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結果オーライです

 20㎞くらい走ったところ、俺は惨劇を目の当たりにした。


 鎧武者が真っ二つになっていたのだ!


 しかもその近くには馬の首が転がっている……。


 さらにその周りには、10人くらいのひとたちが倒れていた。


 ぱっと見たところ無事なのは、しりもちをついてる女性だけだ。


 ゴーレムのときみたいに結果オーライ、あるいは何事もないことを期待してたけど……これはちょっと……なんていうか、最悪だ。


 ま、まあでも俺のカマイタチでこうなったと決まったわけじゃないしな!



「あのー……もしかしてなんですけど、こっちにカマイタチ飛んできませんでした?」



 最初からこんなでしたよ? という返事を期待しつつたずねると、女のひとがきょとんとした顔でこっちを見てくる。


「こ、これ、きみがやったの?」


 どうやらたったいま起きた出来事のようだ。


「ど、どうでしょう? 直前にスパァァァァンって音が聞こえたなら、俺のしわざで間違いありませんけど……」


 頼む、否定してくれ! 



「聞こえたわ!」



 もの凄い勢いで肯定された。


 やっぱこれ、俺のしわざか……。


 俺、モーリスじいちゃんが鍛えてくれた力で人殺しをしてしまったのか……。



「じゃあ、きみが我々を救ってくれたのね!?」



 たいへんなことをしてしまったと落ちこんでいたところ、思わぬ言葉をかけられた。


「救ってくれた、ですか?」


 って、どういう意味だろ? そのままの意味で捉えていいのかな?


「そうよ」


 彼女はよろよろと起き上がり、忌々しそうに真っ二つになった鎧武者を見る。


「我々は、この魔物に殺されかけたの」


「えっ? これ、魔物なんですか?」


「そうだけど……むしろ魔物以外のなにに見えるの?」


 言われてみれば、確かにサイズがおかしいな。


 半分になっているため気づかなかったけど、合体させると身長は5メートル近くある。馬も相応の大きさだし、おまけに目が八つある。さらにその血はどす黒い。


 ショッキングな光景に気を取られて気づかなかったけど……これ、魔物だ。そう考えると気が楽になってきた。


「珍しい姿の魔物ですね。これって、このへんによく出てくるんですか?」


 魔物のなかには雪国だったり洞窟だったり、特定の地域にしか棲息していないものもいる。


 遺跡巡りとして世界中を旅した俺だけど、じっくり見てまわったわけではないのだ。この世界には、俺の知らない魔物がたくさんいるのである。


「こ、こんな魔物がそこらじゅうにいたら世界は滅んじゃうわっ」


「そんなに強い魔物なんですか?」


「強いもなにも、これはあの《闇の帝王ダーク・ロード》と並び称される伝説の魔物――暗黒騎士オーディンよ!?」


「暗黒騎士……ああ、聞いたことがあります」


 聞いたというか、本で読んだことがある。100年くらい前にライン王国領を荒らしまわった伝説の魔物がいると本に書いてあったのだ。


 特徴が一致するし、これがその暗黒騎士ってわけか。


「とにかく、きみが倒してくれて助かったわ! きっと名のある魔法使いなのでしょうね。名前はなんて……」


 興奮気味に語っていた女のひとが、いきなり黙りこむ。


 俺の顔をまじまじと見て――ぎょっとする。



「え!? も、もしかしてきみ――あなたっ、アッシュ様ですか!?」



「はい。俺はアッシュです。様はいりませんけどね。あなたは?」


 たずねると、彼女は慌ただしく背筋を正した。


「わ、私はライン王国魔法騎士団・西方討伐部隊団長のクロエと申します! そこに倒れているのは私の部下たちです! まさかこんなところでアッシュさんにお会いできるなんて思いませんでした!」


 さっきまで怯えていたのが嘘のように、クロエさんは明るい顔になる。きっと俺も、同じような表情の変化があったはずだ。


 ほんと、結果オーライでよかったよ……。


「あの暗黒騎士を倒すなんて、ほんとうに強いんですね!」


 正直、暗黒騎士を倒したから強いと言われてもピンとこない。


 なにせ魔法杖ウィザーズロッドを懐から取り出しただけだからな。


 でも……そうだな。魔法杖を犠牲に魔物を倒したと考えれば、なんか一度限りの必殺技を使ったみたいでかっこいいな。


 もちろん次からは取り扱いに気をつけるけどさ。相棒を二度も失うなんて耐えられないし、こんな恐怖体験は二度とごめんだしな。


「ところでアッシュさん。こんなところでなにをしていらっしゃるのですか?」


「実は人捜しをしてまして。ここから100㎞くらい東に行った先に強いひとがいるって聞いたんですけど、ご存じありませんか?」


「ここから100㎞ほど東ですか……ああ、きっとティコ氏のことでしょう」


「そのひとですっ!」


 シャルムさんが言ってた人名と一致するし、この先にある赤点はティコさんで間違いなさそうだ。


「ティコさんってどういうひとなんですか?」


「私と同い年……28歳の女性です。もちろん実力は私などとは比べものになりませんが。ティコ氏は我がライン王国で一二を争う実力者なのです。ですので、できれば魔法騎士団に入団していただきたいのですが……」


 断られてしまったらしい。


 シャルムさんはティコさんのことを世捨て人だと言ってたし、ひととの関わりを極力避けたいのだろう。


 魔法騎士団に入れば嫌でも関わることになるし、だから断ったんだろうな。


 シャルムさんの名前を出せば修行をつけてもらえるって言われたけど……そんなひとが俺の弟子入りを受け入れてくれるかな。ちょっと心配になってきた。


 ま、なんにせよ会ってみなくちゃ話は始まらないしな。断られたら、そのときはそのときだ。


「ところで、ティコさんって魔法使いですよね?」


 あの地図は『魔力』ではなく『戦闘力』を参考にして強者を割り出しているのだ。


 いくら強くても武闘家だったら弟子入りする意味がない。

 

 大魔法使いになるために修行してるわけだし、なにより世界最高の武闘家はすでに師匠になってくれてるからな。


「ティコ氏は私が知る限り、最強の光魔法使いです。以前……といっても、もう何年も前ですが。私の担当区域にストーンイーグルの群れが押し寄せたことがあるのです」


 ストーンイーグルは鳥の姿をした魔物だ。全長は3メートルほどで、排泄物は石に勝る硬さだと本に書いてあった。


 ストーンイーグルは単独行動を主とするが、まれに群れで移動することがあるらしい。


 つまるところ、ストーンイーグルの群れが移動すると、流星群のように石の糞が降りそそぐことになるのだ。


「さすがに我々だけで殲滅するのは難しいと判断し、ティコ氏に応援を要請したのです」


「それで、どうなったんですか?」


「ティコ氏は瞬間移動で現れ、幾筋もの電撃を放ってストーンイーグルの群れを撃ち落とし、瞬間移動で姿を消したのです」


 わずか数秒の出来事だったらしい。


 にしても幾筋もの電撃か……。いいなぁ。俺も早く大魔法使いになって、ど派手な魔法を使ってみたいな。


 そのためにも、なんとしてでもティコさんに弟子入りしないとな。 


 まだ若いのに最強の称号を得てるってことは、血の滲むような努力をしたはずだ。ティコさんと同じ訓練メニューをこなせば、俺も大魔法使いに近づけるのである!


「面白い話を聞かせてくれてありがとうございます!」

 

「お、お礼を言うのは我々のほうですよっ。ほんとうにアッシュさんには感謝しています! 私なんかにこんなことを言われたくないかもしれませんが……道中、お気をつけください!」


「クロエさんも、たいへんだとは思いますけどお仕事頑張ってくださいね」


「は、はいっ! 頑張ります!」


 そうしてクロエさんと別れた俺は、ノワールさんのもとへ引き返すのだった。



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