覚悟を決めたんだが?
ー東條家ー
一方その頃、東條家ではシャルロットが一人、留守番をしていた。シャルロットは一人、隆たちのことが心配でずっと考えていた。無茶はしていないだろうか。無事に帰ってくることができるだろうか。そんな考えが頭を過ぎる。
「隆さん……大丈夫でしょうか……」
シャルロットの心に不安がさまよう。今は祈ることしかできないとわかっていても、何かしないと落ち着かなかった。
そんな時だった。外から足音が聞こえてきた。今は深夜2時を回っている。こんな時間に出歩く人なんてそうそういない。何より、その足音はだんだん大きくなり、玄関付近まで聞こえてきた。
すると、玄関のところでその足音は止まる。
ピンポーン
ピンポーン
今度は何度もチャイムを鳴らし始めた。だけど、こんな時間、こんなタイミングでチャイムが鳴るなんておかしい。そう考えたシャルロットは、こっそりとリビングの窓を開け、外へ出た。
すると、玄関には一人男の影があった。
「(この家を守らないと……!)」
シャルロットはとっさに飛び出した。
「誰ですか……!? って、あなたは……」
「ふひひっ。こりゃどうも。あなたがシャルロットさんかい? わしは投資業界トップ6の男、極兒」
その姿は白い髭を生やした70代ぐらいの老人。服装は、黒色のマントのような服装で、真ん中には紋章が描かれていた。シャルロットにはこの男の記憶があった。
「投資業界の人がこの家に何のようですか?」
「我々はあなたに用があってだね、あなたにはいざってときの人質になってもらう」
極兒は構えをとり、戦闘態勢に入った。鋭く尖った目つき。だが、彼はこの戦いを望んではいなかった。
「(くそおっ……! わしだって本当はこんなことはしたくないのにのお……!)」
ー数時間前ー
「極兒よ。今から地上に行き、シャルロットを人質として捉えてこい。いざという時の保険だ」
投資業界トップ2の男、龕您は極兒にシャルロットを人質に捕らえるよう、命令を出していた。蘭壽がやられ、玄橆を奪還された際、シャルロットを人質として使おうと考えていたのだ。
龕您は司令塔であるこの場を離れるわけにもいかず、極兒に頼むしかなかった。
「いやしかし、さすがにやりすぎじゃぞ……隆くん、何もしてないじゃろ」
しかし、平和主義な極兒はあまり乗る気ではなかった。彼はただ、平和に投資業界を見守って老後を過ごしたかっただけだった。
「今はインベストの危機なんだぞ! そんなことを言っている場合ではない!」
「そうは言ってものお〜……」
「そうか、ならお前の部屋にある熟女本を全て処分するまでだ!」
そう言うと、龕您は極兒の部屋へと向かおうとしていた。熟女本……そう、月刊おかみさんだった。
「ま、待ってくれえ……! そ、それだけは……!」
「なら……引き受けてくれるよな……?」
「(龕您のやつめ! ふざけよって! こんなの、パワハラじゃろうが! だがしかし、勝子ちゃんたちのためにもここは、引くわけにはいかない!!)」
「やるしか……ないようですね」
シャルロットも右足を引き、拳を構える。極兒を警戒しつつ、呼吸をしっかりと整えた。
「勝子ちゃあああああんんん――ぐへえええええええ……!!」
極兒は走ってきたかと思うと、どこか遠くへ飛んでいった。何が起きたのかわからないシャルロットは困惑し、目を丸くした。
驚いたのはそれだけではない。
シャルロットの目の前には一人の男が立っていたのだ。この男は極兒を蹴り上げ、空へと飛ばした。シャルロットはその男とは面識はなかったが、彼が誰なのかは一瞬でわかった。
「あ、あなたは……!」
ー港 コンテナ内ー
「まだ吐かぬか。そろそろ楽になりたいと思わんのか?」
蘭壽は玄橆に近寄り、声をかける。だが、二日間の間、蘭壽に殴られ続けられたせいか、意識が朦朧としていた。五感が全て鈍っており、ろくに機能していなかった。
「貴様は仲間すら巻き込む。現に隆くんはもう立ち上がることはできない。全て貴様のせいだ!」
「……」
蘭壽は玄橆に圧をかけるが、反応はなかった。口からは大量の血を垂らし、腹部は傷だらけで腫れていた。そんな彼を見て蘭壽はある行動に出ることにした。
「もう言い訳をすることもできないか。いいだろう。この蘭壽が貴様の罪共々、貴様の身を滅ぼしてやるわ!!」
蘭壽は拳を引き、今までにないほどの力を込め、玄橆の腹部目掛けて突こうとしたその時だった――
ビシッ
蘭壽の手はそこで止まった。いや、止められたのだ。東條隆。この男に――
「いい加減にしろよ……」
「たか……し……」
その力は凄まじく強く、蘭壽の皮膚にあざができそうなほどだった。隆は怒っていた。副業で散々命令されたこと。自分が傷つけられたこと。そして、友が傷つけられたこと。憤怒の力が彼を震えさせた。
「馬鹿な……! 確かに再起不能にしたは――……っ!?」
すると今度は一瞬にして消え、蘭壽の背後に回った。隆は拳を引き、力を込めて蘭壽の背中に突きを入れた。
「うはっ……!!」
隆の突きにより、蘭壽は数メートル吹き飛んだ。だが、ここで蘭壽の頭には一つの疑問が浮かぶ。
「なぜだ……!? なぜ私の能力が使えない……!?」
蘭壽の能力、思考把握は直接的に視界に映っている対象の思考を把握できるという能力。そのため、相手の行動を先読みして攻撃をすることができるのが蘭壽の戦い方のスタイル。
だが、相手の意識という行動を全て読み取ることができたはずの蘭壽は、なぜか隆の行動を先読みできなかった。
「まさか、さっきの攻撃を全て無意識でやったとでもいうのか……!?」
思考把握は、相手の意識したことを読み取れるため、無意識の行動までは読み取ることはできない。
「(さっきの私の腹部への突きにより、彼は極限状態、ゾーンに入ったということか。そして、人間が起こす極限状態の行動の一つとして、日常的な行動や身体で学んだ行動を行うことがある)」
蘭壽がそう考えたのは、隆の目を見たからでもあった。隆の目は白目を向いており、眼孔が無かった。今の隆は箱の中の物体が動いているような、誰かに操られているような感覚になっている。
隆は隆自身であって、隆自身では無い。
「(そしてあの力は尋常な力では無かった。この私の筋肉を震えさせるとは……これも無意識がなせる技なのか。それとも怒りからなるものか。あるいは、その両方か)」
隆の力は圧倒的だった。蘭壽の筋力からして、すべての攻撃を約九十%減らして攻撃を軽減させることができる。だが、さっきの攻撃ではまともに受けているように見えた。蘭壽は極限状態故の行動、これも無意識にやるものの一環だとも考えていた。
そして、玄橆を傷つけた怒りに見えた。どちらが作用したのかはわからないが、蘭壽の額からは汗が流れ始めた。
「(この勝負、下手したら負ける……!)」
蘭壽は心の中で覚悟を決め、構えをとった。ここまで彼を本気にさせたのは人生において隆が初めてだったからだ。
「さあ、反撃の時だ……!」




