夏休みなんだが?
今日は七月二十三日。今日がなんの日か。社会人や老後を暮らす老人たちには縁のない人だろう。
しかし、僕ら学生には等しく縁のある特別な日。
そう、終業式。そして、夏休みへの扉を開く日! かつて人生でこれほど気持ちの昂る休み期間はあるだろうか!?
夏休み。それは、一ヶ月半という長き長期休み!
そして汗が輝き、海が僕たちを呼び、祭りが僕たちの心を躍らせる!そんな最高の期間!
いや、違う。僕がなんでこんなに喜んでいるか……そんなの明白じゃないか……
シャルロットたん! シャルロットたんが一番輝ける季節だからでござるよ!
もちろんシャルロットたんは春夏秋冬三百六十五日年中無休一時間一分一秒零コンマ地球が何回回っても可愛い存在でござるのよ! しかあし! 夏は違う! 普段、鎧という名の装具を身に纏い、肌を露出させていない秋、冬。春は中間ではあるが、完全に露出させることは世間体以前に世の断りが許さぬ禁断の領域! それが夏に入り、その領域に踏み入ることができる! 夏はいいぞ〜! ワンピースや浴衣、さらには水着までをも我が嫁であり妻であり彼女であり相棒であり分身であるシャルロットたんに着させることができる! かつてこれほどまでにシャルロットたんに合う季節があったでござるだろうか。
ふっ! ないに決まっている! 夏こそ、シャルロットたんが一番輝けられる季節! そう! シャルロットたんをこの世で一番愛しているこの僕、東條隆が言うのだから間違いないのでござあああるっ!!
ムヒヒッ!!
僕は誰もいなくなった教室で握り拳を作り、目を閉じた後に窓を全開に開ける。見回りをしている風紀委員が鍵を閉めたが、そんなのはお構いなし!息を吸って体を大きく窓から飛び出した。
「来たれ、我が嫁シャルロットたんを輝かせられる夏! 今こそ、夏休みという扉を開こうぞっ! ムヒッ! ムッヒヒヒヒヒヒヒッ!!」
一人で叫び出す。シャルロットたんを思い、思考を巡らせ、火照った体にはちょうどいい風もちょうど吹いている。実に心地のいいものだ。
「隆さ〜ん。そろそろ帰りますよ〜」
「……」
その声で一気に冷めた。まるで、自ら望んで砂漠にいたのに、突然周りが南極に変わっていたかのような温度差。僕のシャルロットたんワールドは一気に崩れ去っていった。
「隆さん?」
顔を俯かせていると、横からもどきが顔を覗かせる。目が合ったので、僕は顔を再び晒して大きくため息をついた。
「シャルロットたんシャルロットたんって……今でも、あの、その、シャルロットたんのことは好きですか?」
「当たり前だろ!! 拙者はシャルロットたん一筋だと何度言えばわかる!? ま、まさか、拙者のシャルロットたんの愛が足りないという拙者に対しての冒涜でござるか!? 許さぬぞ、もどき……!!」
「いえ、そういうわけでは……ただ、その……ありがとうございます!」
よくわからないが顔を赤くして笑顔でお礼を言ってきた。なんでこいつがお礼を言うのかがよくわからない。いや、普段の生活で慣れ過ぎていて忘れかけていたが、こいつはシャルロットたんのストーカー。身長、髪型、髪色、多分スリーサイズも! そして声や喋り方まで! 極め付けはシャルロットたんという名前まで同じだ!
整形したのか知らないが、全てをシャルロットたんと同じものにしている! だから自分がシャルロットたんだと思い込んでいるのだからお礼を言うのはこいつにとっては当然のこと。だが、それが拙者にはたまらなく屈辱なのでござる!
「お前じゃない! 拙者はロジカルファンタジーの中のシャルロットたんに言っているのでござる! お前はもどきでシャルロットたんはロジカルファンタジーの中にしか存在しなあああい!!」
「はいはい、もどきですよ。シャルロットさんも隆さんのその言葉で喜んでいると思いますよ」
しかし、この態度。ますます気に触る。なぜこんなに落ち着いているのかがわからなかった。最初のころはもう少し反抗していた気がするんだが。
「ふっ。当然でござるよ」
もどきか。そういえば前に昇龍がこんなことを言っていたな。
「あんたの妹、シャルロットって……何者なの……?」
「ロジカルファンタジーをやってるあーしならわかるけど、あんたのプレイヤーネーム、シャルロットだよね。それもロジカルファンタジーをやり始めた二年前から。こんなことを聞くのもアレだけど、あいつのシャルロットって名前は本名だよな?」
「え? あんたたち、血が繋がってるわけではないの? じゃあ、あいつはどこから来たの?」
「しかも、あんたのゲーム内の名前が同じだなんて偶然ある?」
「悪い、やっぱり今話したことは忘れてくれ。多分、あーしの気のせいだ……」
あれらは一体なんだったのだろう。もどきはシャルロットたんのストーカーっていうだけでは普通の解釈では説明つかないこともいくつか出てきている。名前だってそう。二年前からって、僕がロジカルファンタジーで名が知れ渡ったのは一年半前だ。その名前は登録した二年前からシャルロットたん。これはユーザーの同名防止のためもあり、名前は変わることはない。それがこいつの本名は生まれた時からシャルロット?
最悪そこは偽名と名乗れば筋は通らないわけもないが、どうもしっくりこない。
容姿だってそう。さっきも言った通り、認めたくはないが何もかもがシャルロットたんそのもの。それも整形していると思っている。じゃあ声も? 身長も? 全部整形だったいうのか? 現代の整形技術なら不可能なことはないが、もしそうなら費用もかなりかかる。なんせどこをどうみても手術跡が一切ない。
それも現代クオリティで解決?
そして偽名を名乗ることやこの過度な整形をする目的はなんだ? やっぱりシャルロットたんをストーカーしているただの厄介オタクでござるか? だとしたら納得するところはある。
でも、それ以外説明なんてつかなかった。
何者なんだ、もどきって……
「そういえば上条さん、まだ病院なんでしょうか」
「多分な」
考え込んでいる僕にそっと声をかける。もどきは上条のいない席に視線を送る。僕が真ん中にいて、両隣にもどきと上条。僕のクラスでの過ごし方はいつもこのメンツ。
あいつがいなくなってから半月が経った。半月前に精神病棟で入院していて、かなりの重症という情報以来、何も聞いていないし姿も見ていない。あいつが前に僕のお見舞いにきてくれた時同様、僕も今度お見舞いにでも行ってやろうか。
「大丈夫でしょうか」
「わからんな」
そんなことを考えていたら少しだけ辛い気持ちになってきた。今度の夏休み、みんなでどこかに行こうとでも思っていたが、誘ううちの一人の上条がいない。土日を明ければいるかとどこかで期待をしていたが、そんな期待は無駄だった。でも、あいつのことだ。そのうちまたひょっこり顔を出すだろう。
僕は顔を上げ、もどきの方を向いた。
「帰るか!」
「はい!」
僕らはそのまま家に帰ることにした。門ではいつも通り、美沙が待っていて三人下校。ここにいつか上条が加わる日を信じて、僕は家への道を一歩一歩進んでいった。




