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幼なじみが最悪なんだが?

 僕の名前は東條隆。小学生三年生。趣味は特にない。強いて言えば、人より少しRPGが好きなことと、ポテトチップスを食べることだろうか。ちなみに、好きな食べ物はもちろんポテトチップス。

 糖分や油はストレスを消す効果があるからおすすめだ。だが、食べすぎると太ってしまう。今はまだ痩せているからまだいい。ハマり出したのは1週間前ほど。食べ過ぎには気をつけないとな。

 と言っても、ストレスのために食べているのではない。単に美味しいから。なんか、幸せになるんだよね。


 とは言うものの、ストレスが全くないかと言えば一つだけある。この歳でストレスができていると、七年後の高校生活では苦労しそうな気がしてならない。今や世の中はストレス社会。そんな世の中の世界につま先を入れてしまっているから自分が恐ろしい。


 話を戻そう。その一つというのは、お隣さんの江南家。そこの祖父、江南茂ことシゲ爺は愛想はいい。だが、その孫であり、僕と同い年の女、江南美沙というやつがいる。

 はっきり言ってあの女、非常に性格が悪い。そりゃ、僕だってまだ若い。友達だって欲しい年頃。それに、隣に同い年の子がいるなら仲良くだってしたいさ。だがあいつ、何を話しても無視! そしてあの、ゴミを見るような目! こんな幼馴染、アニメだったらありえないくらいにやばい!

 これがまだ会って一年目とかならわかる。五年だぞ、五年! 幼稚園の頃から! 五年もこんな態度をされていれば胃に穴が空いていてもおかしくない!



 この頃の僕と美沙はすごい仲が悪かったな。といっても、向こうが悪くしてるだけなんだがな。




「あー! イライラしてきたあああ!!」


 僕はお菓子箱にあるポテチを三袋取り出す。コンソメ。のり塩。うす塩。全て開封し、高速で三種類の食べ比べを繰り返す。ああ、幸せだ…… 今なら何でも忘れられそうだ……そう、美沙のことだって……

 それはまるで、天に召喚されるような。まるで、人間に翼が生えたかのような感覚。羽を撫で下ろし、大空へ飛び立つ。どこまでも高く、誰よりも高く。これ以上ないほど高く。高く高く高く、高く飛び上が――


「隆いいい!! 美沙ちゃんのとこ行こうぜよおおお!!」


 その瞬間、声という弾丸が僕の羽を打ち抜き、地面に叩きつける。このクソ親父め……無駄に筋肉のついたがっちりとした体に、いつもなぜか立っている髪。ノックをせずに入ってきたのは、僕の父親こと東條武。毎日うるさく、配慮のかけらもない男。だがこれでも立派なサラリーマン。近々出張の話も来ているとか来ていないとか。


 そして父さんが来たということは、悪夢の時間が訪れるということ……そう、江南家訪問!

 江南家訪問とは、週に数回江南家に僕と父さん、または母さん、もしくは家族総出で訪問するという、この僕が名付け親の最悪のイベント。

 父さんとシゲ爺は家が隣同士というだけなのに本当の親子かのように仲がいい。ご近所パワーというやつか。そのせいで毎回話が弾み、毎回なにか美沙とのトラブルが起きる。

 そんなに嫌なら断ればいいと思った人がいるだろう? 断れるならとっくに断っているよ。断りたくても僕には断ることができない理由がちゃんとある。

 あそこの家はお菓子が沢山食べられるから行かなければならないんだ……! それも庶民には買えないリッチなお菓子も……!


「今行くよ、父さんっ!!」


 僕は三十秒で身支度を整え、父さんと家を出て数メートル先のお隣さんの家、江南家に着く。


 案内されたのはいつも通り客間。そこには僕、父さん、シゲ爺、美沙。いつもの面々。

 ジュースは色とりどりの1.5リットルのボトルが十本。おかわり自由。もはや、ドリンクバー。お菓子は市販の十円で買えるものから、庶民では手の届かないものまでおよそ四十種類。もはや、お菓子バー。

 僕はそれをひたすら食べまくる。誰だかみっともなくとも、一心不乱に飲み、食べる。


「いやあ、ター坊もたくましくなったものだのお! これもやはり、武くんの教育がいいからかのお!」


 シゲ爺はにこにこと笑いながら僕を見ながら父さんに話しかける。

 こっちはまだ小学三年生だわ。いくら小さい頃から見ているとはいえ、小学三年生でたくましいとかわからんだろ。


「そりゃ、なんせこのわしが育てとるからっすよ! 隆も彼女とかそろそろ考えんといかん時期ぜよなあ、隆!!」


 僕の背中をバンバンと叩く父さんをジト目で見る。父さんも満面の笑みだ。だから小学三年生だっつうの。彼女とか早いわ。そしてあんたはもう少し謙遜(けんそん)というものを学べ。


「そうだなあ……ところで、あの話は考えてはくれてるかの、武殿……」


「ええ、もちろんぜっせ、旦那様……」


 シゲ爺は耳を寄せる父さんに耳元で時代劇にありそうなお代官様とのやりとりでありそうな会話をしている。ニマニマといやらしい笑顔を見せ、話しをしている二人。ほんと、なんだこいつら。


「ガッハッハッハッハ! お主も悪よのお〜……」


「いえいえ、旦那様ほど悪ではございませんよ……」


「何話してんだよ」


 少し気になった。僕はソファに深く腰をかけ、オレンジジュースをストローで飲みしつ、二人に話しかける。どうせしょうもないことだろう。僕の歳ではまだ読めないような本の交換とかそこらへんの……


「ター坊の将来の婚約相手は美沙でどうかという話をな!」


「ぶうううう!!」


 え!? はい!? 婚約相手!? シゲ爺が最後まで話切る前に思いっきり吹き出した。ふざけやがって……!


「いやあ、まさか茂さんのところの美沙さんをお嫁さんにいただけるなんて! 美沙ちゃんは勉強もできてとっても可愛い! よかったな、隆!」


「何もよくねえし、これのどこがいいんだよ! そして僕には将来の妻を決める権利すらねえのか、こらあ!!」


 オレンジジュースのグラスを持ちながら立ち上がり、目を瞑りながら優雅にティーカップに入った紅茶を飲んでいる美沙に人差し指を指して発言をぶつける。その後、その指をバカ親父に定める。

 親が将来の婚約者を決めるとか、どこの江戸時代だよ。


「何だ隆、美沙ちゃんが奥さんで不満なのか? そりゃあ、不満の一つや二つあるかもしれんが、その苦難を一緒に乗り越えるものが夫婦というもので――」


「不満しかねえよ! いい加減にしろ、このクソ親父!! そもそもこいつが僕のことを毛嫌いしているから嫌なんだよ!」


 再び指を美沙に指す。まだ美沙は紅茶を(たしな)んでいるようだ。

 しばらくすると美沙は口からティーカップを離し、僕を睨みつける。それに少し体を震わせ、警戒態勢を取る。はじまるぞ、こいつの暴言のオンパレード……

 反論の言葉を頭の中で浮かべる。それを一気にぶつけ文章にする。これが僕らの戦争。今回はどんな戦いが勃発するのか。


「ええ、不満しかない。誰がこんな男と結婚してやるもんですか。ていうかさ、あんたみたいな男と結婚するなんていう人いないでしょ。この一生童貞!」


「なんだとこのアマ! 僕が本気で怒ればお前なんかどうせびーびー泣く癖に! お前みたいな性格を求める男こそ、この世に存在しねえ!」


「言葉のボキャブラリーがほんと少ないよね、あんた。罵倒や罵りっていうのも勉強した方がいいよ。いや、私が頭がいいからこういうのも自然に身につくのかしら。才色兼備ってやつよね」


「うるせえ、芋けんぴ!! 僕もお前も勉強なんて大差ないのにイキってんじゃねえよ! このアホ! 馬鹿! えっと……その……金持ち!!」


「ガッハッハッハッハ!! ほんと仲がいいのお!」


「よくねえよ!!」


「よくありません!!」


 父さんは豪快に笑いながら僕らを微笑ましくその光景を眺めている。そんな父さんに二人同時に怒りをぶつける。お互い息切れをし、言葉が出てこない。とりあえず睨んでおくか。

 美沙の目を見ながら思いっきり睨みつけると、向こうも睨み返してくる。


「安心しろ、ター坊。美沙のこれはツンデルってやつや!」


「全くその通りで詰んでるんだよ!!」


 シゲ爺も笑っている。おそらく、「ツンデレ」ってことを言いたいのだろうが「ツンデル」という言葉になってしまっている。とはいえ、詰んでるのは事実。性格最悪のこいつの性格は詰みでしかない。


「美沙も本当はター坊のことが好きなんだろ?」


「嫌いよ」


 真顔で即答された。わかってはいても少し傷つくな、こりゃ。


「ほら〜! ター坊のこと好きだってよ!」


「あんたは一回耳鼻科に行け」


 そんなこんなでこの日は終わった。だが、こんなのはいつものこと。僕らの関係を大きく変えたのが……この日から二週間後に訪れる、あの山登りの遠足だった。あの日は小学三年生ながら本当に死を感じた。でも、あれがあったからこそ美沙は変われたんだ。

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