友達なんだが?
一同が隆を待つ中、隆はなぜかリビングで正座していた。いや、させられていた。
渋い顔をしてソファに座る母を見る。
「母さんね、あんたに女の子と関わるなって言ってるんじゃないのよ。でもね、セフレはどうかと思うのよ!? セフレは!? それも三人!! せめて一人にしなさいよ!!」
全くのとばっちり。ていうか、一人ならいいのかよ。
ともあれ、外でみんなが待っている。ここは早く、母さんをうまく撒かねば……!
そう思い、隆は会話デッキから言葉を選び、対抗することにした。
「あの……母さん? 別に可憐たちはただの友達なんですけど……」
「ん? 今、可憐って……」
その瞬間、今まで何故か黙っていた父、武が過敏に反応する。実際、隆が可憐のことを名前で呼んでいるのには深い意味はない。なぜか可憐に呼べと言われ、仕方なく呼んでいた。
結局それは数日で慣れてしまい、今では普通に呼んでしまっている。
「し、しまった……! ああ、いや、これは、その、なんというか、別にそういう意味では……」
「まさか、隆……可憐という子はやっぱり彼女じゃき!? 名前呼びは美沙ちゃんだけだったんじゃねえんけえ!? うおおおおおおお!! これでは茂さんに合わせる顔があああああああ!!」
武は頭を両手で押さえてアホみたいに雄叫びを挙げた。
「うるせえ、クソ親父!! なんでそこでシゲ爺の名前が出てくるんだよ! ていうか、いつになったらこれ終わるんだよ!!」
あれからかれこれ数十分は経過している。そろそろ膝も痛い。僕だけならまだしも、あいつらも待っている。いい加減、このバカ親どもをなんとかしたい。
すると、お互いに二人は口を開くと同時に顔を見合わせる。
「いやでも、私はセフレに賭けてるわ。隆も欲求不満だったのよ」
「いや、わしは彼女三人に賭けとる。隆も若いからそういうスリルも味わいたいんじゃろうなあ〜」
「まだ続ける気かよ! ていうか、何をあんたらは賭けてるんだよ! もう行かせろ!!」
隆の知らない間で二人に何か賭け事が動いていた。セフレか。彼女か。そのどちらかに傾いたら、どちらかの勝利となる。とはいえ、どちらとも違うんだが。
「いや、行かせるわけにはいかないわ! この後、ラブホテルにでも行く気なんでしょ!」
「旅館っつっただろうが!!」
母さんは立ち上がり、拳を震わせて言う。恥ずかしい。朝からこんなことを旦那と息子の前で言うなんて、うちの母さんやっぱなんかおかしい。
「彼女三人といちゃつきたければ、父さんを倒してから行けえええええい!!」
あ、旦那も旦那だったわ。
父さんもなぜか立ち上がり、気合を込めて八の字でなんかチャージしてる。アホ丸出しだった。
「どこのRPGだよ!? もう話の趣旨変わってるぞ、それ!?」
こんなことを言っていてもキリがない。
そもそもなぜこうなったのか考えるんだ。このバカ二人がこの性格とはいえ、何かきっかけとなることがあったはず。
それも踏まえ、隆は一つの可能性を見出してそれを二人にぶつけることにした。
「あのさ、本当に友達なんだって。あの三人も友達って言ってなかった?」
「ええ、言ってたわよ」
「言ってたのかよ!!」
母さんはあっさりと真顔で答えた。父さんの顔を見ても「うんうん」と頷いている。じゃあなんだ? 何が腑に落ちないんだ、この人たちは。
「でも、なんかあの三人反応がおかしかったんだよね。だから友達じゃないのかなーって思ったってわけ!」
「なんか、友達という単語に躊躇いがあったというか……」
「あ、ああ……」
これでやっと理解した。大方、母さんと父さんの思考がおかしいのが悪いが、あの三人が素直に友達と言わなかったんだな。
たしかに、学校が同じとか普段からよく喋るという仲とかならわかるけど、三日前にやっとちゃんと喋れただけの関係。それまで敵対もしていたからそうなるのも無理はない。
でも、それは昔の話。
関係なんてこれから作ればいいだろう。
「よし、わかった。じゃあ行くわ」
そう言って僕はリビングの扉へと向かった。
「ちょ、ちょっと待たんかい、隆!」
「結局、答えはどっちなの!? 彼女なの!? セフレなの!?」
そう言った後、僕は振り向いてただ笑顔で一言答えた。
「友達だよ」
その瞬間、母さんと父さんは口を閉ざした。
唖然としているのか、納得したのかはわからない。そもそも、この人たちのこのやり取りすら茶番の可能性だってある。だって普通、こんな親いないだろ。
そのまま僕は扉に手をかけ、外へと足を踏み出した。
「ねえ……もしかしてさ……」
「も、もしかして……」
「「あの三人って、ただの友達だったの……」」
玄関から隆が出てきて、よぼよぼの状態でワゴンカーに乗る。のっしりのっしり。正気を吸い取られたような顔、肩を落とし、ゆっくりと入る。
その姿を女性陣たちはまじまじと見ていた。ワゴンカーの入り口で立ち止まり、大きくため息をつく。
一番近くにいた加賀が顔をひょっこり出す。
「どったの?」
「あの二人が僕の親だと認識して最も後悔した日になった……」
行く前から疲れ切っていた。なんのことか分からず、困惑する一同。昔からの馴染みである美沙や、家族であるシャルロットですらわかっていない。
そんな隆を励まそうと可憐が声をかける。片目を閉じ、運転席から横目で見る。
「何があったか知らないけど、元気出しなさい。今から楽しむんでしょ」
「それもそうだな。それとお前ら三人。まあ、なんていうかだな……前までは色々あったが、これからはその……友達としてよろしく……な……?」
少し照れ臭そうに管理局組に言う隆。それを聞き、赤城と加賀は優しく微笑み、小さく「うん」と言った。二人の顔つきを見て隆も笑顔になり、一安心。これで三人とは正式な友達。おそらくだが、もう歪みあうこともなくなるだろう。
(過去はどうあれ、これから友情を紡いでいけばいいのさ――)
「し、し、し、しいいかああたあなああいわねえ!! そ、そんなに私たちと友達になりたいならなってあげてもダメなこともないわよおお!!」
「なんだよ、それ!? 今のは黙って頷くところだろうが!!」
可憐は正面の誰もいない方向を向きながら答えた。今のは赤城たちのように黙って頷くのが正解。しかし、素直になれない可憐は何故か上からになってしまった。
「なああんで私が頷かないといけないのよ!? べ、べええつに、友達になりたいなんて私は!? その!? 思ってないしい!?」
「ああ、そうかよ! せっかく仲良くなれたと思ったのに……」
そう言いつつも、若干拗ね気味の隆。でも、本当は可憐はものすごく嬉しかった。顔はゆでだこのように真っ赤に赤面し、顔を俯かせている。
しかし、隆はそれに気づいていない。可憐は運転席に座っているということもあり、顔が誰からも見えない位置にいる。
とはいえ、このわかりやすすぎる反応で隆以外の全員は内心喜んでいるということに気がついているが、鈍感な隆にはただの愛想の悪い奴だとしか思わないだろう。
そこへ、素でショックを受けている隆に助け舟を出す加賀!!
「隆隆!!」
「ん? どうした?」
手招きをして隆の耳元で囁いた。と言ってもその場の全員に筒抜けのボリューム。
「本当は可憐、めっちゃ喜んでるにえ!」
「え? そうなのか?」
「うん! あの人、素直じゃないだけで内心隆ともっと仲良――」
「加賀あああああああ!! あんた、余計なこと言ったらぶっ飛ばすわよ!!」
加賀は最後まで言い切ったが、可憐の爆音のような声でかき消された。隆は加賀が何を言おうとしたか分からずじまいで頭にクエスチョンマークが浮いていた。
「へいへい。ほんっとうちの局長怖いわ〜。ねえ、赤城!」
「そこで何故私に振る」
横を向いて赤城に愚痴をこぼす。赤城はジト目かつ横目で加賀を見て「全く、この子は……」と心で呟いた。赤城に振ったことだけではない。可憐の対応を良くも悪くもサポートしたから感心している部分もある。
(喜んでる? あれのどこが喜んでるんだよ)
それでも隆は気づかない。むしろ、加賀がまたふざけたと思い、更に自分の鈍感な判断に確信めいていた。
「それで局長さ〜ん。いつ出発するんだ〜?」
「へ!? は!! そ、そうね! も、もう出発しようかしら!? ほら。空いてる席にどこでもいいから座って」
昇龍に唐突に声をかけられ、我に帰る可憐。頭に血が上っていたため、我どころか時間すら忘れていた。
「空いてる席?」
周りを見渡す。
空いている席は三つある。可憐の横の助手席、一番後ろのもどきの横とその更に横。
まあ、消去法的にもここはもどきの横だろう。もどきの横の更に横も空席。とはいえ、そこに座ると距離を置かれてるみたいに変に思われるから、そこでいいだろう。
「お兄ちゃんここー!」
美沙も手をブンブン振って呼んでいる。もどきも笑顔。歓迎ムードで少し安心。僕は一番後ろの席まで行ってもどきの横に座った。
加賀はその隙に立ち上がり、後ろから少し小声で可憐に声をかける。
「横空いてるんだから言えばいいのに。隆く〜ん、私の横に来て〜! ぶへえっ……!!」
可憐の口調で本人が絶対に言わなそうなことを言う加賀。可憐は後ろを振り向かず、加賀の空いている口の中へ正確に菓子パンを押し込む。菓子パンは半分口から出ており、半分袋に被さっている。いつのまに可憐の手元にあったのか。さすがは人類最強。
ちなみに、中身は非常用の時にも食べられるように可憐たちが持ってきたメロンパン。
加賀は白目を剥いてそのまま自分の席に倒れ込み、敗北の味を知りつつ、メロンパンを味わって食べた。
それから誰もいない助手席をまじまじと見つめる可憐。
ひっそりと助手席の下に置いてあった荷物を上に置いたのであった。




