インターホンが鳴るんだが?
江南家
美沙もまた、着る服に悩んでいた。前回のデートの時は少し長めのスカートで行ったが、もう八月。夏真っ盛り。何より、旅館の前には海もある。
そうなれば身軽な服が望ましい。
「んー……これ子供っぽいかなー……」
緑色と白色のボーダーのTシャツに、青色のショートパンツ。柄はジーパン模様で下のあたりにダメージが入っているため、大人っぽさとしては加点はされるが、美沙自身が着るとどうにも子供っぽく見えていた。
しばらく考える。
「おじいちゃーん。これどーおー?」
大きな声をあげて部屋を出ていき、祖父のいる客間へと走って行った。
昇龍家
「普段のあーしなら、今時ファッションでいくけど、東條もいるしな〜……」
昇龍もまた、考えていた。昇龍の持っている服は今時ファッションを中心に色々と揃っている。昇龍も赤城ほどではないが、少しはコスプレをかじっているのでそういった服も揃っている。
昇龍自身、学校の女子とはよく出かけるものの、男子とは出かけることなどない。だから何を着ていけばいいのかわからなかった。
「あ、そうだ!」
そこで、あることを思いつく。
「お前ら! 誰でもいい! 二人ぐらいこい!」
昇龍が部屋から廊下に顔を出し、叫んだ。その先に顔を引っ込め、戸を閉めてから適当な服に着替える。すると、黒ずくめの男が数人部屋の前に来る。数人は小さな声で話し合い、その中から二人を残して戻っていった。
「お嬢! どうなされました!?」
「男ってぶっちゃけどういう服着てきたら喜ぶわけ?」
二人の黒ずくめは顔を見合わせる。すると、片方の黒ずくめが前を向いた。
「そうっすね、俺はやっぱお姫様みたいな服っすかね。スカートが丈まであって……」
「馬鹿野郎!! 今時、コスプレ制服だろ!! ミニスカはオプション付きの王道で!!」
よくわからないが、もう片方の黒ずくめは右手をピンと上げる。
「お前は何も分かっていない! 清楚こそ、男のロマン! お嬢様コーデこそ、そそり立つ、俺のハートフル!」
「清楚より、若さだ! 清楚は歳を重ねても発揮できるが、若さイコールフレッシュさはその時しか発揮できない! その若さを生かせるのがコスプレ制服だ!」
部屋に呼んだはいいが、昇龍そっちのけで揉め始めた。
「お前ら……童貞だろ」
「「……っ!?」」
二人は固まる。そして何故か同時に大量の涙を流し始めた。
「俺だって……俺だって彼女作ろうと思えばできるんだあああああ……! ううっ……!」
「泣くんじゃね、相ぼおおおおお!! 俺も童貞! お前も童貞! お前は一人じゃねえんだあああああああ!!」
泣きながら二人は抱き合った。その光景をアホらしいとため息をつきながら昇龍は眺めていた。
呼んだのが間違いだったのだろうか。
「もういい。帰っていいぞ」
そう言うと泣きながら支えあい、二人は帰っていった。
黒ずくめはギャングのくせにいつもどこか抜けているところがある。
それはともかく、本当に何を着ようか。
いや、ここは男子だからとか考えず、いつも女子たちと出かける時と同じ感じの格好で行くのもありか。
そう考え、一着のある服を手に取った。
天空城家
天空城の家は武道場の隣にある。そのため、家のほとんどが木材でできていた。木のタンスを開け、着る服を選ぶ。
黒色のネイビーワンピース。全身濃紺色ではあるが、スカートの長さやシンプルな服のデザインから清楚さを感じられる。
これにしようと思い、ニコッと微笑むが、壁にかかっているもう一着の服を見て顔がまた強張る。
すると、一匹の猫が庭の草の茂みから出てきて天空城の部屋に飛び込む。
「にゃー?」
その声に気がつき、天空城は猫と顔を合わせる。
「なあ。学校外とはいえ、私は風紀委員。やはりここは、制服を着るべきなのだろうか。私はこういうのよくわからないのだ」
「にゃー」
すると猫は歩き出し、天空城が床に広げて置いたネイビーワンピースの横に座ると、天空城の顔を見上げた。
「そうか。ありがとな」
こうして天空城は迷っていたネイビーワンピースを着ることとなったのであった。彼女も支度をし、家を出て迎えに来る可憐たちを待つことにした。
それから数分後。隆は支度を済ませ、階段を降りて朝食を取る。歯を磨き、準備は万端。シャルロットはというと、隆より余裕があるようで、母の洗い物の手伝いをしていた。
そんな時、隆は気がつく。とんでもないミスに……!
「あれ……そういえばスマホ……」
洗面所を出てようやく気がつく。スマホがない。歯を磨く際、洗面台の上にいつも置くはずなのに置かれていない。
ポケットは?
手探りで胸ポケットやズボンのポケットを探る。
「ない!! ないないないないない!!」
いつもの隆ならこんなことにはならない。
「浮かれすぎた……! ワクワクしすぎてスマホのこと忘れてた……! 拙者とシャルロットたんを繋ぐ、アイテムを忘れるとは……!!」
急いで洗面台の扉を開け、二階へと駆け上がろうとする。その時だった――
ピンポーンとインターホンが鳴る。来た。だが、スマホがないまま、行くわけには行かない!
「あ、可憐さん来たみたいですね! じゃあ隆さん、行きましょう!!」
「待てもどき。大変だ、スマホがない。悪いが、探すのを手伝ってはくれないだろうか」
いつになく真剣で冷静な隆。それもそのはず、ないのはあのスマホ。遊びに行くのは楽しみにしていたが、スマホはソレに匹敵するほど大切な存在。だからなくしてここを出るわけには行かない。
「スマホ!? それは大変です!! スマホがなければ副業を見ることも……!! えっと……お母様!! しばらくの間、対応をお願いできますか!?」
そう言ってシャルロットはリビングの扉を少し開け、慌てて母を呼んだ。母は何事かと思い、リビングを出る。
「待っててくれえええええ!! 愛しのシャルロットたあああああん!! 今、隆ナイトが君を救い、迎いに行くでござるよおおおおおお!!」
母は階段を見ると、奇声を上げながら階段を登る我が息子隆とそれを追いかけるシャルロット。また隆がなにかやらかしたのかと思い、頭を抱えていた。
母は扉へと向かい、歩き出す。
(確か、迎いが来るとかだったけど、その人たちかしら)
そう思い、扉に手をかける。でも迎いって? 隆は今、十七歳。免許を取れるのは十八歳だから、学校の先輩とか? でも、隆にそんな友達いたかしら。
そもそもあいつ、友達いるの? 全くそういう話聞かないけど。
いや、でも前の上条くんっていう子は友達って言ってたっけ。でもあの子も十七歳だし。じゃあ、その両親とか?
てことは、送り迎えをしてくれる大人がいるってことじゃない!? あの馬鹿! なんでそんな大事なこと黙ってんのよ!! もう……!!
お礼言っておかなくちゃ……!! こういうのって何か渡した方がいいのかしら!? 気持ち程度にーみたいな……いや、でもそういうのって迷惑って思われるのかしら……! しかも、渡すって言っても今から買いに行くことはできないし、うちにあるもので……
そうだ……! 前にデパートで買った六種のフルーツゼリー詰め合わせは!? あれならちょうどいい……!!
いや、ダメ!! あれはパート五時間分の給料で買った貴重な貴重な高級ゼリー!!
各県からの有名農家から仕入れた至極の逸品! いくら、お礼とはいえ、そんなものを渡すわけにはいかぬ……!!
ものすごい速さで長考をし、自分の中で考えを固め、扉に手をかけて扉を引いた!!
私は礼儀より、自分の至福を選ぶ……!!
「おはようございます、お母様。本日、息子さん、娘さんたちとお出かけさせていただきます、紫可憐というものです」
「……へえ……?」
固まった。口から情けない声が漏れる。てっきり、友達のお母さんだから四十代くらいを予想していた。
しかし、目の前にいるのは肩の部分がさりげなく出ているオフショルダーの服を着て、ひらひらの薄い布地でできている白色のロングスカートを履いた十代の紫色のロングヘアーの美少女。その人物の口調はとても丁寧だった。
(だ、……誰……!?)




