修羅場なんだが?
あれからしばらく走ってようやく家に着いた。もどきは僕をお姫様抱っこのように途中から持ち方を変え、玄関で僕を下ろした。
「ありがとうな」
もどきに一言礼を言い、ガチャッと家の扉を開ける。中は明るく、母さんはいるようだった。
あれ? こんなに大きい靴持ってたっけ? 部屋には一足、僕よりもひとまわりくらい大きい靴があった。それも、少し高そうなブランドもの。
「まさかっ……!?」
僕は急いで履いていた靴を脱ぎ、部屋の中に入った。まさか、まさかとは思うが、本当にそうなのか……!?
「だから、結局シャルロットちゃんはあんたの隠し子なんでしょ!?」
「いや、わしゃ知らんぜよ! 本当ぜよ!」
「父さん……!?」
父さんがいた。父さん。東條武。何年も会社の出張で海外に行って僕たちを支えてくれた一家の大黒柱。そんな父さんが戻ってきた!?
「お、お前は……!?」
そこには母さんと一人の男がいた。黒いスーツを着て、尖りきった髪型。あれは間違いなく父さんだ。僕は感激のあまり、涙を流した。本当に戻ってきてくれたんだね。そうだよ、父さん! あんたのたった一人の血の繋がった実の息子の隆だ――
「母さんこそ、変な男連れてきちゃいかんぜよ! この子、まだ高校生じゃないか!」
「……」
僕はショックのあまり、開いた口が塞がらなかった。このクソ親父。僕が息子かどうかもわからんのか。どれだけおいぼれてんだよ、この親父。
馬鹿。アホ。変人。人でなし……
「武! あれ、息子よ! 自分の息子かどうかも忘れちゃったの!? ほんっと、親失格ね!」
「いや、あんたが言うなよ!」
母さんも母さんで僕のことを息子と忘れたときあったよな。あんたも十分、人のこと言えないぞ。
「隆……隆じゃけ……」
「ああ、そうだよ――うはっ!」
その瞬間、父さんはものすごい力で抱きしめる。ものすごい握力で息が詰まりそうだ。
「会いたかったぞ、隆いいいいい!! 元気にしとったかあああああ!?」
かなり強い力で僕を搾り取る。まじで今、お腹に傷があるから勘弁してくれよ。
「死ぬ! 父さん死ぬって!!」
しばらくして僕は解放された。そして、リビングのテーブルにもどきを含めた家族四人全員が揃う。
「それで、さっきはなんの会話してたんだ?」
僕が来る前、母さんたちは何かを話していた。そのことについて聞くことにした。
「シャルロットちゃんの前だとあんまり言いづらいんだけど、いいかな?」
「わ、私ですか!? 私なら大丈夫ですよ! どうぞ、家族会議を……」
もどきは手を大きく振って大丈夫アピールをした。なんか、絶対嫌な予感しかしないんだが。僕は目を瞑り、覚悟を決めた。
「そ、そう……? じゃあ……武! あんた、どこの女とファックしてきてんのよ!? 今からその女連れ出して来いや!!」
「じゃから、わしゃしらんゆーとるじゃろうが! わしゃ、母さん一筋じゃけ!」
「じゃあ、この子は誰なのよ! あんたがどこぞの女として生まれた女だろうが!!」
「じゃから、ほんまにしらんてえ! 隆、助けてくれえええ!」
父さんは僕の腕を掴んでブンブンと振った。ほらな。一家の大黒柱がこの上なく情けない顔で息子に頼ってるよ。
はあ、仕方ないな。
確かもどきは父さんの隠し子って言ってるんだよな。でも本当は孤児院育ち。なかなか言いづらいよな。こんな、シャルロットたんのコスプレまでしてるやつなわけだし。
でも、ここまで修羅場だと言うしかないよな。
「えっと、この自称シャルロットと名乗る人は父さんの子供って言ってますけど。まあ、実際のところは――」
「あ、やっぱなんでもいいや。父さんが誰とファックしようが今は私一番って言ってるんだから!」
「ん?」
「そうだな! 父さんは記憶がないだけかも知れん! 知らん間に子供作っちゃったのかもな!」
二人はなぜか笑っていた。
「開き直り早すぎだろ! てか、記憶にないっておかしいだろ!」
「隆ー。細かいこと気にしちゃ、長生きできんぞー」
「……もういい。僕は疲れたよ」
僕は椅子から立ち上がり、もどきを置いてその場を離れた。丸く収まったのかはよくわからないが、まあいいか。
そういえばここの地下室にあの男、蘭壽がいるんだよな。
そもそも、なんでうちに地下室があるのかもよくわからないが。
僕は地下室への蓋を開け、階段を降りていった。
そこには一人の男が青色の縄で縛られていた。
投資業界トップ3、蘭壽。
改めて見るとでかい体してるな。
「よお」
「あれ? 君は隆くんか。無事で何よりだよ」
「ふざけるな! てめえ、自分が何したかわかってるのか!」
こいつは僕だけではなく、上条に危害を加えていた。ただで許すわけにはいかない。
「インベストの未来のためにしたまでだ。そうだ、君は玄橆の友達でもあるのだろう。玄橆からはインベストの例の事件のことで何か聞いてないだろうか?」
ドンッ
腹が立ち、一発蹴りを力を込めて横腹に入れた。こんな時までそれかよ。自分の置かれている状況をわかっているのか。蹴りを入れても声を上げず、それどころか筋肉すら動かなかった。
「いい蹴りだ……」
少しニヤッとしながら一言呟いた。本当に気味が悪い。
「知らないな。知ってても教えない。こっちも聞きたいことは山ほどある」
「いいさ、言ってみなさい。敗者に選択肢はない」
気になることはたくさんあるが、まずはこれからだ。
「副業を今すぐ辞めさせろ。もう僕はあんな思いはしたくはない」
副業はこいつらが出していることはもどきから確認済み。副業に命をかけるなんてどうかしている。
それに、覗きの命令なんて正気な人間が出せる行為ではない。
「それは無理な頼みだ」
「なに?」
「我々はある企業と手を組んでいてね。その契約の一つに君への副業プログラムが入っているのだよ。副業プログラムは一定の投資をしない限りは終わらないんだ」
ある企業も気になるが、別に僕に関係するわけではない。どちらかといえば、この投資業界を潰せばいい話だ。
しかし、やはり副業を終わらせるには投資が必要なのか。
「じゃあ、なぜお前と戦う前、上条を救うのような命令が出た?」
あの夜、副業として上条……玄橆を救うという内容の副業が来た。それだったら色々と矛盾している。
「ああ、それはね、我々投資業界トップの人間も副業を出せるんだよ。ただし、あの命令は我々ではない。おそらく、内容を漏らさないために玄橆自身が送ったのだろう」
「あいつも副業を出せるのか?」
「ああ、もちろんだ」
あいつはあいつで僕のことを頼ってくれていたのか。まあ、僕の命はかかっていたとはいえ、あいつを救えたし別にいい。
「それともう一つ。紫可憐……正義執行管理局とお前らは関係者か?」
ここではっきりさせる。こいつがイエスと答えればクロ。ノーと答えればシロだ。
イエスと答えた場合、投資業界からの刺客と見るが。
「正義執行管理局? 知らないな」
この反応、本当に知らないのか。関係性はシロ。つまり無関係。だとしたらあいつらの目的って一体なんだ? 僕を殺すことでなんのメリットがある?
「また来る」
「……」
僕は背を向け、地下室を出ることにした。今思いつく限りで聴けるのはこのくらいだろう。
――いつか絶対に仇を取ってやるからな、上条。




