なんかいいんだが?
僕の体は仰向けになっている。体の下は硬い鉄骨のようなものがある。頭の下は何か柔らかい感触が。
「うっ……」
目を覚ますと僕の目の前には美沙の顔があった。目が合う。
「よかった。気がついたんだね」
美沙は微笑みを見せた。美沙の後ろには綺麗な夕暮れ。オレンジ色の空が見えていた。
「あのあとお兄ちゃん気絶しちゃって大変だったんだよ。でもよかった。本当によかった……」
そうか。僕は紫可憐と戦ってなんとか勝ったんだ。あの人智を超えた強さを持つ人間に。でも僕が勝てるなんてこと普通に考えればありえない。
まただ。またあの時の力。蘭壽と戦った時に発動した謎の力。戦った時の記憶もある。もちろん手だって今でも痛い。だから当然夢なわけもない。でもなんなんだ、あの力は。さらに言えば、戦った後は必ず気絶する。強さの代償とでもいうかのように。
「心配してくれてありがとな。それであいつらはどこに行った?」
「なんか司会の人が「局長! この付近で銀行強盗が!」とか言って、あの怪獣と一緒に舞台裏に止めてあるバスに乗ってどこかに行ったよ。他にも舞台袖から何人かメイド服着た女の子たちも出てきてそこに乗り込んでた。なんなんだろう……」
「ほんと訳のわからん連中だったな」
右を向くと舞台がある。紫可憐と戦闘した時のあの舞台。舞台には誰もいない。周りを見ても僕ら以外には誰も席には座っていない。あの舞台袖にも部下がいたってわけか。あいつらまで出てきてたら流石に危なかった。ハンドガンだのライフルだの撃たれやね。
でも司会の加賀は攻撃してこなかった。というか、僕を応援していたようにも感じる。馬鹿そうに見えて紫可憐よりも少しは話が通じそうな相手のように見えた。
あいつらは一体何がしたいんだよ。
「……」
「……」
「どう?」
「何が?」
「どんな感じかなって少し気になってさ」
「だから何が? 傷のことか? 今回は大丈夫そうだ。骨の十本くらいは折れてると思ったんだがそうでもないみたいだし」
あいつは背中を二度攻撃した。一度目は拳で背中を一突き。ものすごい痛かったし、あの時は全身が痙攣し始めた。だが、骨には当たってはいない。二度目は空中でのかかと落とし。
あいつは八メートルくらいから僕の背中に踵を直撃させて地面に叩きつけた。死ぬかと思った。だがこちらも同じく骨の痛みはほとんどない。折れてはいないというわけだ。ヒビは入っていないかどうかは保証できないが。
でもあいつなら骨の一つや二つ簡単に砕くことができるはず。まさか外した? もしくは――
「いやそうじゃなくてさ。私の膝枕……どう?」
「ふえ!?」
そういえば今美沙の膝の上にいるんだっけ!? 全く考えてなかった! なんだろう。なんか柔らかいものがあるな程度にしか考えていなかった。
「だから膝枕の感想を聞きたいの!」
「感想って……なんて答えればいいんだよ。そんな質問生まれて初めて聞かれたわ。というか、膝枕なんて小さい頃に母さんにやってもらった時以来だぞ」
「おばさんと比べないで! ほら! 感想言って!」
美沙は顔を赤くなりながらなんか必死だった。なんて答えればいいんだよ。寝心地よかったとでも答えておくか? いやなんか気持ちが悪いだろ。ふかふかだったとか? もっと気持ちが悪いだろ。
こんなの何答えても地雷でしかない。だってこれ実際、太ももの感想言ってるようなものだろ。付き合ってもいないのにそんな感想求められても困るわ。
「えっと……柔らかかった?」
あ。なんで答えればいいかわからず、美沙は必死だったため、やけくそで答えた。頭に一瞬通り過ぎた言葉がこれだった。違うんだ、美沙――これはだな、その……
「……馬鹿……」
その二文字だけ口に出すと美沙はそっぽ向いた。やばいやばいやばい、これ嫌われたか……!?
馬鹿って絶対僕のことだよな!? 相応しくない回答=馬鹿ということ……!? 正解なんてわかるわけないだろ……!! ああもう、やってしまったあああああっ……!!
美沙の膝から転げ落ち、ゴロゴロゴロゴロとコンクリートの床を顔を押さえながら転がる。
最悪だ、もう……ただの恥ずかしいやつじゃん……
「じゃ、じゃあそろそろ帰ろうか……! んっ」
美沙は僕に左手を差し出す。みっともない姿見せてないで立ち上がれと。僕は手を握り、立ち上がった。でも美沙は手を離さない。
「美沙?」
「デートでしょ。最後までかっこよくエスコートしてよね……」
ああ、デートしてる人は手を握るとかいうあれか。でもその言い方はどこか昔の美沙に似ていた。かっこよくか。でも今だけは握っていてもいいかなと思った。
「そういうことなら任せとけ」
「えへへっ!」
だから握り返した。美沙は笑った。とりあえずはさっきので嫌われてなかったみたいで安心した。
電車に乗り、家の方向へと向かった。その間に僕の頭に今日の出来事が蘇る。メリーゴーランドにジェットコースター。色々乗ったな。そして今日はジェットコースターに二度と金輪際来世になっても乗らないと決意を固めた日。あの中絶対死神でも乗ってるだろ。
食事とカップル専用の飲み物。あれも我ながら人目が恥がしかったな。美沙はなんで顔を赤くしていたのかはわからないが。
あと最後のヒーローショー。紫可憐から美沙を守れたんだよな、僕。今でも想像できない。なんで勝てたのかもわからないし。でも勝てたのは事実。なんだ、僕やればできるじゃん。
「んんっ……」
肩から何かが触れる感触。さらにほんのりいい香り。美沙が僕の肩にもたれていた。顔を見ると目を瞑って寝ている。美沙も疲れたよな。僕は美沙の顔を見てみさにバレないように微笑んだ。
「あ……」
僕はカバンからあるものを取り出した。イルカのストラップ。シューティングゲームで美沙が二つゲットしてその一つをもらったやつ。これが今日の記念品。これを見たら美沙と遊園地を行ったと思い出せるもの。美沙とのお揃いか。
その後も頭の中で思い出を浮かべては頭の中の引き出しにしまった。




