中。それも六人もいれば、誰か一人は来てもおかしくはない。そのうち、実力を見たのは五人。七不思議怪異の時に現れた極兒という男の一瞬にして作られた落とし穴。
あの落とし穴は上条ですら対応するまもなく、一瞬にして開き、誰一人抵抗できず落ちていった。
もしあれも極兒の能力の一つだとしたら、厄介な相手になりそうだ。
そして五人全員が化け物みたいな強さ。
いや、あと二人不明な奴がいる。龕您、篆。篆というやつは会ったことすらない。おそらくだが、リーダーは投資業界トップ一ということもあり、篆だろう。
それだけではない。龕您という男は何かと肝心な場面で出てくる。火災事件のとき。僕に上条を探し出すための副業を与えたとき。上条をナイフで刺したとき。
もしかすると、リーダーは篆だとしても、六人の中の司令塔は龕您なのかもしれない。
「それなんだけど、数時間前奴らの拠点地、リインタワーに侵入した」
数時間前、上条は次元を跨ぎ、インベストのリインタワーに侵入。リインタワーはかなり高く建設されており、その中をたった数時間で隈なく調べていた。
「侵入!? そんなことして大丈夫なのか!?」
「まあね。最近の奴らの行動とかもそうだし、何か仕掛けられる可能性があるだろうからその前から手段をとったおこうと思って。今、あそこには斬賀しかいなかった。篆や龕您がいないから襲撃されることはないだろうけど、あの二人がいないなんて何事なんだ」
要するには奴らの要である篆と龕您がいないということは指揮を出せる人物が不在ということとなり、攻撃されることはないということ。
しかし、上条の言い方からしてそのどちらも不在ということがよほどレアケースとみえる。あっちの世界で何かあったのか?
「さっきからお兄ちゃんたちはなんの話ししてるの?」
僕らの列の一番右側にいる美沙が顔を覗き込み、声をかける。もどきならまだしも、相手は美沙。下手なことを言って副業のこととかを口を滑らせて言ったらたり返のつかないことになりかねない。
「昼ご飯何食べようかって話をしていたんだ」
「ああ、昼ご飯。そういえば何食べるんだろう」
適当に嘘をついて誤魔化した。話題転換にもちょうどいい。上条の顔も納得してくれているように見える。夜ご飯は旅館の絶品料理とは聞いているが、昼ご飯のことは可憐たちからは何も聞かされていない。まさか、ダイビングをしてそこで取った魚介類食べようとか言わないだろうな。
「泳ぐわよ! って言っていた可憐さんのことですし、ダイビングでもしようとかも言い出しそうですね」
「あ、それはあるかも」
僕だけではなく、もどきも同じことを考えていた。美沙も納得してるし。たしかに、少しアクティブなところがあるよな、あの人。考えようによっては言わないのがおかしいくらいに。
え? いや、マジなの? 溺れるぞ、僕。
「どうします? 聞いてみますか?」
「いや、ここはあえて聞かず、その時までのお楽しみにしよう! もしかすると、サメ討伐アンドサメ解体ショーとか見せてくれるかもしれないし」
「サ、サメえっ……!?」
「アホ抜かせ。サメなんかいるわけないだろ」
とは言いつつも、サメを倒せそうな実力はあるだろう。何を言ってもあり得そうなことのように聞こえる。そこから僕らは仮説を立てては「それはあり得る」を繰り返していた。
こうして、隆たち一向は目的地へと向かっていった!
いよいよ、夏が始まる……!
なんと今回は邪魔するものはいない!
高校二年生たちと管理局の少女たちとの最高の夏の思い出の一ページが今、捲られるのであった……!!




